ユーラシアグループが予測するRisks Top 10
2024年度
2024 年。政治的にはヴォルデモートの年、恐怖の年、口にしてはならない年である。
三つの戦争が世界情勢を左右する。
ロシア対ウクライナは 3 年目、
イスラエル対ハマスは3 カ月目に入った。
そして米国対米国の争いは、今にも勃発しそうだ。
ロシア対ウクライナの戦況はますます悪化している。ウクライナは今、国際的関心と支援を失いつつある。特に米国にとって、ウクライナ政策の優先順位は 1 位からはるかに引き離された 2 位となっている(さらに低下しそうだ)。何十万人もの死傷者、何百万人もの
避難民、そしてほぼすべてのウクライナ人が共有するロシア政権への激しい憎悪にもかかわらずだ。その憎悪は今後何十年も何千万人もの国民的アイデンティティーを決定づけることになる。そのため、ウクライナ政府はさらに自暴自棄になっている。ウラジーミル・プーチン大統領のロシアは西側諸国から完全に孤立したままだ。紛争はエスカレートする可能性が高い。ウクライナの領土は分割される可能性が高い。
イスラエル・ガザは悪化の一途をたどっている。戦闘を終わらせる明白な方法はなく、軍事的な結果がどうであれ、過激化が急激に進むことは確実だ。イスラエルのユダヤ人はホロコースト以来最悪の暴力にさらされた後、自分たちが世界的に孤立し、憎しみの対象に
すらなっていると感じている。パレスチナ人は自分たちが大量虐殺に遭っていると考えており、和平の見込みも脱出の機会もない。この紛争をめぐる深い政治的分裂は、米国や欧州の内部はもちろん、中東全域、そしてイスラム世界の 10 億人を超える人々にまで及ん
でいる。
そして 2024 年最大の問題は、米国内の分極化だ。今年は世界人口の 3 分の 1 が投票に行くが、前例のないほど機能不全に陥った米国の選挙は、世界の安全保障、安定、経済の見通しに多大な影響を与えるだろう。 その結果は 80 億人の運命に関わることになるが、発言権を持つ米国人はわずか 1 億 6000 万人に過ぎず、さらに勝敗はほんの一握りの激戦州の数万人の有権者によって決定される。民主党であれ共和党であれ、負けた側はその結果を不当なものと考え、受け入れようとしないだろう。世界で最も強力な国が、自由で公正な選挙、平和的な権力移譲、三権分立による制度的チェック・アンド・バランスなど、基盤となる政治制度に対する重大な挑戦に直面している。連邦の政治はとんでもない状況にある。
以上の三つの争いはいずれも、事態の悪化を防ぐことのできるガードレールを備えていない。混乱を収拾する、あるいはせめて混乱を整理する意思と能力を持った信頼できる指導者もいない。実際、こうした指導者たちは、敵対者(および敵対者の支持者)を主要な
敵、つまり「人民の敵」とみなし、勝利を確実にするためなら非合法な手段もいとわない。最も問題なのは、どの当事者も何をめぐって争っているのかについてすら一致していないことだ。
気候変動は長い間、多くの人々が地球規模の最大の課題だと考えてきたが、誰もが問題の本質を理解しているため、非常にゆっくりとではあるが世界が一丸となって対応する道を歩み始めた。大気中の炭素(とメタン)が多すぎ、それが経済成長に必要なためにさらに
増え、地球上の生物多様性に長期的な被害をもたらし、すべての人、とりわけ最貧困層を
直撃しているのだ。このことはどれも議論の余地はない。ただ、誰がどれだけ妥協し、誰がいつ何を支払うかが問題となっている。私たちはどこに向かっているのか、かなりよく分かっている。
しかし、今年の地政学的リスクを牽引する主要な紛争ではそうなっていない。対立の基本的な条件が共有されていないのだ。ストーリーも、歴史も、進行中の争いの基本的な事実さえも。
そして、この三つのケースすべてにおいて、憤慨し、いつまでも戦いをやめようとしない人々の世代が生み出されている。どちらか一方、あるいは双方が疲れ果てたとき、戦いに終止符が打たれるかもしれない……しかし、持続可能な平和の見込みはあるのだろうか?
欧州で、中東で、あるいは米国で? 私たちはまだその可能性から遠く離れている。
私たちはこれをグローバルなリーダーシップの存在しない世界、G ゼロの世界と呼んでいる。世界で唯一残された超大国である米国は、世界の警察官になることも、世界貿易の設計者になることも、世界的な価値観のチアリーダーになることも望んでいない。そして他にその役割を引き受ける準備ができている国はない。私たちは今、G ゼロ世界の直接的な結果として、三つの大きな対立を目の当たりにしている。その性質上、G ゼロの世界では今後も解決不可能な紛争が生まれるだろう。問題はそれがいつどこで起き、どれほど影響があるか、そして結果として生じる危機が、「地政学的後退」という根本的な問題の解決に役立つのか、それともただ悪化させるのかということだ。
ユーラシアア・グループ(Eurasia Group)は、世界最大の政治リスク専門コンサルティング会社として知られている。[1]
1998年に政治学者のイアン・ブレマーによって設立された。立ち上げ当初は、同氏の専門分野であり、社名の由来でもある旧ソビエト連邦や東欧諸国にフォーカスしていたが、現在は全世界の分析を行っている。同社のアナリストは、アジア、中南米、中東、ユーラシア、欧州、北米、アフリカなど世界各国の政治、経済、社会、安全保障などの動向をウォッチしている。アナリスト120名。本社 NY.