1.2)環境形成と屋根       

2022-11-14 16:45:23 | 同:屋根

2)環境形成と屋根

  屋根の形状は、建物の見えがかりに大きく影響し、建物まわりの環境形成にとって重要

(1)屋根の形状と街並み

最近の分譲宅地などでは、各建物の屋根形状は独自性があるが、全体としては一体感に欠け、近世~昭和初期に生まれた家並み・街並みに比べ、雑然とした印象が強い事例が多い。

また、最近、街並み形成のために、新築に際し、屋根、壁などの材料や色彩、形状をそろえるなどの規制をかける例があるが(条例化する地域もある)、それにより街並みが形成された事例は少ない。

つまり、街並み形成の要因は、材料、形状、色彩などの統一には求められない。

実際、材料、形状、色彩等が大きく異なる幕末~大正・昭和の各時代の和風、洋風、擬洋風の建物が混在しても、優れた街並みが形成されている例が数多く各地にある(茨城県内では結城、下館、真壁、土浦など)。

 

(2)屋根勾配と見えがかり

 ア)勾配屋根の場合、勾配の緩急は、見えがかりに大きく影響する。

たとえば、唐招提寺金堂の場合は、門から近づくとき、現在の建物は圧倒的な存在感を人に与え、凛とした雰囲気をつくりだすが、建立時(奈良時代)の建物は、きわめて穏やかな印象を与えるものであったと考えられる。

この違いは、視野に占める瓦屋根の分量による所が大きい(下図)。断面図は奈良六大寺大観 唐招提寺一(岩波書店)より 

▼建設当初の唐招提寺の場合:金堂復原断面図

基壇から軒先までの高さは現在(下図)とほぼ同じ。約55m離れた距離から見るとき、屋根部分が[基壇~棟]の視野の中で占める割合は約30% 

  

▼屋根改修後の唐招提寺の場合:金堂現状断面図 

上と同じ距離から見るとき、屋根部分は[基壇~棟]の視野の中の約45%を占める。

実地の経験を通じ、屋根の形の周辺環境に与える影響力が意識されたものと考えられ、後世の建物では、屋根の意匠に気を配るのが普通となる。

(どのような印象を与ええるかは建物をつくる側の意向次第である→その建物への建設者の「思い」次第)。

 

                      

 イ)上屋(じょうや)・下屋(げや)の二段で構成する場合、建物の前に立ったとき上屋と下屋の勾配が同じに見えるようにするため、下屋の屋根勾配を上屋よりも緩くすることが行なわれる。

   また、切妻屋根では、屋根を軒先から棟まで同じ幅に見せるため、側軒(そばのき)の出を、屋根下端では棟位置での出よりも若干(5~10%程度)短くすることが行なわれる(破風尻(はふじり)を引くと呼ばれる)。

   いずれも透視図的効果を応用した工夫で、実地の経験から生まれた技術である。

 豊田家 梁行断面・桁行断面 奈良県柏原市今井町(1662年) 日本の民家6 町屋Ⅱ(学研)より 文字・着彩は編集によります。

 

 ウ)通りに接する建物では、屋根の形状が前面の通りの空間構成に大きな影響を与える。

近世の宿場町や町家では、歩く人の目線を考慮し、向い合う建物の壁面間の幅に応じて屋根がつくられている。

〇道幅が広いとき:軒を深く出す2階部分を突き出す、などの方法により、通りを歩く人を覆うような形にする例が見られる。

 目線が軒下でとまるため、軒裏部分の見えがかりに配慮がなされることが多く出桁(だしげた)・はね出し二階などの意匠に意をつくす ⇒ 結果として、雨のあたらない出入口が確保できる。

 

例 中山道木曽路 奈良井(ならい)宿(長野県塩尻市奈良井) 図は仮想です。各断面・文共に日本の民家5 町屋Ⅰ(学研) より    

   

「ここでは向かい合う建物間の距離が6.5m~7m(側溝間は4m前後)、軒高は伝統的な家で4mくらいである。 結局、街道と両側の町屋によってできる空間は、奈良井宿の場合高さ4m 幅は地上で7m弱、ここに両側から2階がせり出し、さらに軒が出るので、街道の半分近くが屋根で覆われアーケード状となる。」 

 

中山道木曽路 妻籠(つまご)宿(長野県木曽郡南木曽町)  

 

妻籠宿は全国に先駆けて宿場の保存運動が起こり、古い町並みが残されている。 妻籠宿 その再生と保存 (彰国社)より

                                                                                                    

高山 上三之町(かみさんのまち)の町並み(岐阜県高山市)    

 写真(部分)・文共に日本の民家5 町家Ⅰ(学研)より

高山の伝統的な町屋は二階が低い。道幅は 軒高とだいたい同じくらいで、両側からの軒の出が深く、歩く人に親しみやすく落ち着いた印象を与える。」

 

       高山 吉島家(岐阜県高山市)明治12年 (1907年) 日本の美術№287(至文堂)より                                                    

 飛騨高山の代表的な民家の一つ。  2階は低く、立面の大部分に格子窓を構える。     

  

〇道幅が狭いとき上屋(じょうや)下屋(げや)の構成を利用し、屋根を二段構えにして通り側への圧迫感を少なくする。その際、下屋部分の屋根勾配を上屋部分よりも緩くすることが多い(前項イ参照)。

 目線が下屋の屋根面を見通すことが多いため下屋の屋根面2階の通り側に面する壁2階軒裏の意匠などに意をつくす。

例 奈良県柏原市今井町   図は仮想です。各断面は日本の民家6 町屋Ⅱ(学研) より 

                                

  日本の美術№288(至文堂)より 

 

建物が建ち上がった後の見えがかり(屋根勾配、建物のヴォリュームなど)についての事前の検討は、断面図上(縮尺1/50~1/100程度。土地の形状、道路の向かいの建物、隣地建物などを含める)で行なう。

住宅地などの場合、前面道路の空間の改変・形成に配慮するため、前面道路、向かいの敷地を含む断面図上で、当該敷地に建つ建物の位置、形状を検討する。

敷地が斜面の場合は、建物を既存の斜面の中に落ち着かせるため、敷地の全断面上で、建物の形状:特に屋根勾配について検討する(いかに造形に気をつかっても、大地の斜面の強さには勝つことはできない)。                          

 

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