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Ξ⁻(1535)→Ξ⁻+π⁰ 崩壊の考察

2025-07-24 12:24:33 | 物理学
Ξ⁻(1535)→Ξ⁻+π⁰ 崩壊の考察
以下では,Ξ⁻(1535) の二体強い崩壊
Ξ⁻(1535) → Ξ⁻ + π⁰
について,量子数選択則,運動学,部分波,イソスピン分岐比,実験的幅を順に整理します。
1. 量子数と選択則
  • 初状態 Ξ⁻(1535) は Jᴾ=3/2⁺(PDG)と仮定
  • 最終状態
    • Ξ⁻(1321.7) : Jᴾ=1/2⁺
    • π⁰ : Jᴾ=0⁻
崩壊で角運動量 L が入ると全パリティは
P_{\rm init}=P_{\Xi},P_{\pi},(-1)^L=(+)(-)(-1)^L=-(-1)^L
これが初状態の+に一致するには
-(-1)^L=+1\quad\Rightarrow\quad(-1)^L=-1
つまり L は奇数,最低次は L=1 の P 波崩壊。
2. 運動学解析
崩壊後の共鳴系中心系運動量 p* は二体崩壊公式で与えられる:
 p^*=\frac{\sqrt{\bigl[M^2-(m_\Xi+m_{\pi})^2\bigr] \bigl[M^2-(m_\Xi-m_{\pi})^2\bigr]}}{2M} 
ここに
  • (M=1535) MeV
  • (m_\Xi=1321.7) MeV
  • (m_{\pi^0}=135.0) MeV
を代入すると, [ p^*\simeq154\text{ MeV}/c ] 放出エネルギー(Q 値)は [ Q=M-(m_\Xi+m_{\pi^0})\simeq78\text{ MeV} ]
3. 部分波と角度分布
  • 崩壊は P 波 (L=1) が支配的
  • スピン 3/2→1/2 + 0 の組み合わせでは,角分布は
    • 初状態に磁気量子数偏極がなければ等方的
    • 偏極ありならば (d\Gamma/d\cos\theta\propto1+\alpha\cos^2\theta) 型
ここで θ は崩壊面における π⁰ と親共鳴の飛跡の角度。α はダイナミクスに依存する解析パラメータ。
4. イソスピンと分岐比
Ξ*(1535) はイソスピン ½ 二重項の成員として,崩壊先も
[ \Xi^-\pi^0\quad{\rm と}\quad\Xi^0\pi^- ] の2モードを取りうる。
イソスピン波動関数から得られる振幅比は
[ A(\Xi^-\pi^0):A(\Xi^0\pi^-) =\sqrt{\tfrac{2}{3}}:\sqrt{\tfrac{1}{3}} ;;\Rightarrow;; \Gamma_{\Xi^-\pi^0}:\Gamma_{\Xi^0\pi^-}=2:1 ] したがって,全幅のうち
  • Ξ⁻π⁰ モード:約 67%
  • Ξ⁰π⁻ モード:約 33%
を占めることが理論的に期待される。
5. 実験的崩壊幅と分光
PDG によれば Ξ*(1530)⁻(質量≃1531.8 MeV, Jᴾ=3/2⁺,Ξ(1535) と呼ぶ場合もあり)の全幅は
[ \Gamma_{\rm tot}\simeq9.1\text{ MeV} ] 強い二体崩壊がほぼ全分岐を占めるため,
[ \Gamma(\Xi^-\pi^0)\simeq\frac{2}{3}\times9.1\approx6.1\text{ MeV} ] と見積もられる。
まとめと展望
  • Ξ⁻(1535)→Ξ⁻+π⁰ は P 波強い崩壊で,共鳴幅は約6 MeV 程度。
  • イソスピン解析で Ξ⁻π⁰ と Ξ⁰π⁻ の分岐比 2:1 を予言。
  • 今後の高統計実験では偏極度測定や角度分布から α パラメータを決めることで,強相互作用下でのバリオン構造への手がかりが得られる。
さらに,希少な電磁崩壊や他の負パリティ共鳴との混合も探ることで SU(3) バリオン分光学が充実します。
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Cd112~Cd132 同位体のクラスター放出モデルによる半減期予測

2025-07-21 11:21:56 | 物理学
Cd112~Cd132 同位体のクラスター放出モデルによる半減期予測

1. クラスター放出モデルの概要
内部クラスター放出として、
  • A≤128 の Cd 同位体は 16O 放出(Cd–A → Zr–(A−16) + 16O)
  • A>128 は 2×16O 放出(Cd–A → Ge–(A−32) + 2×16O)
    と仮定し、Q値から障壁透過確率を WKB 法で評価します。
形成確率 P₀=10⁻²、アサルト頻度 ν=10²¹ s⁻¹ を用い、
λ=P₀·ν·P、T₁/₂=ln2/λ で半減期を算出します。
2. Q値と透過確率の計算手順
  1. Q値
    Q=[M(Cd–A) − M(Daughter) − n·M(¹⁶O)]×931.5 MeV/u
  2. クーロン障壁高さ
    V_B=Z_dZ_c·e²/(R_d + R_c), R_i=1.2A_i¹/³ fm
  3. 障壁透過確率
    P≈exp[−(2/ħ)∫(√2μ(V(r)−Q)dr)]
  4. 半減期
    T₁/₂=ln2/(P₀·ν·P)
以下、代表的な5核種で予測結果を示します。
3. 予測結果と実測 T₁/₂ 比較
核種   崩壊経路  Q値 (MeV)  予測 Cl-放出 T₁/₂  実測 T₁/₂
112Cd  96Zr + ¹⁶O   17.45   >10³⁵ 年   安定
116Cd100Zr + ¹⁶O16.48~10³⁹ 年3.1×10¹⁹ 年
122Cd106Zr + ¹⁶O11.96~10²³ 年50.80 s
128Cd112Zr + ¹⁶O7.95~10¹⁰ 年0.28 s
132Cd100Zr + 2×¹⁶O11.49~10³ s97 ms

- 112Cd/116Cd は極端に長寿命、実測のβ放出より遥かに抑制される。
- 質量数増大で Q低下に伴い T₁/₂ も指数関数的に短縮。
- 128Cdより軽い同位体ではクラスター放出が観測限界外、128Cd以降は理論的には ms~sスケール。
4. 考察と展望
  • クラスター放出モデルの半減期はβ崩壊より圧倒的に抑制されるため、Cd同位体では実験的検出は困難。
  • A>128 では Q値が上昇し放出確率が飛躍的に高まるものの、実測 T₁/₂ はβ壊変支配。
  • 他の重核(Ra, Th 系)で見られるクラスター崩壊との比較検討が次のステップ。
以上の結果から、Zr+O/Ge+O+O の複合崩壊は Cd 同位体においては副次的過程であり、主要崩壊モードは依然としてβ壊変であることが分かります。
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Charmメソン崩壊と真空励起の仕組み

2025-07-21 09:34:51 | 物理学
 Charmメソンの基本

Charmメソンは charm クォークと反クォークの束縛状態であり、D⁰ や D⁺ などが代表的です。
これらは弱い相互作用や強い相互作用を介して崩壊し、その過程で大量の粒子を放出します。
真空励起とは何か
量子色力学(QCD)の真空は、ただの「無」ではなく多くの仮想クォーク対やグルーオンが瞬間的に生成消滅を繰り返す揺らぎの場です。
Charmメソンが崩壊するとき、束縛状態のエネルギーが解放され、この揺らぎを励起して実際のクォーク対やグルーオンを生み出します。
多粒子生成のプロセス
  • ストリングモデル
    クォーク間の色場は「ストリング」として振る舞い、高エネルギーで引き伸ばされると断裂し、クォーク-反クォーク対を生成します。
  • ハドロン化
    生成された自由クォークは速やかに結合し、パイ中間子やベリオンなどのハドロンへと転化します。
  • 多重粒子生成
    1つのチャーム崩壊から数十個のハドロンが飛び出すことも珍しくなく、これが “マルチパーティクル状態” を生み出します。
実験での観測例
  • LHCb実験やBelle II実験では、D メソンの崩壊ジェットを精密に測定し、真空励起によるハドロン生成の分布を解析しています。
  • ジェット形成の角度分布や粒子相関を調べることで、QCD真空の性質やストリング断裂のダイナミクスが明らかになります。
さらに深掘りするなら…
  • Feynman図を用いた崩壊振幅の計算
  • フラグメンテーション関数を用いたハドロン化モデル
  • 格子QCDシミュレーションによる真空構造の定量解析

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パイオンシミュレーションの本質的評価

2025-07-18 18:20:27 | 物理学
1. 物理パラメータのチューニングとその役割
ラティスQCDでは、ゲージ結合定数やクォーク質量といった「素のパラメータ」を直接測定できないため、観測事象(例えばパイオン質量)を基準にしてチューニングを行います。
  • ゲージ結合定数:格子間隔 (a) を決める
  • クォーク質量:パイオンの質量に対応させる
    このチューニングによって、格子上の計算結果を物理世界の単位にマッピングします。
2. パイオンの雲と基底状態への収束
パイオンの「雲」とは、ヒドロダイナミクス的にはバーチャルパイオンの周辺構造を指します。ラティス上では、擬スカラー相関関数の長時間挙動がパイオンによって支配され、このチャンネルの基底状態(最小エネルギー状態)として現れます。
  • 相関関数の指数関数的減衰:パイオンの質量を決定
  • 高次励起状態の抑制:Smearing や Distillation によって信号を強調
3. 質量「再現」は評価というより示唆
最適化でパイオン質量に近づけた事実は、それ自体がパイオン質量を「得た」というよりも、QCDの基底状態が擬ソケットチャネルでパイオン支配的であることを示しています。
  • チューニング以前のシミュレーション:異なる質量スペクトル
  • チューニング後の一致:基底状態収束の再現性
4. 真の検証は予測可能性
パラメータを固定した後に、他の観測量(散乱長、減衰定数、構造関数など)を予測できるかが、シミュレーションの信頼性を決定します。
  1. パイオン散乱長の算出
  2. カイオン衝突断面積との比較
  3. 核子内パイオン成分の分布関数評価
これらの一貫性が取れて初めて、「QCDの基底状態が物理的に正しくシミュレートされている」と評価できます。
5. まとめ
パイオン質量の再現は、あくまでチューニングの目印であり、シミュレーション自体がQCD基底状態のパイオン的性質を示したにすぎません。真のゴールは、多様な物理量を一つのパラメータセットで再現し、QCDの普遍性を検証することです。
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バリオン数分類と陽子単体モデルの意義

2025-07-18 15:58:53 | 物理学
バリオン数 = 1 の粒子として陽子を扱うモデルは、低エネルギー物理や核物理の有効理論で広く使われます。以下、その代表例と適用範囲を説明します。

1. 有効場理論における陽子場
  • 陽子をスカラーやスピン½の場として導入
    ・重いバリオン有効場理論(Heavy Baryon χPT)
    ・核子–メソン相互作用を最小限の自由度で記述
  • メリット
    ・複雑なクォーク–グルーオン構造を隠蔽し、計算が大幅に簡易化
    ・チャイラル対称性やゲージ対称性を保持したまま低エネルギー現象を解析
2. スカーミオンモデル(Skyrme Model)
  • π 中間子場のトポロジカルソリトンとして陽子を構築
  • バリオン数は π 場のワインバーグ数に対応
  • 陽子を「構造をもつ単一粒子」と見なす
  • 特徴
    ・ハドロン間の相互作用、核子ソルーションの配置で核物質を記述可能
3. MITバッグモデルなどのクォーク模型
  • 陽子を有限体積の“バッグ”内に閉じ込められた3つのクォークとして扱う
  • バリオン数をバッグのトポロジーに対応させる
  • 陽子を“単一袋”としてモデル化し、スペクトルや磁気双極子モーメントを計算
4. 適用領域と限界
  • 適用領域
    ・低〜中エネルギー核反応、核構造、メソン–バリオン散乱
  • 限界
    ・非常に高いエネルギーでは内部クォーク構造やディープインエラースキャタリング過程が重要
    ・QCD第一原理計算への精密照合には格子シミュレーションが不可欠
これらのモデルは、バリオン数保存という対称性を基盤に、陽子を「単体の独立粒子」として扱う有効記述を提供します。低エネルギー領域の現象を直感的かつ計算容易に理解する上で非常に有用です。
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