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バリオン結合エネルギーが負である理由

2025-07-29 12:48:34 | 物理学
1. 核子結合エネルギーの復習
原子核では、核子(陽子+中性子)をバラバラにしたときの質量の総和と、束縛された核としての質量との差分(質量欠損)が「結合エネルギー」に対応します。
  • E_bind(nucleus) = Σ m_nucleon − m_nucleus > 0 (分離に要するエネルギー)
  • ポテンシャルエネルギーは負(V < 0)で、核子同士を引きつける源となる
2. バリオン(3クォーク束縛)の結合エネルギー
バリオン(例:陽子)は3つのクォークが強い相互作用により束縛された状態です。
  • 質量欠損(mass defect)として表され、束縛状態の質量はクォークの質量和よりも小さい
  • これを外部から分離するにはエネルギーを供給する必要があり、内部のポテンシャルエネルギーは負
質量欠損で定義する結合エネルギー:
E_bind(baryon) = Σ m_constituent quark − m_baryon  
ここで E_bind > 0 と定義すれば、内部ポテンシャルエネルギーは V = −E_bind < 0 となります。
3. 具体例:陽子の結合エネルギー
  • 陽子質量
    mₚ = 938.272 MeV
  • コンスティテュエントクォーク質量(u,d平均)
    m_q^cons ≃ 330 MeV
  • 3つのクォーク質量和
    3×330 MeV = 990 MeV
  • 質量欠損=結合エネルギー
    E_bind = 990 MeV − 938.272 MeV ≃ 51.7 MeV
  • 内部ポテンシャルエネルギー
    V ≃ −51.7 MeV
4. 理論的背景
  • QCDのカラーポテンシャルは「遠距離で強く束縛し、短距離で漸近的自由」を示す
  • ディラー–シュウィンガー方程式や格子QCDで得られる有効質量関数に、クォーク間に負の束縛エネルギー(マスギャップ)が現れる
  • 自発的キラル対称性破れと〈q̄q〉凝縮が、コンスティテュエント質量および結合エネルギーの源泉
5. まとめ
核子と同様にバリオン内部でも「束縛に伴う質量欠損=負のポテンシャルエネルギー」が生じます。
陽子では約 −52 MeV 程度の負の結合エネルギーがクォーク間に働いており、これが強い相互作用による安定化をもたらしています。(標準モデルに因る)
Quark Masses – Particle Data Group (constituent mass)
Proton – Wikipedia (mass)
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強い相互作用による「質量の増大」メカニズム

2025-07-29 12:36:38 | 物理学
強い相互作用の下、クォークは“裸(現在)質量”数MeVから“コンスティテュエント質量”数百MeVへと大きく増大します。これはクォークがグルーオン場やQCD真空と強く結びつき、自らを“ドレスアップ”するためです。
1. 自発的キラル対称性の破れとクォーク凝縮
  • QCD真空には光クォーク〈q̄q〉凝縮が広がっており、これは“物質生成のギャップ”を生む。
  • 自発的キラル対称性の破れによりクォークはゼロ質量状態からギャップ∆≈300–350 MeVを獲得。
  • このギャップがコンスティテュエント質量の核となり、中間子やバリオンの質量の大部分を説明する。
2. ディラー‐シュウィンガー方程式による質量関数
  • QCDのディラー‐シュウィンガー連立方程式を解くと、運動量依存の有効質量関数 (M(p^2)) が得られる。
  • 高運動量領域では「裸質量」に近づき、低運動量領域では数百MeVの安定した値に平坦化。
  • これがクォークが強い場の中で「どっしり重く」振る舞う理由を示す。
3. 格子QCDによる非摂動的確認
  • 格子QCDでは、ランダウゲージ下でクォーク伝搬関数を直接数値計算できる。
  • そこから抽出される質量関数は、低運動量で300–400 MeV程度に飽和する。
  • 光クォーク凝縮値や中間子スペクトルとの整合性も高く、コンスティテュエント質量の実態を裏付ける。
4. キラル有効理論(ChPT)の枠組み
  • 低エネルギー領域では、NGボソン(πなど)を展開変数とする有効ラグランジアンで記述。
  • Gell–Mann–Oakes–Renner(GMOR)関係などで、〈q̄q〉凝縮とπ質量・繰り込み質量が結びつく。
  • これにより実験的に観測されるパラメータ(f π, m π など)から底堅い質量生成メカニズムを理解できる。
5. なぜ「数百MeV」のギャップが生じるか
  1. グルーオン雲による自己エネルギー
    • クォークはグルーオンを吸着・再放出し続け、自己エネルギーとして質量を蓄える。
  2. 真空の構造
    • 〈q̄q〉凝縮という非摂動的真空構造がクォークを“重く”見せる。
  3. アノマリー効果
    • η′質量の大きさにも関与するU(1)ₐアノマリーが質量生成を強化する。
6. 次に知ると面白いこと
  • ダイソン‐シュウィンガー方程式の数値解:質量関数の詳細な形状とその理論的意味。
  • 格子QCD最新成果:光クォーク質量や凝縮の精緻測定、N f = 2+1シミュレーション。
  • キラルオフシェル効果:有効場理論で高次項を含めたπ‐N相互作用から見える質量生成の揺らぎ。
  • 重いクォーク系への拡張:c, bクォークでのドレッシング効果比較。

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K*(892)メソン概説

2025-07-27 11:19:20 | 物理学
K*(892)メソン(質量891.66 MeV)は、ストレンジを含む最軽量のベクトル(J^P=1^–)中間子で、Kπ崩壊を主に行います。SU(3)非重態ベクトル中間子群の一員として、ρ(770)やω(782)と並ぶ存在です。
基本的性質
  • 量子数
    • アイソスピン I=1/2
    • スピン・パリティ J^P=1^–
  • 質量と崩壊幅
  • 状態     質量 (MeV)   幅 Γ (MeV)
    K*(892)^±  891.66 ± 0.26  50.8 ± 0.9
    K*(892)^0895.81 ± 0.1947.4 ± 0.6
    ※エラーにはPDGによるスケールファクター調整を含む
構成クォークとアイソスピン
  • K*(892)^+ : u s̄
  • K*(892)^0 : d s̄
  • K*(892)^– : s ū
  • K*(892)¯0 : s d̄
中間子はクォークと反クォークの束縛状態であり、色荷を打ち消し合うため孤立可能な色中性粒子です。
主な崩壊モード
  • Kπ崩壊(P波)
    • K*(892) → K + π
    • ブランチング比はほぼ100%(99.9%)を占める
  • 崩壊寿命
    • τ ≃ 1.3×10^–23 s 程度(幅50 MeV相当)
理論的意義と研究動向
  • クォーク模型
    S=1、L=0の^3S_1状態としてベクトル中間子非重態を構成。SU(3)対称性や質量分裂のテストベッドとなる。
  • 格子QCD解析
    p-wave πK散乱位相からKの結合定数 g_{KπK} や崩壊幅を非摂動的に評価する試みが進行中。
  • 実験的生成
    高エネルギーハドロン衝突やe^+e^–衝突、τ崩壊など多くの反応チャネルで観測され、共鳴パラメータの精密測定に寄与。

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逆算で得られた約200 MeVの意味と注意点

2025-07-24 12:39:49 | 物理学
Ξ⁻(1535)の質量から単純に「sクォーク1個あたり200 MeV」と逆算するのは「ハドロン内で見かけ上振る舞う質量(構成クォーク質量)の粗い見積もり」を得る手法に近いです。しかし、素粒子物理で扱うクォーク質量には大きく分けて以下の二つの定義があるため、200 MeVをそのまま「クォークの真の質量」と同一視するのは注意が必要です。

1. 現在質量(Current quark mass)
  • ランジングループ方程式やMS¯スキームなど、摂動論的な定義に基づく質量
  • スケール依存的で、μ=2 GeV のとき
    • sクォーク:(95^{+9}_{-3}) MeV/ (c^2)
2. 構成クォーク質量(Constituent quark mass)
  • ハドロン内での非摂動的ダイナミクス(自発的対称性の破れなど)を反映した“有効質量”
  • u,dクォーク:約 300 MeV
  • sクォーク:約 450 MeV 程度
  • こうしたモデルでは、ハドロン質量の約2/3をクォーク質量で説明し、残りを束縛エネルギーやグルーオン交換で補う
  • 教科書的には「sクォークの質量はu,dに比べ200 MeVほど重い」と説明されることもある
3. なぜ200 MeVという数値が出るのか
  • Ξ⁻(1322) と π⁰(135) の合計に対し、Ξ*(1535)の余剰質量約 78 MeVを3個のクォークに帰着
  • u,d 成分を100 MeV程度(current mass)と見なし、残りを「sクォーク質量差」として割り振ると約 200 MeVに
  • しかし、ハドロン構造には束縛エネルギーやグルーオンダイナミクスの寄与が大きいため、
    • 200 MeVは「イメージとしての有効質量差」
    • 厳密なクォーク質量ではない
4. 実験解析や理論モデルでの扱い
  • 現在質量を直接測定するのは困難 → QCDスペクトル和則や格子QCD計算による高精度決定が必要
  • 構成質量モデルでは、200~500 MeVの範囲で調整してハドロン分光を再現
  • 素イソスピンやフレーバー対称性の解析に使う際は、
    • どの質量定義を用いたか常に明示
    • 束縛エネルギーや位相空間因子の補正を適用
結論
逆算で約 200 MeVという値が出ても、それは「非摂動的有効質量差」のイメージに近く、QCDの摂動論的に定義される現在質量(≈95 MeV)や、モデルで多用される構成質量(≈450 MeV)の中間的な数値と考えるのが自然です。正確なクォーク質量を議論するには、QCDスペクトル方法や格子計算を参照する必要があります。

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実験分岐比からイソスピンを逆に決める流れ

2025-07-24 12:30:45 | 物理学
Ξ*(1535) の崩壊で得られる
  • Ξ⁻π⁰:約67%
  • Ξ⁰π⁻:約33%
という分岐比を用いて、イソスピン I=½ の仮定が妥当かを検証し、逆にこの分岐比からイソスピン量子数を定義する手順を整理します。

1. イソスピン分解と崩壊振幅
  • 初状態のイソスピン I を仮定
  • 崩壊振幅は Clebsch–Gordan 係数で決定
    • I=½ なら
      • A(Ξ⁻π⁰) ∝ √(2/3)
      • A(Ξ⁰π⁻) ∝ √(1/3)
振幅 A に対して部分幅 Γ は
Γ ∝ |A|² × 位相空間因子
位相空間因子は両モードでほぼ同じため、
|A(Ξ⁻π⁰)|² : |A(Ξ⁰π⁻)|²=2/3 : 1/3 ≃ 2:1→67%:33%
この一致が得られれば I=½ と結論づける根拠になる。

2. 逆解析のステップ
  1. 実験で各モードの崩壊数を測定
  2. 位相空間因子(運動学的補正)を同程度とみなし、比率を算出
  3. 得られた比率を Clebsch–Gordan 係数の比 ( |A|^2 ) と比較
  4. 最もよく一致するイソスピン I の値を仮定量子数とする
3. 注意点と実際的留意事項
  • 電磁相互作用や質量差に伴う微小な位相空間差
  • 背景過程や他の共鳴干渉
  • 統計的不確かさと系統誤差
これらを評価・補正した上で、分岐比と理論値の整合性を確認する必要がある。

4. 更なる検証方法
  • 別の崩壊チャネル(Ξη, ΛK など)で同様の逆解析
  • 偏極実験による角度分布測定からの I₃ 成分解析
  • SU(3) フレーバー対称性に基づく他粒子群との一貫性チェック
次のステップとして、統計精度の高いデータを用いた多チャネル解析や、位相空間補正を厳密に行うことで、イソスピン量子数決定の精度向上が期待できます。
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