1. 核子結合エネルギーの復習
原子核では、核子(陽子+中性子)をバラバラにしたときの質量の総和と、束縛された核としての質量との差分(質量欠損)が「結合エネルギー」に対応します。
- E_bind(nucleus) = Σ m_nucleon − m_nucleus > 0 (分離に要するエネルギー)
- ポテンシャルエネルギーは負(V < 0)で、核子同士を引きつける源となる
2. バリオン(3クォーク束縛)の結合エネルギー
バリオン(例:陽子)は3つのクォークが強い相互作用により束縛された状態です。
- 質量欠損(mass defect)として表され、束縛状態の質量はクォークの質量和よりも小さい
- これを外部から分離するにはエネルギーを供給する必要があり、内部のポテンシャルエネルギーは負
質量欠損で定義する結合エネルギー:
E_bind(baryon) = Σ m_constituent quark − m_baryon
ここで E_bind > 0 と定義すれば、内部ポテンシャルエネルギーは V = −E_bind < 0 となります。
3. 具体例:陽子の結合エネルギー
- 陽子質量
mₚ = 938.272 MeV - コンスティテュエントクォーク質量(u,d平均)
m_q^cons ≃ 330 MeV - 3つのクォーク質量和
3×330 MeV = 990 MeV - 質量欠損=結合エネルギー
E_bind = 990 MeV − 938.272 MeV ≃ 51.7 MeV - 内部ポテンシャルエネルギー
V ≃ −51.7 MeV
4. 理論的背景
- QCDのカラーポテンシャルは「遠距離で強く束縛し、短距離で漸近的自由」を示す
- ディラー–シュウィンガー方程式や格子QCDで得られる有効質量関数に、クォーク間に負の束縛エネルギー(マスギャップ)が現れる
- 自発的キラル対称性破れと〈q̄q〉凝縮が、コンスティテュエント質量および結合エネルギーの源泉
5. まとめ
核子と同様にバリオン内部でも「束縛に伴う質量欠損=負のポテンシャルエネルギー」が生じます。
陽子では約 −52 MeV 程度の負の結合エネルギーがクォーク間に働いており、これが強い相互作用による安定化をもたらしています。(標準モデルに因る)
陽子では約 −52 MeV 程度の負の結合エネルギーがクォーク間に働いており、これが強い相互作用による安定化をもたらしています。(標準モデルに因る)
Quark Masses – Particle Data Group (constituent mass)
Proton – Wikipedia (mass)
Proton – Wikipedia (mass)