時には目食耳視も悪くない。

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音楽研究には欠かせない一冊。

2020年04月27日 | 本の林
 音楽関係の本を選んで雑談する動画シリーズを作り始めて、今回で二十冊目になりました。

 取り上げた本は1981年に朝日出版社から発行された《音楽の記号論》(細川周平)です。
 クラシック音楽を記号化して分析する際にどんな考え方があるのか、その問題点や有用性について紹介している本です。

 ここで生じる疑問は、「どうして音楽を記号化する必要があるのか」ということだと思います。
 音楽を自然科学の一つとして研究する場合、研究者の主観はできるだけ排除しなくてはいけません。

 理系の分野の研究では、観測や実験に基づくデータ、また数値や図表、グラフなどで可視化されたもので、その研究の客観性を示しています。

 音楽や美術などは、個人の感性や時代によって、多様で流動的な評価が生じてしまうので、それらを客観的に研究するためには、音楽を音として聞くのではなく記号に変換し、個人の感覚に左右されずに十人中十人が同じ結果を得られるような分析法が必要だと考えられてきたのです。

 そのような研究の場に携わっている人には、とても役に立つ一冊だと思いますが、ただ音楽が好きで、自分なりに楽しみたいと考えている人にはあまり面白いとは思えないかもしれません。

 音楽は楽しむためのものなのだから、科学として捉える必要はないという考えも一理あると思いますが、音楽療法の分野では、音楽が発達障害や脳性麻痺に見られる症状の緩和に役立つという実例もありますので、音楽の科学分析が全く無駄だとは言い切れないのです。

 古代ギリシャでは、音楽の習得が優れた人格形成に不可欠だとも考えられていました。
 目下、ウイルスの影響で、音楽関係のイベントはほとんど中止になってしまいました。

 家で好きなだけ音楽を聞くことができる現在ですが、じかに触れる音の価値に気づかれた人も少なくないかもしれません。

 最後に、この本の私個人的なお気に入り度ですが、なによりもカバーの絵にフェルメール Johannes Vermeer (1632-1675)の作品が使われている点が好きです。
 フェルメールの絵についてはテレビ番組でも特集されることが多いので、ご存知の方は沢山いると思いますが、特徴として、描かれているものが何らかの暗示をしているということがよく言及されます。

 絵の細部にまで描き込まれたそうした暗示を見つけるのが、鑑賞時の楽しみの一つとも言えます。
 音楽作品にも、似たような性質があって、作曲家もしくは演奏家にしか分からない音による暗示が隠されていることがあります。

 装丁にフェルメールの絵を使ったのは、暗にそのことを仄めかしているのかと、思わず勘繰りたくなる、興味深くお洒落な一冊です。

 ※雑談動画【本の林】第二十冊を再生するには、コチラをクリックするか、「本の林」で動画検索をお願いします。


 


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