時には目食耳視も悪くない。

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知るも知らぬも。。。

2020年02月10日 | 本の林
 人の価値観ほど不思議なものはないと思います。
 似たような考えの人に会ったり、たまたま意見が一致することはありますが、全く同じ価値観の人には家族を含めて、今まで一人も会ったことがありません。

 私の考え方や生き方は他人には理解し難い部分があるでしょうし、私だって誰かの気持ちや行動全てに理解を示せるかというと、それは不可能です。

 人はそれぞれ異なる条件、異なる環境の下に異なる経験をしながら生きています。
 例え同じ事件を経験しても、一人っ子の男性と、三人姉妹の末っ子の女性では、感じることに差が出るはずです。
 なぜなら、この二人はそれぞれ違う条件、環境の中でパーソナリティを形成しているからです。

 経験してきたものや、取り入れた知識の内容や量が違うのです。
 決して、多く経験している人が良いとか、知識量が多い方が良いという話ではありません。

 いくらどんな経験をしていても、学習力のない人はいますし、ただ知識ばかりあっても、それらを有効に使えなければ何の役にも立ちません。
 「智に溺れる」という言葉もあります。

 たまに、経験の浅い人を下に見たり、自分が知っていることを知らない人を馬鹿にする人がいますが、あまり賢い行為とは思えません。
 人間にとって大切なことは学ぶ力、学び続ける姿勢ではないでしょうか。

 早熟の天才も尊いですが、私はどちらかというと、何かを身につけることに年齢は関係ないという考えの方に、より魅力を感じますし、好感が持てます。


 また、中には知らなくても問題ではないこと、むしろ知らない方が都合の良いこともあります。
 いろんなことを知り過ぎてしまって、かえって行動の幅を狭くしてしまったり、せっかくの好機を逃してしまうこともあるかもしれません。

 その人の人生にとって、何が良いことなのか、悪いことなのかを端的に言うことは難しいと思います。


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 さて、つい30年ほど前まで、ドイツは東西に分かれていました。

 東と西を隔てるベルリンの壁が崩れたのは、私が小学生の時でした。
 当時、学校の社会科の授業でドイツが元は一つの国だったことや、二つの世界大戦のことを勉強していたので、私はドイツが再び一つの国になったことをポジティブに捉えていました。

 単純に、「よかった」と思いました。
 なぜなら、元々一つの国であったものを、無理に二つに分けてしまったという印象が強かったですし、家族や親しい友人が東西に分かれて暮らし、お互いを自由に行き来することもできなかった話などを聞いていたからです。

 それから時は流れて、つい数年前、たまたま読んだ新聞の特集記事で、私の考えに疑問を投げかける内容のものを目にしました。
 それは当時の東ドイツで生まれ育ったドイツ人のインタビュー記事でした。

 その中で、その人は自分が生まれた時からドイツは東西に分かれていたので、それが当たり前だと思って暮らしていたというのです。

 周囲で話題になっていた壁のことについても、なぜなくす必要があるのか、子供心に不思議に思っていたそうなのです。

 そして、ベルリンの壁が崩れてから、東ドイツに西側のものが多く流入し、自分が昔から好きだったお菓子が店からなくなったり、街の様子が変わっていくのを、つまらない気持ちで見ていたというのです。

 このあたりの混乱をコミカルに描いた映画『グッバイ、レーニン!』(2003 ドイツ)は私の好きな作品です。


 今回、本の林で取り上げた本は、そんな東ドイツ時代に書かれたものです。

 ※動画へはコチラをクリックするか、「本の林」で動画検索をお願いします。

 第二次世界大戦中に、ドイツのパイプオルガンの多くは空襲によって破壊されたり、焼失してしまいました。

 この本では、戦後東ドイツのパイプオルガン職人たちが、パイプオルガン製作にどのように取り組んでいるか、また、パイプオルガンのドイツにおける伝統など、日本人にはあまり馴染みのない楽器であるパイプオルガンについて紹介しています。

 旧東ドイツ時代の写真や、パイプオルガンの詳細な図解などが収録されており、興味深く読める本です。

 ※なお、同書は2017年に文芸社から《旧東ドイツ音楽の旅 愛と友情のかけ橋》として再版されています。




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