(つづき)
木曽川と長良川を隔てる中堤には、立派な松の木がたくさんそびえています。川沿いではなく、まるで海岸の防風林のようです。ここが海ではなく川の堤防なのが、不思議な感じがするほどです。とても寒いですが、風は強くありません。この渡船に乗ろうと思わなければ、この景色を眺めることも一生なかったでしょう。
「木曽川葛木渡船 愛知県」の看板の横に、3人も入ればいっぱいになりそうな小屋があり、屋根にはテレビのアンテナが立っています。扉を開けると2人のおじさんがいました。この人達が今日、船を出してくれるのです。
中にはストーブがあってほっとします。
古い黒板の予定表があり、曜日欄は土・日・水だけ丸で囲ってあります。葛木渡船とその先の森下渡船は、2010年4月から土曜・日曜・水曜と祝日だけの運航になっていたのです。運賃は無料です。
黒板の横に、2時10分過ぎを指している壁掛け時計があります。40分以上遅れています。聞いてみると、「ずっと電池が入ってないよ」と、笑顔で答えてくれました。
乗船前にアンケートに答えて欲しいとのことでした。A4の紙に、乗船人数は男1人に女1人、茨城県から来たなどと記入します。「乗船目的」の質問には、いくつかから1つ選んで丸をつけるようになっていました。中には、船に乗ることそのものが目的という選択肢まで用意されています。しかし、観光船ではないのですから、どうしても対岸に用があるのだという顔で通したいです。目的地は「海津温泉(岐阜県)」と書きます。
(つづく)