心が満ちる山歩き

美しい自然と、健康な身体に感謝。2019年に日本百名山を完登しました。登山と、時にはクラシック音楽や旅行のことも。

1975年ベーム~ウィーン・フィル来日公演 シューベルトの交響曲「ザ・グレイト」

2019年11月16日 | 名演奏を聴いて思ったこと


 自分の聴きに行った演奏会が録音され、CD化されるというのはとても嬉しいことのひとつです。
 それが生涯忘れられないほどの名演だったなら、尚更のことです。

 ◆(シューベルト 交響曲第9番『ザ・グレイト』) ベーム~ウィーン・フィル(グラモフォン UCCG-4488)

 晩年のベームが、1975年にウィーン・フィルと来日したときの演奏がCDにおさめられたものです。
 この演奏を実際に聴いた指揮者の岩城宏之氏は、感想をこのように書き記しています。


 「カール・ベーム最晩年のウィーン・フィル日本演奏旅行のとき、シューベルトの交響曲第八番「未完成」、第九番「グレート」というプログラムを、ぼくはNHKホールで二度聴いた。一度は客席で、次の晩はステージの袖だった。特に長大な第九番は巨匠とウィーン・フィルの極めつきで、われわれ一般の指揮者には危険極まる交響曲である。 ~」
 「~ ベームとウィーン・フィルには最初から最後まで引き込まれた。美しさと緊張感が持続し、壮大なクライマックスでは涙がこぼれたほどの演奏だった。
 袖に戻ってきたベームはくずれるように椅子に座りこみ、片手で抱えることができそうなほどの小さい老人と化した。手が氷のように冷たい。マネージャーにうながされ、拍手に応えるためよろよろ立ち上がりステージに出てゆく。観客の前に姿を現したとたん満面に笑みをたたえ、シャキシャキと元気に歩いていって、嬉しそうに何度もお辞儀する。帰ってくると再び死んだような小さな年寄りになるのだった。
 (『フィルハーモニーの風景』岩城宏之・著(岩波新書))

 残念ながら、1975年はまだ生まれる前で、演奏に生で接することは出来ませんでした。
 このCDの最も素晴らしいところは、聴衆の様子が40年以上たった今でも、(画像なしで)スピーカーだけを通して伝わってくるところです。
 最後の音が鳴り終わってすぐ、いや終わる前から大拍手です。
 「ブラヴォー!」の音は固いものの、熱狂ぶりを伝えてやみません。
 わが国で、こんな演奏に接したのは生まれて初めてだ!という熱狂でしょうか?
 ベームと、ウィーン・フィルのメンバーと、観客の気持ちが、どこか会場の天井で1点に結ばれているかのようです。
 聴き終わって戸惑ったのは、自分1人がその輪から取り残されている感じがすることでした。
 第一楽章は、個々の音は力強いのですが、それが合奏全体の力になっていないところが多い気がします。しかし終結は壮麗で、やや古風な音も手伝って、いつものNHKホール(開館は1973年でした。)の舞台が目に見えるような臨場感があります。
 第二楽章も第一楽章の印象に似ており、(5:29)のホルンが弱く、(5:52)のクレッシェンド(だんだん強くなる)もほとんどクレッシェンドしていないようです。もしかすると、ホルンだけ取り出せば会場では寂寥感があったのかもしれません。
 第三楽章は遅めですが、燃え盛るものがもう一つ欲しく、思索というよりは躊躇いが出ているように感じました。

 「あのジイさんの棒の通りに弾いたらエライコトになるんだぜ。もうすっかりモウロクしているからテンポは延び放題だし、手がブルブル震えっぱなしで、何がなんだかわからないんだ。でもとにかくエライ指揮者だし、いや、偉大なひとだったんだから、お客さんの期待と感動に水を差さないように、おれたちがカバーしてやってるのさ。~」(『フィルハーモニーの風景』岩城宏之・著(岩波新書))

 演奏の後、岩城氏にこう語った楽員の必死さが伝わってきます。それもきっとその場にいた聴衆の感動につながったのに違いありません。
 フィナーレは、第一楽章の終わりに感じられた臨場感が全体を貫いており、ライヴ録音の良さが4つの楽章の中では一番出ていると思いました。クライマックスでは、老巨匠を励ますような強く温かい金管の合奏を聴くことができました。


 ◆ベーム~ドレスデン国立管弦楽団(グラモフォン POCG6089)
 同じ老巨匠の「ザ・グレイト」では、来日公演よりこちらの方がずっと覇気があり、感動しました。来日公演よりさらに4年後の演奏で、ベームは84歳の高齢に達していました。
 第一楽章の、(4:25)のテンポの下げ方や、(13:36)の音楽の枠を飛び越えた最強奏はどうでしょう。
 第二楽章も、前に前に速く進む音楽に変わっています。
 第四楽章では音を割った金管楽器やティンパニーの強奏強打が続出し、(8:31)の念を押す力強いヴァイオリン、(9:43)では第一楽章と同じように意志的なテンポの落とし方が聴かれます。そして、全ての楽器が力強く鳴り切っている終結の素晴らしさ。
 岩城氏の言葉も相まって、彼が舞台に生きた名指揮者だったことを実感せずにいられないCDでした。

 (シューベルト「ザ・グレイト」の名演奏)
 ・フルトヴェングラー~ベルリン・フィル(キング「戦中のフルトヴェングラー」KKC-4112/7)
 ・フルトヴェングラー~ウィーン・フィル(デルタ・クラシックス DCCA-0044)
 ・ワルター~コロンビア交響楽団(ソニー・クラシカル SRCR8784)
 ・レーグナー~ベルリン放送交響楽団(DENON COCO-70879)
 ・チェリビダッケ~スウェーデン放送交響楽団(WEITBLICK(東武ランドシステム) SSS0185-2)
 ・ヴァント~ベルリン・ドイツ交響楽団(セブンシーズ KICC868)



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