大菩薩嶺(2,057m) (つづき)
大菩薩嶺へは、標高1,600m弱の上日川峠から登り始めるのが最も便利ですが、それとは全く別に、丸川峠を経て山頂へ達する登山道が通じています。今日は、大菩薩嶺の登山3回目にして初めてこの道を歩きます。登山口(丸川峠入口)の標高はおよそ1,000mです。
最初は、「はいってはいけません」という札や三角コーンの置かれた工事現場を通り過ぎますが、すぐに森の中に入ります。とても明るい森で、立派なブナもあります。この雰囲気は上日川峠からの登山道にはなかったものです。人の手で植えられたカラマツも一部ありますが、これは昔炭焼きが行われていたところだといいます。
分かりやすい道ですが坂はまあまあ急でした。10月も下旬ですが暖かく、紅葉がほとんど進んでいません。標高を上げて、ようやく色づいてきたかなと思う頃、傾斜がゆるみ、ぱっと視界が開けて丸川峠に着きました。
ここには山小屋の「丸川荘」があり、とてもおいしい珈琲をいただきました。小さな山小屋です。今日は1人だけ宿泊予約が入っているとのことでした。
山小屋で、その日泊まったのが自分ということは一度もないなと思いました。今まで泊まった小屋で一番小さかったのは、多分甲斐駒の七丈小屋だと思いますが、その時でも10人ちょっとのお客さんがいました。
今度はここで一晩を過ごしてみたいと思いました。
部屋には木彫の仏像などが置かれています。キツネやテンの写真も目をひきます。キツネは人に慣れているといい、とても余裕のある姿でうつっていました。
丸川荘から山頂までは、それまでと印象が一変し、針葉樹のコメツガの森となります。
陽光がさんさんと差しこんでいた道から、重厚な道へと変わりました。
急坂はなくなりました。歩きやすく、ずっと昔から歩かれていた道だと思わせます。足元のコケも深い空気を醸し出しています。
ゆっくりと歩いて2時間で、見たことのある山頂に着きました。樹に覆われて、他に何もないところに山頂の標識が現れるのは、6年前と同じで、覚えていた通りでしたが、どの道を歩いて来たかによってこの場所の雰囲気は違うと思いました。
丸川峠を経て大菩薩嶺へ登る道は、一日で二通りの森を歩ける素晴らしい登山道です。
南に少しだけ下ると、目の前に大きな富士山が現れます。眼下にはダム湖の大菩薩湖があり、草原の尾根を大菩薩峠に向かって下っていくのは爽快です。夕暮れ時に大菩薩峠を見下ろす光景もいいです。草原には鹿の歩いた跡がいくつもつき、甲高い鳴き声が山中に響いていました。
「奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき」(猿丸大夫(小倉百人一首))
(登頂:2018年10月下旬)