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歯科技工士・岩澤 毅

岩澤毅 「中医協の在り方に関する有識者会議」報告書を読む 

2005年08月19日 | ごまめ・Dental Today
『ごまめ』35号(2006年3月発行予定)原稿
「中医協の在り方に関する有識者会議」報告書を読む 
岩澤 毅(秋田市)
1.はじめに
 2004年日本歯科医師会役員等による中央社会保険医療協議会(以下「中医協」という)委員に対する歯科診療報酬を己に有利なものとすることを目的とした金品の授与による不正な働きかけ等に関する贈収賄事件の発覚をはじめとする中医協に対する国民の不信に答え中医協の在り方について検討するために、厚生労働大臣と内閣府特命担当大臣(規制改革、産業再生機構)、行政改革担当、構造改革特区・地域再生担当との間の「中医協の在り方の見直しに係る基本合意」(平成16年12月17日)に基づき中医協の在り方について検討を行うことを目的として、厚生労働大臣が有識者の参集を求め、開催された「中医協の在り方に関する有識者会議」が、2005年7月20日に報告書を提出した。
この報告書をテキストとして、社会保険医療制度、社会保険歯科診療制度さらには歯科技工士の位置、更には今後の動向へのヒントの解明を試みた。

2.報告書の注目点とコメント
・診療報酬の位置付けについて
 「診療報酬とは、保険医療機関等が行う診療行為に対する対価として公的医療保険から支払われる報酬である。これに関する定めは、保険適用とする診療行為の範囲を定める「品目表」としての性格と、保険適用とされた個々の診療行為の公定価格を定める「価格表」としての性格を併せ持つものである。」

⇒著者が度々指摘してきたところであるが、「診療報酬とは、保険医療機関等が行う診療行為に対する対価として公的医療保険から支払われる報酬」であり、現行制度において歯科技工所に対する「品目表」または「価格表」としての性格は無いのである。

「したがって、まず、改定率は、予算編成過程を通じて内閣が決定するものであることを、ここに明確に確認する。その上で、中医協においても、医療経済実態調査等を踏まえ、改定率について議論を行い、その結果を厚生労働大臣に意見として進言することがありえるものとすべきである。」

⇒医療経済実態調査等が、改定率について議論の際の基本資料となることを確認すべきである。

「なお、診療報酬改定に係る基本的な医療政策の審議を行う場としては、社会保障審議会の保険医療部会が考えられる。」

⇒社会保障審議会保険医療部会には、歯科医師会の代表がいる。

・公益機能の強化について
 「現在、中医協においては、診療報酬改定に係る審議は精力的に行われている一方、診療報酬改定の結果の検証については、医療費の動向の報告等が行われてきた程度で、診療報酬改定に至る取組と比べ、その取組は不十分であったと考える」
「なお、今後、公益委員が診療報酬改定の結果の検証の機能を適切に担っていくためには、公益委員の中に、医療経済、財政、会計等の専門家が必要とされるものと思われる」
「三者構成における公益委員の調整機能をより的確に発揮できるようにする観点から、また、診療報酬改定の結果の検証という新たな公益機能を適切に担っていく観点から、公益委員の人数については、現行の4名からこれを増やしていくべきである。」

・病院等多様な医療関係者の意見を反映できる委員構成の在り方について
 「なお、中医協委員に患者の代表を加えることについては、「中央社会保険医療協議会の在り方の見直しについて」(平成16年10月27日中央社会保険医療協議会全員懇談会了解)において、被保険者の代表を推薦する連合において、患者一般の声をより適切に反映できるような委員を推薦することとされ、本年4月から、連合に置かれた「患者本位の医療を確立する連絡会」の委員が中医協委員として任命されている」
 「この論点については、「患者の代表は公益委員として加えるべきではないか」との意見もあった。しかし、公益委員はいわば国民全体の声を代表して意見を言う意味において、公益委員として独自の位置付けを与えられているものである。したがって、公益委員が患者の声を含め国民の声を代弁するものであるとしても、患者の代表にはむしろ被保険者としての側面が強いと考えられることから、現行の形を継続していくべきものと考えられる。」

⇒連合の組織内部代表ではなく患者の声を反映するための委員推薦の動きが注目される。
連合推薦の中医協委員は勝村久司氏、1961年生まれ。京都教育大学卒業。高校理科教諭。90年に陣痛促進剤被害で長女を失い、医療裁判や市民運動に取り組む。「医療情報の公開・開示を求める市民の会」事務局長。枚方市医療事故防止審議会委員。著書に、長女の医療裁判が逆転勝訴し、10年目の命日に被告病院の職員研修で話をするまでを綴った『ぼくの星の王子さまへ』(メディアワークス)、編著書に『レセプト開示で不正医療を見破ろう!』(小学館文庫)などがある。
また、連合のシンクタンク連合総研では、活動の一環として連合総研ブックレットNO.5 『患者・国民のための医療改革』を発行している。特に第2章「医療に関する情報提供の現状とあり方」、第7章「医療費の適正化」を分担執筆している堀 真奈美(東海大学教養部専任講師)の立論に注目したい。

・診療側委員の委員構成について
 「このほか「診療側委員に看護師の代表を加えるべきではないか」との意見もあった。中医協においては、在宅医療の推進、特に訪問看護の充実等の事項について審議するため、平成15年12月から、看護の専門家が専門委員に任命され、中医協としての最終的な意思決定を行う総会及び基本的な問題についてあらかじめ意見調整を行う診療報酬基本問題小委員会に所属している。これらの審議に参加することにより、看護師の意見が中医協における審議に反映される仕組みが設けられている。
現在、診療側委員として構成されている医師、歯科医師及び薬剤師は、保険契約の当事者として現物給付のサービスを提供する一方で、その対価として診療報酬を受け取る主体として整理されている。さらに進んで、診療報酬側委員に看護師の代表を加えることにについては、診療報酬を受け取る主体だけではなく、看護師を始めとする医療提供に従事するものの位置付けをどのようにするかについての整理が必要である。看護の専門家が専門委員として中医協の審議に参加している取扱いを継続しつつ、医療提供に従事する者の意見の中医協の審議への反映の在り方について、引き続き検討すべきである。」

⇒繰り返しとなるが、保険医・保険医療機関等は、保険契約の当事者であり、現物給付のサービスを提供する主体であり、その対価を受け取る主体である。歯科技工士は、歯科技工所においては歯科技工士法に定める歯科医師発行の歯科技工指示書にもとづき歯科技工を行うものであり、歯科診療所と取引関係にあり、己が行う歯科技工に関して公的に保険適用か否かを知る立場に無い。保険契約の当事者でも無ければ、現物給付のサービスを提供する主体でも無く、その対価を受け取る主体でも無いのである。
中医協によって歯科技工所の委託歯科技工料を規制されるいわれは無く、また中医協にその意思も権限も無い。
歯科医療の主軸が予防・継続的管理重視への移行期にある現在、存在感を増す歯科衛生士が専門家とし中医協の専門委員に任命され、その意見が中医協における審議に反映される仕組みが設けられることが望まれる。
中医協の機能の一つは、社会保険歯科診療等を円滑に進めるための「品目表」・「価格表」の作成に眼目があるのである。
社会保険歯科診療における歯科補綴物等の円滑な委託が機能せず、社会保険歯科診療に支障が生じまたは生じる恐れがある時、中医協または社会保障審議会保険医療部会等の課題として委託歯科技工料問題が浮上するものと思われる。
保険医療機関が社会保険歯科診療においてける歯科補綴物等に関し、許容範囲を超える「差益」が生じた場合は、保険者等からその是正を求められるものと思われる。
保険医療機関が社会保険歯科診療においてける歯科補綴物等に関し、許容範囲を超える「差損」が生じた場合は、保険医・保険医療機関等からその是正を求められるものと思われる。

・診療報酬の決定手続きの透明化及び事後評価の在り方について
 「このほか、平成15年には、中医協の審議に資するためそれぞれ専門的立場から調査を実施する診療報酬調査専門組織が設置され、客観的なデータの収集に着手している。
また、診療報酬決定手続の更なる透明化を図るため、いわゆるパブリック・コメント手続を参考としながら、中医協が診療報酬点数の改定案を作成し、答申するに至る過程において、広く国民の意見を募集する手続をとるべきである。」

⇒いわゆるパブリック・コメントの活用については、歯科技工士側の自発的且つ系統的・建設的な取組が望まれる。

3.まとめ
歯科技工士が、日本における歯科医療の一方の柱である社会保険歯科診療制度を知る資料として簡潔に要点を押さえている今回の報告書を学ぶことは有用と考える。
文末に関連のHPアドレスを記載した。
日本歯科新聞 2005年6月21日 歯科川柳 在り方を 問われる家に フルハウス


2005.08.19記

「中医協の在り方に関する有識者会議」報告書
中央社会保険医療協議の新たな出発のために
平成17年7月20日 中医協の在り方に関する有識者会議
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/08/dl/s0803-4s01.pdf
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/08/dl/s0803-4s02.pdf
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/07/s0729-9h.html


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