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歯科技工士・岩澤 毅

岩澤毅 なぜ歯科技工士の「輸入入れ歯」裁判を支援しないのか?

2011年06月20日 | ごまめ・Dental Today
なぜ歯科技工士の「輸入入れ歯」裁判を支援しないのか?

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管理人 岩澤 毅

Q:なぜ東京の歯科技工士の「輸入入れ歯」裁判を応援しないのか?彼らは、歯科技工士のために戦っているのに?
A:素朴な感情論は別として、あの裁判で主張されている法律論は間違っていると考えています。
具体例から
尖閣列島周辺の海で、日本と中国が揉めました事件がありました。中国の漁船が、海上保安庁の船に体当たりした事件です。例の「sengoku38」氏により両船の衝突映像がネットに流出し、映像が出回った事件として記憶されている方もいらっしゃると思います。
あの事件のあった海域は、日本と中国の両国が自分の領海だと「領有権」を争っている場所です。日本の海上保安庁は、日本の領海で中国漁船が「違法」に操業していたと、取り締まりを行いました。中国は、自分の国の領海内で自分の国の漁船が操業していたのに、日本の海上保安庁が「中国の主権を侵し、違法に取り締まりをした」と主張しています。

図1


法律の効力の及ぶ範囲

あの事件の背景にあった問題は、領土・領海の問題、国家主権の問題です。背景には海洋資源・海底資源の問題もあります。どちらの領土・領海かで、適用される(国の)法律が当然違います。大きな経済権益の問題も潜んでいます。国家の主権、法律の効力の及ぶ範囲が違いますから、後々の展開のために双方が引けない問題でもあります。
歯科技工の問題に話題を戻すと、中国国内で歯科技工をする時は、中国の制度に従うのが当然となります。日本国内(日本の主権の及ぶ日本領土)で歯科技工を行うときは、日本の歯科技工士法に従うのが当然です。

図2


問題の本質
日本の歯科医院(歯科医療機関)が、歯科補てつ物等の作成を国外に制約なく委託できることが輸入入れ歯問題の本質です。この問題を解決しなければ、国民・患者の歯科医療に対する期待に対し応える医療提供体制としては、不備であるとの批判を避けることは出来ないでしょう。
日本の主権下の日本の法律の効力の及ぶ領土内で行われている「行為」は、歯科医療機関からの「委託」です。ここが整備すべきポイントになります。ここを見逃すことがあっては、いけません。
医療機関が外部に医療に重大な影響を与える業務を委託することに関しては、従来から医療法令が規定しています。医療にかかわる様々な業務の中から、重要性のある衛生検査も、給食も、病院清掃もこの医療法で規制されています。ここに歯科技工が入っていないことが問題です。

図3


個別の具体的裁判の展開
訴えた側に、この医療法の仕組みの視点と理解が無いので、「歯科技工法違反」との主張や、さらには国に「歯科技工士の権利が蔑にされた。賠償しろ。」と主張が出たりしています。
国外で行われる歯科技工に、日本の歯科技工士法を持ち出して、「日本の歯科技工士資格がないではないか」と問うても、「日本の法律の及ばない国外の領土」の話と言われます。言わば話が噛みあっていないのです。
今回の「輸入入れ歯」という問題は、その問題の本質である医療法令に、歯科技工の委託に関する規定の無い欠陥をどのように解決するかという課題に対して、専門職として建設的な提案をしなければならないと思います。ですから、方向性の違うあの裁判には乗れなかったわけです。裁判で主張された法律論では、裁判所に通用しません。事実、地方裁判所、高等裁判所と敗訴しています。
歯科医師の裁量権?とこれから
この裁判の判決が確定すると「歯科技工士の資格が、空洞化する」「歯科医師の裁量権で、歯科技工助手も許される」との発言もありますが、日本国内で歯科技工士法が効力を持ち、無資格者による歯科技工が違法なのは現行法上当然です。
今回の事態から教訓を引き出すとすれば、歯科補てつ物等の委託受託の法令整備の必要性と歯科技工士の医療法令に対する理解が及ばないことの克服が、歯科技工業界の課題と指摘出来るでしょう。
2011/02/20記
2011/06/23修正

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