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「M&Iクローズアップ ハイイールド債にマネー流入」(『日本経済新聞』2013年11月13日)解説用記事

2013-11-14 03:37:00 | 小ネタ
「M&Iクローズアップ ハイイールド債にマネー流入」(『日本経済新聞』2013年11月13日)

今回のネタはハイイールド債である(内心、ネタがなかった)。

世に云うジャンク債のことで、債券のクレディビリティが低い(社債ならディストレスト債(注)、国債なら発展途上国)ものを指す。アメリカでの規模は120兆円で、アメリカの投資適格社債市場規模が350兆円の為、約1/3の規模と言える。

注)経営破綻企業の債券。
正確には、ヘッジファンドの戦略の名称で、ディストレスト債権戦略を指す。
アメリカで言うイベントドリブン(Event Driven, 元は情報関係の用語で、ユーザや他のプログラムが実行した操作(イベント)に対応して処理を行う、プログラムの実行形式を指す。こちらは、企業合併・買収(Takeover)・自社株買い戻し等の資本政策を材料とし利潤を稼ぐ)戦略の一種で、アメリカの連邦倒産法11章(※)の適用された企業や、財務内容が悪化した企業の発行する債権を割安な価格で購入し、その企業の信用力が回復する過程で、値上りした債権を売り抜く戦略。
他のヘッジファンド戦略と比べて投下資本の回収期間が長く、流動性が低いとされている。

※)Title 11 of the U.S. Code-Bankruptcy, Chapter 11; Reorganization.
単にChapter 11とも称される。
「条」を使用すべきでない事由として、5万数千語という実際の条文の長さや構造に照らす必要がある為である。
再建型倒産処理手続を内容とするものであり、債務者自らが債務整理案を作成し債務者主導の再建が可能である点で、日本でいう民事再生法に相当する。
個人債務者にも適用可能であるが、手続の複雑さと費用の点から殆どの場合個人への適用は実務的ではなく、殆どの場合個人債務者は債務整理(同法13章)を選択する。

債券格付け会社大手のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の格付け基準は、以下の通り(格付け不能もあるが、実際には依頼を受けていないから格付けしていないだけである)。

AAA:債務を履行する能力は極めて高い。

AA:債務を履行する能力は非常に高く、AAAとの差は小さい。

A:債務を履行する能力は高いが、上位2つの格付けに比べ、事業環境や経済状況の悪化からやや影響を受けやすい。

BBB:債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い。
注)「BB」、「B」、「CCC」、「CC」に格付けされた発行体は投機的要素が強いと見なされる。
この中で「BB」は投機的要素が最も低く、「CC」は投機的要素が最も高いことを示す。
これらの発行体は、ある程度の質と債権者保護の要素を備えている場合もあるが、その効果は、不確実性の大きさや事業環境悪化に対する脆弱さに打ち消されてしまう可能性がある。

BB:より低い格付けの発行体ほど脆弱ではないが、事業環境、財務状況、または経済状況の悪化に対して大きな不確実性、脆弱性を有しており、状況によっては債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある。

B:現時点では債務を履行する能力を有しているが、「BB」に格付けされた発行体よりも脆弱である。
事業環境、財務状況、または経済状況が悪化した場合には債務を履行する能力や意思が損なわれ易い。

CCC:債務者は現時点で脆弱であり、その債務の履行は、良好な事業環境、財務状況、および経済状況に依存している。

CC:債務者は現時点で非常に脆弱である。

注)プラス記号 (+) とマイナス記号 (-) :「AA」から「CCC」までの格付けには、プラス記号またはマイナス記号が付されることがあり、それぞれ、各カテゴリーの中での相対的な強さを表す。

R:財務上の問題が理由で規制当局の監督下に置かれている債務者に付与される。
規制当局の監督下にある間は、当局が特定の種類の債務について他の債務より支払いを優先させる権限を持つことがある。

SDorD:債務の少なくとも一部(格付けの有無を問わない)が予定期日に履行されなかったことを示す。
「D」は、債務者が全面的に債務不履行に陥り、全て、または実質的に全ての債務について期日に支払を行わないとスタンダード&プアーズが判断する場合に付与される。
「SD(Selective Default:選択的債務不履行)」は、債務者がある特定の債務または特定の種類の債務を選択して不履行としたものの、その他の債務については期日通りに支払いを継続するとスタンダード&プアーズが判断する場合に付与される。

N.R.:当該発行体が格付けされていないことを示す。
格付けの依頼がない、格付けを確定するには情報が不十分である、またはスタンダード&プアーズが方針として当該債務に格付けをしない場合の表示。

ハイイールド債は上記のBB以下である。
クレディビリティが低い場合、そのままだとまず買ってもらえないので、金利を上昇させる。
その為、リスクテイカーの需要は高い。
有名なリスクテイカーとしては、ドレクセル・バーナム・ランベール(ハイイールド債で名を馳せたジャンクボンドの帝王(Junk Bond King)ことマイケル・ロバート・ミルケン(Michael Robert Milken)の所属していた民間投資会社。AIGにメンバーを引き抜かれたが、そのAIGもCDS(Credit Default Swap)危機(リーマンショック)により今や形無しである)が挙げられる。

世界的に人気のある主要なハイイールド債は以下の通り(基本的にR&Iファンド分類ではハイイールド債券型(ノーヘッジ)に分類される。無論、基準価格の変動リスクは高く、R&Iリスク分類では5段階中の最高値か次点に位置する(RC5、RC4))。

アムンディ・欧州ハイイールド債券ファンド(トルコ・リラ建て)[アムンディ・ジャパン]
2013.10末時点の純資産額:781億円(前月末比増加率41.51%)

米国ハイイールド債券ファンド(オーストラリア・ドル建て)[みずほ投信投資顧問]
2013.10末時点の純資産額:548億円(前月末比増加率15.31%)

DWS欧州ハイ・イールド債券ファンド(ブラジル・レアル建て)[ドイッチェ・アセット・マネジメント]
2013.10末時点の純資産額:2,046億円(前月末比増加率9.44%)

PIMCO米国ハイイールド債券通貨選択型ファンド(ブラジル・レアル建て)[三井住友トラスト・アセットマネジメント]
2013.10末時点の純資産額:2,057億円(前月末比増加率6.26%)

GSハイ・イールド・ボンド・ファンド(主にUSドル建て)[ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント]
2013.10末時点の純資産額:2,824億円(前月末比増加率4.38%)

フィデリティ・USハイ・イールド・ファンド(主にUSドル建て)[フィデリティ証券]
2013.10末時点の純資産額:1兆457億円(前月末比増加率3.61%)

足元のUSドル建てハイイールド債券の平均的リターン(利回り)は年率6~7%であり、アメリカの10年物長期国債の年率2.6%や日本の同年物国債の0.6%に比べれば、桁違いの利回り差を示している(注)。

注)但し、ノリエリの寄稿論文によれば、信用市場で一部の新興国市場とアメリカ長期国債のスプレッド(利回り差)、ディストレスト債と高格付け社債のスプレッドが縮小しつつあり、これはディストレスト債やハイイールド債、ハイイールド国債の利回りが下がったわけではなく、後者の資産バブルの兆しと言える。
国債市場でのバブルの兆しは、アメリカ・ドイツ・イギリス・日本であるが、これらは持続的なQE(Quantitative Easing、量的緩和)による遠因的な影響である。
金利を非常に長期に渡り極端な低水準に抑えた(勿論、日本である)場合、資産バブルを助長する事になる。
アメリカのサブプライムのバブルは、2000年のITバブルが崩壊しリセッション(景気後退)に突入後、FRB(Federal Reserve Bank, 連邦準備理事会)が政策金利であるFF(Federal Fund)レートを2006年まで1%に据え置いたが、この事実は信用・住宅・サブプライムのバブルの発生のファクターとなる事を示している。

通常有価証券の騰落幅よりハイイールド債券の騰落幅は小さく、前者(日経平均株価)は2013年4月で+12%、2012年5月で-10%と幅が大きいが、バークレイズの集計したUSハイイールド債券の月間収益は3年間のタームで-3%~+6%と安定している。
この騰落幅の狭さから、選択する投資家もいる。

勿論、言うまでもない事だが、ディストレスト債やハイイールド債の発行体は財務基盤が脆弱であり、景気悪化等のファクターが吹き付けた場合、債務不履行のリスクが高まれば、それだけ金利は急上昇する。即ち、既発行された債券の価格は暴落する(回避策として売ろうにも、余程の損覚悟でないと売れなくなってしまう)。
ちなみに、リーマン・ショックの際のUSハイイールド債券の平均価格は4割の下落を起こしている。
基本的には、ハイイールド債券で戦術を組む場合、複数のハイイールド債券に分散投資(円建てとUSドル建てや、ブラジルのレアル建てを複合させ、外為市場で通貨の思わぬ増価が進行しても、リスクヘッジが働く事になる)する投信を購入する事になる。
USハイイールド債券ファンドは、400以上のハイイールド債銘柄に分散投資し、ハイイールド債券発行体企業の連鎖倒産リスクを縮小している。

余談だが、ハイイールド債券とはまた別に、格付けがBBであるものの、ハイイールド債券の利回りに匹敵する金融商品がある。
バンクローン(貸付債権) と呼ばれる、「銀行の企業向け融資」を複数用意し証券化(Securitization)を行い作り出したCLO(Collateralized Loan Obligation、債権のみで構成されリスクに応じて複数の証券に分類する証券化商品)である。

バンクローンとハイイールド債の大きな違いは、前者の金利が変動し、担保を有する点である(後者は固定金利)。
利回りは6.31%、6.65%(どちらも2013年7月時点の数値)と大差はなく、平均格付けもBB、B+と大差はない。

金利が変動する場合、金利上昇による価格下落分を利息収入の増加分が自然とカバーするシステムが働く。
FRBが今後QEの縮小(するとはあまり思えないが)を行い、金融引き締めを行った場合、バンクローンの他債券に対する優位性は強まる事になる。
しかし、問題はバンクローンの規模である。
ハイイールド債券の規模は120兆円であるが、バンクローンの規模は70兆円である。
即ち、流動性が低い事がネックになるわけである。
信用不安が発生した場合、他の債券以上に価格下落が発生するリスクを抱えている事になる。
そして、この小規模市場に大量の資金が流れ、集まってしまった場合、運用に支障を来してしまう可能性もある。
この可能性の現実性を示すのが、現実の運用環境である。
リーマン・ショック以降、金利水準はどの国でも低下した上、円高局面が続き、運用が苦しくなった運用会社は、利率の高いハイイールド債券等のリスクの高い証券に手を出した。
そして、ハイイールド債券に集中した後に、バンクローンに手を出す訳である。
要するに、「船頭多くして船山に登る(Too many cooks apoil the broth, Many dressers put the bride's dress out of order.)」状態になり、それは利回りが追求出来る商品が少なくなり、少ない商品に注目せざるを得ないからである。
ここで、いかに手を引くかが巧いかが、集団で倒れない為の危険回避の巧拙性を物語る事になるだろう。

参考

ヘッジファンド用語集|ヘッジファンドクルーク -HEDGE FUND KLUG-
http://www.hf-klug.jp/hfglossary/line_ta/te/003454.html

イベントドリブンとは 【 EDA 】 【 event driven 】 - 意味-解説-説明-定義 : IT用語辞典
http://e-words.jp/w/E382A4E38399E383B3E38388E38389E383AAE38396E383B3.html

USC Title 11 - BANKRUPTCY U.S. Code LII - Legal Information Institute
http://www.law.cornell.edu/uscode/text/11

S&P 格付け定義等 日本
http://www.standardandpoors.com/ratings/definitions/jp/jp

「M&Iクローズアップ ハイイールド債にマネー流入」(『日本経済新聞』2013年11月13日)

「シリーズ 検証 危機は去ったか リーマンショック5年(2)AIGは一転、公的支援。」(『日本経済新聞』2013年9月8日)

「投信の寵児、語られぬリスク」(『NIKKEI BUSINESS』2013年10月28日)

ノリエリ・ルービニ「寄稿 QEが招く10の問題点」(『NIKKEI BUSINESS』2013年3月11日)




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