アエルとナイスのケース
中堅消費者金融会社のアエル株式会社(旧:日立信販)とグループ会社の株式会社ナイス、酒類ディスカウントストアのサリは、2003年9月30日に、東京地裁に会社更正手続開始の申立てを行った(注AE01)。2003年11月1日に同手続開始決定を受けた。グループ会社への融資を担当していた富士企画、アリスト、六興商事はその後の2004年3月17日に負債が積み重なり連鎖的に倒産している(注AE02)。
2003年10月に米国の投資ファンド・ローンスターグループが会社再建のスポンサーとして名乗りを上げ、2003年11月からローンスターグループ傘下となる。その後、2004年7月12日にナイスを吸収合併して、2005年にはアエル・ナイスの両ブランドをアエルに一本化し、「AEL2010」と称して5ヵ年計画をスタートさせ、全国の店舗数を500店舗にまで増やすことを目指した新たな拡大路線を推進し、2007年8月に更生手続を終結した。それ以前から、2006年12月に成立した改正貸金業法の施行により、融資希望者に対する貸し付け基準の厳格化や、顧客から過払金返還請求訴訟が続き、資金繰りが悪化したことで事業継続が困難となり、2008年3月24日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請(注AE03)し、2008年8月29日を以て全有人店舗が閉鎖された。負債総額は231億円となった。
その後、2004年6月に更生計画が認可され、2007年8月17日付で更生手続を集結した(注AE04)。その内容は、返済率は僅か5%と、債権者にとても厳しい内容であり、債権の一部はJ.P.モルガン信託銀行など第三者に譲渡された後、更に債権回収代行業の間を転々としており、権利関係が複雑化・不可視化していた。現在は過払い金の返還受付のみを行っているが、2012年秋には中間配当を行っていた。しかし、2008年3月24日には再び、民事再生手続開始の申立が為された(注AE05)。
アエルの会社更生手続に係る特徴は、東京地裁に依って、貸金業に係る貸付契約に関する過払い金債権を共益債権として承認することが許可されたことにあった(注AE06)。即ち、会社更生手続開始前に発生していた過払い金について、過払い金請求権者は更生債権の届出期間内に届出をしなかった場合にも更生手続に依らずして請求し、弁済を受けることが可能となった。しかし、アエルは過払い金返還請求が激増したことや、貸金業法改正の影響を理由として、当初の更生計画を履行することが困難となり、更生計画を変更して、更生債権について追加の免除を受けた上で、残債務については一括弁済した(注AE07)。
会社更生申立後、アエルはアメリカの投資ファンドであるローンスターグループの支援下で営業を継続した。しかしアエルは有人店舗の削減(全国に22店舗を当時は残すのみであった。2006年3月31日からの1年間で有人・無人の223店舗を閉鎖していた)、2008年1月24日以降には新規契約の受付が休止される等、経営悪化を示す兆候が顕在化していた。2008年3月27日の債権者説明会に於ける申立代理人に依れば、申立が受理されると伴に、保全処分及び監督命令が発令され、開始決定前の債権は弁済が禁止され、原則として過払い金についても同様に再生債権として届出を必要とし、これ以降に策定する再生計画に従い弁済されるとのことであった。債権者説明会で配布された2007年12月31日付けのバランスシートに係る申立代理人の説明に依れば、「資産の部の営業貸付金」398億円の内300億円は「負債の部の借入金」の譲渡担保に差し入れられ、「投資その他の資産の部の債権流動化出資金」は劣後債権の為、仮に破産しても換価・配当可能な額は僅少となり、一方クライアントに対する貸付は停止しているものの、回収業務だけでも収益があると判断したことから、民事再生手続を選択したとのことであった。しかし、問題なのは民事再生手続開始申立を決定した取締役会決議時に、バランスシートも毎月作成されず、再生の見込みについての具体的な算定もせず、破産時の清算配当率の計算すらしていない、まして申立時に実質債務超過にあったかどうかすら分からないと言う非常に粗末な状態であったことである(注AE08)。
事の始まりは2003年8月下旬、アエルとナイスから、同社の債権者宛てに以下の取引内容の合意を求める通知書が郵送された。消費者金融貸付債権を始めとする営業権を他社に譲渡し、金融機関の資金提供に依り、債権者へ借入金等の債務を返済する。アエルとナイスの営業貸付債権約750億円を新生銀行へ売却し、新生銀行の傘下にある消費者金融業者シンキへ移管、新生銀行又は同行が指定する法人から約700億円の資金提供を受け、既存の借入金を全額期日前返済する。これは一種のソフトランディングを想定していたものであり、法的処理を目的とはしていなかった為、債権者との合意が成立すると考えられていた。しかし、交渉は順調との報告が伝えられることなく、寧ろネガティブな空気が蔓延する中で、真の衝撃は9月30日にやってきた。会社更生法申請である。
アエルの1990年代の急成長を支えたのは金融機関を背景にした豊富な資金力であった。東京相和銀行や東邦生命等の金融機関との親密な関係に依り、当時、多額の不良債権を抱え、低収益に陥っていた為、消費者金融業者への高効率融資に傾注し始めていた東京相和銀行と、拡大路線を進めていたアエルとの利害が一致していたことが主因である。しかし、1999年から一転して縮小傾向、業績悪化が顕著なものとなり、東京相和銀行、東邦生命、なみはや銀行が相次いで破綻した。それに伴い、後に迂回融資に依る自己増資として問題となった第三者割当増資分の東京相和銀行の株式や、東邦生命の社債が不良債権化し、それらの償却に100億円超の巨額の負担を残す結果となった。2002年9月、アエルの株主から「見做し増資」の告発を受けた東京地検特捜部が任意ではあるが資料提供を請求してきた。強制捜査ではないが、検事以下10数名が本社に乗り込む徹底ぶりであった。そもそも、増資が行われたのは2001年9月であったが、アエルの資本金は22億9,000万円から61億7,600万円に膨れ上がった。この増資が「見せ金(Show Money, Montrer l’argent)」とされた。この増資を引き受けたのは、香港にあるアエルの関係会社であるカナータであるが、カナータに資金はなく、そこで外資から資金調達した上での引き受けとなったが、その保証を行ったのが当のアエルとナイスである。まして、外資への返済はアエルがナイスに融資してナイスが行うのであるから、実態としてはアエルの資金が巡り巡っただけである。しかし、この操作が時間を掛けて行われた為に、違法性自体は問われなかったとされる(注AE09)。
そこでアエルとナイスの営業貸付金の買い取りに乗り出したのが新生銀行であった。瑕疵担保条項を2003年3月に失い、新たなビジネスモデルを求めていた新生銀行は、リテール戦略の一環として、傘下の消費者金融会社であるシンキの梃入れを図っており、アエルとナイスの営業貸付金と、債権の証券化に伴う劣後部分を含むABSを750億円で買い取り、その後に両社合わせて378店舗をシンキにて活用しようと考えていた。新生銀行とは2003年7月に合意に達したが、精査した結果、両社の借入金総額が2003年6月末時点で836億円に達していることが判明(注AE10)し、750億円ではとてもではないが借入金を関西出来ないことがここで漸く発覚した。新生銀行の買い取りは厳格化する一方で、担保権を行使し両社のクライアントを譲り受け、回収を自ら行う業者も出現し、債権者の厳しい追及を受けた結果、会社更生法の申請に踏み切る結果となった。
出典:伊藤博敏「旧経営陣の“不透明”は追及されるのか 消費者金融業界に“赤信号”「アエル」倒産の全内幕」(財界展望新社『財界展望』Vol.584(2004.01)所収)P36。
図を見ると、東京相和銀行を継承したローンスターが経営する東京スター銀行が、融資額を絞りつつ第一位となっているものの、次に銀行の名前が出てくるのは第9位の茨城銀行と第10位の三井住友銀行であり、その間を埋めるのは外資系ファンドのポラリス、シティグループのシティファイナンシャル・ジャパン、韓国系ファンドのハンビット、後楽園ファイナンスグループと言った調達コストが高くつくものが揃っていた。従前の様な金融機関がバックに付かない状態では、比較的容易な資金調達は望めなくなり、これ以降の調達は、一旦外銀への協調融資にシフトしていった。ところが外銀にしても、消費者金融業者への出資・融資を積極的に推進していたことへの熱が冷め、出資・融資は先細りしていくことになった。こうした事態を受け、アエルは資産の流動化を図り、子会社のナイスと合わせ、6本のABSを発行したが、破綻やサービサー交代のリスクを見込み、厚めの超過担保を取られていた。
また、2000年6月の改正出資法施行により、上限金利が40.004%から29.2%に引き下げられ、従前の様な厚い利幅を確保することが事実上不可能(闇金融であれば可能と言えば可能だが、逮捕されるリスクと隣合わせとなる)となった。そこで、日本に見切りを付け進出した先が韓国の私債(消費者金融業)市場である。関係会社を通じ「A&Oインターナショナル」等に出資し、傘下に収めていた。元々この頃の韓国の消費者金融の金利は、年利100%は当たり前であったとされる(注AE11)。その2倍どころかそれ以上の高金利を貪っていた(注AE12)この市場は、アエルやナイスにとっては非常に魅力に映ったことだろう。しかし、韓国も日本同様に高金利が社会問題化し、2002年には私債上限金利が70%以内(それでも十分高いとは思うが。尚、現在は39%に落ち着いている(注AE13))に制限する法律が制定された。これに依り、当然ながら韓国での収益も急激に下落し、またしても壁にぶつかっている。こうして2003年の年収入高は約281億8,600万円(ピークは1998年の約611億1,700万円)迄落ち込んだ。そこにABSの早期償還やデリバティブ取引の評価損が拍車を掛け、多額特別損失の計上が影響したことから、最終損失は約34億9,000万円となった(注AE14)。
元々、アジア金融危機の直撃を受けた韓国は1997年にIMFの管理下に入ったが、それを機に欧米を中心とした外資が金融市場を席巻し始めていた。そこで日本の消費者金融のノウハウを持ち込み、高金利かつ高収益を上げたのがアエルであった。まずアエルはA&Oインターナショナルを設立し、このA&Oインターナショナルは設立後韓国最大級の消費者金融に成長した。その後1999年1月にプログレス、2000年11月にハッピーレディ、2001年3月にパートナークレジットを次々と設立し、7社に達した。アエルグループの韓国に於ける総店舗数は96店、取次店が282店あり、従業員総数は1,620名で、営業貸付金残高の総額は9,749億ウォン(当時のレートにして約877億円)に達する韓国最大級の消費者金融グループに成長していた。しかし、韓国の規制が発動してから、アエル系業者は何れも収益を悪化させ、2003年に入ってからA&Oインターナショナルを除く6社が経常損失を計上した。
ここで話は営業権譲渡に戻る。殆どの債権者は合意する腹積もりで出席しており、アエルからも「債権は100%回収が保証されている。原資も明らかにされている。勿論担保も解除される」と文書で聞かされていたことから、債権者会議が始まる前迄は、消極的賛成の空気が蔓延していた。しかし、会議冒頭の意表を付く発言が主催者であるアエル側から飛び出した。突然の条件変更の提示である。ポイントは以下の通り。
理由が明かされない中での条件変更提示であったことから、債権者は一様に困惑し、態度を保留し、会場を後にする債権者が続出した。会社に戻り検討を重ねた結果、反対に回った債権者も多く、債権者全員の合意が前提であったスキームは瞬時にして瓦解した。その後数週間で資金繰りに詰まり破綻へと向かうことになった。弁護士を招き、自主再建の道を模索したが、自社の信用を大幅に失墜させたことに加え、関連会社であるサリの9月末の資金繰りがつかないことが確定的なものとなった。親会社は人情としては支援したいがその余裕がある訳ではなく、サリの支援、そして自主再建をも断念し、2003年9月30日、東京地裁に会社更生法を申請することとなった。
ノンバンク社債発行法の適用下で、アエルとナイスの消費者ローンを裏付資産として発行されたABS(私募案件を含めると6件、総額約670億円)については、委託者兼サービサーの破綻に因り、そうした事態の発生をトリガーとする早期償還条項(原債権からのキャッシュフローをABSの早期の元利金償還の為に最優先で充当すると言う条項)が適用された。
ナイスの消費者向け債権担保ABS
出典:福光寛「新たな段階に入った日本の資産証券化」(成城大学経済学部『成城大學經濟研究』Vol.145(1999.07)所収)P112、表3。
SPC名 発行日 原債権額 発行額 種別
Major AF 1999.02.12 88億円 60億円 Euro
本件ABSに対しては、既に破綻前の2003年8月から9月に、格付機関に依り、本来AAクラスの格付けに対するCWネガティブが発表されていた。消費者金融専業会社を委託者とする消費者ローン債権ABSに対する格付けの多くはAAの格付けが付けられていたが、2000年代の中盤に突入してからは、大手各社の同様の案件を中心に、AAA格を取得した消費者ローン債権ABSも徐々に現れ始めた。但しこの変化について、格付会社に依る明確な説明は為されていない。尚、本件の場合、早期償還の開始及び進捗に伴い、実際に本件ABSの信用補完水準(劣後比率)が上昇し始めたことに依り、格付機関は格付けを据え置いた。
本件の裏付け資産となっていた消費者ローンの場合、リボルビング(一定の融資枠内で何時でも借入或いは返済が可能)方式が採用されていた。この点につき、主に以下の2点の懸念が為されていた。
実務上の一般論として、消費者金融業界の場合、特有的な貸出構造に加え、債務者の属性を背景として、とりわけ中堅クラス以下の消費者金融会社の無担保消費者ローン債権に係る資産流動化及び証券化案件に於いては、委託者兼サービサーの破綻に依り、原債権のパフォーマンス劣化(延滞率及び貸倒率の上昇)が生じやすい傾向は大手に較べれば高くなる。対照的に、消費者向け貸付債権であれども、住宅ローンの場合は一般に債務者が居住する住宅に抵当権が設定される為、委託者のクレディビリティや営業姿勢自体が債務者の返済能力や支払意思に影響を与えにくい。但し、当時の場合中堅クラス以下に於いても、投資家への悪影響を与える度合いは限定的であった。理由としては、原債権の金利が高く(その多くは出資法に基づく上限金利である年29.2%であった。今であれば10万円未満は上限が20%、10万円以上100万円未満は18%、100万円以上は15%の為、限定的なものとして抑制効果がなくなった)、ABSの利率との差(Excess Spread, La Marge Excédentaire)が比較的厚くなっていた段階で、利息収入の一部をABSの元本償還に充当出来た為である。現在はエクセス・スプレッドが少なくとも9.8%、果ては14.2%も下がってしまった為、影響の限定化を図ることは難しくなった。
また、会社更生手続開始申立前に、アエルとナイスがサービサーとして回収した回収金の全額を東京地裁の許可を得た上で、2003年10月7日にABSに関わっているSPCに引き渡していた。これに依り、委託者兼サービサーの破綻時に発生し得るサービサーリスクの内、コミングリングリスクの顕在化を回避することが出来た。そして、ナイスを委託者とするABS案件について、2003年10月7日にサービシング契約が解除されたことに依り、形式的にはトリガー事由の発動に依りバックアップ・サービサーへの交替が行われることとなったが、それにもかかわらず契約関係を無視してナイスがサービシングを継続すると言う異例の事態となっていた。2箇月後の2003年12月10日、ナイスは正式にサービシングの再委託を受け、契約関係が漸く正常化された。
今回のケースの論点として、契約関係が拗れている最中には、『週間東洋経済』や『金融財政事情』の編集部は、「本件をきっかけに、同種のABS全体の発行や格付けに見直しが入る可能性があり、そうなれば、消費者金融だけでなく、信販業界の資金調達にも影響が出る」と言う論や、「今回の事態が、発展途上にある証券化市場に冷や水を浴びせる結果となりかねない」とする論調を示していた(注AE15)。
こうした論調の場合、法的な倒産隔離性の問題と、委託者兼サービサーの破綻時に於ける原債権劣化に対する問題を混同していると考えられる。アエルやナイスの場合、ABSに関わる業種としてそれ自体が特殊性を有しており、議論の一般化には馴染まない部分があった為である(但し、その後に消費者金融会社は月々と倒産しているが、大半はグレーゾーン金利に係るリーガルリスクに因る環境悪化に因り経営破綻を起こしていた)。両者の問題の前提となるリスク自体がそもそも異なっているのであり、前者の場合組成段階から法的構成を確実なものとすること、後者の場合個別案件に於ける原債権や債務者の属性等に応じた適切な信用補完措置及び流動性補完措置を予め講じておくことがリスク対策となる。
アエル 参考文献
「ABSの安全神話崩れる? ノンバンクの調達に波及か」(東洋経済新報社『週間東洋経済』Vol.5854(2003.10.18)所収)
「アエル倒産で露呈したABS市場の欠陥――市場拡大には商品性の情報開示徹底が不可欠――」(金融財政事情研究会『金融財政事情』Vol.2576(2003.11.17)所収)
伊藤博敏「旧経営陣の“不透明”は追及されるのか 消費者金融業界に“赤信号”「アエル」倒産の全内幕」(財界展望新社『財界展望』Vol.584(2004.01)所収)
宇津木靖司「検証 なぜこの会社は倒産したか!?(9)アエル(株) 蜜月関係だった銀行の破綻で細っていった資金のパイプ」(近代セールス社『近代セールス』Vol.951)(2003.12)所収)
小楠展央「司法書士の現代を読み解く講座(第32回) アエル再生申立に対する雑感」(日本司法書士会連合会『月報司法書士』Vol.436)(2008.06)所収)
菅波佳子「アエル民事再生に対する全青司としての取組み」(全国青年司法書士協議会『月報全青司』Vol.337)(2008.05)所収)
アエル 尾注
注AE01:「アエル破たん 債権94億円回収難航も 東京ドーム」(『日本経済新聞』(2003.10.04)13面)、「サリが更生法申請 酒販自由化で競争激化」(『日経流通新聞』(2003.10.02)13面)。
注AE02:「特別清算を申請」(『日本経済新聞』(2004.03.18)15面)。
注AE03:「アエル、民事再生法の適用申請・負債総額231億円」(『日経速報ニュースアーカイブ』(2008.03.24))。
注AE04:小楠展央「司法書士の現代を読み解く講座(第32回) アエル再生申立に対する雑感」(日本司法書士会連合会『月報司法書士』Vol.436)(2008.06)所収)P49。
注AE05:Ibid, P48。
注AE06:Ibid.
注AE07:菅波佳子「アエル民事再生に対する全青司としての取組み」(全国青年司法書士協議会『月報全青司』Vol.337)(2008.05)所収)P2。
注AE08:Ibid.
注AE09:伊藤博敏「旧経営陣の“不透明”は追及されるのか 消費者金融業界に“赤信号”「アエル」倒産の全内幕」(財界展望新社『財界展望』Vol.584(2004.01)所収)P37。
注AE10:Ibid, P38。
注AE11:宇津木靖司「検証 なぜこの会社は倒産したか!?(9)アエル(株) 蜜月関係だった銀行の破綻で細っていった資金のパイプ」(近代セールス社『近代セールス』Vol.951)(2003.12)所収)P103。この頃は、そもそも上限金利が設定されていなかった。2002年で漸く上限金利が設置されたのである(注AE11.01)。2002年以降では、「韓国消費者金融協議会」の調査に依れば、金融機関別の無担保ローンの金利(年率)は、銀行で8~14%、クレジットカード業者で20~28%、割賦金融業者で30~50%、貯蓄銀行で30~60%、貸金業者で40~66%であるとされる(注AE11.02)。尚、一般に一部庶民により利用される闇金融では67~500%である。
注AE11.01:「消費者金融の利子上限を年70%に、法案通過」
http://www.kbn-japan.com/KN020708-01.htm
貸金業利息を年70%以内に制限・・・再び闇市場へ転落の恐れ
「私債(貸金業)利息を年70%以内に制限する内容の「貸付業の登録及び金融利用者保護に関する法律」が7月31日に国会本会議を通過した。この法案に対する国内金融業者と日系貸金業者の反応は大きく異なっている。国内金融業者は調達金利、不良債権比率、事業費用等を勘案した場合、年70%の利息では営業収支が合わない。 これと関連し、韓国消費者金融連合会のヨプ・チョンヨン会長は「最近250の会員会社を相手にアンケート調査を実施した結果、回答の83%が利息率を年70%に制限された場合、貸付業登録を放棄すると答えた」とし、「私債市場が過去のように闇市場に転落する恐れがある」と述べた。また、「貸付業登録を行った後、正常営業を行う業者はデホ、ハッピーローンマート、中央キャピタル等の約50社に過ぎないと把握された」と付け加えた。反面、最高年131%の貸付利息の日系貸金会社は、10月から貸付利息を70%に引き下げると明らかにした。イ・ドクスプログレス社長は「利息率制限により年間約60%の純益減少が予想される」とし、「延滞管理の強化と貸付審査の徹底を通じ、純利益減少を補填する計画」と述べた。これにより、現在年60%水準の貸付商品を販売している貯蓄銀行との熾烈な市場争奪戦が予想される。」(韓国経済新聞:2002年8月1日付)
注AE11.02:堂下浩「韓国消費信用市場に関する資料」(2006.07.14)P4。
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kasikin/siryou/20060727/18-10.pdf
注AE12:呆れることに、2001年時点では1,000%を超えるものがあったと言う。
「SJC広場」
http://www.sjchp.co.kr/square/nakamura/20011217.php
「(前略)先週、朝鮮日報は『日系金融業者の“大胆営業”』と題する記事を掲載し「市中金利が低位安定を維持している状況の中で、日系金融業者は今年6月には年82.8~86.4%だった貸出金利を年97.2~129.6%に大きく引き上げた。国内にはA&Oクレジット、プログレス、ハッピー・レディなど10社余りの日系金融業者がソウルや釜山など全国主要都市に30~40の支店を設置し営業中」と報じた。 IMF危機以降、私債市場が急膨張し年率200~300%は当り前で、中には1000%を超す殺人的な高金利を受け取る私債業者が増大した。政府が今年6月に「上限金利を年60%に制限する」などの内容を盛り込んだ『金融利用者保護法』を国会へ提出したため、各業者とも一時的に貸出金利を引下げた。しかし、国会審議が数ヶ月にわたって中断、上限金利も“年率60%”から“年率90%”へと後退する可能性が出てくると貸出金利を再び引き上げ始めた。(後略)」
注AE13:坂野友昭「韓国の家計貸付市場における貸付金融会社の競争優位」(早稲田商学同攻会『早稲田商学』Vol.430(2012.03)所収)P216。
http://www.waseda.jp/w-com/quotient/publications/pdf/wcom430_01.pdf
注AE14:宇津木・前掲(注AE11)P104。
注AE15:「ABSの安全神話崩れる? ノンバンクの調達に波及か」(東洋経済新報社『週間東洋経済』Vol.5854(2003.10.18)所収)、「アエル倒産で露呈したABS市場の欠陥――市場拡大には商品性の情報開示徹底が不可欠――」(金融財政事情研究会『金融財政事情』Vol.2576(2003.11.17)所収)。
中堅消費者金融会社のアエル株式会社(旧:日立信販)とグループ会社の株式会社ナイス、酒類ディスカウントストアのサリは、2003年9月30日に、東京地裁に会社更正手続開始の申立てを行った(注AE01)。2003年11月1日に同手続開始決定を受けた。グループ会社への融資を担当していた富士企画、アリスト、六興商事はその後の2004年3月17日に負債が積み重なり連鎖的に倒産している(注AE02)。
2003年10月に米国の投資ファンド・ローンスターグループが会社再建のスポンサーとして名乗りを上げ、2003年11月からローンスターグループ傘下となる。その後、2004年7月12日にナイスを吸収合併して、2005年にはアエル・ナイスの両ブランドをアエルに一本化し、「AEL2010」と称して5ヵ年計画をスタートさせ、全国の店舗数を500店舗にまで増やすことを目指した新たな拡大路線を推進し、2007年8月に更生手続を終結した。それ以前から、2006年12月に成立した改正貸金業法の施行により、融資希望者に対する貸し付け基準の厳格化や、顧客から過払金返還請求訴訟が続き、資金繰りが悪化したことで事業継続が困難となり、2008年3月24日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請(注AE03)し、2008年8月29日を以て全有人店舗が閉鎖された。負債総額は231億円となった。
その後、2004年6月に更生計画が認可され、2007年8月17日付で更生手続を集結した(注AE04)。その内容は、返済率は僅か5%と、債権者にとても厳しい内容であり、債権の一部はJ.P.モルガン信託銀行など第三者に譲渡された後、更に債権回収代行業の間を転々としており、権利関係が複雑化・不可視化していた。現在は過払い金の返還受付のみを行っているが、2012年秋には中間配当を行っていた。しかし、2008年3月24日には再び、民事再生手続開始の申立が為された(注AE05)。
アエルの会社更生手続に係る特徴は、東京地裁に依って、貸金業に係る貸付契約に関する過払い金債権を共益債権として承認することが許可されたことにあった(注AE06)。即ち、会社更生手続開始前に発生していた過払い金について、過払い金請求権者は更生債権の届出期間内に届出をしなかった場合にも更生手続に依らずして請求し、弁済を受けることが可能となった。しかし、アエルは過払い金返還請求が激増したことや、貸金業法改正の影響を理由として、当初の更生計画を履行することが困難となり、更生計画を変更して、更生債権について追加の免除を受けた上で、残債務については一括弁済した(注AE07)。
会社更生申立後、アエルはアメリカの投資ファンドであるローンスターグループの支援下で営業を継続した。しかしアエルは有人店舗の削減(全国に22店舗を当時は残すのみであった。2006年3月31日からの1年間で有人・無人の223店舗を閉鎖していた)、2008年1月24日以降には新規契約の受付が休止される等、経営悪化を示す兆候が顕在化していた。2008年3月27日の債権者説明会に於ける申立代理人に依れば、申立が受理されると伴に、保全処分及び監督命令が発令され、開始決定前の債権は弁済が禁止され、原則として過払い金についても同様に再生債権として届出を必要とし、これ以降に策定する再生計画に従い弁済されるとのことであった。債権者説明会で配布された2007年12月31日付けのバランスシートに係る申立代理人の説明に依れば、「資産の部の営業貸付金」398億円の内300億円は「負債の部の借入金」の譲渡担保に差し入れられ、「投資その他の資産の部の債権流動化出資金」は劣後債権の為、仮に破産しても換価・配当可能な額は僅少となり、一方クライアントに対する貸付は停止しているものの、回収業務だけでも収益があると判断したことから、民事再生手続を選択したとのことであった。しかし、問題なのは民事再生手続開始申立を決定した取締役会決議時に、バランスシートも毎月作成されず、再生の見込みについての具体的な算定もせず、破産時の清算配当率の計算すらしていない、まして申立時に実質債務超過にあったかどうかすら分からないと言う非常に粗末な状態であったことである(注AE08)。
事の始まりは2003年8月下旬、アエルとナイスから、同社の債権者宛てに以下の取引内容の合意を求める通知書が郵送された。消費者金融貸付債権を始めとする営業権を他社に譲渡し、金融機関の資金提供に依り、債権者へ借入金等の債務を返済する。アエルとナイスの営業貸付債権約750億円を新生銀行へ売却し、新生銀行の傘下にある消費者金融業者シンキへ移管、新生銀行又は同行が指定する法人から約700億円の資金提供を受け、既存の借入金を全額期日前返済する。これは一種のソフトランディングを想定していたものであり、法的処理を目的とはしていなかった為、債権者との合意が成立すると考えられていた。しかし、交渉は順調との報告が伝えられることなく、寧ろネガティブな空気が蔓延する中で、真の衝撃は9月30日にやってきた。会社更生法申請である。
アエルの1990年代の急成長を支えたのは金融機関を背景にした豊富な資金力であった。東京相和銀行や東邦生命等の金融機関との親密な関係に依り、当時、多額の不良債権を抱え、低収益に陥っていた為、消費者金融業者への高効率融資に傾注し始めていた東京相和銀行と、拡大路線を進めていたアエルとの利害が一致していたことが主因である。しかし、1999年から一転して縮小傾向、業績悪化が顕著なものとなり、東京相和銀行、東邦生命、なみはや銀行が相次いで破綻した。それに伴い、後に迂回融資に依る自己増資として問題となった第三者割当増資分の東京相和銀行の株式や、東邦生命の社債が不良債権化し、それらの償却に100億円超の巨額の負担を残す結果となった。2002年9月、アエルの株主から「見做し増資」の告発を受けた東京地検特捜部が任意ではあるが資料提供を請求してきた。強制捜査ではないが、検事以下10数名が本社に乗り込む徹底ぶりであった。そもそも、増資が行われたのは2001年9月であったが、アエルの資本金は22億9,000万円から61億7,600万円に膨れ上がった。この増資が「見せ金(Show Money, Montrer l’argent)」とされた。この増資を引き受けたのは、香港にあるアエルの関係会社であるカナータであるが、カナータに資金はなく、そこで外資から資金調達した上での引き受けとなったが、その保証を行ったのが当のアエルとナイスである。まして、外資への返済はアエルがナイスに融資してナイスが行うのであるから、実態としてはアエルの資金が巡り巡っただけである。しかし、この操作が時間を掛けて行われた為に、違法性自体は問われなかったとされる(注AE09)。
そこでアエルとナイスの営業貸付金の買い取りに乗り出したのが新生銀行であった。瑕疵担保条項を2003年3月に失い、新たなビジネスモデルを求めていた新生銀行は、リテール戦略の一環として、傘下の消費者金融会社であるシンキの梃入れを図っており、アエルとナイスの営業貸付金と、債権の証券化に伴う劣後部分を含むABSを750億円で買い取り、その後に両社合わせて378店舗をシンキにて活用しようと考えていた。新生銀行とは2003年7月に合意に達したが、精査した結果、両社の借入金総額が2003年6月末時点で836億円に達していることが判明(注AE10)し、750億円ではとてもではないが借入金を関西出来ないことがここで漸く発覚した。新生銀行の買い取りは厳格化する一方で、担保権を行使し両社のクライアントを譲り受け、回収を自ら行う業者も出現し、債権者の厳しい追及を受けた結果、会社更生法の申請に踏み切る結果となった。
出典:伊藤博敏「旧経営陣の“不透明”は追及されるのか 消費者金融業界に“赤信号”「アエル」倒産の全内幕」(財界展望新社『財界展望』Vol.584(2004.01)所収)P36。
図を見ると、東京相和銀行を継承したローンスターが経営する東京スター銀行が、融資額を絞りつつ第一位となっているものの、次に銀行の名前が出てくるのは第9位の茨城銀行と第10位の三井住友銀行であり、その間を埋めるのは外資系ファンドのポラリス、シティグループのシティファイナンシャル・ジャパン、韓国系ファンドのハンビット、後楽園ファイナンスグループと言った調達コストが高くつくものが揃っていた。従前の様な金融機関がバックに付かない状態では、比較的容易な資金調達は望めなくなり、これ以降の調達は、一旦外銀への協調融資にシフトしていった。ところが外銀にしても、消費者金融業者への出資・融資を積極的に推進していたことへの熱が冷め、出資・融資は先細りしていくことになった。こうした事態を受け、アエルは資産の流動化を図り、子会社のナイスと合わせ、6本のABSを発行したが、破綻やサービサー交代のリスクを見込み、厚めの超過担保を取られていた。
また、2000年6月の改正出資法施行により、上限金利が40.004%から29.2%に引き下げられ、従前の様な厚い利幅を確保することが事実上不可能(闇金融であれば可能と言えば可能だが、逮捕されるリスクと隣合わせとなる)となった。そこで、日本に見切りを付け進出した先が韓国の私債(消費者金融業)市場である。関係会社を通じ「A&Oインターナショナル」等に出資し、傘下に収めていた。元々この頃の韓国の消費者金融の金利は、年利100%は当たり前であったとされる(注AE11)。その2倍どころかそれ以上の高金利を貪っていた(注AE12)この市場は、アエルやナイスにとっては非常に魅力に映ったことだろう。しかし、韓国も日本同様に高金利が社会問題化し、2002年には私債上限金利が70%以内(それでも十分高いとは思うが。尚、現在は39%に落ち着いている(注AE13))に制限する法律が制定された。これに依り、当然ながら韓国での収益も急激に下落し、またしても壁にぶつかっている。こうして2003年の年収入高は約281億8,600万円(ピークは1998年の約611億1,700万円)迄落ち込んだ。そこにABSの早期償還やデリバティブ取引の評価損が拍車を掛け、多額特別損失の計上が影響したことから、最終損失は約34億9,000万円となった(注AE14)。
元々、アジア金融危機の直撃を受けた韓国は1997年にIMFの管理下に入ったが、それを機に欧米を中心とした外資が金融市場を席巻し始めていた。そこで日本の消費者金融のノウハウを持ち込み、高金利かつ高収益を上げたのがアエルであった。まずアエルはA&Oインターナショナルを設立し、このA&Oインターナショナルは設立後韓国最大級の消費者金融に成長した。その後1999年1月にプログレス、2000年11月にハッピーレディ、2001年3月にパートナークレジットを次々と設立し、7社に達した。アエルグループの韓国に於ける総店舗数は96店、取次店が282店あり、従業員総数は1,620名で、営業貸付金残高の総額は9,749億ウォン(当時のレートにして約877億円)に達する韓国最大級の消費者金融グループに成長していた。しかし、韓国の規制が発動してから、アエル系業者は何れも収益を悪化させ、2003年に入ってからA&Oインターナショナルを除く6社が経常損失を計上した。
ここで話は営業権譲渡に戻る。殆どの債権者は合意する腹積もりで出席しており、アエルからも「債権は100%回収が保証されている。原資も明らかにされている。勿論担保も解除される」と文書で聞かされていたことから、債権者会議が始まる前迄は、消極的賛成の空気が蔓延していた。しかし、会議冒頭の意表を付く発言が主催者であるアエル側から飛び出した。突然の条件変更の提示である。ポイントは以下の通り。
理由が明かされない中での条件変更提示であったことから、債権者は一様に困惑し、態度を保留し、会場を後にする債権者が続出した。会社に戻り検討を重ねた結果、反対に回った債権者も多く、債権者全員の合意が前提であったスキームは瞬時にして瓦解した。その後数週間で資金繰りに詰まり破綻へと向かうことになった。弁護士を招き、自主再建の道を模索したが、自社の信用を大幅に失墜させたことに加え、関連会社であるサリの9月末の資金繰りがつかないことが確定的なものとなった。親会社は人情としては支援したいがその余裕がある訳ではなく、サリの支援、そして自主再建をも断念し、2003年9月30日、東京地裁に会社更生法を申請することとなった。
ノンバンク社債発行法の適用下で、アエルとナイスの消費者ローンを裏付資産として発行されたABS(私募案件を含めると6件、総額約670億円)については、委託者兼サービサーの破綻に因り、そうした事態の発生をトリガーとする早期償還条項(原債権からのキャッシュフローをABSの早期の元利金償還の為に最優先で充当すると言う条項)が適用された。
ナイスの消費者向け債権担保ABS
出典:福光寛「新たな段階に入った日本の資産証券化」(成城大学経済学部『成城大學經濟研究』Vol.145(1999.07)所収)P112、表3。
SPC名 発行日 原債権額 発行額 種別
Major AF 1999.02.12 88億円 60億円 Euro
本件ABSに対しては、既に破綻前の2003年8月から9月に、格付機関に依り、本来AAクラスの格付けに対するCWネガティブが発表されていた。消費者金融専業会社を委託者とする消費者ローン債権ABSに対する格付けの多くはAAの格付けが付けられていたが、2000年代の中盤に突入してからは、大手各社の同様の案件を中心に、AAA格を取得した消費者ローン債権ABSも徐々に現れ始めた。但しこの変化について、格付会社に依る明確な説明は為されていない。尚、本件の場合、早期償還の開始及び進捗に伴い、実際に本件ABSの信用補完水準(劣後比率)が上昇し始めたことに依り、格付機関は格付けを据え置いた。
本件の裏付け資産となっていた消費者ローンの場合、リボルビング(一定の融資枠内で何時でも借入或いは返済が可能)方式が採用されていた。この点につき、主に以下の2点の懸念が為されていた。
実務上の一般論として、消費者金融業界の場合、特有的な貸出構造に加え、債務者の属性を背景として、とりわけ中堅クラス以下の消費者金融会社の無担保消費者ローン債権に係る資産流動化及び証券化案件に於いては、委託者兼サービサーの破綻に依り、原債権のパフォーマンス劣化(延滞率及び貸倒率の上昇)が生じやすい傾向は大手に較べれば高くなる。対照的に、消費者向け貸付債権であれども、住宅ローンの場合は一般に債務者が居住する住宅に抵当権が設定される為、委託者のクレディビリティや営業姿勢自体が債務者の返済能力や支払意思に影響を与えにくい。但し、当時の場合中堅クラス以下に於いても、投資家への悪影響を与える度合いは限定的であった。理由としては、原債権の金利が高く(その多くは出資法に基づく上限金利である年29.2%であった。今であれば10万円未満は上限が20%、10万円以上100万円未満は18%、100万円以上は15%の為、限定的なものとして抑制効果がなくなった)、ABSの利率との差(Excess Spread, La Marge Excédentaire)が比較的厚くなっていた段階で、利息収入の一部をABSの元本償還に充当出来た為である。現在はエクセス・スプレッドが少なくとも9.8%、果ては14.2%も下がってしまった為、影響の限定化を図ることは難しくなった。
また、会社更生手続開始申立前に、アエルとナイスがサービサーとして回収した回収金の全額を東京地裁の許可を得た上で、2003年10月7日にABSに関わっているSPCに引き渡していた。これに依り、委託者兼サービサーの破綻時に発生し得るサービサーリスクの内、コミングリングリスクの顕在化を回避することが出来た。そして、ナイスを委託者とするABS案件について、2003年10月7日にサービシング契約が解除されたことに依り、形式的にはトリガー事由の発動に依りバックアップ・サービサーへの交替が行われることとなったが、それにもかかわらず契約関係を無視してナイスがサービシングを継続すると言う異例の事態となっていた。2箇月後の2003年12月10日、ナイスは正式にサービシングの再委託を受け、契約関係が漸く正常化された。
今回のケースの論点として、契約関係が拗れている最中には、『週間東洋経済』や『金融財政事情』の編集部は、「本件をきっかけに、同種のABS全体の発行や格付けに見直しが入る可能性があり、そうなれば、消費者金融だけでなく、信販業界の資金調達にも影響が出る」と言う論や、「今回の事態が、発展途上にある証券化市場に冷や水を浴びせる結果となりかねない」とする論調を示していた(注AE15)。
こうした論調の場合、法的な倒産隔離性の問題と、委託者兼サービサーの破綻時に於ける原債権劣化に対する問題を混同していると考えられる。アエルやナイスの場合、ABSに関わる業種としてそれ自体が特殊性を有しており、議論の一般化には馴染まない部分があった為である(但し、その後に消費者金融会社は月々と倒産しているが、大半はグレーゾーン金利に係るリーガルリスクに因る環境悪化に因り経営破綻を起こしていた)。両者の問題の前提となるリスク自体がそもそも異なっているのであり、前者の場合組成段階から法的構成を確実なものとすること、後者の場合個別案件に於ける原債権や債務者の属性等に応じた適切な信用補完措置及び流動性補完措置を予め講じておくことがリスク対策となる。
アエル 参考文献
「ABSの安全神話崩れる? ノンバンクの調達に波及か」(東洋経済新報社『週間東洋経済』Vol.5854(2003.10.18)所収)
「アエル倒産で露呈したABS市場の欠陥――市場拡大には商品性の情報開示徹底が不可欠――」(金融財政事情研究会『金融財政事情』Vol.2576(2003.11.17)所収)
伊藤博敏「旧経営陣の“不透明”は追及されるのか 消費者金融業界に“赤信号”「アエル」倒産の全内幕」(財界展望新社『財界展望』Vol.584(2004.01)所収)
宇津木靖司「検証 なぜこの会社は倒産したか!?(9)アエル(株) 蜜月関係だった銀行の破綻で細っていった資金のパイプ」(近代セールス社『近代セールス』Vol.951)(2003.12)所収)
小楠展央「司法書士の現代を読み解く講座(第32回) アエル再生申立に対する雑感」(日本司法書士会連合会『月報司法書士』Vol.436)(2008.06)所収)
菅波佳子「アエル民事再生に対する全青司としての取組み」(全国青年司法書士協議会『月報全青司』Vol.337)(2008.05)所収)
アエル 尾注
注AE01:「アエル破たん 債権94億円回収難航も 東京ドーム」(『日本経済新聞』(2003.10.04)13面)、「サリが更生法申請 酒販自由化で競争激化」(『日経流通新聞』(2003.10.02)13面)。
注AE02:「特別清算を申請」(『日本経済新聞』(2004.03.18)15面)。
注AE03:「アエル、民事再生法の適用申請・負債総額231億円」(『日経速報ニュースアーカイブ』(2008.03.24))。
注AE04:小楠展央「司法書士の現代を読み解く講座(第32回) アエル再生申立に対する雑感」(日本司法書士会連合会『月報司法書士』Vol.436)(2008.06)所収)P49。
注AE05:Ibid, P48。
注AE06:Ibid.
注AE07:菅波佳子「アエル民事再生に対する全青司としての取組み」(全国青年司法書士協議会『月報全青司』Vol.337)(2008.05)所収)P2。
注AE08:Ibid.
注AE09:伊藤博敏「旧経営陣の“不透明”は追及されるのか 消費者金融業界に“赤信号”「アエル」倒産の全内幕」(財界展望新社『財界展望』Vol.584(2004.01)所収)P37。
注AE10:Ibid, P38。
注AE11:宇津木靖司「検証 なぜこの会社は倒産したか!?(9)アエル(株) 蜜月関係だった銀行の破綻で細っていった資金のパイプ」(近代セールス社『近代セールス』Vol.951)(2003.12)所収)P103。この頃は、そもそも上限金利が設定されていなかった。2002年で漸く上限金利が設置されたのである(注AE11.01)。2002年以降では、「韓国消費者金融協議会」の調査に依れば、金融機関別の無担保ローンの金利(年率)は、銀行で8~14%、クレジットカード業者で20~28%、割賦金融業者で30~50%、貯蓄銀行で30~60%、貸金業者で40~66%であるとされる(注AE11.02)。尚、一般に一部庶民により利用される闇金融では67~500%である。
注AE11.01:「消費者金融の利子上限を年70%に、法案通過」
http://www.kbn-japan.com/KN020708-01.htm
貸金業利息を年70%以内に制限・・・再び闇市場へ転落の恐れ
「私債(貸金業)利息を年70%以内に制限する内容の「貸付業の登録及び金融利用者保護に関する法律」が7月31日に国会本会議を通過した。この法案に対する国内金融業者と日系貸金業者の反応は大きく異なっている。国内金融業者は調達金利、不良債権比率、事業費用等を勘案した場合、年70%の利息では営業収支が合わない。 これと関連し、韓国消費者金融連合会のヨプ・チョンヨン会長は「最近250の会員会社を相手にアンケート調査を実施した結果、回答の83%が利息率を年70%に制限された場合、貸付業登録を放棄すると答えた」とし、「私債市場が過去のように闇市場に転落する恐れがある」と述べた。また、「貸付業登録を行った後、正常営業を行う業者はデホ、ハッピーローンマート、中央キャピタル等の約50社に過ぎないと把握された」と付け加えた。反面、最高年131%の貸付利息の日系貸金会社は、10月から貸付利息を70%に引き下げると明らかにした。イ・ドクスプログレス社長は「利息率制限により年間約60%の純益減少が予想される」とし、「延滞管理の強化と貸付審査の徹底を通じ、純利益減少を補填する計画」と述べた。これにより、現在年60%水準の貸付商品を販売している貯蓄銀行との熾烈な市場争奪戦が予想される。」(韓国経済新聞:2002年8月1日付)
注AE11.02:堂下浩「韓国消費信用市場に関する資料」(2006.07.14)P4。
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kasikin/siryou/20060727/18-10.pdf
注AE12:呆れることに、2001年時点では1,000%を超えるものがあったと言う。
「SJC広場」
http://www.sjchp.co.kr/square/nakamura/20011217.php
「(前略)先週、朝鮮日報は『日系金融業者の“大胆営業”』と題する記事を掲載し「市中金利が低位安定を維持している状況の中で、日系金融業者は今年6月には年82.8~86.4%だった貸出金利を年97.2~129.6%に大きく引き上げた。国内にはA&Oクレジット、プログレス、ハッピー・レディなど10社余りの日系金融業者がソウルや釜山など全国主要都市に30~40の支店を設置し営業中」と報じた。 IMF危機以降、私債市場が急膨張し年率200~300%は当り前で、中には1000%を超す殺人的な高金利を受け取る私債業者が増大した。政府が今年6月に「上限金利を年60%に制限する」などの内容を盛り込んだ『金融利用者保護法』を国会へ提出したため、各業者とも一時的に貸出金利を引下げた。しかし、国会審議が数ヶ月にわたって中断、上限金利も“年率60%”から“年率90%”へと後退する可能性が出てくると貸出金利を再び引き上げ始めた。(後略)」
注AE13:坂野友昭「韓国の家計貸付市場における貸付金融会社の競争優位」(早稲田商学同攻会『早稲田商学』Vol.430(2012.03)所収)P216。
http://www.waseda.jp/w-com/quotient/publications/pdf/wcom430_01.pdf
注AE14:宇津木・前掲(注AE11)P104。
注AE15:「ABSの安全神話崩れる? ノンバンクの調達に波及か」(東洋経済新報社『週間東洋経済』Vol.5854(2003.10.18)所収)、「アエル倒産で露呈したABS市場の欠陥――市場拡大には商品性の情報開示徹底が不可欠――」(金融財政事情研究会『金融財政事情』Vol.2576(2003.11.17)所収)。