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資料室B3F

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の移籍版。

(画像抜き版)アエルとナイスのケース

2014-11-16 13:20:32 | CMBS論集用小ネタ
アエルとナイスのケース

中堅消費者金融会社のアエル株式会社(旧:日立信販)とグループ会社の株式会社ナイス、酒類ディスカウントストアのサリは、2003年9月30日に、東京地裁に会社更正手続開始の申立てを行った(注AE01)。2003年11月1日に同手続開始決定を受けた。グループ会社への融資を担当していた富士企画、アリスト、六興商事はその後の2004年3月17日に負債が積み重なり連鎖的に倒産している(注AE02)。
2003年10月に米国の投資ファンド・ローンスターグループが会社再建のスポンサーとして名乗りを上げ、2003年11月からローンスターグループ傘下となる。その後、2004年7月12日にナイスを吸収合併して、2005年にはアエル・ナイスの両ブランドをアエルに一本化し、「AEL2010」と称して5ヵ年計画をスタートさせ、全国の店舗数を500店舗にまで増やすことを目指した新たな拡大路線を推進し、2007年8月に更生手続を終結した。それ以前から、2006年12月に成立した改正貸金業法の施行により、融資希望者に対する貸し付け基準の厳格化や、顧客から過払金返還請求訴訟が続き、資金繰りが悪化したことで事業継続が困難となり、2008年3月24日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請(注AE03)し、2008年8月29日を以て全有人店舗が閉鎖された。負債総額は231億円となった。
その後、2004年6月に更生計画が認可され、2007年8月17日付で更生手続を集結した(注AE04)。その内容は、返済率は僅か5%と、債権者にとても厳しい内容であり、債権の一部はJ.P.モルガン信託銀行など第三者に譲渡された後、更に債権回収代行業の間を転々としており、権利関係が複雑化・不可視化していた。現在は過払い金の返還受付のみを行っているが、2012年秋には中間配当を行っていた。しかし、2008年3月24日には再び、民事再生手続開始の申立が為された(注AE05)。
アエルの会社更生手続に係る特徴は、東京地裁に依って、貸金業に係る貸付契約に関する過払い金債権を共益債権として承認することが許可されたことにあった(注AE06)。即ち、会社更生手続開始前に発生していた過払い金について、過払い金請求権者は更生債権の届出期間内に届出をしなかった場合にも更生手続に依らずして請求し、弁済を受けることが可能となった。しかし、アエルは過払い金返還請求が激増したことや、貸金業法改正の影響を理由として、当初の更生計画を履行することが困難となり、更生計画を変更して、更生債権について追加の免除を受けた上で、残債務については一括弁済した(注AE07)。
会社更生申立後、アエルはアメリカの投資ファンドであるローンスターグループの支援下で営業を継続した。しかしアエルは有人店舗の削減(全国に22店舗を当時は残すのみであった。2006年3月31日からの1年間で有人・無人の223店舗を閉鎖していた)、2008年1月24日以降には新規契約の受付が休止される等、経営悪化を示す兆候が顕在化していた。2008年3月27日の債権者説明会に於ける申立代理人に依れば、申立が受理されると伴に、保全処分及び監督命令が発令され、開始決定前の債権は弁済が禁止され、原則として過払い金についても同様に再生債権として届出を必要とし、これ以降に策定する再生計画に従い弁済されるとのことであった。債権者説明会で配布された2007年12月31日付けのバランスシートに係る申立代理人の説明に依れば、「資産の部の営業貸付金」398億円の内300億円は「負債の部の借入金」の譲渡担保に差し入れられ、「投資その他の資産の部の債権流動化出資金」は劣後債権の為、仮に破産しても換価・配当可能な額は僅少となり、一方クライアントに対する貸付は停止しているものの、回収業務だけでも収益があると判断したことから、民事再生手続を選択したとのことであった。しかし、問題なのは民事再生手続開始申立を決定した取締役会決議時に、バランスシートも毎月作成されず、再生の見込みについての具体的な算定もせず、破産時の清算配当率の計算すらしていない、まして申立時に実質債務超過にあったかどうかすら分からないと言う非常に粗末な状態であったことである(注AE08)。
事の始まりは2003年8月下旬、アエルとナイスから、同社の債権者宛てに以下の取引内容の合意を求める通知書が郵送された。消費者金融貸付債権を始めとする営業権を他社に譲渡し、金融機関の資金提供に依り、債権者へ借入金等の債務を返済する。アエルとナイスの営業貸付債権約750億円を新生銀行へ売却し、新生銀行の傘下にある消費者金融業者シンキへ移管、新生銀行又は同行が指定する法人から約700億円の資金提供を受け、既存の借入金を全額期日前返済する。これは一種のソフトランディングを想定していたものであり、法的処理を目的とはしていなかった為、債権者との合意が成立すると考えられていた。しかし、交渉は順調との報告が伝えられることなく、寧ろネガティブな空気が蔓延する中で、真の衝撃は9月30日にやってきた。会社更生法申請である。
アエルの1990年代の急成長を支えたのは金融機関を背景にした豊富な資金力であった。東京相和銀行や東邦生命等の金融機関との親密な関係に依り、当時、多額の不良債権を抱え、低収益に陥っていた為、消費者金融業者への高効率融資に傾注し始めていた東京相和銀行と、拡大路線を進めていたアエルとの利害が一致していたことが主因である。しかし、1999年から一転して縮小傾向、業績悪化が顕著なものとなり、東京相和銀行、東邦生命、なみはや銀行が相次いで破綻した。それに伴い、後に迂回融資に依る自己増資として問題となった第三者割当増資分の東京相和銀行の株式や、東邦生命の社債が不良債権化し、それらの償却に100億円超の巨額の負担を残す結果となった。2002年9月、アエルの株主から「見做し増資」の告発を受けた東京地検特捜部が任意ではあるが資料提供を請求してきた。強制捜査ではないが、検事以下10数名が本社に乗り込む徹底ぶりであった。そもそも、増資が行われたのは2001年9月であったが、アエルの資本金は22億9,000万円から61億7,600万円に膨れ上がった。この増資が「見せ金(Show Money, Montrer l’argent)」とされた。この増資を引き受けたのは、香港にあるアエルの関係会社であるカナータであるが、カナータに資金はなく、そこで外資から資金調達した上での引き受けとなったが、その保証を行ったのが当のアエルとナイスである。まして、外資への返済はアエルがナイスに融資してナイスが行うのであるから、実態としてはアエルの資金が巡り巡っただけである。しかし、この操作が時間を掛けて行われた為に、違法性自体は問われなかったとされる(注AE09)。
そこでアエルとナイスの営業貸付金の買い取りに乗り出したのが新生銀行であった。瑕疵担保条項を2003年3月に失い、新たなビジネスモデルを求めていた新生銀行は、リテール戦略の一環として、傘下の消費者金融会社であるシンキの梃入れを図っており、アエルとナイスの営業貸付金と、債権の証券化に伴う劣後部分を含むABSを750億円で買い取り、その後に両社合わせて378店舗をシンキにて活用しようと考えていた。新生銀行とは2003年7月に合意に達したが、精査した結果、両社の借入金総額が2003年6月末時点で836億円に達していることが判明(注AE10)し、750億円ではとてもではないが借入金を関西出来ないことがここで漸く発覚した。新生銀行の買い取りは厳格化する一方で、担保権を行使し両社のクライアントを譲り受け、回収を自ら行う業者も出現し、債権者の厳しい追及を受けた結果、会社更生法の申請に踏み切る結果となった。



出典:伊藤博敏「旧経営陣の“不透明”は追及されるのか 消費者金融業界に“赤信号”「アエル」倒産の全内幕」(財界展望新社『財界展望』Vol.584(2004.01)所収)P36。

図を見ると、東京相和銀行を継承したローンスターが経営する東京スター銀行が、融資額を絞りつつ第一位となっているものの、次に銀行の名前が出てくるのは第9位の茨城銀行と第10位の三井住友銀行であり、その間を埋めるのは外資系ファンドのポラリス、シティグループのシティファイナンシャル・ジャパン、韓国系ファンドのハンビット、後楽園ファイナンスグループと言った調達コストが高くつくものが揃っていた。従前の様な金融機関がバックに付かない状態では、比較的容易な資金調達は望めなくなり、これ以降の調達は、一旦外銀への協調融資にシフトしていった。ところが外銀にしても、消費者金融業者への出資・融資を積極的に推進していたことへの熱が冷め、出資・融資は先細りしていくことになった。こうした事態を受け、アエルは資産の流動化を図り、子会社のナイスと合わせ、6本のABSを発行したが、破綻やサービサー交代のリスクを見込み、厚めの超過担保を取られていた。
また、2000年6月の改正出資法施行により、上限金利が40.004%から29.2%に引き下げられ、従前の様な厚い利幅を確保することが事実上不可能(闇金融であれば可能と言えば可能だが、逮捕されるリスクと隣合わせとなる)となった。そこで、日本に見切りを付け進出した先が韓国の私債(消費者金融業)市場である。関係会社を通じ「A&Oインターナショナル」等に出資し、傘下に収めていた。元々この頃の韓国の消費者金融の金利は、年利100%は当たり前であったとされる(注AE11)。その2倍どころかそれ以上の高金利を貪っていた(注AE12)この市場は、アエルやナイスにとっては非常に魅力に映ったことだろう。しかし、韓国も日本同様に高金利が社会問題化し、2002年には私債上限金利が70%以内(それでも十分高いとは思うが。尚、現在は39%に落ち着いている(注AE13))に制限する法律が制定された。これに依り、当然ながら韓国での収益も急激に下落し、またしても壁にぶつかっている。こうして2003年の年収入高は約281億8,600万円(ピークは1998年の約611億1,700万円)迄落ち込んだ。そこにABSの早期償還やデリバティブ取引の評価損が拍車を掛け、多額特別損失の計上が影響したことから、最終損失は約34億9,000万円となった(注AE14)。
元々、アジア金融危機の直撃を受けた韓国は1997年にIMFの管理下に入ったが、それを機に欧米を中心とした外資が金融市場を席巻し始めていた。そこで日本の消費者金融のノウハウを持ち込み、高金利かつ高収益を上げたのがアエルであった。まずアエルはA&Oインターナショナルを設立し、このA&Oインターナショナルは設立後韓国最大級の消費者金融に成長した。その後1999年1月にプログレス、2000年11月にハッピーレディ、2001年3月にパートナークレジットを次々と設立し、7社に達した。アエルグループの韓国に於ける総店舗数は96店、取次店が282店あり、従業員総数は1,620名で、営業貸付金残高の総額は9,749億ウォン(当時のレートにして約877億円)に達する韓国最大級の消費者金融グループに成長していた。しかし、韓国の規制が発動してから、アエル系業者は何れも収益を悪化させ、2003年に入ってからA&Oインターナショナルを除く6社が経常損失を計上した。
ここで話は営業権譲渡に戻る。殆どの債権者は合意する腹積もりで出席しており、アエルからも「債権は100%回収が保証されている。原資も明らかにされている。勿論担保も解除される」と文書で聞かされていたことから、債権者会議が始まる前迄は、消極的賛成の空気が蔓延していた。しかし、会議冒頭の意表を付く発言が主催者であるアエル側から飛び出した。突然の条件変更の提示である。ポイントは以下の通り。



理由が明かされない中での条件変更提示であったことから、債権者は一様に困惑し、態度を保留し、会場を後にする債権者が続出した。会社に戻り検討を重ねた結果、反対に回った債権者も多く、債権者全員の合意が前提であったスキームは瞬時にして瓦解した。その後数週間で資金繰りに詰まり破綻へと向かうことになった。弁護士を招き、自主再建の道を模索したが、自社の信用を大幅に失墜させたことに加え、関連会社であるサリの9月末の資金繰りがつかないことが確定的なものとなった。親会社は人情としては支援したいがその余裕がある訳ではなく、サリの支援、そして自主再建をも断念し、2003年9月30日、東京地裁に会社更生法を申請することとなった。
ノンバンク社債発行法の適用下で、アエルとナイスの消費者ローンを裏付資産として発行されたABS(私募案件を含めると6件、総額約670億円)については、委託者兼サービサーの破綻に因り、そうした事態の発生をトリガーとする早期償還条項(原債権からのキャッシュフローをABSの早期の元利金償還の為に最優先で充当すると言う条項)が適用された。

ナイスの消費者向け債権担保ABS
出典:福光寛「新たな段階に入った日本の資産証券化」(成城大学経済学部『成城大學經濟研究』Vol.145(1999.07)所収)P112、表3。
SPC名 発行日 原債権額 発行額 種別
Major AF 1999.02.12 88億円 60億円 Euro

本件ABSに対しては、既に破綻前の2003年8月から9月に、格付機関に依り、本来AAクラスの格付けに対するCWネガティブが発表されていた。消費者金融専業会社を委託者とする消費者ローン債権ABSに対する格付けの多くはAAの格付けが付けられていたが、2000年代の中盤に突入してからは、大手各社の同様の案件を中心に、AAA格を取得した消費者ローン債権ABSも徐々に現れ始めた。但しこの変化について、格付会社に依る明確な説明は為されていない。尚、本件の場合、早期償還の開始及び進捗に伴い、実際に本件ABSの信用補完水準(劣後比率)が上昇し始めたことに依り、格付機関は格付けを据え置いた。
本件の裏付け資産となっていた消費者ローンの場合、リボルビング(一定の融資枠内で何時でも借入或いは返済が可能)方式が採用されていた。この点につき、主に以下の2点の懸念が為されていた。



実務上の一般論として、消費者金融業界の場合、特有的な貸出構造に加え、債務者の属性を背景として、とりわけ中堅クラス以下の消費者金融会社の無担保消費者ローン債権に係る資産流動化及び証券化案件に於いては、委託者兼サービサーの破綻に依り、原債権のパフォーマンス劣化(延滞率及び貸倒率の上昇)が生じやすい傾向は大手に較べれば高くなる。対照的に、消費者向け貸付債権であれども、住宅ローンの場合は一般に債務者が居住する住宅に抵当権が設定される為、委託者のクレディビリティや営業姿勢自体が債務者の返済能力や支払意思に影響を与えにくい。但し、当時の場合中堅クラス以下に於いても、投資家への悪影響を与える度合いは限定的であった。理由としては、原債権の金利が高く(その多くは出資法に基づく上限金利である年29.2%であった。今であれば10万円未満は上限が20%、10万円以上100万円未満は18%、100万円以上は15%の為、限定的なものとして抑制効果がなくなった)、ABSの利率との差(Excess Spread, La Marge Excédentaire)が比較的厚くなっていた段階で、利息収入の一部をABSの元本償還に充当出来た為である。現在はエクセス・スプレッドが少なくとも9.8%、果ては14.2%も下がってしまった為、影響の限定化を図ることは難しくなった。
また、会社更生手続開始申立前に、アエルとナイスがサービサーとして回収した回収金の全額を東京地裁の許可を得た上で、2003年10月7日にABSに関わっているSPCに引き渡していた。これに依り、委託者兼サービサーの破綻時に発生し得るサービサーリスクの内、コミングリングリスクの顕在化を回避することが出来た。そして、ナイスを委託者とするABS案件について、2003年10月7日にサービシング契約が解除されたことに依り、形式的にはトリガー事由の発動に依りバックアップ・サービサーへの交替が行われることとなったが、それにもかかわらず契約関係を無視してナイスがサービシングを継続すると言う異例の事態となっていた。2箇月後の2003年12月10日、ナイスは正式にサービシングの再委託を受け、契約関係が漸く正常化された。
今回のケースの論点として、契約関係が拗れている最中には、『週間東洋経済』や『金融財政事情』の編集部は、「本件をきっかけに、同種のABS全体の発行や格付けに見直しが入る可能性があり、そうなれば、消費者金融だけでなく、信販業界の資金調達にも影響が出る」と言う論や、「今回の事態が、発展途上にある証券化市場に冷や水を浴びせる結果となりかねない」とする論調を示していた(注AE15)。
こうした論調の場合、法的な倒産隔離性の問題と、委託者兼サービサーの破綻時に於ける原債権劣化に対する問題を混同していると考えられる。アエルやナイスの場合、ABSに関わる業種としてそれ自体が特殊性を有しており、議論の一般化には馴染まない部分があった為である(但し、その後に消費者金融会社は月々と倒産しているが、大半はグレーゾーン金利に係るリーガルリスクに因る環境悪化に因り経営破綻を起こしていた)。両者の問題の前提となるリスク自体がそもそも異なっているのであり、前者の場合組成段階から法的構成を確実なものとすること、後者の場合個別案件に於ける原債権や債務者の属性等に応じた適切な信用補完措置及び流動性補完措置を予め講じておくことがリスク対策となる。



アエル 参考文献
「ABSの安全神話崩れる? ノンバンクの調達に波及か」(東洋経済新報社『週間東洋経済』Vol.5854(2003.10.18)所収)
「アエル倒産で露呈したABS市場の欠陥――市場拡大には商品性の情報開示徹底が不可欠――」(金融財政事情研究会『金融財政事情』Vol.2576(2003.11.17)所収)
伊藤博敏「旧経営陣の“不透明”は追及されるのか 消費者金融業界に“赤信号”「アエル」倒産の全内幕」(財界展望新社『財界展望』Vol.584(2004.01)所収)
宇津木靖司「検証 なぜこの会社は倒産したか!?(9)アエル(株) 蜜月関係だった銀行の破綻で細っていった資金のパイプ」(近代セールス社『近代セールス』Vol.951)(2003.12)所収)
小楠展央「司法書士の現代を読み解く講座(第32回) アエル再生申立に対する雑感」(日本司法書士会連合会『月報司法書士』Vol.436)(2008.06)所収)
菅波佳子「アエル民事再生に対する全青司としての取組み」(全国青年司法書士協議会『月報全青司』Vol.337)(2008.05)所収)

アエル 尾注

注AE01:「アエル破たん 債権94億円回収難航も 東京ドーム」(『日本経済新聞』(2003.10.04)13面)、「サリが更生法申請 酒販自由化で競争激化」(『日経流通新聞』(2003.10.02)13面)。

注AE02:「特別清算を申請」(『日本経済新聞』(2004.03.18)15面)。

注AE03:「アエル、民事再生法の適用申請・負債総額231億円」(『日経速報ニュースアーカイブ』(2008.03.24))。

注AE04:小楠展央「司法書士の現代を読み解く講座(第32回) アエル再生申立に対する雑感」(日本司法書士会連合会『月報司法書士』Vol.436)(2008.06)所収)P49。

注AE05:Ibid, P48。

注AE06:Ibid.

注AE07:菅波佳子「アエル民事再生に対する全青司としての取組み」(全国青年司法書士協議会『月報全青司』Vol.337)(2008.05)所収)P2。

注AE08:Ibid.

注AE09:伊藤博敏「旧経営陣の“不透明”は追及されるのか 消費者金融業界に“赤信号”「アエル」倒産の全内幕」(財界展望新社『財界展望』Vol.584(2004.01)所収)P37。

注AE10:Ibid, P38。

注AE11:宇津木靖司「検証 なぜこの会社は倒産したか!?(9)アエル(株) 蜜月関係だった銀行の破綻で細っていった資金のパイプ」(近代セールス社『近代セールス』Vol.951)(2003.12)所収)P103。この頃は、そもそも上限金利が設定されていなかった。2002年で漸く上限金利が設置されたのである(注AE11.01)。2002年以降では、「韓国消費者金融協議会」の調査に依れば、金融機関別の無担保ローンの金利(年率)は、銀行で8~14%、クレジットカード業者で20~28%、割賦金融業者で30~50%、貯蓄銀行で30~60%、貸金業者で40~66%であるとされる(注AE11.02)。尚、一般に一部庶民により利用される闇金融では67~500%である。

注AE11.01:「消費者金融の利子上限を年70%に、法案通過」
http://www.kbn-japan.com/KN020708-01.htm

貸金業利息を年70%以内に制限・・・再び闇市場へ転落の恐れ
「私債(貸金業)利息を年70%以内に制限する内容の「貸付業の登録及び金融利用者保護に関する法律」が7月31日に国会本会議を通過した。この法案に対する国内金融業者と日系貸金業者の反応は大きく異なっている。国内金融業者は調達金利、不良債権比率、事業費用等を勘案した場合、年70%の利息では営業収支が合わない。 これと関連し、韓国消費者金融連合会のヨプ・チョンヨン会長は「最近250の会員会社を相手にアンケート調査を実施した結果、回答の83%が利息率を年70%に制限された場合、貸付業登録を放棄すると答えた」とし、「私債市場が過去のように闇市場に転落する恐れがある」と述べた。また、「貸付業登録を行った後、正常営業を行う業者はデホ、ハッピーローンマート、中央キャピタル等の約50社に過ぎないと把握された」と付け加えた。反面、最高年131%の貸付利息の日系貸金会社は、10月から貸付利息を70%に引き下げると明らかにした。イ・ドクスプログレス社長は「利息率制限により年間約60%の純益減少が予想される」とし、「延滞管理の強化と貸付審査の徹底を通じ、純利益減少を補填する計画」と述べた。これにより、現在年60%水準の貸付商品を販売している貯蓄銀行との熾烈な市場争奪戦が予想される。」(韓国経済新聞:2002年8月1日付)

注AE11.02:堂下浩「韓国消費信用市場に関する資料」(2006.07.14)P4。
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kasikin/siryou/20060727/18-10.pdf

注AE12:呆れることに、2001年時点では1,000%を超えるものがあったと言う。

「SJC広場」
http://www.sjchp.co.kr/square/nakamura/20011217.php

「(前略)先週、朝鮮日報は『日系金融業者の“大胆営業”』と題する記事を掲載し「市中金利が低位安定を維持している状況の中で、日系金融業者は今年6月には年82.8~86.4%だった貸出金利を年97.2~129.6%に大きく引き上げた。国内にはA&Oクレジット、プログレス、ハッピー・レディなど10社余りの日系金融業者がソウルや釜山など全国主要都市に30~40の支店を設置し営業中」と報じた。 IMF危機以降、私債市場が急膨張し年率200~300%は当り前で、中には1000%を超す殺人的な高金利を受け取る私債業者が増大した。政府が今年6月に「上限金利を年60%に制限する」などの内容を盛り込んだ『金融利用者保護法』を国会へ提出したため、各業者とも一時的に貸出金利を引下げた。しかし、国会審議が数ヶ月にわたって中断、上限金利も“年率60%”から“年率90%”へと後退する可能性が出てくると貸出金利を再び引き上げ始めた。(後略)」

注AE13:坂野友昭「韓国の家計貸付市場における貸付金融会社の競争優位」(早稲田商学同攻会『早稲田商学』Vol.430(2012.03)所収)P216。
http://www.waseda.jp/w-com/quotient/publications/pdf/wcom430_01.pdf

注AE14:宇津木・前掲(注AE11)P104。

注AE15:「ABSの安全神話崩れる? ノンバンクの調達に波及か」(東洋経済新報社『週間東洋経済』Vol.5854(2003.10.18)所収)、「アエル倒産で露呈したABS市場の欠陥――市場拡大には商品性の情報開示徹底が不可欠――」(金融財政事情研究会『金融財政事情』Vol.2576(2003.11.17)所収)。





(画像抜き版)第3章 神は匙を投げない(God doesn’t throw in the towel)――涙よりも、血よりも、金を流していたい フットワークエクスプレスとライフの戦い編――

2014-11-16 13:19:00 | CMBS論集用小ネタ
第3章 神は匙を投げない(God doesn’t throw in the towel)――涙よりも、血よりも、金を流していたい フットワークエクスプレスとライフの戦い編――

フットワークエクスプレスのケース

1941年に設立された陸上運送会社であるフットワークエクスプレス株式会社(兵庫県加古川市)は、2001年3月4日に、子会社のフットワークエクスプレス北海道(札幌市)とフットワークインターナショナルが大阪地裁に民事再生手続の申立てを行い(注FE01)、その後会社更生手続に移行した。現在はトールエクスプレスジャパン株式会社として再建している。

フットワークエクスプレスの業績推移(単位:100万円)
出典:浅井克仁、刈屋大輔「Interview フットワークエクスプレス 浅井克仁社長「特積み業者とは呼ばれたくない」」(ライノス・パブリケーションズ『Logi biz』Vol.37)(2004.04)所収)P26
決算期 売上高 経常利益 備考
1996年12月 105,456 1,514 過去最高の売上を達成するも、後日粉飾決算が発覚。
2000年12月 75,792 -4,920 2001年3月4日、民事再生法申請。
2001年12月 55,309 -5,687 2002年4月30日、会社更生法申請。
2002年12月 51,572 3,776  
2003年12月 52,107 3,696



負債額はフットワークエクスプレスが1,417億円、フットワークインターナショナルが237億円、フットワークエクスプレス北海道が74億円となった。フットワークエクスプレスはピーク時の1996年12月期には1,510億円の売上があったものの、規制緩和に依る競争激化に依り輸送価格の下落に因り、取扱量も減少し、2000年12月期の売上高は752億円(ピーク時の約49.8%)迄落ち込んだ。また、バブル期にF1チームのスポンサーになったことや、1991年に約100億円で買収したドイツ運送会社の経営に失敗し、財務体質が悪化していった。当時のフットワークエクスプレス社長の任にあった大橋渡は、「海外での投資失敗が破たんに至った理由の一つ」(注FE02)と述べている。フットワークインターナショナルの場合、2001年3月期の売上高見込みは165億円であり、貸倒引当金や子会社株式評価損等の特別損失に因り、最終赤字は53億円を見込んでいた。
フットワークインターナショナルに関しては、アートコーポレーションが産地直送便や通販事業についての支援を行い、フットワークエクスプレスに対しては、提携関係にあった第一貨物(山形市)が支援した。その後、オリックスやワールド・ロジ等の支援に依る経営の立て直しを模索してきた。当初は不動産の処理方法を巡り、管理処分信託で同意が得られないことから、保有不動産の売却で合意することとなった(注FE03)。尚、銀行団との交渉が纏まらなかったことから、2002年4月に民事再生法を断念し、会社更生法に切り替えていた(注FE04)。しかし、この後銀行団と大筋での合意に達し、更生管財人は2003年6月末に大阪地裁に更生計画案の提出延長を申請し、2003年9月末に更生計画案を提出した。ここで最終手段としてフットワークエクスプレスが持ち出したのが「管理担保信託」である。



出典:浅井克仁、刈屋大輔「Interview フットワークエクスプレス 浅井克仁社長「特積み業者とは呼ばれたくない」」(ライノス・パブリケーションズ『Logi biz』Vol.37)(2004.04)所収)P25。

管理担保信託は、担保権者に対し現金で弁済する代わりに、不動産を処理出来る権利を与えることで弁済を完了するものである。民事再生に於ける競争入札にて銀行団が首を縦に振らなかった理由に、管財人が弾いたフットワークエクスプレスの保有資産に係る評価額との乖離が開いていた為である。管財人が提示した評価額が160億円であることに対し、銀行団は住宅用地等への転用を見込み、少なくとも160億円の2~3倍の評価算定を行っていた(注FE05)。

1.フットワークエクスプレスがRCCに不動産管理処分信託を委託する。
2.これを受けて、RCCは本来フットワークエクスプレスが受けるべき信託受益権を、更生担保権者である銀行団に譲渡する。
3.銀行団は地価の回復を待ちながら、第三者に不動産を売却する。若しくは、フットワークエクスプレスの営業譲渡先であるOSLと賃借契約を交わし、賃料を得る。但し、この場合銀行団は自由に売却を行えると言うものではなく、OSLが営業を続けていく上で必要不可欠な不動産について、売却する権利を行使可能な時期が数箇月から数年先に設定される等の制約が課せられる。

160億円を最低ラインとして競争入札が行われた場合、ハゲタカファンド等に物件を買い叩かれるリスクがあった為、回収額の縮小を懸念して、銀行団は了承を出さなかった。しかし、対照的に管理担保信託の場合、銀行団は地価の推移を見ながら不動産を売却出来、一括売却に比べ高い回収代金を見込める。更に売却する迄の間、不動産をフットワークエクスプレス側に賃貸することで、賃貸収入を得られる。一方、フットワークエクスプレス側にしても、担保権者に受益権を譲渡した時点で弁済を完了したことになる為、更生手続を素早く終えることが出来る。
それでも、管理担保信託に依り、長期間安い料金で拠点を引続き使いたいと考えていたフットワークエクスプレスに対し、銀行団は賃貸している間に不動産の価値が下落し、回収額が目減りすることを危惧し、反対した。尚、不動産が信託受益権に変わると、不良債権は貸付金の科目に変わり、見掛け上は不良債権処理が進んだことにはなる。管理担保信託の頓挫は、請負人の整理回収機構(RCC)が手を引いたことに起因する。2003年2月に、土壌汚染の管理に関する法律が大幅に改正された影響を受け、管理基準が厳格化したことから、フットワークエクスプレスの保有不動産に対し、重金属等の汚染物質が入っているのではないかとするRCCの反応が出た。土壌汚染があれば、不動産の評価にも影響が出てくるが、本来このリスクテイカー(汚染された土地を浄化するコスト負担者)は管理担保信託上では「担保権者」である。このことから、RCCとの話が白紙に戻された。元々、破綻後に信託受益権を担保権者に渡す「物納」形式は前例が殆どなく、中には前例のない処理の場合、本店に説明し辛いとする銀行もあったとされる(注FE06)。
叙上のスキームの通り、フットワークエクスプレスの営業譲渡先はOSLであるが、段階的に会社機能をOSLに移管する「業務提携型再建モデル」を採用した。



出典:刈屋大輔「CASE STUDY フットワークエクスプレス〈経営再建〉 不動産処理巡り再建計画が二転三転 新スキームでドタバタ劇に終止符」(ライノス・パブリケーションズ『Logi biz』Vol.29)(2003.08)所収)P46、図2。

1.フットワークエクスプレスがOSL(オリックス・セムコープロジスティクス・ワールドロジの3社が設立した会社)から受け取る営業譲渡代金は約16億円。フットワークエクスプレスが抱えている一般債務は1,700億円弱であり、営業譲渡代金を弁済原資とすることから、一般債権者への配当率は1%程度となった。
2.2003年12月迄に営業・本社機能のみをOSLに移管する。路線・集配・整備・仕分等の現業部分はそのままフットワークエクスプレスに残す。荷主からの運送依頼をOSLが窓口となり引受け、実務を総てフットワークエクスプレスに委託する。並行して、集配地点の統廃合等、輸配送ネットワークの再構築に着手する。
3.現業部分をOSL若しくは傘下に用意する4つの地域別子会社に吸収させる。

現在は社名がトールエクスプレスジャパンとなっているが、当時OSLは社名をフットワークエクスプレスに切り替える予定でいた。経営破綻に因り、多少のイメージダウンにはなったものの、荷主にはフットワークエクスプレスのブランドが浸透していた(注FE07)ことから、社名変更は営業戦略上マイナスに作用するとの判断が働いたと見られる。
財務体質の悪化は民事再生法申請時に明らかなものとなったが、それまでの3年間に於いては粉飾決算を行っていたことが翌年判明した(注FE08)。1997年度分から3年分の有価証券報告書について、フットワークエクスプレス社から総額約424億円の架空収益を計上した決算書であることを知らされていながら、決算書を承認した上で近畿財務局に提出していた。2000年8月に当時担当していた瑞穂監査法人のベテランが入院の為に引退してから、若手(とは雖も54歳と48歳だが)の担当会計士2名がフットワークエクスプレスに決算数字の訂正を求めていた(注FE09)。この時点で逮捕された2名は2000年12月期に過去の粉飾部分、つまり水増し分を損失処理していた(注FE10)。
フットワークエクスプレスが委託者兼サービサーとなっていた、フットワークエクスプレスの運送料債権を裏付けとするABS(総額11億円、2000年12月発行)は、フットワークエクスプレスの破綻に依り早期償還条項(後に月次パススルー償還となった)が適用され、2001年5月22日に投資家への元利払いを完了している(注FE11)。本ケースでは、バックアップ・サービサーとなっていた日本信販(現:三菱UFJニコス)は実働することなく、フットワークエクスプレスが、原債権の回収金に係る引当請求権を共益債権と認めた上でサービシングを継続した為、同ABSの格付機関に依る格付けはAAAのまま据え置かれていた。本件のABSについては、処理の円滑性の高さと言う点で評価することが出来る。


フットワークエクスプレスのケース 参考文献
浅井克仁、刈屋大輔「Interview フットワークエクスプレス 浅井克仁社長「特積み業者とは呼ばれたくない」」(ライノス・パブリケーションズ『Logi biz』Vol.37)(2004.04)所収)
大畑康寿、齋藤明弘「Interview 富士銀行のDIPファイナンス実行事例 民事再生申立会社フットワークエクスプレスに対する協調融資の実際 富士コーポレートアドバイザリー(株)取締役社長 大畑康寿、富士銀行投資ファイナンス営業部次長 齋藤明弘」(経済法令研究会『銀行法務21』Vol.593)(2001.08)所収)
刈屋大輔「CASE STUDY フットワークエクスプレス〈経営再建〉 不動産処理巡り再建計画が二転三転 新スキームでドタバタ劇に終止符」(ライノス・パブリケーションズ『Logi biz』Vol.29)(2003.08)所収)
高橋正彦『増補新版 証券化と法の経済学』(NTT出版、2009.12)
「フットワークが民事再生法 グループ3社申請 負債総額1718億円」(『日本経済新聞』(2001.03.05)13面)
「民事再生法 フットワークが申請 グループ3社 負債総額1718億円」(『日経流通新聞』(2001.03.06)2面)。
「フットワーク粉飾 公認会計士2人逮捕 大阪地検 虚偽決算承認の容疑」(『日本経済新聞』(2002.05.22)16面(地方経済面))
「会計監査信頼回復への道(上) チェック体制に制約多く」(『日本経済新聞』(2002.07.25)17面)
「瑞穂監査法人・笹部哲生包括代表社員に聞く “大先生”に口出しできず」(『日経金融新聞』(2002.08.23)7面)

フットワークエクスプレスのケース 尾注

注FE01:「フットワークが民事再生法 グループ3社申請 負債総額1718億円」(『日本経済新聞』(2001.03.05)13面)、「民事再生法 フットワークが申請 グループ3社 負債総額1718億円」(『日経流通新聞』(2001.03.06)2面)。

注FE02:Ibid.

注FE03:浅井克仁、刈屋大輔「Interview フットワークエクスプレス 浅井克仁社長「特積み業者とは呼ばれたくない」」(ライノス・パブリケーションズ『Logi biz』Vol.37)(2004.04)所収)P24。

注FE04:刈屋大輔「CASE STUDY フットワークエクスプレス〈経営再建〉 不動産処理巡り再建計画が二転三転 新スキームでドタバタ劇に終止符」(ライノス・パブリケーションズ『Logi biz』Vol.29)(2003.08)所収)P44。

注FE05:Ibid, P45。

注FE06:浅井・刈屋前掲(注FE03)P24。

注FE07:大畑康寿、齋藤明弘「Interview 富士銀行のDIPファイナンス実行事例 民事再生申立会社フットワークエクスプレスに対する協調融資の実際 富士コーポレートアドバイザリー(株)取締役社長 大畑康寿、富士銀行投資ファイナンス営業部次長 齋藤明弘」(経済法令研究会『銀行法務21』Vol.593)(2001.08)所収)P10。

注FE08:「フットワーク粉飾 公認会計士2人逮捕 大阪地検 虚偽決算承認の容疑」(『日本経済新聞』(2002.05.22)16面(地方経済面))

注FE09:「会計監査信頼回復への道(上) チェック体制に制約多く」(『日本経済新聞』(2002.07.25)17面)

注FE10:「瑞穂監査法人・笹部哲生包括代表社員に聞く “大先生”に口出しできず」(『日経金融新聞』(2002.08.23)7面)

注FE11:高橋正彦『増補新版 証券化と法の経済学』(NTT出版、2009.12)P154。原典となる資料は不明。


ライフのケース

嘗ての大手信販会社であり、メインバンクを長銀としていた株式会社ライフ(現在はアイフルに吸収合併されている)は、東京地裁に対し、2000年5月19日に会社更生手続開始の申立てを行った(注LI01)。東京地裁は既存債務の弁済や財産処分を禁止する保全処分を行い、2000年6月30日に会社更生手続開始の決定が為された(注LI02)。
破綻のポイントとしては会計基準の変化に伴う会計監査の強化と1999年からのGEキャピタルとの提携交渉が不調に終わったことが挙げられる。本来であれば1999年11月に資本提携で合意しており、2000年3月迄にGEキャピタルがライフの筆頭株主となる予定であったが、会計監査の強化に依り、不良債権の引当て額が増大したことに因る大幅な債務超過の発生が判明し、2000年5月上旬にGEキャピタルが交渉を打ち切った。また、メインバンクの長銀の破綻後に、各金融機関からの返済圧力が高まったことも挙げられている(注LI03)。
後の2000年7月5日には、ライフの身元引受先として新生銀行(旧:長銀)他4社が名乗りを上げ(注LI04)、その3箇月後の2000年10月2日には、ライフ支援先として消費者金融のアイフルが最終優先交渉権を取得し、管財人と正式合意を交わしている(注LI05)。最終的にはGEキャピタル、新生銀行、シティグループ、プロミス、オリックス、スルガ銀行、アメリカン・インターナショナル・グループが名乗りを上げたものの、GEキャピタルと新生銀行は条件面で折り合いが着かず、9月初めに交渉が中断した。最終的にはオリックスとアイフルの一騎打ちとなり、好条件を出したアイフルの勝利となった。アイフルが選定されたのは、管財人が最も注目するポイントであった「アイフルがスポンサーとしてライフ全体を継承し、且つ会社の従業員全員の雇用を継続する」と言う点が他の候補と比較してすぐれていたからであった。加えて、その買収資金の調達原資を確保する手段として、アイフル自身からの出資及び貸付に加え、ライフの資産を引当てとしたノンリコース調達をその提案の初期から提示し、モルガン・スタンレー証券会社がそのコミットメントを提供することで、これらを用いた債権者への一括弁済及び更生手続の早期終結を行うと言う提案内容の妥当性が早い段階から認知された点が挙げられる(注LI06)。
アイフルはライフに事業管財人を派遣し、ライフの商号や約1兆円を計上する資産、従業員を総て承継することとなった。2000年度内にアイフルが更生計画案を東京地裁に提出する他、2001年3月迄にライフが抱える債務の減額交渉を経た上で債権者に一括弁済する形を採ることとなった。実際にライフは、2001年3月30日に更生手続を完了している。アイフルの資金拠出のみならず、ライフの保有資産を引当てとするノンリコースローンに依り2,730億円の資金調達を行い、更生債権者及び更生担保権者への債務の弁済に充当したことに依り、早期再建に大きく寄与している。再建後の2001年10月には、ライフが保有する営業債権を裏付けとする2,450億円のABSが発行され、再建計画中に発行したノンリコースローンの大半がリファイナンスされた。これは、スポンサーのアイフルが、証券化技術を活用したノンリコース調達に依り、ライフの資産を引当ておとした資金調達を通じ、2001年3月にLBOを完了させ、同時にその会社手続を終了させると伴に、2001年10月に当該ノンリコース調達が証券化債券に仕組み直され、投資家に販売されたものである(注LI07)。
ライフから債権者への弁済資金の調達は、アイフル自身からの資本注入及び貸付約1,800億円に加え、3,000億円余りのライフが保有する資産を引当てとした2,730億円のノンリコース調達に依り行われた。ノンリコース調達資金の内、2/3をモルガン・スタンレー証券が、残りを住友信託銀行が提供した。このノンリコース調達は、ライフの保有する4種類の個人向け金融資産(割賦債権、カードショッピング債権、カードキャッシング債権、消費者金融債権)をその裏付けとしたものである。一連の弁済の流れは以下の通り。

2001年3月27日 新資本金700億円他がアイフルからライフに振り込まれた。
2001年3月28日 ノンリコース調達資金が入ると同時に、他の残金と併せて更生担保権者73社に対し約3,010億円が一括弁済された。
2001年3月29日 優先・一般更生債権者116社に対し合計1,740億円が一括弁済された。

この際、本来更生担保権者に対して担保提供しているライフ保有の対象債権が、当該ノンリコース調達の為に用いられる、即ち更生担保権者からの担保解除を受けた上で、証券化ストラクチャーへ譲渡される為には、担保解除からその譲渡迄をどのタイミングで行い、資金を如何様に授受するかがこの際に於ける1つの論点となっていた。
前提として、ライフは規模に於いて買い手側のアイフルを一回り小さくした水準にあり、一回り大きい企業が一回り小さい企業を買収する際の資金調達負担は非常に大きな問題となる。この点は、銀行借入等の関節調達や、株式・社債発行に依る直接調達を最大限に活用したとしても、そもそも必要な額が調達出来るかと言う点、仮に調達出来たとしても、結果として買収側が被る負債の増大が、直接乃至は間接的に買収側の株価や会社格付けに悪影響を及ぼす点に帰趨する。しかし、ライフの弁済の様に、被買収側の資産を引当てとしたノンリコース調達では、先の影響をほぼ排除可能である点がポイントとなる。結果として、アイフルの場合に於いても格付けや株価に何の悪影響を与えることはなかった。無論、被買収側のライフが、その会社更生手続を通じ、不良債権等の負の遺産に対する処理を完全に終えて仕舞えたこともアイフルの好結果を創出した一つの要因足り得よう。
このノンリコース調達は、2001年10月に証券化債券の資本市場への発行を通じて投資家に販売され、全額のリファイナンスが行われた。本案件はユーロ円債(アメリカ144A適格)として組成され、投資家層は主に本邦の機関投資家であり、銀行・保険会社・事業法人等の多岐に渡る投資家からの資金を集めた。

出典:栗田雅裕、佐藤正謙「消費者金融会社アイフルによる更生会社である信販会社ライフの買収――倒産手続における流動化・証券化の活用事例――」(商事法務『NBL』Vol.743(2002.08)所収)P21、図1。
注:公募ユーロ円債(アメリカ私募144A適格)として発行。発行債券は債務履行能力が最も高いAAA格からBBB格迄の4つの信用格付けを4つの格付機関より取得。金利はLIBORを基準とした変動金利と固定金利の双方を設定。
クラス 発行額(単位:億円) 格付け 予想平均年限(単位:年) 想定償還年限(単位:年) 適用利率 金利タイプ
S&P Moody's Fitch-R&I
A1 2,108 Aaa AAA AAA 2.3 5.0 1M\LIBOR+40bp 変動利付
A2 37 Aaa AAA AAA 2.3 5.0 0.58% 固定利付
B1 21 Aa2 AA AA 4.6 5.2 1M\LIBOR+50bp 変動利付
B2 34 Aa2 AA AA 4.6 5.2 0.96% 固定利付
C1 25 A2 A A 4.7 5.4 1M\LIBOR+95bp 変動利付
C2 21 A2 A A 4.7 5.4 1.42% 固定利付
D1 150 Baa2 BBB BBB 5.3 6.0 1M\LIBOR+150bp 変動利付
D2 54 Baa2 BBB BBB 5.3 6.0 2.06% 固定利付

この証券化債券の発行を以て、ライフはノンリコース調達を一般に行われている資本市場からの低コストでの証券化調達に切り替えると伴に、直接金融への道を幅広く確保することが可能となった。また、ノンリコース調達の提供者であったモルガン・スタンレー証券及び住友信託銀行は、その有していたノンリコース調達残高に係るリスク・ポジションを切り離すことが出来た。通常、ノンリコース調達は証券化をその出口として完了することが欧米にせよ本邦にせよ一般的であり、本件に於いてもノンリコース資金の調達からそれを用いた更生担保権者及び一般更生債権者への弁済、会社更生手続の終結、そして証券化債券に依るノンリコース調達のリファイナンス迄を以て、当初想定していた案件の総ての段階を完全に終了出来たことになる。そもそも、証券化債券に対する需要は、証券化債券市場の拡大を受けて底堅いものがあったが、当該証券化債券の販売に於いては、当時にしてみると過去最大の案件規模及び破綻した会社からの証券化と言う新規性も相俟って、投資家の確保の予見は難化したとされる(注LI08)。加えて、当時は9.11の発生及びそれに伴う企業破綻の連鎖、特にマイカルの民事再生手続を受けて逆風となっていた市場環境と言う悪条件も重なっていた。しかし結果として、最終的に全クラス・全額の債券販売を超過需要下で成功裡に終了した。
以下の通り、ノンリコース調達及び証券化に係るストラクチャーは伴に、ライフの資産のみをその引当てとした金融であり、その債務をライフに遡及しない一方で、ライフの再度の破綻時に於いても、その破綻財団に組み込まれないことを前提としてスキームが構成されている(注LI09)。



出典:栗田雅裕、佐藤正謙「消費者金融会社アイフルによる更生会社である信販会社ライフの買収――倒産手続における流動化・証券化の活用事例――」(商事法務『NBL』Vol.743(2002.08)所収)P22、図2。


裏付けの対象資産
ライフの保有する個人向け債権のほぼ大半。既存債権及び将来債権を信託財産とする信託受益権。 個品斡旋 ノンリコース調達時約849億円
証券化債券発行時700億円
総合斡旋 約345億円
証券化債券発行時150億円
カードキャッシング 約1,036億円
証券化債券発行時1,060億円
無担保消費者ローン 約500億円
証券化債券発行時540億円

当該ストラクチャーの実行に於いては、そのスキームの検討や契約書の作成、格付けの取得から最終的な投資家への販売迄、各々数箇月、通算で1年超を要している(注LI10)。特に、対象資産に対するデュー・ディリジェンスには、700万もの口座に及ぶ各口座情報を過去2年間に亘り遡って分析する等、膨大な作業を必要としている。その結果としての本ストラクチャーの完成であり、当然ながら信用補完や流動性補完の手当ても適用されている。尚、この案件は2001年度に於ける複数のDeal of the Year等を受賞している(注LI11)。


ノンリコース調達の段階 証券化債券の発行に依るリファイナンスの段階
1.ライフは受託者である信託銀行に対象資産を信託譲渡。各資産に係る優先受益権、劣後受益権及びライフ持ち分を表象とするSI(Seller’s Interest)受益権(注LI12)を受け取り、これら総ての受益権に係る当初受益権者となった。 5.ライフ・ファンディング・カンパニーは証券化債券シリーズ2001-1ノートを発行して投資家に販売、その調達金をライフ・ホールディングス・カンパニーが発行した本件債券シリーズ2001-1ボンドの購入資金に充当した。
2.ライフは優先受益権(当初元本額2,730億円)をライフ・ホールディングス・カンパニー(LHC)に譲渡し、ノンリコース調達の資金を取得した(SI受益権及び劣後受益権は引き続きライフが保有)。この時点で優先受益権はその信用格付けとしてBBB格相当を有していた。 6.ライフ・ホールディングス・カンパニーはライフ・ファンディング・カンパニーへ販売した本件債券シリーズ2001-1ボンド発行に依る調達代金から、当該私募債の償還及びノンリコース融資の弁済に充当した。ライフ・ファンディング・カンパニーは、係るライフ・ホールディングス・カンパニーに依る私募債の償還金を以て、自らが発行した私募債の償還に充当した。
3.ライフ・ホールディングス・カンパニーは優先受益権の購入を目的として私募債の発行とライフ・ホールディングス・カンパニー東京支店を通じた住友信託銀行からのノンリコース融資に依り、総額2,730億円を調達した。 7.優先受益権・劣後受益権・SI受益権を、本証券化債券の担保となる信託受益権に転換することに依り、当該シリーズに係る優先受益権及び劣後受益権が新たに設定された。当該シリーズに係るこれらの優先受益権は、AAAからBBB迄のクレディビリティに応じて、4つのクラスに分割されている。
4.当該私募債はライフ・ファンディング・カンパニー(LFC)が購入、ライフ・ファンディング・カンパニーはその購入資金を調達する為に、同額の私募債を発行し、モルガン・スタンレーの関連会社がその全額を購入した。

ライフの自動車ローン担保ABS
出典:福光寛「新たな段階に入った日本の資産証券化」(成城大学経済学部『成城大學經濟研究』Vol.145(1999.07)所収)P106、表1
SPC名 発行日 原債権額 発行額 主幹事 種別
Freya FC 1999.03.19 343億円 2億1,600万円 WarburgDR Euro

ライフ(1999.03.19)は当時新参者(Newcomer, Le Nouveau Venu)であり、まして海外発行と言うことも影響し、東京海上火災に加え、アメリカの債券保証専門会社(Bond Insurer, Bond l'assureur)であるFinancial Security Assuranceからも保証を取り付ける「二重保証」の下でライフのABSは発行された。この保証が加えられた背景には、ライフの系列が当時国有化されたばかりの長銀系であることが挙げられる。元々ライフは、オートローン債権の信託方式に依る海外リパッケージABS(1999年1月信託、対抗要件具備は債権譲渡特例法上の債権譲渡登記に依り行った)に依り資金調達を行っていた。東京地裁は、保全処分に於いて集金代行業務に基づく回収金の引渡義務履行につき、弁済禁止の適用除外とした上で、ライフの保全管理人も営業継続を優先する形式でABSの真正売買性に関して争うことをしなかった。真正売買性を肯定する為に有利な要素は以下の3点が挙げられる(注LI13)。

1.債権譲渡特例法に依る登記が行われ、第三者対抗要件は具備されていた。
2.契約上、ライフが信託銀行に信託的譲渡を行い、それに依って取得した信託受益権をSPCに真正に譲渡する旨の規定が存在しており、真正売買である旨のリーガル・オピニオンも存在していた。
3.信託譲渡価格は当初元本相当額であり、優先受益権と劣後受益権に分類され、劣後割合は25%であったものの優先部分はオフバランス化されていた。但し、債権全体の63%が回収された段階で、ライフはクリーンアップ・コール(一括償還に依る買戻し請求)が出来た。

本件ABSの場合、以下の3条件が加味されて、サービサー交替事由自体には該当するものの、サービサー交替の発動が猶予され、ライフが再びサービシング業務を行うこととなった。最終的には、本件ABSの償還と劣後部分の回収は完了している。日本リースのケースに於ける対応を鑑みた、円滑な処理が行われた事例として、またM&Aや倒産処理に際する資産流動化及び証券化の手法を積極的に活用したモデルケースとして、更に事業の証券化にリンクする案件としても評価出来る。




ライフのケース 参考文献
赤井厚雄「資産流動化市場の新たな展開」(日本資産流動化研究所『平成13年度第2回SFIセミナー「資産流動化の現状と将来展望」』(2002.02.06)所収)
栗田雅裕、佐藤正謙「消費者金融会社アイフルによる更生会社である信販会社ライフの買収――倒産手続における流動化・証券化の活用事例――」(商事法務『NBL』Vol.743(2002.08.15)所収)
小林秀之「資産流動化と倒産隔離」(石川明、青山善充編『現代社会における民事手続法の展開 石川明先生古稀祝賀(下)』(商事法務、2002.05)所収)
日本資産流動化研究所『平成12年度 資産流動化と投資家保護に関する調査報告書』(2001.04)
「ライフ更生法申請 外資との提携不調引き金 債務超過968億円に」(『日本経済新聞』(2000.05.20)11面)
「信販大手ライフの支援 アイフルが交渉権 来週にも正式合意 資産精査手続きへ」(『日本経済新聞』(2000.10.02)11面)
「ライフ買い取り 新生銀が名乗り 元メーンバンク カード事業に関心」(『日本経済新聞』(2000.07.06)1面)
「信販大手ライフの支援 アイフルが交渉権 来週にも正式合意 資産精査手続きへ」(『日本経済新聞』(2000.10.02)11面)

ライフのケース 尾注

注LI01:「ライフ更生法申請 外資との提携不調引き金 債務超過968億円に」(『日本経済新聞』(2000.05.20)11面)

注LI02:「信販大手ライフの支援 アイフルが交渉権 来週にも正式合意 資産精査手続きへ」(『日本経済新聞』(2000.10.02)11面)

注LI03:日本経済新聞・前掲(注LI01)の社長会見に出席した会社更生開始申立代理人の伊藤尚弁護士の発言に依る。

「メーンバンクの日本長期信用銀行の破たん後、ライフも先行きを不安視され、債権者からの返済圧力が強まった。手持ち資金の中から返済をすると、資金繰りが苦しくなっていった」「ライフ更生法申請 外資との提携不調引き金 債務超過968億円に」(『日本経済新聞』(2000.05.20)11面)

注LI04:「ライフ買い取り 新生銀が名乗り 元メーンバンク カード事業に関心」(『日本経済新聞』(2000.07.06)1面)、「信販大手ライフの支援 アイフルが交渉権 来週にも正式合意 資産精査手続きへ」(『日本経済新聞』(2000.10.02)11面)

注LI05:「信販大手ライフの支援 アイフルが交渉権 来週にも正式合意 資産精査手続きへ」(『日本経済新聞』(2000.10.02)11面)、下河辺和彦「更生事件における管財業務の実情――信販会社ライフの事例――」(金融財政事情研究会『金融法務事情』Vol.1610(2001.05)所収)。

注LI06:栗田雅裕、佐藤正謙「消費者金融会社アイフルによる更生会社である信販会社ライフの買収――倒産手続における流動化・証券化の活用事例――」(商事法務『NBL』Vol.743(2002.08.15)所収)P19。

注LI07:Ibid, P18。

注LI08:Ibid, P20。

注LI09:スキームの説明はR&I及びFitch : Life Funding Company格付けレポートを参照。

注LI10:栗田・佐藤前掲(注LI06)P21。

注LI11:Ibid, P22。

注LI12:受託者に信託譲渡された消費者金融債権の残高変動を吸収する点にある。即ち、優先受益権の信用補完としては機能しない。受託者のSPCに対する優先受益権に基づく支払債務と、委託者に対するSI受益権に基づく支払債務は同順位となる。
「消費者金融債権の格付けについて」P3。
http://www.jcr.co.jp/reportqa/pdf/ssyouhi.pdf

注LI13:小林秀之「資産流動化と倒産隔離」(石川明、青山善充編『現代社会における民事手続法の展開 石川明先生古稀祝賀(下)』(商事法務、2002.05)所収)P416。



目的信託

2014-09-05 12:52:24 | CMBS論集用小ネタ
目的信託(Purpose Trust, Fin de Fiducie)

目的信託とは、受益者が定まらずに、信託目的だけが定まっている信託で、公益信託(祭祀、宗教、慈善、学術、技芸その他公益を目的として設定される信託。注FF01)以外のものを指す。即ち、非営利である目的である信託を認めたものであり、その上で、更に公益があるならば、公益認定を行い、要件を積み重ねた上で公益と言う新たな地位となるものとするシステムを施行後制定する前提で、公益信託ではなく、非営利としての目的信託が認められた経緯がある(注FF02)。公益信託は、租税等の優遇措置が受けられる一方で、主務官庁の審査は厳格でその設定が簡単には認められない(注FF03)為、公益に近いが、公益信託に該当しない信託を認めてもらいたいニーズがあった。
本邦に於いては、旧・信託法下では「受益者を指定するか、または確定しうる程度の指示を与えることは、信託行為の有効要件である」(注FF04)と解釈されていた。即ち、信託成立の為には、信託設定の時点で受益者が特定及び現存すること迄は必要としていないものの、受益者を確定し得ることは必要とされており、受益者を確定し得ないものは、公益信託を除き無効となると解釈され、受益者の定めのない信託は、認められていなかった。英米信託法との比較となるが、英米信託法に於いての目的信託(Purpose Trust)の定義は、「衝平法上の権利を有する受益者を欠く信託」(注FF05)とされている。即ち、受益者の為と言うよりは寧ろ、目的の為に信託を設定することから、受益者を欠く、若しくは、受益者について、通常求められる程度の確定が為されない信託と言える。橋谷・小川(2006)は、これを、「信託目的そのものが、信託設定に於いて主とされ、(確定された)受益者については、その信託設定に於ける委託者の意思に於いて従とされる信託である」と説明している(注FF06)。通常の信託に於いても、何らかの信託目的は無論存在する。しかし、特定の受益者を前提として設定されるものであり、その点に於いて大きな相違を有する。それ故に、目的信託はある目的の為に設定されるものであり、受益者を欠く、若しくは確定されないものであると定義出来ることとなる。
一般的には、ペットの飼育(注FF07)等、受益対象が動物や地域の様な権利能力を有しないものの為の行為主体としての利用、また、市民活動、ボランティア活動の受け皿等としての利用が想定されている。そして自らが経営する会社の製品開発及び研究を行っている者に対する研究助成等、公益信託の許可を受ける程度の公益性は有していないものの、これに準じる様なもの(注FF08、注FF09)の受け皿としての利用も想定されている。当初は、目的信託には純粋な公益目的の信託周辺に存ずる信託の受け皿としての意義が認められると言う意見(注FF10)と、その様な問題は公益信託の概念領域を拡大することに依り解決するべきであるとする意見が存在していた。証券化関連としては、ケイマンに於けるチャリタブル・トラスト(注FF11)や特定持分信託、有限責任一般社団法人の利用に代わり、SPCの倒産隔離達成を目的とした代替利用の可能性がある。チャリタブル・トラストの倒産隔離及び租税回避(注FF12)目的自体を達成する為には、チャリタブル・トラストに固執する必要はなく、SPCの株式を目的信託すれば、受益者が存在しない以上、SPCが委託者の思惑に反した影響を受けることを回避出来、受益者からの支配権の排除と倒産隔離を図ることが可能となる(注FF13)。また、チャリタブル・トラストの直訳が「慈善」と付くだけであり、本来の目的が慈善行為と言う訳ではない以上、代用的な意味合いしか持ち合わせておらず、目的信託こそが受託者がSPCの株式を保有するに最も相応しい信託形態であるとする見解もある(注FF14)。一般社団法人を用いるスキームも利用されるものの、実際にはその法人の理事個人の信頼に帰着する為、その点について、信託制度を利用する方が、受託者の義務が明確化する点で、より信頼性の高い制度が出来上がるともされている(注FF15)。具体的には、SPCの株式(出資持分)について、信託銀行等を受託者として、受益者を定めずに目的信託を行い、その信託目的を「投資家の為にSPC株式を安定的かつ継続的に保有すること」等と設定することが考えられる。
目的信託を叙上の様な目的で用いる為には、以下の様に幾つかの制約が掛かることに留意する必要がある。また、以下の制約は強行規定として定められている。尚、この制約の厳格性が災いしてか、信託協会の調査によると、目的信託の利用例は、2010年度末迄で0 件であった(注FF16)。岡本(2011)は、この結果が、存続期間の制限やその他の制約に依る目的信託の使い勝手の悪さに依るものであるのか、目的信託の有力な用途の一つであった資産流動化取引がリーマン・ショック以降、全体として減少していることに依るものであるのか、それとも目的信託に関する税制の問題であるのか、と言うことの判断は、容易ではないとしている(注FF17)。

1.悪用防止の観点から、当分の間、一定基準を満たす法人以外は受託者となれないとされたこと。

新・信託法附則3条に依れば、「受益者の定めのない信託(学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とするものを除く。)は、 別に法律で定める日までの間、当該信託に関する信託事務を適正に処理するに足りる財産的基礎及び人的構成を有する者として政令で定める法人以外の者を受託者としてすることができない」と規定されており、受託者の資格が限定されている。尚、新・信託法附則4条には「別に法律で定める日については、受益者の定めのない信託のうち学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とする信託に係る見直しの状況その他の事情を踏まえて検討するものとし、その結果に基づいて定めるものとする」とあるが、未だ確定自体はしていない。
執行免脱や脱税等の弊害が発生する可能性が示唆され、導入の要否に係る議論が展開された。帰属権利者を定めて目的信託を設定することは、差押禁止定期預金を作る様なものであると言う批判があった。例として、ある不動産を、ペットを受益者に相当するものとして置いて、10年後に信託を終了するものとして、帰属権利者(主に委託者)に戻す形で目的信託を設定することは、10年間は差押えをしない様にして貰う、と言うことであるとしている(注FF18)。この指摘に関して、信託期間中、委託者は財産権を喪失しており、一定期間が経過すると、誰か(委託者を含む)にその財産が帰属するとして、一定期間は財産権を享有不可能であるから、必ずしも差押禁止財産の作成には該当しないと言う論も見られた。また、目的信託の場合、受益者は存じないものの、当該信託目的に従って、その信託行為に定められた事業を行う為、その信託事業から生じた債権者は当然存在し、財産権がそうした債権者の担保となる訳であるから、差押禁止財産と言う聖域を作るものではなく、その信託目的と言うのも、通常の信託目的同様に確定可能なものでなければならず、ある程度の具体性を有する必要があると言う、確定性の要件が掛かる為、単なる財産の補完及び維持が認められるとは限らないとして、必ずしも差押禁止財産の作成には該当しないと言う論も存在した(注FF19)。この論については、一方で、確かに信託債権者は存在するが、信託設定から終了迄、信託財産が如何に減少するかは、当該目的財産の作成上の問題であり、事実上、差押不可の定期預金を作成することは十分に可能であるとする意見も出されている(注FF20)。
執行免脱の虞を理由とすることについて、橋谷・小川(2006)は、理由とするべきではないと指摘する(注FF21)。その理由として、橋谷・小川(2006)は、執行免脱を意図して目的信託を行った場合、信託行為そのものが詐害信託となるとし、一般的な信託に於ける執行免脱の発生率と比較して、そこまで顕著なものとならないのではないかとしている。また、八並(2008)は、この議論に関して、「適正な」ペット飼育費の信託であるかどうかを問題とする意味がないとする(注FF22)。債権者詐害に当たる場合について詐害信託取消権があること等で対応されていれば良いのであり、債権者を詐害しないのであれば、委託者がいくら多額の信託をしようと、財産管理の一方法として認可されるとする。詐害信託について、誰を基準として考えるかについては、田中(2005)は「客観的に見て委託者の詐害意思があるか否か」と言う基準の設定を提示している(注FF23)。
信託法改正要綱試案の段階に於いては、旧・信託法同様に、「信託は、受益者のための制度であることから、信託の『目的』(object)ともいうべき受益者の存在が中核であって、受益者がおよそ存在しないようなものについては、その成立を認めるとしても例外的限定的であるべき」とする甲案と、「信託の機能の観点からすれば、信託に隣接する法人制度において実現可能なことが信託制度において実現不可能であるということを、合理的に説明するのは困難であるとの立場に立つ」とする乙案の両案が提示されている(注FF24)。
信託に類似する法人制度に於いては、公益法人やNPO法人等の他に一般社団法人(旧:中間法人)も存在し、一般社団法人に当たっては、典型的な私益信託に於ける受益者とは異なり、目的信託に於ける潜在的な受益者と類似すると伴に、一般社団法人の活動が「公益」目的に限定されない点についても、目的信託と類似する側面を有することから、目的信託が認められない場合に於いて、法人制度と信託制度の平仄が取れないこととなると言う課題を抱えていた為である。この点について勝田(2006)は、法人と比較して、容易に設定出来る信託を認める場合、詐害行為の発生率が上がることを理由に、無理に平仄を合わせる必要はないと指摘している(注FF25)。尚、目的信託について、債権者詐害を目的として用いられる懸念に対して、法務省は、目的信託が設定された場合に於いては、委託者の債権者は、委託者に詐害意思のある限り、常に取消が可能であるものとしている(注FF26)。結果として、先のニーズに鑑み、執行免脱や脱税等の弊害を防止する為の規律を制定することを前提として乙案が採用され(注FF27)、目的信託が導入されたと言う経緯がある。

2.受益者が存在しない目的信託では、受託者に対する監督が不十分となる為、自己信託を併用することが出来ないこと(新・信託法258条1項、注FF28)。

自己信託と目的信託を複合させた場合、委託者が受託者を兼ね、受益者が不在と言う財産隠匿の温床となるシステムと化す為である。寺本(2008)に依れば、第260条に規定する、受託者に対する監督権限を委託者に付与することが、自己信託に於いては委託者と受託者が同一人であり、受託者に依る信託実務処理が適切に為されることを確保することが叙上の様な措置に依ることが出来なくなる為であるとしている(注FF29)。
八並(2008)はこの点に関し、制限が厳格化され過ぎていると指摘する(注FF30)。受益者が不存在ということは、自己信託の効力発生の為には公正証書の作成に依らざるを得ないこととなるが、それが債権者詐害行為に当たる場合には、委託者の債権者による詐害信託の取消し(新・信託法11条1項)に加え、詐害行為取消訴訟を経ないで直接に自己信託財産に執行する道が開かれている(新・信託法23条2項)として、規制が厳格に過ぎるとする。

3.目的信託の存続期間の限度は20年であること(新・信託法259条)。

RMBS等で、償還期間が20年を超過するものについては、使い勝手が悪くなる。20年の規定は、寺本(2008)に依れば、私法上の法律関係を規律する民法が、20年を以て、一定の目的での財産権の長期利用の区切りとなる期間と評価していると考えられる為であるとしている(注FF31)。尚、所有権又は所有権以外の財産権取得時効期間(民法162条1項及び同法163条)、債権又は所有権以外の財産権取得時効期間(民法167条2項)、賃貸借の存続期間(民法604条)は何れも20年である。
この説明に対し後藤(2013)は、同様に財産に対する長期の拘束の是非が問題とされる後継ぎ遺贈型受益者連続型信託(新・信託法91条)については、「全体の有効期間としては100年程度に止まるのが相当」という観点から制度が設計されている(注FF32)ことと比べ、20年という限界が短いと指摘する(注FF33)。また後藤(2013)は、期間の適切な長さを論理的に決めることは困難である以上、既存の制度における期間を参考にすることはやむを得ないとしつつ、一定期間存続した事実状態を権利関係に反映する為の制度である取得時効や消滅時効の期間と、一定の目的への財産の拘束を許容出来る期間と、趣旨の違うものを参考とすることに疑義を呈している(注FF34)。
能見(2004)に依れば、目的信託の目的には、公益又は公序良俗に反する様な場合を除き、特段の制限がなく、信託の変更等に関しても、委託者が単独或いは受託者との合意に依り行うか、又は信託目的に依り拘束することが可能となる(新・信託法149条及び同法150条、同法155条並びに同法159条に関し、同法261条に於ける各読替え規定を適用)為、信託目的を始めとする信託行為の内容(例えば、信託財産を現状のまま管理しておく様な内容)に因っては、信託財産の管理及び処分を受託者の下で拘束することが可能となり、国民経済上の利益と言う観点からの合理的及び効率的な財産の利用や物資の流通が妨げられるリスクが存在した(注FF35)。能見(2004)が示した指摘から、目的信託に於ける存続期間に制約が掛かったのである。
これについて、審議時点に於いては、「20年」と言う期間は、「20年で一応見直す」と言うものであり、20年を超えて延長することが一切出来ないとするものではない(例えば、前の受託者が再信託を、或いは自己信託の様な形式で再信託を行う方法も有り得る)とする意見と、弊害を防止する趣旨の措置であり、この機会に考え直すと言う趣旨の期間ではなく、見直すことは殆ど脱法行為であり、無効であるとする意見があった(注FF36)。この点に於いては、どの様なことを想定するかにも依存するであろう。法制審議会信託法部会第10回会議では、期間到来時の処理として、信託財産は帰属権利者か「あるいはそれが定められていないときは委託者ないしは相続人に戻って、もう一度同じ目的でもって設定したければ、そこからまた同じ期間設定することができる」、「常に、一定期間来るとそこで続けるかどうかを見直」すという整理がなされていた。この様に、「目的信託が一度終了・清算されること」を前提に、再度目的信託を設定するということであれば、期間制限の趣旨には反しないと思料される。
確かに、伝統的な「永久拘束禁止の原則(The Rule Against Perpetuities.)」(注FF37)から見た場合、後者の意見が妥当であるものの、とりわけ委託者が法人の場合であれば、20年の経過後に新しい信託を設定することは十分想定し得ることであり、再設定自体は自由であるべきであろう。しかし、新・信託法259条では、20年を超過する目的信託の場合、アメリカ型の信託同様に全くの無効となるのか、イギリスの1964年法型の様に、20年を超過した部分のみが無効となるのかについては明確化されていない(注FF38)。今後法改正があるならば、明確化すべき点と言える。
なお、現時点では、20年を超過した時点で、日本に存在する財産の全部又は一部は信託財産を構成しなくなると考えられる。以下に掲げる仮定に於いて、この件について考えてみよう。

アメリカ人の委託者に依りアメリカでペット信託が設定された場合で、設定から20年が経過していた。受託者の債権者が、日本に住んでおり、当該財産が最早信託財産でなくなっている旨を主張して差押えをしようとした場合、その差押えは認められるか。

八並(2008)同様、信託準拠法に基づき考える場合、回答は主に以下の3通りになると考えられる(注FF39)。

1.この問題を信託準拠法によって処理するべきである(注FF40)。
2.この問題は、「信託財産を巡る優先性秩序の問題」と捉えて、信託財産の準拠法に依るべきである(注FF41)。
3.信託準拠法を適用するとした上で、信託財産準拠法との間の適応問題を適宜処理する、或いは信託財産準拠法を公法的に介入させる処理を行うべきである(注FF42)。

信託財産の独立性の問題についての準拠法決定に関しては、信託の存続期間の制限という点のみについての通説的見解とされている主張が今のところ存在しない(注FF43)。信託財産の流通性の阻害の問題である以上、信託財産の準拠法によるべきであるとの考え方もあり得る以上、これを信託準拠法によるものと解したとしても、本邦に所在する実質的な信託財産の管理・処分が長期間拘束されてしまうことが、本邦の国民経済上の要請に反するものであれば、法の適用に関する通則法42条により、外国法に依る目的信託の存続期間も20年間に制限されるべきであるとの考え方が成り立つ可能性もある。しかし、この点について中村・鈴木(2008)は、仮に信託行為において20年を超える期間を定めたとしても、20年を超える部分は一部無効となり、20年の経過時点で信託は終了することとなるとする(注FF44)。尚、信託行為に於いて存続期間が定められていなかった場合については、信託法259条に依り、存続期間を20年とする旨の信託行為の定めがあるものと見做した上で、20年の経過に因り「信託行為に於いて定めた事由が生じた」(新・信託法163条9号)ものとして、「信託が終了する」と解釈する方が自然である様に思料される。
以下は、信託財産の独立性の問題を、八並(2008)同様、信託財産準拠法に依る問題と考えて検討したものである。

財産の全部又は一部が日本に所在する場合 アメリカに所在する財産について
その部分については設定から20年が経過した時点で信託財産を構成しなくなるとの判断になる。 「受益者」に相当する動物が生存している限り、信託財産を構成し続けることとなる。

また、このケースをイギリス法に適用するならば、どの様な結果となるだろうか。まず、以下の前提を確認しておこう。

イギリス法において、公益信託には目的信託の存続期間制限ルールが適用されないが、ペット信託は公益信託とされる。ペット信託は、日本法上は目的信託である。尚、新・信託法259条は公益信託にこの規定が適用されない(公益信託ニ関スル法律2条2項)。イギリス法に於いても適用されるとなると、ペット信託は、日本法上は20年以内の存続期間が定められるべきものとして扱われ、イギリス法上は、係る存続期間制限が存在しないものとして扱われることになる。

以下は問いである。

日本に於いて、イギリス法に基づいてペット信託を設定する旨の意思表示をして、20年の存続期間の制限を免れようとする者が現れた場合、そのペット信託の有効性・分類・存続期間については如何様に判断すべきか。

この問いは、新・信託法259条を絶対的強行法規と考えられるかどうかが検討され得る。新・信託法259条(存続期間制限)が絶対的強行法規として分類されるならば、準拠法の如何を問わず、日本におけるペット信託は20年を超えて設定出来ないとの判断になる。他の処理の可能性としては、当該信託を公益信託として扱うことや、当該信託の存続期間の判断について、イギリス法を適用することが国際私法上の公序に反する可能性が考えられる。この場合、イギリス法の適用の結果、「当該ペット信託は公益信託であり、目的信託の期間制限を適用しない」という、日本法の立場から見るとイレギュラーな結論を生む様に思料される。また、日本に於ける信託であることから、内国関連性の度合も高いと思料され、この仮想事例に於いては、公序則が発動される可能性は充分に存在すると言える。尚、新・信託法259条が絶対的強行法規とは分類されず、公序則の発動もないとの判断になれば、特に当該ペット信託を無効とする根拠は、現在の日本の国際私法には存在しない。
叙上の経緯を受け、後藤(2013)は、新・信託法259条の条項、即ち目的信託の存続期間の制限が導入された経緯として、当初、財産の固定化や流通性の阻害への懸念への対処として想定されていたのは、50年又は100年と言う長期上限であったが、目的信託により差押禁止財産が創出されることへの懸念という観点から、上限値の引き下げが要求され、それに正面から答える形ではなく、受益者連続型信託を認めた場合の家族世襲財産化(注FF45)への対処として導入が求められた期間制限が、目的信託の期間制限に転用されていると指摘する(注FF46)。その上で後藤(2013)は、目的信託の存続期間に上限を設けること自体には合理性があるが、20年間と言う数値を、後継ぎ遺贈型受益者連続型信託に関する期間との違いを合理的に説明することは困難であるとする。しかし、村松・富澤・鈴木・三木原(2008)の指摘する様に、現行法の目的信託の存続期間の上限を解釈によって延長することや、存続期間経過時に目的信託が終了したものと扱わずに更新すること(注FF47)は、認められないと指摘した上で、村松・富澤・鈴木・三木原(2008)の指摘は、国際私法上の公序の判断等の際には、結論を考慮することが出来るとする(注FF48)。後藤の指摘した村松・富澤・鈴木・三木原(2008)の指摘への理由として、中村・鈴木(2008)がその答を与えている(注FF49)。帰属権利者やその債権者の利益を考慮すれば、一度目的信託は終了し、信託財産が帰属権利者に分配された上で、帰属権利者が再度目的信託を設定すると構成せざるを得ないと考えるのが自然な帰結であると考えられる為である。
また、目的に従う信託である以上、目的の達成、或いは不達成の場合の手当てについても今後態度を明確化する必要がある。英米信託法と比較した場合、受託者に信託財産が絶対的に帰属する(注FF50)と言う考え方はマイナーであり、復帰信託(Resulting Trust)と構成して、委託者に戻すこととなる(注FF51)と言う考え方がメジャーとなっている。ただ、日本の新・信託法に於いては、そもそも復帰信託の様な法定信託を認めているか否かが明確ではない。新・信託法259条をイギリスの1964年法型の様に解釈する場合、その上で、結果として20年を超過してしまい、目的が不達成となった場合の手当てが必要となろう。能見(2004)や三菱信託銀行信託研究会(2003)は、公益信託法9条について、Cy-prèsの原則(Cy-près Doctrine)(フランス語で「近付ける」と言う意味であり、不可能な目的信託の内容を可能に近付ける、と言う原則。注FF52)を採用していると説明している(注FF53)。しかし、英米信託法に於いては、Cy-prèsの原則で救済されない(注FF54)目的不達成の公益信託は、復帰信託となる。
新・信託法259条の措置に関して、高橋(2007)や八並(2008)、後藤(2013)は、不適切な措置であると批判する(注FF55)。八並(2008)は、例として長寿のペットの世話を目的とする場合の例を挙げ、目的信託では限界があるとする。そのペットが高齢になって、いざそこから医療費等が掛かって来るという時に、目的信託が終わってしまう事態が起こり得るとして、目的信託の意味がなくなってしまうとする。まして墓碑や記念館の管理を目的にする場合は、なおさら20年では足りない。想定されていた、「権利能力のない者が実質的に受益者に相当するタイプ」の目的信託は、殆ど活用出来ないことになってしまっている。実際にこの種の目的を達成するためには、現状では存続期間に制限のない一般社団法人又は一般財団法人設立に依ることとなり、信託法と会社法の乖離が更に広がっていると言える。

4.契約締結に依る設定、或いは遺言に依る設定のみに限定されている(新・信託法3条1項及び2項)。

遺言信託に於ける委託者の権利義務については、「相続人は委託者の権利義務を有する」とする甲案と、「相続人は委託者の権利義務を有しない」とする乙案の見解があった(注FF56)。結果としては乙案に基づき、委託者の相続人は、委託者の地位を相続に依り承継しないこととされたものの、信託行為に別段の定めがある場合には、その定めるところに依るものとされた(新・信託法147条)。尚、遺言に依る目的信託の場合、信託管理人を設定する必要があり、遺言に依り設定された目的信託に於いては、信託管理人が就任しない状態が1年継続した時は終了すると規定されている(新・信託法258条8項)。遺言に依り目的信託設定を行う場合のスキームは以下の通りである。



出典:星田寛「福祉型信託、目的信託の代替方法との税制の比較検討」(信託協会『信託』Vol.232(2007.11)所収)P51。

a.委託者は遺言を作成し、死亡に因り、遺言に基づき委託者の財産を受託者に移転するが、委託者の相続人は、委託者の地位を承継しない。
b.受託者は、信託目的に従い受託した信託財産を管理及び運用等した上で、信託財産から必要額を受給者に定時交付する。その際、信託管理人が受託者を監督することとなる。
c.信託期間終了と伴に、遺言に定める帰属権利者に残余財産を交付することとなる。

5.信託の変更に依り受益者の定めを設定出来ない(新・信託法258条2項)。

また、受益者の定めのある信託に於いては、信託の変更に依り、受益者の定めを廃止することは禁じられている(新・信託法258条3項)。寺本(2008)に依れば、受益者は信託の一要素ではあるが、一般信託と目的信託とでは、信託目的が異なり(特定の受益者の利益を図るか、特定の受益者の利益を離れた、特定目的の達成を図るか)、新・信託法258条乃至本法261条の規定する通り、信託設定の方法及び存続期間の限定の有無、並びに関係当事者の権利内容等、基本的な点に於いて大きな差異が存在し、信託の変更に依り、この両者を跨ぐことが可能とすることは相当であるとは言えないと考えられる為であると説明している(注FF57)。

6.目的信託に於いては、委託者が受託者に対し一定の監視及び監督権限を有する為、倒産隔離手段として利用する際には、委託者の影響を排除する為の方法を検討する必要があること。

また、信託管理人が選任される(新・信託法258条4項)場合にあっては、信託管理人に依り受託者の監督が行われることとなる(注FF58)。強化された委託者の権限は以下の通り。

強化される委託者の権利(145条2項)

出典:田中和明「新信託法制の資産流動化型信託への影響と活用」(小林秀行編『資産流動化・証券化の再構築』(日本評論社、2010.09)所収)P108。

号数 権利内容 新・信託法参照条文
1 信託財産に属する財産に対する強制執行等に対する第三者異議を主張する権利 23条5項及び同条6項
2 受託者の権限違反行為の取消権 27条1項及び同条2項
新受託者が就任するに至る迄の間の前受託者の権限違反行為の取消権 75条4項
3 利益相反行為の取消権 31条6項及び同条7項
4 信託事務の処理をしないことが受益者の利益に反するものについて、これを固有財産又は受託者の利害関係人の計算でした場合の、当該行為を信託財産の為にされたものと見做す権利 32条4項
5 帳簿等の閲覧又は謄写の請求権 38条1項
7 受託者がその任務を怠った場合の損失填補又は原状回復請求権 40条
8 法人である受託者の任務懈怠に対する役員への損失填補又は原状回復請求権 41条
9 受託者の違反行為に対する差止請求権 44条
10 検査役選任申立権 46条1項
11 前受託者の信託財産に属する財産の処分に対する差止請求権 59条5項
12 前受託者の相続人等の信託財産に属する財産の処分に対する差止請求権 60条3項及び同条5項
13 限定責任信託に於いて給付可能額を超えて受益者に対する信託財産に係る給付をした場合の金銭填補又は支払請求権 226条1項
14 限定責任信託に於いて欠損額が生じた際の金銭填補又は支払請求権 228条1項
15 会計監査人がその任務を怠ったことに因り信託財産に損失が生じた場合の損失填補請求権 254条1項

この点について勝田(2006)は、委託者が信託終了時に於ける財産の帰属者となっている場合には、財産隠匿の虞が多々存在するとし、信託管理人の監督の実績が挙がるかの不透明性が存在し、差押不能定期預金を作成可能とされる虞が依然として存在するとされている(注FF59)。橋谷・小川(2006)は、信託管理人の選任について受託者と信託管理人は如何なるメルクマールを以て行動すれば良いか、と言うが不明確であるとする(注FF60)。
信託財産は基本的に少額であると考えられる上、信託報酬も低額であり、この点からも受託者、或いは信託管理人の成り手の問題が発生し得る(注FF61)。この点については、ある程度受託者の責任を限定する等のインセンティブ規定を設置することで回避可能な問題であると考えられるが、問題は受託者がそのインセンティブ制度に対し、如何様に考えるかと言う不確定要素が存在する点である。

7.契約に依り設定された目的信託に於いては、委託者の権利(6号を除く新・信託法145条2項各号)を強化すると伴に、委託者の権利を確保する為に受託者の義務(新・信託法145条4項各号)を厳格化し、かつ、信託の変更に依り、これらの権利義務を変更することは禁じられている(新・信託法260条1項)。

寺本(2008)に依れば、契約に依り成された目的信託に於いては、通常の信託であれば、受益者が有する受託者に対する監督権限である、新・信託法145条2項各号(6号を除く)掲記の権利を委託者が有し、受託者が新・信託法145条4項各号掲記の義務を委託者に対して負う旨の定めが設定されたものと見做すと伴に、信託の変更に依り、叙上の権利を制限或いは叙上の義務を減免することが出来ないことを規定したものであると説明される(注FF62)。


目的信託 参考文献

今泉邦子「目的信託」(奥島孝康先生古稀記念論文集編集委員会編『現代企業法学の理論と動態 奥島孝康先生古稀記念論文集 第1巻 下篇』(成文堂、2011.10)所収)

小野傑、有吉尚哉「新形態の信託 自己信託・事業の信託・目的信託・セキュリティトラスト(ぎょうせい『法律のひろば』Vol.60(5)(2007.05)所収)」

勝田信篤「目的信託について」(清和大学法学会『清和研究論集』Vol.12(2006.03)所収)

喜多綾子「「受益者等が存じない信託」の課税と受益者等の意義 目的信託を中心として」(立命館大学法学会『立命館法學』Vol.318(2008.02))所収)

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http://www.shintaku-kyokai.or.jp/profile/pdf/seikaronbun3401.pdf

瀬々敦子「目的信託 日本の改正信託法と英国のCharities Actの改正」(国際商事法研究所『国際商事法務』Vol.539(2007)所収)

高橋賢司「目的信託」(経済法令研究会『金融・商事判例』Vol.1261(2007.03)所収)

中島孝一「目的信託の創設 その仕組みと受託者課税」(日本税理士会連合会『月間税理』Vol.50(6)(2007.04)所収)

中田裕康「取引と財産--取引法における一般財団法人と目的信託--」(川井健先生傘寿記念論文集刊行委員会編『取引法の変容と新たな展開 川井健先生傘寿記念論文集』(日本評論社、2007.07)所収)

橋谷聡一、小川清一郎「目的信託のわが国信託法への導入について」(明海大学不動産学部『明海大学不動産学部論集』Vol.14(2006.03)所収)

星田寛「福祉型信託、目的信託の代替方法との税制の比較検討」(信託協会『信託』Vol.232(2007.11)所収)

八並廉「自己信託及び目的信託に関する一考察 将来顕在化しうる法の衝突についての示唆」(九州大学法学会『九州大学成果文献』Vol.97(2008.09)所収)
http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/handle/2324/14725/97_p209.pdf

目的信託 尾注

注FF01:例として遠藤雅範「公益信託」(新井誠、神田秀樹、木南敦『信託法制の展望』(日本評論社、2011.03)所収)、鎌野邦樹「公益信託の展望」遠藤雅範「公益信託」(新井誠、神田秀樹、木南敦『信託法制の展望』(日本評論社、2011.03)所収)、大山直樹「公益信託をめぐる今日的諸問題――英国2006年公益法における公益概念とわが国の現状を通して――」(東洋大学大学院『東洋大学大学院紀要(法・経営・経済)』Vol.47(2010)所収)。

注FF02:喜多綾子「「受益者等が存じない信託」の課税と受益者等の意義 目的信託を中心として」(立命館大学法学会『立命館法學』Vol.318(2008.02))所収)P50。原典は「国会議事録(抜粋)」(信託協会『信託』Vol.229(2007.02)所収)P117。

注FF03:新井誠『信託法〔第3版〕』(有斐閣、2008.03)pp.417-418。

公益信託の許可に関する審査基準
一 信託の目的
(1)当該信託は、[公益信託ニ関スル法律]第二条に規定する学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とするものであって、当該目的は、総務省の所掌事務の範囲に属するものでなければならない。
(2)当該信託は、信託法第二五八条第一項に規定する受益者の定め(受益者を定める方法の定めを含む。)のないものであって、積極的に不特定多数の者の利益の実現を目的とするものでなければならない。
したがって、次のような目的のものは許可しないものとする。
ア 同窓会、同好会等構成員相互の親睦、連絡、意見交換等を主たる目的とするもの
イ 特定団体の構成員又は特定職域の者のみを対象とする福利厚生、相互救済等を主たる目的とするもの
ウ 後援会等特定個人の精神的、経済的支援を目的とするもの

注FF04:四宮和夫『信託法(新版)』(有斐閣、1989.09)P127。尚、英米法に於いても、伝統的には受益者の確定可能性が信託の有効要件とされてきた(例として、米国第2次信託法リステイトメント第124条)。日本に云う「目的信託」とは、米国統一信託法典§409では「特定出来る受益者が存在しない非公益信託」として、法的強制力を伴う正式な信託として有効と認められている。この点について、四宮和夫『信託法(新版)』(有斐閣、1989.09)P122、能見善久『現代信託法』(有斐閣、2004.10)P285、樋口範雄『アメリカ信託法ノートI』(弘文堂、2000.07)P105以下参照。

注FF05:George W. Keeton、L.A. Sheridan著、海原文雄、中野正俊監訳、日本信託銀行信託法研究会訳『イギリス信託法』(有信堂高文社、1988.03)。

注FF06:橋谷聡一、小川清一郎「目的信託のわが国信託法への導入について」(明海大学不動産学部『明海大学不動産学部論集』Vol.14(2006.03)所収)P39。

注FF07:アメリカの統一信託法典(Uniform Trust Code : UTC)§408は、動物の世話の為の信託について、明文に依り特則を定めている。

注FF08:パブリック・コメントに於いて、多くの具体的なニーズが指摘された。寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)pp.448-449参照。尚、叙上の様な目的を持った、目的の制限がない一般財団法人を設立することで対応すれば、制度的な障害は存在しないこととなる。但し、この対応は、拠出財産が少額である場合や、短期間で終了する場合には、一般財団法人の制度利用が事実上困難化する。その理由として、一般財団法人の設立要件が挙げられる。

1.定款作成と公証人の認証、設立の登記
2.設立者に依る300万円以上の財産拠出
3.評議員、評議員会、理事、理事会及び監事の設置等

注FF09:例として、イギリス王室属領ジャージー代官管轄区(Bailiwick of Jersey)の信託法に於いては、履行監督者(Enforcer)が置かれる場合には、非公益の目的信託が有効であることを規定しており、イギリスの信託法に於いても、一定の場合には非公益の目的信託が認められる。参考として能見善久『現代信託法』(有斐閣、2004.10)P286、瀬々敦子「イギリス信託法における受託者団体の財産帰属形態とcy-près理論」(信託協会『信託』Vol.179(1994.08)所収)P28。

注FF10:法務省「法制審議会信託法部会第10回会議議事録」(2005.02.25)、法務省「法制審議会信託法部会第16回会議議事録」(2005.06.03)。
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi_050225-1.html
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi2_050603-1.html

注FF11:チャリタブル・トラストについては、西村ときわ法律事務所編『資産・債権の流動化・証券化』(金融財政事情研究会、2006.04)P24以下を参照されたい。

注FF12:井出保夫『証券化のしくみ 入門の金融 見る・読む・わかる』(日本実業出版社、1999.12)pp.128-129、岡内幸策「証券化入門 資産価値に基づくファイナンス手法のすべて」(日本経済新聞社、1999.07)P200。

注FF13:田中和明「信託法改正と信託実務」(信託協会『信託』Vol.223(2005.08)所収)P53。

注FF14:法務省「法制審議会信託法部会第16回会議議事録」(2005.06.03)。

注FF15:法務省「法制審議会信託法部会第16回会議議事録」(2005.06.03)。

注FF16:岡本康二「平成18年信託法と信託業務」(信託法学会『信託法研究』Vol.36(2011)所収)pp.3-4。

注FF17:岡本康二「平成18年信託法と信託業務」(信託法学会『信託法研究』Vol.36(2011)所収)pp.19-20。

注FF18:法務省「法制審議会信託法部会第10回会議議事録」(2005.02.25)。

「信託宣言についてあれだけ、債権者詐害(中略)を問題にするのなら、目的信託だって同じように使おうと思えば使える、受益者が本当はいるのに受益者を隠しておくことすらできる(中略)帰属権利者を定めて目的信託を(中略)しますと、財産隠匿と(中略)いうことが今までよく出ていましたが、これは差押禁止定期預金を作るようなもの(中略)ある不動産を−ペットでもいいし、何かを受益者に相当するものとして置いて、10年後はその目的が終了して、その帰属権利者に戻る、それはイコール委託者かもしれないということになると、10年間は差押えをしないようにしてもらうということ」(法務省「法制審議会信託法部会第10回会議議事録」(2005.02.25))

尚、勝田(2006)は、不適切な目的信託の例として、「猫の飼育費に1億円を信託して、9,900万円返ってくる」と言う事例を挙げている(注FF18.01)。

注FF18.01:勝田信篤「目的信託について」(清和大学法学会『清和研究論集』Vol.12(2006.03)所収)P47。

注FF19:法務省「法制審議会信託法部会第16回会議議事録」(2005.06.03)。

「信託債権が発生すれば、それについては当然この信託財産となる目的信託の信託財産には、その債権者がかかってこられることになりますので、純粋な意味で差押禁止財産をつくるということには、必ずしもならない」(法務省「法制審議会信託法部会第16回会議議事録」(2005.06.03))

注FF20:法務省「法制審議会信託法部会第10回会議議事録」(2005.02.25)、法務省「法制審議会信託法部会第16回会議議事録」(2005.06.03)

「結局、差押不可能定期預金をつくるということですよね。もちろん、そのつくった時点で債権者詐害の状態にあれば、債権者詐害信託として取り消し得ることになるわけですが、なければ、大丈夫なうちにどんどん目的信託をつくっておけばよいということになりそうな気がするんですね。もしそういったことを避けようということになりますと、乙案の第2 項の『一定の期間』というのを、やはりかなり短くせざるを得ないのではないか。そうなりますと、今度は、先ほど申し上げましたような準公益信託とか、あるいは資産流動化のための目的信託というものの需要に添えない結果になるのではないか。したがって、目的信託というものを一般的に認めるという形で本当に書けるのかというのは、私は、かなり疑問な気がいたしまして、それならば、資産流動化なら資産流動化のためにつくればいいのではないかという気がするのですが。」(法務省「法制審議会信託法部会第16回会議議事録」(2005.06.03))

「その間の受益が、信託期間中の受益者への分配によって〔引用者注:おそらく言い間違いであろう〕信託財産がどれだけ減少するかというのは、当該目的財産のつくり方の問題ですから、私は事実上、やはり、差押不可の定期預金をつくることは十分に可能だと思います。」(法務省「法制審議会信託法部会第16回会議議事録」(2005.06.03))

注FF21:橋谷聡一、小川清一郎「目的信託のわが国信託法への導入について」(明海大学不動産学部『明海大学不動産学部論集』Vol.14(2006.03)所収)P41。

注FF22:八並廉「自己信託及び目的信託に関する一考察 将来顕在化しうる法の衝突についての示唆」(九州大学法学会『九州大学成果文献』Vol.97(2008.09)所収)P223。

注FF23:田中和明「信託法改正と信託実務」(信託協会『信託』Vol.223(2005.08)所収)P54。

注FF24:法務省「信託法改正要綱試案の補足説明」P187。
http://www.moj.go.jp/content/000011802.pdf

注FF25:勝田信篤「目的信託について」(清和大学法学会『清和研究論集』Vol.12(2006.03)所収)P65。

注FF26:法務省「信託法改正要綱試案補足説明」P188(注135)。
http://www.moj.go.jp/content/000011802.pdf

「(前略)目的信託については、債権者詐害のために用いられるとの懸念もあり得るが、目的信託が設定された場合にあっては、委託者の債権者は、委託者に詐害意思のある限り、常に取消しが可能であるものとしている(後略)」

注FF27:甲案の支持意見が10件、乙案の支持意見が15件となっていた。
法務省「信託法改正要綱試案に関する意見募集の結果について」(2005.12.13)
http://www.moj.go.jp/content/000002070.pdf

「第69 いわゆる目的信託について
受益者を確定し得ない信託(いわゆる目的信託)は、公益信託を除き、有効に成立しないものとする【甲案】を支持する意見が10件、目的信託は有効に成立するものとするが、公益信託以外の信託であって受益者が確定されないものは、効力の発生の日から起算して一定の期間を超えて存続してはならないものとする【乙案】を支持する意見が15件であった。」

法務省「法制審議会信託法部会第20回会議議事録」
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi2_050916-1.html

「それから第69、目的信託のところでございます。これにつきましては意見が若干分かれておりますが、方向性としては、甲案よりも乙案の方が優勢かなと。件数で言うと2対3ぐらいの感じで優勢かなということでございました。不要だというのは、受益者のための制度であるからであるとか、だれにも処分できない財産が作られるのは望ましくないという意見でございますが、賛成意見としては、いわゆるチャリタブルトラストの代替的機能として、国内で完結できる資産流動化のスキームが可能になるということ、あるいは、商事に限らず、公益信託に当たらないような非営利信託、民間資金を活用したボランティア活動の受け皿としての潜在的価値が期待されるということで、賛成するという意見が多数を占めているという印象でございます。」(法制審議会信託法部会第20回会議議事録)

公表されている個別の意見の例としては、信託協会と大阪弁護士会の意見が存在する。

信託協会「「信託法改正要綱試案」に関する意見」(2005.10.04)pp.26-27。
http://www.shintaku-kyokai.or.jp/data/pdf/s170831.pdf

「現時点では両論に支持がある。甲案を支持する考え方は、目的信託を執行免脱に悪用する可能性を懸念するもの。乙案を支持する考え方としては、公益に近い目的で受益者の存在しない信託を設定したいというニーズが存在するが、現行の公益信託の要件が厳しく対応できないこと、流動化における特定持分信託代替のものとして利用できること、その他私的な目的での利用であっても信託の活用可能性を拡大する観点から、制度として可能とすべきというものである。その際、弊害防止のためには、信託管理人あるいは財産管理委員会のようなものを置くことが考えられる。」(信託協会「「信託法改正要綱試案」に関する意見」(2005.10.04)pp.26-27)

大阪弁護士会「信託法改正要綱試案に対する意見書」(2005.10.04)pp.113-114。
http://www.osakaben.or.jp/web/03_speak/iken/iken050830-2.pdf

「[結論] 甲案に賛成する。
[理由]
1 信託法は信託における基本法であるところ、特に基本法において目的信託を認めるほどの必要性があるものとは思われない。
2 乙案は、現行法の規定を変更し公益信託以外にも目的信託を認めるものであるが、特に認める必要として指摘されているのは、目的信託が導入できれば資産流動化の取引として、わが国でもケイマン諸島の手法に代替できるスキームを導入できるとの点であるところ、それは商事信託における資産流動化の手法としての場面のみの必要性であって商事信託一般の必要性ではなく、民事信託においてはあえて目的信託を設けなければならないほどの必要性があるとは思われない。
3 目的信託を認めると、特に民事信託においては詐害目的で濫用される危険が高く、詐害行為取消権や強制執行免脱罪は十分に詐害的行為を抑止できていない現状からすれば、むしろ弊害面の方が大きい。
4 従って、信託法において目的信託を認めるべきではなく、前記の流動化の要請は他の特別法によって達成すべき。」(大阪弁護士会「信託法改正要綱試案に対する意見書」(2005.10.04)pp.113-114)

注FF28:法務省「法制審議会信託法部会第24回会議議事録」(2005.11.14)、法務省「法制審議会信託法部会第25回会議議事録」(2005.11.18)
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi2_051104-1.html
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi2_051118-2.html

注FF29:寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)P451。

注FF30:八並廉「自己信託及び目的信託に関する一考察 将来顕在化しうる法の衝突についての示唆」(九州大学法学会『九州大学成果文献』Vol.97(2008.09)所収)P225。

注FF31:寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)pp.452-453(注2)。

注FF32:寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)P262(注8、注9)。

注FF33:後藤元「目的信託の存続期間の制限とその根拠の再検討」(一般社団法人信託協会『信託研究奨励金成果論文』Vol.34(2013.11)所収)pp.2-3。

注FF34:後藤元「目的信託の存続期間の制限とその根拠の再検討」(一般社団法人信託協会『信託研究奨励金成果論文』Vol.34(2013.11)所収)P3。

注FF35:能見善久『現代信託法』(有斐閣、2004.10) P284以下。

注FF36:法務省「法制審議会信託法部会第25回会議議事録」(2005.11.18)。

注FF37:一定期間以上に亘り、不動産権の帰属を不確定のままにしておくことを禁止するルールのこと。「権利設定時に生きている人の死後21年以内にどのようなことがあっても必ず権利が確定するのでなければ、その権利は設定当初から無効である」とするものである。この原則の参考として、井上彰「近代的永久拘束禁止の原則の誕生とユース法」(中央大学法学会『法學新報』Vol.113(2007.05)所収)を参照されたい。

注FF38:この点を指摘する文献として、瀬々敦子「目的信託 日本の改正信託法と英国のCharities Actの改正」(国際商事法研究所『国際商事法務』Vol.539(2007)所収)P615。

注FF39:八並廉「自己信託及び目的信託に関する一考察 将来顕在化しうる法の衝突についての示唆」(九州大学法学会『九州大学成果文献』Vol.97(2008.09)所収)pp.226-229。

注FF40:例として早川眞一郎「信託の国際的調和」(信託法学会『信託法研究』Vol.23(1998.12)所収)P49。

注FF41:例として森田果「信託」(有斐閣『民商法雑誌』Vol.135(6)(2007.03)所収)pp.1026及び1029。尚、森田(2007)は、信託財産が物であれば通則法第13条に依り、財産所在地法が適用され、債権であれば通則法第23条に依り当該債権の準拠法が適用されることになると説明している。

注FF42:例として森田果「信託」(有斐閣『民商法雑誌』Vol.135(6)(2007.03)所収)pp.1026及び1029。

注FF43:櫻田嘉章、道垣内正人編『法の適用に関する通則法〔第1巻〕』(有斐閣、2011.12)P343以下〔神前禎〕参照。

注FF44:新井誠監修、鈴木正具、大串淳子編『コンメンタール信託法』(ぎょうせい、2008.11)P586〔中村友之、鈴木正具〕。

注FF45:法務省「法制審議会信託法部会第19回会議議事録」(2005.07.29)
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi2_050729-1.html

「信託期間を限定するということに関して、我が国信託法には明文の規定はありません。ただし、これは他益信託一般に必要な原則ではないかというふうに考えます。というのは、特に受益者連続機能を認めることになりますと、信託財産が家族世襲財産となるという不安もあるわけですから、ぜひこのrule against perpetuities については導入していただきたい」(法務省「法制審議会信託法部会第19回会議議事録」(2005.07.29)〔新井誠発言〕)

注FF46:後藤元「目的信託の存続期間の制限とその根拠の再検討」(一般社団法人信託協会『信託研究奨励金成果論文』Vol.34(2013.11)所収)P6。

注FF47:村松秀樹、富澤賢一郎、鈴木秀昭、三木原聡『概説新信託法』(金融財政事情研究会、2008.08)P380(注4)。

「委託者と受託者とが存続期間経過後の信託の存続の合意を存続期間経過時にする場合には、あえて信託の終了・清算をさせる必要にも乏しい」(村松秀樹、富澤賢一郎、鈴木秀昭、三木原聡『概説新信託法』(金融財政事情研究会、2008.08)P380(注4))

注FF48:後藤元「目的信託の存続期間の制限とその根拠の再検討」(一般社団法人信託協会『信託研究奨励金成果論文』Vol.34(2013.11)所収)P16。

注FF49:新井誠監修、鈴木正具、大串淳子編『コンメンタール信託法』(ぎょうせい、2008.11)P587(注42)〔中村友之、鈴木正具〕。

注FF50:例としてSimon Gardner, “An Introduction to The Law of Trusts”, Hg. UK: Oxford University Press, c1990, P46.

注FF51:例としてDavid Hayton and Charles Marshall, “Commentary and Cases on The Law of Trusts and Equitable Remedies”, Hg. UK: Sweet & Maxwell, P512 (12th ed. c2005).

注FF52:“Black’s Law Dictionary”, P349 (5th ed. c1979).

注FF53:能見善久『現代信託法』(有斐閣、2004.10)P19、三菱信託銀行信託研究会編『信託の法務と実務〔4訂版〕』(金融財政事情研究会、2003.09)P296。

注FF54:Charities Act (c2006) §15.

注FF55:高橋賢司「目的信託」(経済法令研究会『金融・商事判例』Vol.1261(2007.03)所収)pp.191-192、八並廉「自己信託及び目的信託に関する一考察 将来顕在化しうる法の衝突についての示唆」(九州大学法学会『九州大学成果文献』Vol.97(2008.09)所収)pp.224-225、後藤元「目的信託の存続期間の制限とその根拠の再検討」(一般社団法人信託協会『信託研究奨励金成果論文』Vol.34(2013.11)所収)pp.2-3。

注FF56:法務省「信託法改正要綱試案補足説明」P172。

注FF57:寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)P451。

注FF58:法務省「信託法改正要綱試案補足説明」P187。

「受託者の監督は,委託者のほか,信託管理人が選任された場合にあっては信託管理人により行うものとする。」

注FF59:勝田信篤「目的信託について」(清和大学法学会『清和研究論集』Vol.12(2006.03)所収)pp.71-72。

注FF60:橋谷聡一、小川清一郎「目的信託のわが国信託法への導入について」(明海大学不動産学部『明海大学不動産学部論集』Vol.14(2006.03)所収)P51。

注FF61:同様の視点として、藤瀬裕司「商品設計者の視点から」(金融財政事情研究会『旬刊金融法務事情』Vol.1754(2005.11)所収)P28以下。

注FF62:寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)P453。






受益証券発行信託 尾注

2014-09-04 13:15:30 | CMBS論集用小ネタ
受益証券発行信託 尾注

注FDRE01:例として田邊宏康『有価証券と権利の結合法理』(成文堂、2002.07)P84。

注FDRE02:例として田邊宏康『有価証券と権利の結合法理』(成文堂、2002.07)P78。

注FDRE03:貸付信託法(1952年6月14日法律195号)2条1項に於いて、「当該信託契約に係る受益権を受益証券によつて表示するものをいう」とされている。残高の普及自体は、1993年の約50.7兆円が最高である(注FDRE03.01)。貸付信託の普及は、受益権が有価証券化されていたことよりは、その商品性に因るところが多く、有価証券である利点を活かし切れていなかったこともあると言えよう。

注FDRE03.01:一般社団法人信託協会「貸付信託期限別・委託者別残高推移」
http://www.shintaku-kyokai.or.jp/data/excel/p06-07.xls

7.貸付信託期限別・委託者別残高推移
   Loan Trusts by Term and Trustor

〔期    限    別〕 by Term (単位:億円,%)
(¥100 million)
年 度 末 2年もの 5年もの 合計
End of Fiscal 残 高
Balance
1990年  9,041 425,422 434,463
1991年  13,424 456,014 469,438
1992年  23,431 478,927 502,358
1993年  44,795 462,258 507,054
1994年  64,654 425,438 490,092
1995年  91,682 358,507 450,189
1996年  92,156 309,638 401,794
1997年  66,588 258,562 325,150
1998年  47,766 215,639 263,406
1999年  33,221 187,614 220,836
2000年  24,856 153,115 177,972
2001年  15,797 104,156 119,954
2002年  9,882 66,834 76,717
2003年  6,235 48,931 55,166
2004年  4,573 37,743 42,317
2005年  3,128 28,573 31,702
2006年  1,930 20,990 22,921
2007年  955 13,583 14,539
2008年  623 8,377 9,000
2009年  365 4,620 4,985
2010年  135 2,329 2,464
2011年  40 1,375 1,415
2012年  30 776 806
2013年  26 289 315
注:残高は信託元本である。
Note : Balance is trust principal.



注FDRE04:法務省民事局参事官室「信託法改正要綱試案 補足説明」(P179)
http://www.moj.go.jp/content/000011802.pdf

「現行法は、受益権の有価証券化に関し、特段の規定を設けていない。これに対し、学説上は、受益権を記名証券又は無記名証券に表章させることは可能であるとする見解が有力ではあるものの、法律の規定又は慣習法が存ずる場合にのみ権利の有価証券化は許されるとの見解も有力であり、そのため、実務上は、特別法の定めがある場合を除き、受益権の有価証券化は行われていないといわれている。しかし、信託は多様な形態で利用されるものであるところ、受益権を有価証券化するニーズは、特別法にその定めのある信託(投資信託、貸付信託及び特定目的信託)に限られないといわれており、受益権の有価証券化を一般的に認める規定を信託法に設けることによって、今後の信託の利用を促進することにもつながるものと考えられる。」

注FDRE05:知的財産信託については、例として寺本振透「知的財産信託」(新井誠、神田秀樹、木南敦編『信託法制の展望』(日本評論社、2011.03)所収)、 愛知靖之「新信託法と知的財産信託」(商事法務『NBL』Vol.869-870(2007.11-2007.12)所収)を参照。

注FDRE06:寺本(2008)に依れば、受益証券発行信託の信託財産については、一般の信託と同様に、信託法では特段の制約を設けていない為、金銭、不動産、有価証券並びに特許権等の知的財産は勿論のこと、特許を受ける権利、外国の財産権等も信託財産とすることが可能である(注FDRE06.01)。信託銀行が業務として受託する際には、信託業法等関係法令に従い、受託可能な財産に限定され、各社の業務方法書に記載された引受けを行う信託財産の種類の範囲内に限定されるが、多様な財産が受託可能である。

注FDRE06.01:寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)P32。

注FDRE07:福田政之「事業信託設定時・受益権販売時の諸問題」(中央経済社『旬刊経理情報』Vol.1140(2007.02)所収)P22。

注FDRE08:金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(2007.07.31)P31、No.3。
http://www.fsa.go.jp/news/19/syouken/20070731-7/00.pdf

「「金銭を信託財産とする」もの(定義府令第14条第2項第2号ロ・第3項第1号ロ)に該当するか否かは、基本的には、貴見のとおり、信託の設定に際して委託者から受託者に移転された財産が金銭であるか否かにより判断されるものと考えられます。なお、ご指摘の定義府令第14条第2項第2号・第3項第1号については、(1)委託者指図型の信託(各号イ)は「委託者」が発行者、(2)委託者非指図型の自益信託で金銭を信託財産とするもの(各号ロ)は「受託者」が発行者、(3)委託者非指図型で(2)に該当するもの以外の信託(各号ハ)は「委託者及び受託者」が発行者となるよう、規定を修正いたします。」

注FDRE09:金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(2007.07.31)P31、No.4。
http://www.fsa.go.jp/news/19/syouken/20070731-7/00.pdf

「ご指摘の「金銭と金銭以外の財産が併せて信託される場合」は、上記(2)の「金銭を信託財産とする」ものに該当しないと考えられますので、上記(1)の委託者指図型の信託に該当しない限り、上記(3)に該当するものとして、「委託者及び受託者」が発行者となるものと考えられます。」

注FDRE10:「一定の要件を満たすもの」とは、受益証券発行信託(合同運用信託や受益証券発行限定責任信託に該当する信託を除く)の内、以下に掲げる要件に該当する信託を指す(改正法人税法2条1項29号のハ)。

1.税務署長の承認を受けた法人が受託者となっていること。
2.各計算期間終了時の利益留保割合(未分配利益の額の元本総額に対する割合)が2.5%(25/1000)を超えない旨を信託行為に定めがあること。
3.各計算期間開始時に於いて、その時迄に到来した所定の時期の何れに於いても、算定された利益留保割合が2.5%相当額以下であること。
4.計算期間が1年を超えないこと。
5.受益者(受益者としての権利を現に有する者に限る)が存じない信託に該当したことがないこと。

「一定の要件を満たすもの」か否かの違いについて、課税対象の問題が挙げられる。特定受益証券発行信託に該当する場合は課税対象が受益者となる(改正法人税法61条の2の15及び同法同条16)。即ち、法人課税信託ではなく、その受益者に対し、当該受益証券発行信託の収益が分配された時には、所得税又は法人税が課税されることとされる。
受益証券発行信託の収益の分配等は、受益者が個人の時は、収益の分配は配当所得として、受益証券譲渡に依る所得は、株式等に係る譲渡所得等として、所得税が課税される。個人受益者が受ける特定受益証券発行信託の収益の分配は、配当控除は適用されない。また、法人受益者が受ける収益の分配は、受取配当等の益金不算入に関する規定も適用されない。そして、受益証券発行信託の収益の分配については、源泉徴収の対象となる。
対照的に、該当しない受益証券発行信託の信託財産から生ずる所得については、受託者に法人課税が行われることになる(改正法人税法2条1項29の2のイ)。即ち、受益証券発行信託の受託者は、受益証券発行信託毎に受託者の固有資産とは別に信託勘定(注FDRE10.01)に対して、法人税法が適用されることになる。菅野(2007)は、この点について、利益と損失が「受益者」に帰属するにも拘わらず、課税を「受託者」に行う、即ち法人課税を行う点に対して、根本的な疑義を呈している(注FDRE10.02)。また菅野(2007)は、現実問題としての要件の厳格性についても言及している(注FDRE10.03)。
利益留保割合の要件が非常に厳しく、事業信託に組み合わせて行う場合にその厳しさは目に見える様になる。そもそも事業信託の場合、通常、事業を継続して行う為には、一定額以上の利益を留保した上で、投資に回す必要がある為である。また、従来の資産管理型信託に於いてもリスクは付き纏う。要件を満たした上で、信託財産から生ずる利益に対して法人税を課すことなく受益者に分配したとしても、後日の税務調査に依って要件を満たしていなかったことが明らかになり、法人課税対象となる、と言うリスクである。

注FDRE10.01:受益証券発行信託の信託会計は、一般には信託協会の公表している「受益証券発行信託計算規則」に沿い対応することとなる。
参考
「信託資料 受益証券発行信託計算規則」(信託協会『信託』Vol.243(2010.08)所収)
社団法人信託協会「受益証券発行信託計算規則」(2007.09.26)
http://www.shintaku-kyokai.or.jp/trust/pdf/trust03_15.pdf

注FDRE10.02:菅野真美「限定責任信託と受益証券発行信託の創設――その仕組みと課税――」(日本税理士会連合会『月間税理』Vol.50(6)(2007.04)所収)P51。

注FDRE10.03:菅野真美「限定責任信託と受益証券発行信託の創設――その仕組みと課税――」(日本税理士会連合会『月間税理』Vol.50(6)(2007.04)所収)P51。

注FDRE11:佐藤勤「信託法講座(33)受益証券発行信託」(経済法令研究会『銀行法務21』Vol.684(2008.02)所収)P67。

注FDRE12:寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)pp.387-388。

注FDRE13:寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)P388(注2)。

注FDRE14:星治「受益証券発行信託の概要とその活用の可能性について」(信託協会『信託』Vol.246(2011.05)所収)P70。

注FDRE15:村松(2007)に依れば、無用な混乱を生じさせない為の措置であるとしている(村松秀樹「新信託法の解説」(信託協会『信託』Vol.230(2007.05)所収)P97)。

注FDRE16:同様の説明を行った文献として、寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)P410、村松秀樹「新信託法の解説」(信託協会『信託』Vol.230(2007.05)所収)P99。

注FDRE17:佐藤勤「信託法講座(33)受益証券発行信託」(経済法令研究会『銀行法務21』Vol.684(2008.02)所収)P72、寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)P411。

注FDRE18:寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)pp.411-412(注3)。

「受託者の違反行為の差止請求権については、その性質上一般的に緊急性が高いと考えられることに鑑みれば、本条第1項または第2項のような受益権の割合による制限を認めることは不適当であると考えられる。そこで、会社法第360条(株主による取締役の行為の差止請求権)の規定を参考に、6か月(またはこれを下回る期間)前から引き続き受益権を有する受益者に限り権利を行使することができる旨の信託行為の定めを設けることができることとしている。」(寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)pp.411-412(注3))

注FDRE19:江頭憲治郎『株式会社法』(有斐閣、2006.09)P207。

注FDRE20:寺本(2008)に依れば、「利害関係人」とは、信託監督人、受益者代理人、受益者集会の招集権者、登録受益権質権者、受益権を譲り受けようとする者(受益権の譲渡の効力を生じさせ、対抗要件具備を行う関係上、当該受益権についての受益証券の発行の有無を確認する必要がある為)が含まれているとする(寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)P393(注1))。

注FDRE21:村松(2007)に依れば、受益証券発行限定責任信託に於いては、信託財産を巡る信託債権者及び受益者の利益調整が深まるが故の規定であるとする(村松秀樹「新信託法の解説」(信託協会『信託』Vol.230(2007.05)所収)P101)。

注FDRE22:佐藤勤「信託法講座(33)受益証券発行信託」(経済法令研究会『銀行法務21』Vol.684(2008.02)所収)P72、寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)pp.410及び413。但し、貸付信託及び投資信託並びに特定目的信託に於いては、受益証券を取得する者は、当該受益証券に係る信託契約の委託者の権利義務又は地位も承継すると言う構成を採用している。

注FDRE23:株主は、株式を流通させることを望まず、長期的に保有することを望む場合もある為、株券の所持に伴う危険(紛失すると善意取得されることもある)を回避し、株主の静的安全を保護する為の制度である。株券不所持の申出を受けた会社は、株券を発行しない旨を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない為、この株主名簿への記載を以て、既存株券の効力が無効となる。

注FDRE24:内容については、以下を参照。
「受益証券発行信託の受益権に係る株式等振替制度要綱」(株式会社証券保管振替機構、2010.01.29)
http://www.jasdec.com/download/news/jdr_youkou_100201.pdf

注FDRE25:預託証券(DR)は、元を辿ると欧米の証券市場で発達して来たものである。それ故に、アメリカで発行される預託証券はADR(American Depositary Receipt)、アメリカ外(主にヨーロッパ)で発行される預託証券はGDR(Global Depositary Receipt)(注FDRE25.01)と呼称され、それぞれの地域で取引されている。元々、ADRやGDRは、自国に於ける投資規制等、様々な理由から株式そのものを他国の金融商品取引所に上場出来ない外国の会社が、欧米の証券市場で資金調達を行う為に利用されるものである。ADRは、アメリカ国外の企業が発行した株式を、アメリカ国内で容易に売買する目的で、1927年に開発されたシステムである(注FDRE25.02)。
ADRは、金融機関に預託されたアメリカ国外の企業株式を裏付けとした代替証券を、アメリカ国内で流通させようとするものであり、株式発行国で、当該株式を異動させずして、アメリカ国内で売買出来る様にしたものである。アメリカの投資家にとってみれば、ADRはアメリカ国外で株式を異動させることと比較して、ドルで決済を行える利便性も相俟って、簡便かつ迅速に売買可能な環境を作り出した為、その利点が買われ、普及していったのである。ADRは元々、株式を発行している企業の意向に依り設定されたものだが、発行企業の意向ではなく、投資家の意向で設定される、非上場の「アンスポンサード(Unsponsored)ADR」と呼称される、ADRの新類系も、近年急増している。
JDRは、この様な外国の会社に、日本の証券市場を通じた資金調達を行うことを可能とさせると伴に、日本の投資家に対し、より幅広い投資対象を提供することを目的として制定された制度である。例えば、インドに於いては現地の法令に依る制約に因り、海外市場への株式の直接上場は禁止されている(注FDRE25.03)が、JDRのシステムを用いた上で、初めて日本の金融商品取引所に上場が可能となる(まだ実例はないが)。また、国に因っては、法令で直に禁じられてはいないものの、実務的、或いは費用的な観点から、海外市場への上場にJDRを用いた方が優位となるケースもあろう。JDRは元々仕組みをADRに倣ったものであるが、大きな違いとして、ADRが信託を用いていない点が挙げられる。日本に於ける金融商品取引法の、有価証券の取扱いに於いても、JDRは金融商品取引法2条1項14号の「受益証券発行信託の受益証券」であることに対し、ADRは同項20号の「(同項)前各号に掲げる証券又は証券の預託を受けた者が当該証券又は証書の発行された国以外の国に於いて発行する証券又は証書で、当該預託を受けた証券又は証書に係る権利を表示するもの」となっており、信託であることは要件とされていないのである。
DRの制定趣旨が、危険回避や通信手段の不十分さを補うものであったことに対し、約90年の歴史を経て来ただけあり、種々の工夫が効を奏し、株式発行会社、投資家双方にとって利便のあるスキームとして完成していると評価出来よう。当時の制定趣旨に対する克服すべき点は、今日に於いては幾らでも対処法はある筈である。しかし、それにも拘わらず、企業及び投資家から広くDRが支持されているのである。近年に於いては、アジア各国(韓国(KDR)、台湾(TDR)、香港(HDR)、シンガポール(SDR)、インド(IDR)、中国(CDR)等)や、ブラジル(BDR)、ロシア(RDR)、南アフリカ(SADR)、ドバイ(DDR)、ナミビア(NDR)に於いても、独自のDR制度の整備が進んでいる。即ち、DRと言うシステムが、企業が海外の証券取引所に上場する際の国際標準の一つとなっているのである。ただ、世界各国の法令や実務差異は、まだまだ大きいのが現状である。ちなみに、ETNは日本が世界で初めてDR化したものだが、国債等の債券のDR化自体は、海外では事例がある(注FDRE25.04)。
JDRの創設は、日本の投資家にとっても、発行者にとっても、国際標準の一つとなったDRと言う手段に容易にアクセス可能とした点でメリットとなった。DRの形式を取ることに依り、直接上場の銘柄とは異なり、日本の投資家も、外国証券取引口座の開設を行うことなく、国内証券と同様に売買が可能となった。近年は、海外上場の外国株式や、外国ETFについても一部の証券会社で取引が可能となったが、外貨取引の扱いとなり、取引時間の制約が掛かっていた。JDRは、この制約を排除し、日本円で日本時間に取引を行える様にしたものである。発行者からしてみても、JDR創設前は海外から金融商品を持ち込む際には、日本で新たにETFを組成し直すと言った追加負担をしていた例もあった。しかし、JDRを用いることに依り、海外運用会社は、自社の金融商品を、簡素な手続きで日本に上場させることが可能となったのである。
証券保管振替機構に於いては、内国株式と同様な決済が行える様にもなった。近年に於いては、外国の証券取引所に上場している株式や、ADRを日本から売買するシステムもあるが、JDRの場合、日本の金融商品取引所に上場していれば、日本の投資家にとっては、海外企業の株式を日本時間に、日本円で容易に売買可能となったのである。外国株式や外国ETFであっても、特定口座に入れることは法律上可能ではあるが、実際には、特定口座に対応している証券会社は少ない。JDR化に依り、殆どの証券会社で特定口座を利用することが可能となったのである。また、外国人投資制限(例えば、一定の資格を取得しないと、有価証券の保有が認められない等)のある国の株式の場合には、日本金融商品取引所に上場していない限り、一般投資家からすれば、それらの株式への投資は非常に困難を極める。その様な国の株式への投資は、JDRの創設前は、アメリカに上場しているADRに投資することで対応していたケースもあるが、JDRの創設に依り、対応の利便性を向上させたのである。
参考
細見郁夫「受益証券発行信託の受益権に係る株式等振替制度の概要」(商事法務研究会『旬刊商事法務』No.1893(2010.03)所収)P33(注3)

星治「受益証券発行信託の概要とその活用の可能性について」(信託協会『信託』Vol.246(2011.05)所収)pp.78-79

高氏英機「ADR等預託証券の発行と独禁法」(国際商事法研究所『国際商事法務』Vol.1(2)(1973.02)所収)

福本葵「JDR(日本版預託証券)とは何か?」(公益財団法人日本証券経済研究所『証研レポート』Vol.1647(2008.04)所収)

「米国預託証券と同族会社の判定」(国際税務研究会『International taxation』Vol.315(2007.07)所収)

清水汪「ADRと外資法――ADR(米国預託証券)とは――」(雅粒社『時の法令』Vol.373(1960.12)所収)

Maureen S. Brundage ,Christopher P. Wells著、高山一三訳「日本企業の資金調達源としての米国預託証券(ADR)」(国際商事法研究所『国際商事法務』Vol.21(4)(1993.04)所収)

注FDRE25.01:ヨーロッパで流通するものは確かに多いが、それに限らない。また、一般に、アメリカ国内の、一定の機関投資家も購入可能である。

注FDRE25.02:ADRは、元々海を越えての株式運搬の危険回避や、通信手段が十分ではなかった時代に、売買を速やかに成立させる為の工夫として考案されたものと言われている。
J.P.Morganに依れば、1927年にJ.P.Morganが、イギリスの小売業者であるSelfridges社のADRを発行したケースがADRの第1号であるとされている(注FDRE25.02.01)。

注FDRE25.02.01:「J.P. Morgan Programs」
https://www.adr.com/issuers/jpmprograms

“On April 29, 1927, J.P.Morgan issued the first ADR, creating a new instrument that allows investment in foreign equities without the need for foreign brokerage. At the time, Selfridges Stores was a U.K. department store that was of great interest to U.S. investors.”

注FDRE25.03:琴浦諒「インドにおける預託証券に係る規制――JDRの創設を踏まえて――」(商事法務研究会『旬刊商事法務』Vol.1815(2007.11)所収)

注FDRE25.04:債券のDR化は、GDNと呼ばれている(GDNは非上場)。
http://wwss.citissb.com/adr/common/linkpageTB.aspx?linkFormat=TB&pageId=3&subpageid=179

注FDRE26:具体的には、2010年に、金等の商品の価格に連動するETF(内国商品現物型ETF)が、受益証券発行信託の形式を用いて東京証券取引所(東証)に上場している。
参考
「7月2日(金)、4種類の貴金属現物ETFが新規上場(三菱UFJ信託銀行)~「金」「プラチナ」「銀」「パラジウム」、初の国内組成による商品現物型ETFです~」(東京証券取引所、2010.06.14)
http://www.tse.or.jp/news/08/100614_a.html

注FDRE27:2011年に、指標に連動する債券(ETN)を信託財産とする受益証券発行信託が、ETN-JDRとして初めて東京証券取引所に上場した。
参考
「本邦初、ETN―JDRの受託業務の開始について~「上場信託ビジネス」の拡大~」(三菱UFJ信託銀行株式会社、2011.07.29)
http://www.tr.mufg.jp/ippan/release/pdf_mutb/110729_2.pdf

注FDRE28:「株券等の振替に関する業務規程」及び「株式等の振替に関する業務規程施行規則」の内容に関しては以下を参照。「株式等振替制度に係る業務処理要綱」の内容については、以下を参照。
「株券等の振替に関する業務規程」
http://www.jasdec.com/download/ds/furikae_kitei.pdf

「株式等の振替に関する業務規程施行規則」
http://www.jasdec.com/download/ds/furikae_kisoku.pdf

「株式等振替制度に係る業務処理要綱」
http://www.jasdec.com/download/ds/youryou_all_10_20140701.pdf

注FDRE29:2013年2月に、外国ETFを信託財産とする受益証券発行信託が、外国ETF-JDRとして初めて東京証券取引所に上場された。
参考
「上場信託(JDR) ETF-JDRとは 受益者様向け」(三菱UFJ信託銀行)
http://jdr.tr.mufg.jp/investors/

•本サイトにおける「本邦初」とは、日本で初めてETF/ETFを受託財産とした上場受益証券発行信託に係る業務の取扱を開始したことを言います。(2013年2月27日現在公表ベース。三菱UFJ信託銀行調べ)。

注FDRE30:「現在の上場会社数」(東証)
http://www.tse.or.jp/listing/companies/index.html

上場外国会社数の推移


月末 外国会社(単位:社)
2014.08.25 12
2014.07.31 12
2014.06.30 12
2014.05.31 12
2014.04.30 12
2014.03.31 12
2014.02.28 12
2014.01.31 11

「過去分 (1990年末~2013年末)」(東証)
http://www.tse.or.jp/listing/companies/b7gje6000000pj9r-att/b7gje6000000pjqx.pdf

上場外国会社数の推移


年末 外国会社(単位:社)
2013年末(2013年7月16日付の㈱大阪証券取引所との現物市場の統合に伴い東証に上場した上場会社数は1社) 11
2012年末 10
2011年末 11
2010年末 12
2009年末 15
2008年末 16
2007年末 25
2006年末 25
2005年末 28
2004年末 30
2003年末 32
2002年末 34
2001年末 38
2000年末 41
1999年末 43
1998年末 52
1997年末 60
1996年末 67
1995年末 77
1994年末 93
1993年末 110
1992年末 119
1991年末 125
1990年末 125



注FDRE31:金融商品取引所の有価証券上場規程1001条31号に於いて規定される。内国商品現物型ETFは、金や銀等の商品現物を信託財産(注FDRE31.01)として国内で組成される、新・信託法に基づくETFである。「投資信託及び投資法人に関する法律」に基づき国内で組成される通常の内国ETF(注FDRE31.02)については、投資信託委託会社(アセット・マネジメント会社)が信託に於ける委託者となるが、対照的に内国商品現物型ETFに於いては、商品現物の売買、運搬、真贋判定等、商品現物の取扱いに高い専門性を有する商社や、鉱山会社等の商品専門業者が信託の委託者となる。尚、内国商品現物型ETFに於いては、受益者が振替受益権を信託財産に転換することにより、受益者が貴金属等の商品現物を直接取得可能となる様な商品設計も可能となる。

注FDRE31.01:金融商品取引所の有価証券上場規程1001条23号。具体的には、鉱物等の商品先物取引法2条1項に規定する商品を指す。

注FDRE31.02:「投資信託及び投資法人に関する法律」に規定する投資信託の受益証券。特定の株価指数等に連動する投資成果を目指す投資証券信託に係るものを指す。

注FDRE32:金融審議会金融分科第一部会報告「投資サービス法(仮称)に向けて」(2005.12.22)P27。
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/siryou/kinyu/dai1/f-20051222_d1sir/b.pdf

「発行者の概念は、開示制度において、開示義務者を定める重要な概念である。投資サービス法の下では、様々な種類の投資商品が新たに開示規制の対象となってくることが想定されるが、発行者については、現在と同様、「開示に必要な情報を確実に入手して提供できる者」を発行者として捉えるとの考え方に沿って整理していくことが適当と考えられる。」

注FDRE33:受託有価証券である外国ETFが外国投資信託の受益証券(金融商品取引法2条1項10号)に該当する場合には「運用会社」が、外国投資証券(金融商品取引法2条1項11号)に該当する場合には、「外国投資法人」が金融商品取引法上の発行者となる。以下に、外国会社がJDRを上場する際に、特に注意を払うべき点及び適用される基準を示す。

外国会社がJDRを上場する際に、特に注意を払うべき点及び適用される基準

1.上場申請者(金融商品取引所の有価証券上場規程201条1項) 外国会社がJDRを発行する場合の金融商品取引法上の発行者(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令14条2項3号)は、JDRを発行する受託者(信託銀行等)てはなく、当該外国会社(受託有価証券となる外国株式の発行者)となる。金融商品取引所の有価証券上場規程201条1項に於いては、「株券等の新規上場は、当該株券等の発行者からの申請により行うものとする。」と規定されており、JDRを上場しようとする場合に於ける新規上場申請者についても、当該外国会社となる。
2.信託契約等の締結(金融商品取引所の有価証券上場規程206条1項4号) 外国会社がJDRの新規上場申請者を行う際には、当該JDRに関する信託契約が適切に締結される必要がある。その前提から、金融商品取引所の有価証券上場規程206条1項4号に於いて、新規上場申請者が外国株預託証券等(注FDRE33.01)(JDR)の新規上場申請者である場合には、新規上場申請に係る外国株預託証券等に関する預託契約等(注FDRE33.02)、その他の契約が金融商品取引所の有価証券上場規程施行規則で定めるところに依り締結されるものであることとした。金融商品取引所の有価証券上場規程施行規則では、具体的には右の通り、2つの要件を定めている。 要件1(金融商品取引所の有価証券上場規程施行規則213条3項2号):預託契約等、預託機関等と所有者の間で締結されること。 「所有者」とは、JDRの委託者であり、かつJDRの発行段階では当初受益者となる「金融商品取引業者(証券会社)」を指す。また、「預託機関等」とは、JDRの受託者となる信託銀行(信託会社)を指す。JDRの募集が行われ、その所有者が、引受金融商品取引業者から他の受益者に移った場合には、他の当該受益者が、この要件にある「所有者」となる。この場合、「他の当該受益者」は、「金融商品取引業者と預託機関等の間で、当初締結された信託契約を、事後的に承継した」ことと見做されることとなる。
要件2(金融商品取引所の有価証券上場規程施行規則213条3項2号):東証が適当と認める契約を締結していること。 「東証が適当と認める契約」とは、具体的には、JDRの受託有価証券となる「外国株券」を発行する外国会社が適宜開示を行う場合に、必要な情報を受託者が提供する契約を指す。元々、上場制度に於ける適時開示の義務者は、JDRの信託財産(受託有価証券)となる「外国株券」を発行する上場外国会社である。しかし、JDRに係る信託契約は、委託者と受託者との間で締結されることとなる為、発行スキーム次第では、「外国株券」を発行する外国会社が、必ずしも信託契約の締結者とならないことがある(注FDRE33.03)。JDRに係る信託契約に変更があった場合、当該変更は投資判断に重要な影響を与えると考えられる為、金融商品取引所の有価証券上場規程では変更内容に係る開示を要求している。しかし、開示を行う上場外国会社は、必ずしも信託契約の当事者ではない状況に於いては、投資者に対して適切な情報開示が行えなくなるリスクがある。従って、上場外国会社に依る適切な情報開示を確保する為、「東証が適当と認める契約」を要求することとしたのである。
3.指定保管振替機関に於ける取扱い(金融商品取引所の有価証券上場規程206条1項2号) 外国会社が、JDRを上場しようとする場合には、上場対象となるJDRが株式等の振替に関する法律の適用対象であること、又は上場の時迄に当該取扱いの対象となる見込みがあることが必要となる。
4.受益証券の様式(金融商品取引所の有価証券上場規程206条1項5号) 受益証券発行信託の受益証券は、社債、株式等の振替に関する法律の対象となるので、無記名式グローバル・ノート方式に依り発行される。これに依り、通常受益証券の交付は行われないことになる。但し、受益者(又はその利害関係人)が信託法に定められた権利の行使をする為、裁判所等の受託者以外の者に、受益証券の提示が必要な場合等、信託契約に定める事象が発生した場合に限定して、受益証券の交付が行われる場合がある。受益者に対して交付が行われた場合、当該受益証券の偽造或いは変造が行われた場合、上場有価証券としての円滑な流通が阻害され、また、経済社会に与える影響も重大であることから、この様な事態に陥ることを防止する為、交付目的の受益証券に限り、一定の適格要件に合致する受益証券の発行を義務付けることとなった。具体的には、交付目的の受益証券の様式について、金融商品取引所の有価証券上場規程施行規則で定める要件(注FDRE33.04)に適合していること、又は当該要件に適合する様式の受益証券を作成する旨を、新規上場申請を行う外国会社(発行者)の取締役会に於いて決議済であることを要求することとしている。

注FDRE33.01:金融商品取引所の有価証券上場規程に於ける「外国株預託証券等」とは、外国株預託証券又は外国株信託受益証券のことを云う(金融商品取引所の有価証券上場規程2条12号)。「外国株預託証券」とは、金融商品取引法2条1項20号に掲げる有価証券で、外国株券に係る権利を表示するものであり(金融商品取引所の有価証券上場規程2条11号)、いわゆるADRやGDRと言った、預託証券のことを指している。また、「外国株信託受益証券」てなは、金融商品取引法施行令2条の3第3号に規定する有価証券信託受益証券の内、同号に規定する受託有価証券が外国株券であるものであり(金融商品取引所の有価証券上場規程2条10号)、JDRのことを指している。

注FDRE33.02:金融商品取引所の有価証券上場規程に於ける「預託契約等」とは、外国株預託証券については、当該外国株預託証券に係る預託契約を指す。また、外国株信託受益証券については、当該外国株信託受益証券に係る信託契約を指す。

注FDRE33.03:例えば、以下のスキームでは、外国会社が信託契約の締結者になっていない。


出典:舞田浩二「受益証券発行信託の受益証券に係る上場制度の整備について――JDR(日本型預託証券)及び商品現物型ETFの上場制度に関する解説――」(信託協会『信託』Vol.241(2010.02)所収)P84

注FDRE33.04:金融商品取引所の有価証券上場規程施行規則で定める要件は以下の通り。
1.印刷会社名及び多色細線模様が印刷されているものであること。
2.新規上場申請を行う外国会社(発行者)の社名(又は社章)或いは印刷会社が予め当取引所に届け出た標章の何れかを「すきいれ」(「透かし」を入れたもの)しているものであること。
3.東証が十分な管理組織を有していると確認した印刷会社に依り作成されていること。

注FDRE34:例として、琴浦諒「インドにおける預託証券に係る規制――JDRの創設を踏まえて――」(商事法務研究会『旬刊商事法務』Vol.1815(2007.11)所収)P25を参照。

注FDRE35:例として樋口航「受益証券発行信託の活用事例と法的論点 JDRを中心に」(商事法務研究会『旬刊商事法務』Vol.2006(2013.08)所収)P91、金融法委員会「金融関連法令のクロスボーダー適用に関する中間論点整理――証券取引法を中心に――」(2002.09.13)、金融法委員会「外国会社と委任状勧誘規制」(2011.09.05)を参照。

金融法委員会「金融関連法令のクロスボーダー適用に関する中間論点整理――証券取引法を中心に――」(2002.09.13)
http://www.flb.gr.jp/jdoc/publication11-j.pdf

金融法委員会「外国会社と委任状勧誘規制」(2011.09.05)
http://www.flb.gr.jp/jdoc/publication38-j.pdf

注FDRE36:参考として、亀井達彦、磯部佳奈絵「JDR形式による指標連動証券の上場制度等の整備――指標連動証券の上場制度に関する解説と活用方法、今後の広がり――」(信託協会『信託』Vol.246(2011.05)所収)、亀井達彦「指標連動証券(ETN)の上場制度等の整備――指標連動証券(ETN)の上場制度に関する解説と活用方法、今後の広がり――」(全国銀行協会『金融』Vol.774(2011.09)所収)を参照。

注FDRE37:ETN-JDR、及び外国ETF-JDR、並びに外国商品現物型ETF-JDRは、何れも特定の指標、或いは商品の価格に連動する点が共通する。例えば、ETN-JDRでは、信託財産である外国連動証券の発行体が、指標に連動する価格で常時買取及び償還を保証することに依り、指標との連動性が担保される(上場規程945条1項3号a)。
外国ETF-JDR、及び外国商品現物型ETF-JDRは、JDRのスキームを用いることなく、信託財産である受託有価証券そのものを上場させることが可能(ETN-JDRの場合、信託財産であるETNそのものを上場させることは、現在に於いては現行の上場規程上不可能である。注FDRE37.01)だが、JDRのスキームを用いることで、投資家は外国証券取引口座を開設することなく、通常の証券取引口座を通じてJDRを売買することが可能であること等、円滑な流通を図る効果があると考えられる。尚、一般的な外国ETF-JDR、及び外国商品現物型ETF-JDRのスキームの概要は以下の通りである。



出典:樋口航「受益証券発行信託の活用事例と法的論点 JDRを中心に」(商事法務研究会『旬刊商事法務』Vol.2006(2013.08)所収)P87、図表3。

また、一般的なETNのスキームの概要は以下の通りである。


出典:「ETNとは 仕組み」(東証)
http://www.tse.or.jp/rules/etf/etninfo/outline.html

1.信用力のある金融機関(大手証券会社、銀行等)が大口投資家からの設定請求に依り、指標に連動した価格でETNを発行する。
2.大口投資家は、常時指標に連動した価格でのETNの償還を発行者に請求することが可能。ETNは発行体となる金融機関が、指標に連動する価格での常時買取・常時償還(ETNの償還については、JDRの委託者である国内法人に対して請求(買取請求)することになる。何故なら、実際に供給・流通されるETNはJDR形式となる為である)を保証することに依り、指標との連動性を確保している。
3.マーケット・メーカーである大口投資家は、発行されたETNを市場に供給し、投資家は流通市場でETNを売買することが可能である。

ETN-JDRについては、叙上の外国ETF-JDR、及び外国商品現物型ETF-JDRのスキームの(1)がETFからETNに変更されるだけであり、後のスキーム自体は同様である。実際の例として、三菱UFJ信託銀行株式会社の例を見てみよう。



出典:「本邦初、ETN―JDRの受託業務の開始について~「上場信託ビジネス」の拡大~」(三菱UFJ信託銀行株式会社、2011.07.29)
http://www.tr.mufg.jp/ippan/release/pdf_mutb/110729_2.pdf

注FDRE37.01:東証に依れば、本来であれば様々な取引インフラ等の手当てが必要となるところだが、JDR形式を利用することにより、既存のシステム等のインフラに手を加えることなく活用可能であることや、証券会社の特定口座でも扱えるといったメリットが有ることから、ETNについてはJDR形式での上場に限定することとしたとのことである。
参考
「ETNとは 仕組み」(東証)
http://www.tse.or.jp/rules/etf/etninfo/outline.html

注FDRE38:「金融商品取引法制に関する政令案・内閣府令案等」に対するパブリックコメントの結果等について(2007.07.31公表)中の「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」P34、15番。
http://www.fsa.go.jp/news/19/syouken/20070731-7/00.pdf

「15金融商品取引業から除外されるプロ向けの店頭デリバティブ取引は、兼業規制の対象となる金融商品取引業者にとって承認業務になるのか。」
「「金融商品取引業」の定義から除外される行為(金商法施行令第1条の8の3・定義府令第16条)に対する金商法の規定の適用の有無については、各規定の趣旨等に照らして判断されるべきものと考えられます。例えば、金商法第51条の一般的な監督規定等は、「金融商品取引業」以外の業務についても適用され得るものと考えられます。一方、当該行為は、基本的には、業規制や行為規制(例えば契約締結前・締結時の書面交付義務、運用報告書の作成・交付義務等)等の直接の適用対象とならず、帳簿書類の作成・保存義務の直接の適用対象ともならないものと考えられます。また、例えば、金融商品取引業から除外されるいわゆるプロ顧客向けの店頭デリバティブ取引等(金商法施行令第1条の8の3第1項第2号、定義府令第15条)については、外務員登録は必要ないものと考えられます。また、「金融商品取引業」の定義から除外される行為については、その規定上行為の主体が限定されているもの等もあり、金融商品取引業者がそのすべてを行うことが一律に可能とはいえませんが、個別の規定の要件を満たす業務を行う場合には、基本的には「付随業務」(金商法第35条第1項柱書)として行うことができ、兼業の届出(同条第3項)を行うことなく、また兼業の承認(同条第4項)を受けることなく行うことが可能と考えられます。」

注FDRE39:同様の説明を行っている文献の例として、黒沼悦郎『金融商品取引法入門 第5版』(日本経済新聞出版社、2013.02)pp.54-55。

注FDRE40:2008年12月12日より、改正された投資信託及び投資法人に関する法律が施行され、それに基づいて金や銀等の商品を投資信託財産とするETFの組成が可能となり、これらのETFは投資信託及び投資法人に関する法律の規制を受けることとなった。これに依り、「SPDRゴールド・シェア」は、投資信託及び投資法人に関する法律の規制を受けるETFとなった。上場当時は、受益証券発行信託の受益証券の性質を有する外国の有価証券であった為、日本の信託法に基づいて組成されたものではない。
参考
「SPDR ゴールド・シェア > 日本 > SPDR Gold Shares(GLD). Bringing the gold market to investors」
http://www.spdrgoldshares.com/japan/japanese/

注FDRE41:乙部辰良『詳解投資信託法』(第一法規出版、2001.03)pp.54-55。

注FDRE42:東証の運営する適時開示情報伝達システム(Timely Disclosure network)のこと。
http://www.tse.or.jp/listing/disclosure/index.html

注FDRE43:受託者を同一とする2つ以上の信託に於ける信託財産の全部を、別の1つの新たな信託に於ける信託財産とすることを指す(新・信託法2条10項)。信託の併合に係る各信託の受益権が、振替受益権である場合に於いて、振替受益権の発行者が当該信託の併合に際して、振替受益権を交付する際には、振替受益権の併合に於ける取扱いに準じて処理を行うこととなる。

注FDRE44:「ある信託に於ける信託財産の一部を、受託者を同一とする他の信託に於ける信託財産として移転すること」(吸収信託分割)、及び「ある信託に於ける信託財産の一部を、受託者を同一とする新たな信託に於ける信託財産として移転すること」(新規信託分割)の2種類の分割信託を含む概念を指す(新・信託法2条11項)。吸収信託分割に係る分割信託(新・信託法155条1項6号に規定する分割信託を云う)の受益権、或いは新規信託分割に係る従前の信託の受益権が振替受益権である場合に於いて、当該信託の分割に際し、振替受益権の発行者が振替受益権を交付する際には、振替受益権の併合に於ける取扱いに準じて処理を行うこととなる。

注FDRE45:自己口の保有欄に記録されている受益権併合銘柄の振替受益権の数について、減少させるべき数は、以下の1.と2.の数を合計したものとされる。

1.当該保有欄に記録されている受益権併合銘柄の振替受益権の数(2.の特別受益者の数が有る時は、当該受益権併合銘柄の数から、特別受益者毎の数の合計数を減じて得た数)から、その数に減少比率を乗じて得た数(端数は切り捨てる)を減じて得た数。
2.当該保有欄に記録されている受益権併合銘柄の振替受益権の数についての特別受益者管理簿に記録されている特別受益者毎の数から、その数に減少比率を乗じて得た数(端数は切り捨てる)を減じて得た数の合計数。

自己口の質権欄に記録されている受益権併合銘柄の振替受益権の数について、減少させるべき数は、当該質権欄に記録されている受益権併合銘柄の受益者(質権設定者)毎の質権の目的である受益権の数から、その数に減少比率を乗じて得た数(端数は切り捨てる)を減じて得た数の合計数とされる。

注FDRE46:証券保管振替機構は、以下の事由に該当した際には、総受益者通知を行う。

1.受益証券発行信託の計算期日が到来した時
2.振替受益権の発行者が、受益証券発行信託の信託財産に係る議決権を行使することの出来る受益者を確定させる為の日を定めた時
3.振替受益権の発行者が、振替受益権に係る議決権を行使することの出来る受益者を確定させる為の日を定めた時
4.振替機関等が、社債、株式等の振替に関する法律127条の10に於ける規定に依り、特定の銘柄に於ける振替受益権についての記録の全部を抹消した時
5.振替受益権について、信託の変更に依り受益権の併合、或いは分割を行おうとする場合に於いて、当該受益権の併合、或いは分割の効力が生ずる日が到来した時
6.信託の併合に係る各信託の受益権が振替受益権である場合に於いて、振替受益権の発行者が信託の併合に際して、振替受益権を交付しようとする時
7.分割信託の受益権が振替受益権である場合に於いて、振替受益権の発行者が吸収信託分割に際して振替受益権を交付しようとする時、或いは新規信託分割に於ける従前の信託の受益権が振替受益権である場合に於いて、振替受益権の発行者が新規信託分割に際して振替受益権を交付しようとする時
8.振替受益権に1.から7.迄に規定する以外の権利が付与される場合に於いて、その権利者を確定させる為の日を定めた時
9.証券保管振替機構が、社債、株式等の振替に関する法律22条1項の規定に依り、社債、株式等の振替に関する法律3条1項の指定を取り消された場合、或いは社債、株式等の振替に関する法律41条1項の規定に依り、当該指定が効力を喪失した場合であり、証券保管振替機構の振替業を承継する者が存在しない時
10.証券保管振替機構が特定の銘柄の振替受益権に於ける取扱いを廃止した時

注FDRE47:振替システムに於ける発行者に対する通知及びその他の証券保管振替機構が定める事務について、証券保管振替機構が加入者毎に定める21桁のコードを指す。証券保管振替機構では、加入者の情報を名寄せし、当該コードを鍵として管理する。振替受益権の発行者に対しては、株主等照会コードに基づき通知が行われることとなり、担保の匿名性の確保及び加入者口座コードの変更(証券会社の合併及び区分口座の変更等)に依る影響の排除が図られることとなる。

注FDRE48:証券保管振替機構が定める附番方法に依り、各口座管理機関が、加入者の口座毎に定めたコードを指す。加入者口座コードは、振替システムに於ける様々な事務処理に於いて利用され、具体的には、以下の21桁で構成される。

1.加入者の口座を開設する口座管理機関の口座コード(5桁)
2.当該口座管理機関が、直近上位機関から開設を受けた顧客口座の内、加入者の口座を特定する為のコード(2桁) 2.1.直接口座管理機関にあっては、口座の区分を示す区分口座コード
2.2.間接口座管理機関にあっては、その直近上位機関が当該間接口座管理機関の為に開設した顧客口座毎に証券保管振替機構が附番した顧客口所在コード
3.口座管理機関が加入者を特定する為に定める加入者口座番号(14桁)





増補改訂版 自己信託解説(その6)一応最終

2014-07-26 23:13:23 | CMBS論集用小ネタ
さて、自己信託が終了した場合、信託終了の将来効力に依り、自己信託のうち、将来債権に係る部分はこの時点で終了することになる。即ちこの段階で、自己信託が有していた、「コミングリング・リスクを回避する手段」としての機能は消失する。対照的に、信託スキームに於いては、委託者について、破産等の倒産手続が開始された場合、サービシングに係る業務を当初のサービサー(当該自己信託の委託者兼受託者)からバックアップ・サービサーに移管し、原債務者に対し、「以降はバックアップ・サービサーに弁済を行う」と言う依頼を行う通知書面を発出するシステムとなっていることが通例である。即ち、委託者について破産等の倒産手続が開始された場合、上記に代表される信託スキーム上のシステムが自己信託に代わり起動する為、その後(バックアップ・サービサーに移管した後)にコミングリング・リスクが発現する可能性はない(少なくとも、信託スキームの組成上はその様に仕組んでいる)。即ち、バックアップ・サービサーに移管するシステムが起動する前までは、それまでに発現する可能性のあったコミングリング・リスクを、本件の自己信託はカバーしていたと解釈可能である。但し、「倒産手続」ではなく、「再生手続」あるいは「更生手続」の決定である場合、話は変わってくる。倒産手続とは異なり、受託者としての任務が終了しないのである(新・信託法25条4・5・6・7項)。

(信託財産と受託者の破産手続等との関係等)
第二十五条
受託者が破産手続開始の決定を受けた場合であっても、信託財産に属する財産は、破産財団に属しない。
4 受託者が再生手続開始の決定を受けた場合であっても、信託財産に属する財産は、再生債務者財産に属しない。
5 前項の場合には、受益債権は、再生債権とならない。信託債権であって受託者が信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負うものも、同様とする。
6 第四項の場合には、再生計画、再生計画認可の決定又は民事再生法第二百三十五条第一項 の免責の決定による信託債権(前項に規定する信託債権を除く。)に係る債務の免責又は変更は、信託財産との関係においては、その効力を主張することができない。
7 前三項の規定は、受託者が更生手続開始の決定を受けた場合について準用する。この場合において、第四項中「再生債務者財産」とあるのは「更生会社財産(会社更生法第二条第十四項に規定する更生会社財産又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第百六十九条第十四項に規定する更生会社財産をいう。)又は更生協同組織金融機関財産(同法第四条第十四項に規定する更生協同組織金融機関財産をいう。)」と、第五項中「再生債権」とあるのは「更生債権又は更生担保権」と、前項中「再生計画、再生計画認可の決定又は民事再生法第二百三十五条第一項の免責の決定」とあるのは「更生計画又は更生計画認可の決定」と読み替えるものとする。

上記の場合、自己信託は、委託者の再生(更生)手続開始後も継続することになるが、信託スキームのシステム上では、委託者の再生(更生)手続開始も、サービサー交代事由の一つに含まれていることが通常であるから、自己信託の受託者(この状況下では、監査委員・管財人・保全管理人の何れかとなろう)は、回収金見合い受益権の受益者に対し、当該開始時点までに、信託財産から回収した回収金を引き渡した時点で、バックアップ・サービサーに引き渡す(即ち、当該自己信託は、信託目的を完遂し終了する)ことになるであろう。但し、当該信託スキームの関係当事者と監査委員・管財人・保全管理人の何れかが協議の上、システム上は上記の様な作りになっていたとしても、当初のサービサーがサービシングに係る業務を継続する、と言う合意を交わした場合、自己信託が従前通り継続する余地は残されることになる。また、仮にサービシング事務委任契約が協議を行う前に解除されていた場合、協議にて、監査委員・管財人・保全管理人の何れかがサービサーに再委任する旨の再委任契約を締結するならば、当初のサービサーがサービシング業務を再開可能である。上記の通り、自己信託自体は従前通りに継続する余地はあるが、再生手続開始後の回収金については、一般に共益債権(注)に準じて位置付けられる。即ち、回収の都度、信託スキーム(裏付資産の受託者)に随時回金されることになると考えられる。その為、委託者の破産に際し発現したコミングリング・リスクをカバーし、その役目を終えた自己信託に於いては、終了させることを選択しても差し支えないであろう。ちなみに、サービサーが破産し、バックアップ・サービサーに移管するケースは稀であり、当初のサービサーがサービシングに係る業務を継続するケースが大半である(注)。

注:民事再生法119・121条。共益債権とは、以下の債権を指す。共益債権は、再生手続に拠らないで、随時弁済することになり、再生債権に先立って弁済することになる。
1.再生債権者の再生債権者の共同の利益の為に発生した裁判上の費用の請求権。
2.再生手続開始後の再生債務者の業務、生活、財産の管理処分に関する費用の請求権。
3.再生計画の遂行に関する費用の請求権(再生手続終了後に生じたものを除く)。
4.監督委員、調査委員、管財人、保全管理人等の報酬等請求権。
5.再生債務者の財産に関し、再生債務者等が再生手続開始後にした資金の借入その他の行為に依って生じた請求権。
6.事務管理または不当利得に因り、再生手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権。
7.再生債務者の為に支出すべき、やむを得ない費用の請求権で、再生手続開始後に生じたもの。

(共益債権となる請求権)
第百十九条
次に掲げる請求権は、共益債権とする。
一  再生債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
二  再生手続開始後の再生債務者の業務、生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権
三  再生計画の遂行に関する費用の請求権(再生手続終了後に生じたものを除く。)
四  第六十一条第一項(第六十三条、第七十八条及び第八十三条第一項において準用する場合を含む。)、第九十条の二第五項、第九十一条第一項、第百十二条、第百十七条第四項及び第二百二十三条第九項(第二百四十四条において準用する場合を含む。)の規定により支払うべき費用、報酬及び報償金の請求権
五  再生債務者財産に関し再生債務者等が再生手続開始後にした資金の借入れその他の行為によって生じた請求権
六  事務管理又は不当利得により再生手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権
七  再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で、再生手続開始後に生じたもの(前各号に掲げるものを除く。)

(共益債権の取扱い)
第百二十一条
共益債権は、再生手続によらないで、随時弁済する。
2  共益債権は、再生債権に先立って、弁済する。
3  共益債権に基づき再生債務者の財産に対し強制執行又は仮差押えがされている場合において、その強制執行又は仮差押えが再生に著しい支障を及ぼし、かつ、再生債務者が他に換価の容易な財産を十分に有するときは、裁判所は、再生手続開始後において、再生債務者等の申立てにより又は職権で、担保を立てさせて、又は立てさせないで、その強制執行又は仮差押えの中止又は取消しを命ずることができる。共益債権である共助対象外国租税の請求権に基づき再生債務者の財産に対し国税滞納処分の例によってする処分がされている場合におけるその処分の中止又は取消しについても、同様とする。
4  裁判所は、前項の規定による中止の命令を変更し、又は取り消すことができる。
5  第三項の規定による中止又は取消しの命令及び前項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
6  前項の即時抗告は、執行停止の効力を有しない。

参考
朝日中央綜合法律経済事務所グループ「民事再生手続上、共益債権とはどのような権利ですか 民事再生完全ガイド」
http://www.ac-minjisaisei.jp/advice/advice05/answer05.html

注:宮澤秀臣「コミングリングリスクを回避する手段としての自己信託」(小林秀之編『資産流動化・証券化の再構築』(日本評論社、2010.09)所収)P217。

ちなみに、直接コミングリング・リスクとして発現するわけではないが、例えば優先劣後構造のシンジケート・ローン(スキームに関しては図参照)に於いて、本来であれば優先レンダーが受領すべきである金員(以下、交付金と記載)を劣後レンダーが受領した場合、規定に「当該金員を劣後レンダーが優先レンダーに交付する」旨を記しておくケースがあるが、この様なケースに於いて、コミングリング・リスクに似たリスクが発現する可能性が生じる。



出典:佐藤正謙「自己信託を利用した金銭債権の流動化・証券化取引に伴う法的諸問題――実体法上の論点を中心に」(金融財政事情研究会『事業再生と債権管理』Vol.129(2010.07)所収)P79、別図B。

例に挙げたケースの場合、交付金を劣後レンダーが受領してから優先レンダーに交付するまでの間に、劣後レンダーが破産手続を開始してしまった場合、優先レンダーは破産手続に係る管財人等に対し、交付金相当額の引渡請求権に関して、優先的な権利を主張出来なくなる。結果として、交付金全額の支払いを受けられないと言う、コミングリング・リスクに似た事態に陥ってしまう可能性が高くなる。この場合、劣後レンダーの債権を、破産法99条2項が定める「約定劣後債権」とすることである程度リスクヘッジを図ることは可能である(但し、約定劣後債権間自体に優先劣後関係を作出した場合等はそのリスクヘッジが難しくなる)。

(劣後的破産債権等)
第九十九条
次に掲げる債権(以下「劣後的破産債権」という。)は、他の破産債権(次項に規定する約定劣後破産債権を除く。)に後れる。
2 破産債権者と破産者との間において、破産手続開始前に、当該債務者について破産手続が開始されたとすれば当該破産手続におけるその配当の順位が劣後的破産債権に後れる旨の合意がされた債権(以下「約定劣後破産債権」という。)は、劣後的破産債権に後れる。

この場合、ヘッジ策としては、交付金を劣後レンダーが受領した場合に、劣後レンダーを委託者兼受託者として、優先レンダーを受益者として、信託を成立させる様にスキームを構築する案が考えられる。



出典:高橋淳「自己信託の実践的活用方法(上)資産流動化におけるサービサー倒産リスクの回避」(中央経済社『旬刊経理情報』Vol.1221(2009.07)所収)P49、図表3。

上記のスキームは、償還スキームとしても応用出来る。



出典:高橋淳「自己信託の実践的活用方法(上)資産流動化におけるサービサー倒産リスクの回避」(中央経済社『旬刊経理情報』Vol.1221(2009.07)所収)P49、図表4。

この償還スキームは、信託勘定に対するローンに依り資金を調達する借入償還スキームに於けるレンダーの優先権確保に用いられる。このスキームに於いては、実質的投資家がレンダーとなり、受益者は資金調達者であるオリジネーターである以上、一般の信託スキームとは違い、レンダーの貸付債権が受益権よりも劣後する旨の合意が規定されるケースが考えられる。この合意は破産手続外に於いてであれば有効であろう。しかし、破産手続上は完全に有効と言い切れない。破産法244条の7第3項但書の反対解釈を行った場合、受益債権が約定劣後債権に優先する規定が無効と解する余地が存在する為である。

(信託債権者及び受益者の地位)
第二百四十四条の七
信託財産について破産手続開始の決定があった場合には、信託債権を有する者及び受益者は、受託者について破産手続開始の決定があったときでも、破産手続開始の時において有する債権の全額について破産手続に参加することができる。

受益債権と約定劣後破産債権は、同順位とする。ただし、信託行為の定めにより、約定劣後破産債権が受益債権に優先するものとすることができる。

この見解に立つ場合、信託財産について破産手続が開始した場合、係る合意に従った配当が為されないことになる(ただ、実際にこの解釈が通るとは考えにくい。この場合に於いてのみ当事者の合意が持つ効力を破産手続上否定する合理的な理由とは言い難い為である。破産法244条の7第3項但書きは、通常の有り得る合意の有効性に係る規定である為である)。この場合、交付金をレンダーが受領してから受益者に交付するまでの間に、レンダーが破産手続を開始してしまった場合、受益者は破産手続に係る管財人等に対し、交付金相当額の引渡請求権に関して、優先的な権利を主張出来なくなる。結果として、交付金全額の支払いを受けられないと言う構造に陥ると考えられる。対処としては、交付金をレンダーが受領した場合、レンダーを委託者兼受託者、優先受益者を、当該金銭信託の受益者として設定した自己信託を構築することとなるだろう。

ちなみに、自己信託に於いては、受益者の定めのない信託を設定することは出来ない(新・信託法258条1項)。

(受益者の定めのない信託の要件)
第二百五十八条
受益者の定め(受益者を定める方法の定めを含む。以下同じ。)のない信託は、第三条第一号又は第二号に掲げる方法によってすることができる。

要は受益者が居るか否かで自己信託の成否が変わってくることになる訳であるが、では果たして受益者まで自己完結したケースはどうなるだろうか。先に掲げた信託ABLスキームで考えてみよう。

つまり、想定する案件は、信託期間中に第三者たる受益者が存在しない(委託者兼受託者が唯一の受益者となる)ケースとなる(いわゆる三位一体(Trinité)スキーム)。果たして、このスキームは許容され得るのだろうか。結論としては、リスクは伴うが、理論的にはある一定の条件下であれば可能であると言える。まず、この三位一体スキームに関係してくるのは、新・信託法163条2号である。

(信託の終了事由)
第百六十三条
信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。
二 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき。

新・信託法163条2号を逆手に取るならば、「設定後1年が経過するまでに終了する信託」であれば、三位一体スキームが許容されることになる。しかし、新・信託法2条1項との関係性の解釈がここで問題となる。

(定義)
第二条
この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。

新・信託法2条1項に於ける解釈であれば、受託者が唯一の受益者となるのは、あくまでも一時的なことであると解される。その限定的な解釈の範疇で有効性が認められているに過ぎない。道垣内(2007)は、新・信託法2条1項の解釈を、「受益権の譲渡がおよそ予定されていないような信託については、たとえその期間が1年内に限られるとしても、受託者自身の利益を図るための信託としようというのは、「専らその者の利益を図る目的」のものと評価される」と指摘している(注)。

注:道垣内弘人『信託法入門』(日本経済新聞社、2007.05)pp.56-57。

新・信託法2条1項と新・信託法163条2号の整合性を図る場合、新・信託法163条2号の規定は、信託財産が「専らその者の利益を図る目的ではない」場合(新・信託法2条1項の規定に則り、信託としての存立に係る基礎が認められる場合)に於いても、何らかの理由で受託者が、総ての受益権を保有する事態が生じ得ることを踏まえ、それが「ごく短期間」に渡るものであるならば、許容する趣旨として「1年」と言う上限期間を設定した(即ち、それ以上に含まれる意味はない)、と工藤(2008)は指摘する(注)。

注:工藤聡一「自己信託・事業信託」(新井誠、鈴木正具、大串淳子編『コンメンタール信託法』(ぎょうせい、2008.11)所収)P654。

工藤の見解に則って話を進めるならば、この時点で全体的に三位一体スキームが許容されると解釈することは困難化する。しかし、先の信託ABLスキームに於けるABLレンダー同様に、「第三者たる受益者と同一視可能と解釈出来る様な経済的権益を有する者が存在する場合」は、道垣内同様に、「専ら自己(受託者)の利益を図る目的によるものには該当せず、信託期間が1年以内であるか否かを問わずして、許容される」と言う立論に拠る余地は残されているだろうか。実務的には、受益者譲渡スキームと信託ABLスキームの違いは、投資家の選好やオリジネーターに於ける会計上の取扱いに依るものなので、経済上の便益から見た場合、両者に大きな差違はない。その上、信託ABLスキームのドキュメンテーション上、ABLに係る支払原資に責任限定特約を付すことが通常行われる為、信託財産からしか回収が期待出来ないと言う観点に於いて、ABLと受益権の間に差違は存在しない。そして、係る責任限定特約の裏返しとして、受託者は信託財産の管理等に関して、ABLレンダーに対して善管注意義務を定めるケースもあり、ここまで来ると殆ど両者に差違はないと言える。即ち、ABLローンは受益権譲渡スキームに於ける優先受益権にほぼ相当する。ABLレンダーと優先受益者のアナロジーで説明するアプローチであれば、先の立論に拠る余地があると考えられる。但し、実際にはABLスキームに於いても三位一体の状態を崩す様に、受益権の一部をレンダー、或いはその指定する当事者に譲渡する等の措置が執られることになるだろう。何故ならば、新・信託法の各種規律に於いて、「受益者」及び「信託債権者」の各概念は区分され捉えられており、この立論に依拠して実際に組成した場合、非常にリスキーな事態になりかねない為である。例としては、詐害信託取消権(新・信託法11条)に於いては、以下の様に定められている。

(詐害信託の取消し等)
第十一条
委託者がその債権者を害することを知って信託をした場合には、受託者が債権者を害すべき事実を知っていたか否かにかかわらず、債権者は、受託者を被告として、民法(明治二十九年法律第八十九号)第四百二十四条第一項の規定による取消しを裁判所に請求することができる。ただし、受益者が現に存する場合において、その受益者の全部又は一部が、受益者としての指定(信託行為の定めにより又は第八十九条第一項に規定する受益者指定権等の行使により受益者又は変更後の受益者として指定されることをいう。以下同じ。)を受けたことを知った時又は受益権を譲り受けた時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。

この条文に於いて、「受益者の全部又は一部が、受益者としての指定(中略)を受けたことを知った時又は受益権を譲り受けた時において債権者を害すべき事実を知らなかったとき」は、旧・信託法11条1項に於いては、「かかる取消権の行使はできない」とされていた(新・信託法に於いては可能)。この関係上、ABLレンダーの様に、「実質的に受益者と同一視可能な信託債権者」は、受益者と同様に取り扱うべきだ、と言う議論が立法過程に於いて存在した。結果として、信託債権者にも一定の配慮は為されたが、両者が同列に扱われることは無かった(新・信託法11条2項及び3項)のである(注)。

注:寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務、2008.07)pp.59-60。

(詐害信託の取消し等)
第十一条
2 前項の規定による請求を認容する判決が確定した場合において、信託財産責任負担債務に係る債権を有する債権者(委託者であるものを除く。)が当該債権を取得した時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、委託者は、当該債権を有する債権者に対し、当該信託財産責任負担債務について弁済の責任を負う。ただし、同項の規定による取消しにより受託者から委託者に移転する財産の価額を限度とする。
3 前項の規定の適用については、第四十九条第一項(第五十三条第二項及び第五十四条第四項において準用する場合を含む。)の規定により受託者が有する権利は、金銭債権とみなす。


自己信託 参考文献
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森博樹「新信託法と資金調達――事業信託を利用した事業の証券化」(中央経済社『ビジネス法務』Vol.7(11)(2007.11)所収)

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坂井豊、土橋靖子「できる!自己信託を用いた事業信託(後)自己信託を用いた事業信託の留意点」(中央経済社『ビジネス法務』Vol.9(7)(2009.07)所収)

坂井豊、土橋靖子「できる!自己信託を用いた事業信託(前)事業信託に自己信託を用いる利点とは」(中央経済社『ビジネス法務』Vol.9(6)(2009.06)所収)

金子敬明「KEY WORD 自己信託」(有斐閣『法学教室』Vol.338(2008.11)所収)

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高橋淳「自己信託の実践的活用方法(上)資産流動化におけるサービサー倒産リスクの回避」(中央経済社『旬刊経理情報』Vol.1221(2009.07)所収)

高橋淳「自己信託の実践的活用方法(下)法律の壁を打ち破るための3つのケーススタディ」(中央経済社『旬刊経理情報』Vol.1224(2009.08)所収)

伊藤哲哉「運営の適切性を保つためのガバナンス」(中央経済社『旬刊経理情報』Vol.1141(2007.02)所収)

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宮澤秀臣「事業証券化と自己信託」(小林秀之編『資産流動化・証券化の再構築』(日本評論社、2010.09)所収)

田中和明「新信託法制の資産流動型信託への影響と活用」(小林秀之編『資産流動化・証券化の再構築』(日本評論社、2010.09)所収)pp.101-105

田爪浩信「自己信託と損害保険代理店保険料保管専用口座――新信託法の活用可能性の視点から」(損害保険事業総合研究所『損害保険研究』Vol.69(1)(2007.05)所収)

勝田信篤「自己信託――回収金保全目的の信託」(新井誠、神田秀樹、木南敦編『信託法制の展望』(日本評論社、2011.03)所収)

中澤栄仁、松澤大和「債権流動化の新潮流 自己信託スキーム活用例と会計税務上の論点」(金融財政事情研究会『事業再生と債権管理』Vol.125(2009.07)所収)