この項の形式(数式だらけ)の利点は、付表を作ってやる必要がない点にあります。数式以上に、付表を作るのってめんどくさいわけよ。
〔理論モデル〕
外貨準備が中長期的に与える影響に関しての理論モデルを以下で検討する(注)。
ターム1で使用した小国モデルとは別の小国モデルを本タームでは使用する事にしよう。
以下の国家モデルの消費財は、貿易財と非貿易財をコンポーネントとし、純債務国とする。
一般的な当該国の消費者は、以下の効用関数を最大化する。
Σ(∞, k=0)β_kU{C^T_(t+k), C^N_(t+k)}・・・01
注)β:ディスカウント・ファクター
C^T:貿易財消費(実質利子率と非貿易財価格は貿易財で定義)
C^N:非貿易財消費
t:時間
当該国消費者の予算制約式は、
B^L_(t+1) +B^NL_(t+1)-K_(t+1)=(1+r)^{B^L_t}+(1+r+LP(ρ(B^L/FR)))^{B^NL_t}-K_t
-{Y^T_t+P^N_t(Y^N_t)-IP(φ(B^L/FR))-C^T_t-P^N_t(C^N_t)-T_t}・・・02
注)B^L:純流動性債務残高
B^NL:純非流動性債務残高
K:国内資本ストック(資本減耗はゼロと仮定)
s.t.K_t=K^T_t+K^N_t
r:流動性債務利子率
s.t.1+r<1/β(定常均衡と変数の一定化の為)
FR:外貨準備高
LP=ρ(B^L/FR):流動性プレミアム(Liquidity Premium)(注1)
Y^T(Y^T_t=f((K^T_t)/(n_t)))orY^N(Y^N_t=g((K^N_t)/(N-n_t))(N-n_t)):生産関数
s.t.f>0、g’>0、f’<0、g’’<0
N:労働供給量(一定)
n:貿易財産業に於ける労働投入
P^N:非貿易財価格
IP=φ(B^L/FR):保険プレミアム(Insurance Premium)
T:一括税
02式で、流動性プレミアムと保険プレミアムの変数が登場するが、流動性プレミアムの場合非流動性債務の利子率に組み込まれている事に対し、保険プレミアムは独立コストとして予算制約式に組み込まれている。
流動性プレミアムが組み込まれる理由は注釈1の通り、非流動性債務が流動性債務と比較して回収が容易でなく、貸し手の契約時の要求にプレミアム条項が組み込まれる事を前提とした為である(プレミアム条項が組み込まれない場合、LP=0とすればよいだけの話である)。
02式の場合、国内債務は相殺される為、純流動性債務残高は、正確には純流動性「対外」債務残高となる。
純流動性対外債務残高が外貨準備高と比較して相対的に大きくなった場合(アジア通貨危機以前のアジア諸国を考えれば分かりやすい)、借り手は流動性危機を阻止する為に余計にコストを払う必要が生じる。
そこで、以下に流動性プレミアムと保険プレミアムの条件を付ける。
ρ’(B^L_t/FR_t)>0・・・03
ρ’’(B^L_t/FR_t)>0・・・04
φ’(B^L_t/FR_t)>0・・・05
φ’’(B^L_t/FR_t)>0・・・06
注)以下では、ρ’またはρ’’の場合はLP’、LP’’とし、φ’またはφ’’の場合はIP’、IP’’とする。
03~06式は、流動性債務残高が大きければ大きいだけ流動性危機が発生しやすいと言う状況を反映し、対照的に外貨準備高が大きければ大きいだけ流動性危機は発生しにくいと言う状況を反映した条件である。
以上の式より、内点解を仮定し、02式のラグランジュ乗数(ラグランジュ法についてはターム1を参照)をλ_tとする(定常状態では、ラグランジュ乗数は一定であり、λ>0とする)。
一階の条件は、以下の通りである。
U_01≡∂U(C^T_t, Y^N)/∂C^T_t=λ_t・・・07
注)貿易財の消費量を決定する式である。
U_02≡∂U(C^T_t, C^N_t)/∂C^T_t=λ_t(P^N_t)・・・08
注)実質為替レート(≒非貿易財価格)は、貿易財と非貿易財の限界代替率に依存する事を示す式である。
非貿易財価格の下落は、実質為替レートの減価に直結する。
f(K^T_t/n_t)-f’{(K^T_t/n_t)}^2=P^N_t
g{(K^N_t)/(N-n_t)}-g’〔{(K^N_t)/(N-n_t)}[K^N_t/{N-n_(t+k)}]〕・・・09
注)純流動性対外債務残高は外貨準備高と正の相関を持つと言う意味合いの式である。
外貨準備が増加した時、消費者は利子率が相対的に安くなる流動性対外債務で資金をより多く調達する様になる。
λ_t=β〔(1+r)+ρ’{B^L_(t+1)}/{FR_(t+1)}{B^N_(t+1)}/{FR_(t+1)}+φ’[{B^L_(t+1)}/{FR_(t+1)}]/{FR_(t+1)}〕λ_(t+1)・・・10
λ_t=β〔(1+r)+ρ[{B^L_(t+1)}/{FR_(t+1)}]λ_(t+1)・・・11
λ_t=β{1+f(K^T_t/n_t)}λ_(t+1)・・・12
λ_t=β[1+{P^N_(t+1)}g’{(K^N_t)/(N-n_t)}]λ_(t+1)・・・13
ラグランジュ乗数の条件より、マクロ変数である貿易財消費、非貿易財価格(実質為替レート)、純流動性対外債務残高、純対外債務残高(純流動性対外債務残高と純非流動性対外債務残高を足したもの)は、外生的にショックを与えない限りは、時間を問わず変動しない。
即ち、外貨準備高の変動は、外生的ショックとなり、上記の変数の変動を発生させる。
定常状態を考量した場合、10~13式より、
ρ(B^L/FR)=ρ’(B^L/FR)(B^N/FR)+φ’(B^L/FR)/FR=(1/β)-(1+r)・・・14
f(K^T/n)=(P^N)g’{K^N/(N-n)}=(1+β)-1・・・15
09、14、15式より、(B^L/FR)と(K^T/n)、{K^N/(N-n)}、そしてP^Nは、外貨準備高の変動が発生してもその影響を受けず一定である事が分かる。
注)モデルは福田慎一と今喜史により構築された。
Reference
Fukuda, S., and Y. Kon, “Macroeconomic Impacts of Foreign Exchange Reserve Accumlation: A Theory and Some International Evidence”, memeo, c2008.
Available at
http://www.adbi.org/files/2010.02.19.wp197.macroeconomic.impact.forex.reserve.accumulation.pdf
〔理論モデル〕
外貨準備が中長期的に与える影響に関しての理論モデルを以下で検討する(注)。
ターム1で使用した小国モデルとは別の小国モデルを本タームでは使用する事にしよう。
以下の国家モデルの消費財は、貿易財と非貿易財をコンポーネントとし、純債務国とする。
一般的な当該国の消費者は、以下の効用関数を最大化する。
Σ(∞, k=0)β_kU{C^T_(t+k), C^N_(t+k)}・・・01
注)β:ディスカウント・ファクター
C^T:貿易財消費(実質利子率と非貿易財価格は貿易財で定義)
C^N:非貿易財消費
t:時間
当該国消費者の予算制約式は、
B^L_(t+1) +B^NL_(t+1)-K_(t+1)=(1+r)^{B^L_t}+(1+r+LP(ρ(B^L/FR)))^{B^NL_t}-K_t
-{Y^T_t+P^N_t(Y^N_t)-IP(φ(B^L/FR))-C^T_t-P^N_t(C^N_t)-T_t}・・・02
注)B^L:純流動性債務残高
B^NL:純非流動性債務残高
K:国内資本ストック(資本減耗はゼロと仮定)
s.t.K_t=K^T_t+K^N_t
r:流動性債務利子率
s.t.1+r<1/β(定常均衡と変数の一定化の為)
FR:外貨準備高
LP=ρ(B^L/FR):流動性プレミアム(Liquidity Premium)(注1)
Y^T(Y^T_t=f((K^T_t)/(n_t)))orY^N(Y^N_t=g((K^N_t)/(N-n_t))(N-n_t)):生産関数
s.t.f>0、g’>0、f’<0、g’’<0
N:労働供給量(一定)
n:貿易財産業に於ける労働投入
P^N:非貿易財価格
IP=φ(B^L/FR):保険プレミアム(Insurance Premium)
T:一括税
02式で、流動性プレミアムと保険プレミアムの変数が登場するが、流動性プレミアムの場合非流動性債務の利子率に組み込まれている事に対し、保険プレミアムは独立コストとして予算制約式に組み込まれている。
流動性プレミアムが組み込まれる理由は注釈1の通り、非流動性債務が流動性債務と比較して回収が容易でなく、貸し手の契約時の要求にプレミアム条項が組み込まれる事を前提とした為である(プレミアム条項が組み込まれない場合、LP=0とすればよいだけの話である)。
02式の場合、国内債務は相殺される為、純流動性債務残高は、正確には純流動性「対外」債務残高となる。
純流動性対外債務残高が外貨準備高と比較して相対的に大きくなった場合(アジア通貨危機以前のアジア諸国を考えれば分かりやすい)、借り手は流動性危機を阻止する為に余計にコストを払う必要が生じる。
そこで、以下に流動性プレミアムと保険プレミアムの条件を付ける。
ρ’(B^L_t/FR_t)>0・・・03
ρ’’(B^L_t/FR_t)>0・・・04
φ’(B^L_t/FR_t)>0・・・05
φ’’(B^L_t/FR_t)>0・・・06
注)以下では、ρ’またはρ’’の場合はLP’、LP’’とし、φ’またはφ’’の場合はIP’、IP’’とする。
03~06式は、流動性債務残高が大きければ大きいだけ流動性危機が発生しやすいと言う状況を反映し、対照的に外貨準備高が大きければ大きいだけ流動性危機は発生しにくいと言う状況を反映した条件である。
以上の式より、内点解を仮定し、02式のラグランジュ乗数(ラグランジュ法についてはターム1を参照)をλ_tとする(定常状態では、ラグランジュ乗数は一定であり、λ>0とする)。
一階の条件は、以下の通りである。
U_01≡∂U(C^T_t, Y^N)/∂C^T_t=λ_t・・・07
注)貿易財の消費量を決定する式である。
U_02≡∂U(C^T_t, C^N_t)/∂C^T_t=λ_t(P^N_t)・・・08
注)実質為替レート(≒非貿易財価格)は、貿易財と非貿易財の限界代替率に依存する事を示す式である。
非貿易財価格の下落は、実質為替レートの減価に直結する。
f(K^T_t/n_t)-f’{(K^T_t/n_t)}^2=P^N_t
g{(K^N_t)/(N-n_t)}-g’〔{(K^N_t)/(N-n_t)}[K^N_t/{N-n_(t+k)}]〕・・・09
注)純流動性対外債務残高は外貨準備高と正の相関を持つと言う意味合いの式である。
外貨準備が増加した時、消費者は利子率が相対的に安くなる流動性対外債務で資金をより多く調達する様になる。
λ_t=β〔(1+r)+ρ’{B^L_(t+1)}/{FR_(t+1)}{B^N_(t+1)}/{FR_(t+1)}+φ’[{B^L_(t+1)}/{FR_(t+1)}]/{FR_(t+1)}〕λ_(t+1)・・・10
λ_t=β〔(1+r)+ρ[{B^L_(t+1)}/{FR_(t+1)}]λ_(t+1)・・・11
λ_t=β{1+f(K^T_t/n_t)}λ_(t+1)・・・12
λ_t=β[1+{P^N_(t+1)}g’{(K^N_t)/(N-n_t)}]λ_(t+1)・・・13
ラグランジュ乗数の条件より、マクロ変数である貿易財消費、非貿易財価格(実質為替レート)、純流動性対外債務残高、純対外債務残高(純流動性対外債務残高と純非流動性対外債務残高を足したもの)は、外生的にショックを与えない限りは、時間を問わず変動しない。
即ち、外貨準備高の変動は、外生的ショックとなり、上記の変数の変動を発生させる。
定常状態を考量した場合、10~13式より、
ρ(B^L/FR)=ρ’(B^L/FR)(B^N/FR)+φ’(B^L/FR)/FR=(1/β)-(1+r)・・・14
f(K^T/n)=(P^N)g’{K^N/(N-n)}=(1+β)-1・・・15
09、14、15式より、(B^L/FR)と(K^T/n)、{K^N/(N-n)}、そしてP^Nは、外貨準備高の変動が発生してもその影響を受けず一定である事が分かる。
注)モデルは福田慎一と今喜史により構築された。
Reference
Fukuda, S., and Y. Kon, “Macroeconomic Impacts of Foreign Exchange Reserve Accumlation: A Theory and Some International Evidence”, memeo, c2008.
Available at
http://www.adbi.org/files/2010.02.19.wp197.macroeconomic.impact.forex.reserve.accumulation.pdf