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資料室B3F

https://yaplog.jp/akasyuri/
の移籍版。

2.1

2014-05-05 00:08:48 | CMBS論集用小ネタ
第2章 CMBSと潜在リスク

〈2.1 CMBS〉

 まず、CMBS(Commercial Mortgage-Backed Securities、商業用不動産ローン担保証券)そのものから話を進める。
 これは、名前の通り、オフィスビルの様な「商業用不動産」を購入する際に、金融機関(外資系金融機関が主)が資金を貸す(商業不動産ローン(商業用の不動産事業から得られる収益を返済の原資とする、「ノンリコースローン」)の借入)が、その時に組む「担保付きローン」そのものを裏付け資産として、金融機関やファンドが、SPC(Specific Purpose Company、特別目的会社)を通じて債権化したものである。
 債権化されたものは、小口に切り分けられ、機関投資家(保険会社)や金融機関(メガバンクや地方銀行等)に販売される。
 商業不動産ローンを切り分けたものが、CMBSと呼称される。
 これが個人の住宅ローンならば、RMBS(Residential Mortgage-Backed Securities、住宅ローン担保証券。住宅ローンからの元利返済金を裏付けとする)になる。
 基本的には、J-REIT(Japan-Real Estate Investment Trust、不動産投資信託)の様に、個人投資家から広く募る様な形式ではなく、機関投資家が主な対象となる。
 CMBSの契約により、金融機関は融資に伴うリスクを投資家へ転嫁することが出来る。そして、投資家もローンからの利息収入(商業施設が計上する収益の一部を配当として受領する)を入手出来る為、「Win-Win」の関係が構築されていた。
 金融機関からの借り入れにより負債比率を高め、負債のレバレッジ効果(節税効果)を追求することが一般的であった。そして、ファンド側の融資需要に対し、融資先確保に悩む金融機関は、「不動産価格の上昇」が見込めた時期は、積極的に応じてきた(資料01参照)。
 その趨勢がファンドの増加(外資系運用会社が新規にファンドを組成し運用する等。既存ファンドが保有物件を一部売却することも含めると、トータルでは運用資産残高推移が低下する図になる場合もある為、本来はファンド毎に分割して運用資産残高を追うべきだが、現実的ではない)(資料02参照)にも繋がったと言える。
 しかし、負債のレバレッジ効果を長期タームで見込む為には、ローンを組む期間を途中で繰り延べる(リファイナンス、借換。同一の資産を担保とし、新規のローンを組み、既存のローンを完済する手続きを指す)必要が生じる(このリファイナンス問題が、世に云う「2010年問題」の元である。2010年問題については、〔補論01 2010年問題〕を参照されたい)。
 これには、「不動産価格が一定(または上昇)」である、と言う前提に基づく必要がある(下落した場合、デフォルト(債務不履行)により担保を差し押さえても、金融機関のリザルトがマイナス勘定になってしまうので、リファイナンスを拒絶されてしまう為である)。
 だが、これはあくまでも「ローンを組んだ事業者」側の前提である。CMBS購入者の損益を左右するポイントは、「ローンを組んだ事業者」の安定した収益性(収益性がアンバランスな場合、リターンが上下する為、損失を被る蓋然率が上昇する)である。
 しかし、その金融機関と機関投資家との「暗黙の了解(Tacit Understanding)」と言うべき前提は、不動産価格の下落に因り崩れ去った。
 しかし、突如として前提が崩れた訳ではないことは、明白である(資料03参照)。例えば、地方圏の商業不動産地価は下落をひたすら続けているが、東京・大阪・名古屋・全国平均では、2005年までは下落を続けていた。2006年から2008年迄は上昇傾向にあり、その反動の下落率(方向係数)が大きい為、注目された。
 下落の原因は、大まかには需要の減退と言える。それが空室率(資料04参照)や空店舗率の上昇で現れる(例えば、オフィスビルで需要があれば満室になってしまうが、需要がなければ空き室が発生する。空室だらけになってしまうと、賃料収入が発生せず整備費用だけが嵩んでしまう為、オフィスビルの売却や、不動産ファンドそのものの倒産に陥る)。
 即ち、需要が見込めるならば、オフィス賃料提示時に「強気(Take a firm stand against lessees)」に出る事が出来る訳である。それを逆手に取るならば、賃料提示が控え目になった時点で、需要減退の発生を推量する事も可能である(注01)。
 本来需要が減退すれば、供給量もそれなりに減少させていておかしくはない。しかし、現実はそうではなく、貸借物件は増え続けている。
 例えば2012年度では、東京駅前にJPタワー(東京都千代田区丸の内)(注02)が5月に竣工している(開業は2013年3月)(注03)。
 着工時期が2009年11月である以上、リーマン・ショックの影響も何のその、という勢いを見せるかの様な振る舞いであるのは確かである。しかし、問題はそこにはなく、「全体の供給量」にある。
 上昇を続けていた時期(2007年)の竣工物件は、超高層建築物のみで以下の6件が建造されている。

「ミッドタウン・タワー」(東京都港区)
「ミッドランドスクエア」(愛知県名古屋市中村区)
「グラントウキョウノースタワー」(東京都千代田区)
「グラントウキョウサウスタワー」(東京都千代田区)
「新丸の内ビルディング」(東京都千代田区)
「名古屋ルーセントタワー」(愛知県名古屋市西区)

 減退期の2003年は、以下の3件である。

「六本木ヒルズ森タワー」(東京都港区)
「汐留シティセンター」(東京都港区)
「日本テレビタワー」(東京都港区)

2002年も、以下の3件である。

「泉ガーデンタワー」(東京都港区)
「電通本社ビル」(東京都港区)
「住友不動産新宿オークタワー」(東京都新宿区)

2001年も、以下の3件である。

「晴海アイランドトリトンスクエアオフィスタワーX棟」(東京都中央区)
「愛宕グリーンヒルズMORIタワー」(東京都港区)
「セルリアンタワー」(東京都渋谷区)

先述した資料02のデータ基準となる2000年の建築物件は、以下の4件である。

「JRセントラルタワーズオフィス棟」(愛知県名古屋市中村区)
「NTTドコモ代々木ビル」(東京都渋谷区)
「JRセントラルタワーズホテル棟」(愛知県名古屋市中村区)
「山王パークタワー」(東京都千代田区)

 2001年から2005年の間を仮に第一減退期とし、2009年から2012年の間を同様に第二減退期とすると、第一減退期の平均竣工物件数は3件程度である。しかし、第二減退期の平均竣工物件数は4件と、供給量は増大している(注04、05)。



補論 差し押さえ問題のその後

2014-05-01 12:39:00 | CMBS論集用小ネタ
〔補論 差し押さえ問題のその後〕

2012年2月19日、米国住宅ローン大手5社(Ally Financial(Old Graduate Management Admission Council : GMAC)社、Bank of America社、Citigroup社、JP Morgan社、Wells Fargo社)は、米国連邦政府及び、オクラホマ州を除いた49州の司法長官と、前述した住宅ローン差し押さえ手続きの不備に関する係争について和解が行われ、同5社が250億ドルを負担することで合意が成された。

注)その後、J.P. Morgan Chase & Co.は、FHFAがファニーメイとフレディマックの代理人となり、2006年から2007年に掛けて販売されたMBSの、情報開示不足を理由として訴訟を起こされた。
この事案に対し、2013年10月25日、51.5億ドルの賠償金を支払うことで和解が成立した(内訳はファニーメイ社のMBS(PLS)が12.6億ドル、Whole Loanが6.7億ドル。フレディマック社のMBS(PLS)が27.4億ドル、Whole Loanが4.8億ドル)。
J.P. Morgan Chase & Co.の米国司法省乃至FHFAに対する、「PLSの販売に関連した」和解支払額は130億ドルとされているが、今回の和解金支払額から、Whole Loan分(11億ドル)を差し引いた、MBS(PLS)に関連した和解金(40億ドル)の差額は90億ドルである。
この和解のスキームは、今後テンプレートとして活用されることとなった。

以下は、250億ドルの負担の内訳である。

①債務者への元本削減(100億ドル、後のHAMPと言う支援計画に援用された)
②失業中の債務者に対する返済猶予等(70億ドル、①と同様)
③ロールオーバーの支援(30億ドル、後のHARPと言う支援計画に援用された)
④2008年から2011年に掛けて、持ち家を喪失した債務者に対する補償基金(15億ドル、キャッシュに依り支払われた)
⑤州・米国連邦政府の事務費用(登用した弁護士費用を含む)(35億ドル、④と同様)

この和解内容は、住宅ローン債権の流動化に関わる中で、2つあるルートのうち片方に関わるものである。
まず、流動化に関わるルートに関しては、以下のルートが挙げられる。

①GSE(政府支援企業。ファニーメイやフレディマックが代表的な例)に、債権(Whole Loan)を買い取って貰う。
GSEは、買い取った債権をそのまま保有し続けるか、証券化を通じてAgency MBSとして投資家に販売する。
GSEは、債権を銀行に買い戻させる(Mortgage Put Back)ことが出来ることに対して、対照的に投資家は、GSEに対しAgency MBSに係る買い戻し(Put Back)を請求することは出来ない。

②GSEではなく、民間ベースのSPV等を利用して証券化を行う。
この際に証券化されたMBSは、PLS(Private Label Securitises)と呼称される。
PLSは、投資家にそのまま販売されるだけではなく、GSEに対しても、投資家と言う括りで販売することがある。
投資家(GSEを含む)は、銀行に対して、PLSに係る買い戻し(PLS Put Back)を銀行に対して請求することが出来る。

2010年秋以降に、買い戻し請求があったものは、①のWhole Loanと②のPLSに係るものであり、広く報道されたのは②のPLS Put Backである。

銀行と債務者間の市場を住宅ローンの第一次市場(Primary Mortgage Market)と呼称し、銀行とGSE、SPV等、投資家の市場を第二次市場(Secondary Mortgage Market)と呼称する。

Whole Loan Put Backと、PLS Put Backの、二つのPut Back問題が第二次市場に係る問題であることに対し、今回の和解問題は、債務者から銀行に対し、差し押さえ停止の請求が為されたことから、対象は第一次市場、即ち融資(Origination)に係る訴訟、過去の融資に於ける清算のみとなる。
Put Back問題に係る係争は、証券化自体のインフラストラクチャーである、電子登記制度の在り方にも争点が生じている為、個別に和解は進行しているものの、未解決となっている事案も多い。
この登記制度(Title Registration)は、主にMERS(Mortgage Electronic Registration Systems, Inc.)が紛争に巻き込まれている。
MERSは、抵当権設定の名義を集約させる為に設立された、民間組織である。
現在ではAgency MBSを含め9割のMBSがMERSを名義人として、システムを利用している。
MERSを抵当権者の名義人としている状況下で債務者が債務不履行となった場合、金銭消費貸借契約証書を所有する金融機関が住宅ローンの債権者として差し押さえを実行する。
そして「Mortgage Follows Note(注)」の原則に従い、抵当権設定契約証書を不所持を保有して居なくとも、抵当権は「金銭契約貸借契約証書に随伴する」と言うのが原則である以上、法に抵触することはない、とする立場をMERSや金融機関は採っている。
金融機関が金銭契約貸借契約証書を保管している場合、債権者として抵当権を行使し、差し押さえを実行する。
対照的に、MERSが金融機関から金銭契約貸借契約証書を移管されている場合、Agentの法理に従い、抵当権執行を代理人に当該金融機関を設定し、差し押さえを実行する(注)。

注)Followsの後に係っているのは、Loan Note(融資用約束手形)である。
直訳すると、抵当権は融資用約束手形を継承する、となる。

Thorne, Deborah L., Badawi, Ethel Hong., “Does “the Mortgage Follow the Note”? Lessons Learned, Best Practices for Assignment of a Note and Mortgage”, ABI(American Bankruptcy Institute) Journal, May, c2011.
http://www.google.co.jp/url?sa=t&source=web&cd=2&ved=0CCgQFjAB&url=http%3A%2F%2Fwww.btlaw.com%2Ffiles%2FUploads%2FDocuments%2FPublications%2FThorne%2520-%2520Mortgage%2520Follows%2520the%2520Note.pdf&ei=XaxhU6HeCdjm8AWN-oCYAQ&usg=AFQjCNGFKgS-wrUcZ-mMsfv-0MQy2sE1QA

注)法律の解釈として、金融機関の担当者が、「真の債権者」としての立場を採るMERSの名義(例としてVice President)を使用して差し押さえを実行すること自体を問題視する側面もある。
基本的には、アメリカ証券業業界が出版している白書(White Paper)に掲載された、大手法律事務所13社のMERS支持を掲げた法律意見書に代表される様に、この問題視する立場はマイナーなものとなっている。
これを争点とした裁判も各州で発生しているが、地方裁の判断は分かれている(MERSが敗訴したケースは、何れもその後連邦裁判所に上訴されている)。
MERSが正当性を主張する主な理由として、ここで仮に正当性を認められなかった場合、証券化のインフラストラクチャーそのものが否定されてしまう深刻なリスクを抱えている為である。
現在では、一部の連邦議員が、MERSの正当化に向けた立法の検討が報じられている。
立法の検討時期より前、差し押さえが問題となる時点よりも以前に、公証制度に関して包括的に「現行制度を追認する」ことを立法措置として検討された(H.R.3808: Interstate Recognition of Notarization Act of 2010)。
上院議会・下院議会双方で可決されたものの、差し押さえ問題が大統領が署名する直前になって表面化し報道され、この法案が副次的な影響を及ぼすことを考慮して、バラク・オバマ大統領は、2010年10月8日に同法案に対し拒否権(Veto)を発動した。
その後、同年11月17日に下院で拒否権を覆す為の再投票が行われた。
結果は拒否権を覆す為の必要票である全議員の三分の二(全議員が435人の為、290票)に満たなかった(覆すことに賛成する票が235票、反対する票が185票)為、廃案となった。

Reference.
小林正宏「米国におけるMBS関連訴訟アップデート」(『海外レポート』第2号、2013.10.31)
http://www.jhf.go.jp/files/300118838.pdf

小林正宏「アメリカの住宅ローン差押停止問題について」(「住宅金融」2010年度冬号)
http://www.jhf.go.jp/files/100079394.pdf




修正版 HARPリスト

2014-05-01 12:29:00 | CMBS論集用小ネタ
〔付表 HARP拡充プログラムの推移〕

○HARP1.0
導入日(Introduction):February 18, c2009.

債権対象(Property Subject):Fannie Mae(Federal National Mortgage Association)とFreddie Mac(Federal Home Loan Mortgage Corporation)が2009年3月迄に買い取り、若しくは保証を行った債権。但し、民間のローン分は対象外となった。

プログラムの監督機関(The Competent Authorities):FHFA(Federal Housing Finance Agency)

要件(Requirements)
①LTV(現融資率。Loan-to-Value(LTV)Ratio)(注1)は125%迄(注2、3)。
②LLPA(Loan Level Price Adjustment)(注4)の適用。
③RW(Representations and Warranties)(注5)の適用。
④不動産の鑑定を要する。
⑤過去12箇月以内に、債務の返済に関する延滞の履歴がないこと。

期間(Period of a Time):To June 30, c2009.

新規立法措置(New Legislation Measure):不要(Unnessary)。

費用負担(Bear Expenses):Fannie MaeとFreddie Mac。

○HARP2.0
導入日(Introduction):October 24, c2011.

債権対象(Property Subject):Fannie Mae(Federal National Mortgage Association)とFreddie Mac(Federal Home Loan Mortgage Corporation)が2009年3月迄に買い取り、若しくは保証を行った債権。但し、民間のローン分は対象外となった。

プログラムの監督機関(The Competent Authorities):FHFA(Federal Housing Finance Agency)

HARP1.0との変更点
①固定金利の場合、LTVの上限を撤廃する(注6)。但し、変動金利の場合、LTVは105%迄とする。
②LLPAの一部撤廃・軽減。
③RWの要件緩和。
④不動産の鑑定は、AVM(Automated Valuation Model)(注7)を適用している場合は除外される。
⑤過去6箇月以内に、債務の返済に関する延滞の履歴がないこと。但し、7箇月から12箇月前の延滞は1回迄、延滞状況の治癒を条件に許容される。

期間(Period of a Time):From November 15, c2011 To December 31, c2013.

新規立法措置(New Legislation Measure):不要(Unnessary)。

費用負担(Bear Expenses):Fannie MaeとFreddie Mac。

○HARP3.0
導入日(Introduction):February 1, c2012.

債権対象(Property Subject):民間ローン。

プログラムの監督機関(The Competent Authorities):FHA(Federal Housing Administration)

HARP2.0との変更点
①FICOスコア(注8)が580点以上であること。
②ローン残高がFHAの限度額以内であること(各地域に依って限度額は異なる)。
③ローンの物件が、一戸建ての自己居住用住宅であること。
④不動産の鑑定に於いては、債務者が雇用されている場合、納税証明が不要となった。
⑤延滞の履歴に関しては変更なし。

期間(Period of a Time):To December 31, c2015.
導入当時は明記されていなかったが、HARP終了が2015年12月31日である以上、同時に終了すると考えられる。

新規立法措置(New Legislation Measure):必要(Necessity)。

費用負担(Bear Expenses):大手民間金融機関各社(The Major Private Financial Instiutions)。
費用額に関しては、2013年以降10年間で610億ドルの負担を求めるとされた(注9、10)。

注1:日本訳すると「ローン資産価値比率」となる。価値に対する借金の比率を求めるもので、

LTV = ローン総額(負債)/物件の価値(資産価値)

で計算される。この数値が高ければ高いほどリスクが高いことになる。LTVが高ければ、レバレッジが効いているが、金利上昇、空室などから、キャッシュフローが悪化する影響の代償が大きくなる。ローンの返済が進んでいくと、元金を返済した分の負債が減り、自己資本が充実することになる。LTVが減少すると、金利上昇や空室などから受けるリスクも減少することになる。

Reference.
「不動産投資のLTV(Loan To Value ratio)」(『不動産投資入門ガイド』)
http://real.takeuchitakayuki.com/archives/50242510.html

注2:Desmond, Maurna.,“Fannie And Freddie To Expand Mortgage Rescue”., Forbes., July 1, c2009., L5-8.
http://www.forbes.com/2009/07/01/fannie-freddie-mortgages-business-housing-refinance.html

“On Wednesday, the Federal Housing Finance Agency announced that Fannie Mae and Freddie Mac are now authorized to refinance loans to borrowers with homes worth substantially less than their current mortgages-up to 25% less-under the Home Affordable Refinance Program (HARP).”

注3:LTVをHARP1.0の時点で、従来のGSE基準である100%に限度に据え置いた場合、「住宅価格下落に因り、借入当初はLTVが100%を超過していないが、時価ベースでは100%を超過(Underwater)した」ケースに対応出来ないことになってしまう懸念があり、125%に設定された経緯がある。

注4:債務者の属性に応じた追加の手数料を指す。

Reference.
Bill, Gassett., “Fannie Mae Mortgage Interest Rates & Costs Rising”, January 30, c2011., L16-21.
http://massrealestatenews.com/tag/loan-level-price-adjustment/

“They call this a Loan Level Price Adjustment (LLPA) and this means that borrowers are going to be charged more in the form of cost or higher interest rate based on a combination of how much down payments of the amount of equity in their home if they are refinancing, as well as their credit score.”

Fannie Mae.,“Loan-Level Price Adjustment (LLPA) Matrix and Adverse Market Delivery Charge (AMDC) Information”., January 8, c2014.
https://www.fanniemae.com/content/pricing/llpa-matrix.pdf

注5:表明保証条項のこと。
レプワラと略称され、条件違反時の債権買い戻し請求事項の表明がこれに当たる。
表明保証条項とは、契約締結の背景ないし前提となる事実関係につき、当事者が「相違ない」と請け合うものである。
今回であれば、債権譲渡の際に、譲渡人が譲受人に対し、譲渡する債権が一定の基準を満たしていることを示す。
譲受人の側で、個別の案件を全てチェックすることは現実的ではない(融資する際の審査に於いて、所定の収入証明書の徴収であったり、所定の不動産鑑定評価を行う等、手続きが煩雑過ぎる為である)。
事後的にこれらの書類が徴収されていない、チェックが為されていない等の事実が発覚した場合、譲受人が譲渡人に対し、買い戻し(Put Back)の請求を行うことが出来る。
例えば、「Seller represents and warrants that」で始まった文章の場合、「本件売主は以下の事項につき、これを表明し、保証する」と言う文言から、実際の内容が記載されることになる。
アメリカ法曹協会(American Bar Association : ABA)の商事法部会が作成し、公表している、株式の売買を目的とするモデル契約書と資産の売買を目的とするモデル契約書上は、「表明時点を境にして、それより前のことをRepresentation(表明)が受け持ち、後のことをWarranty(保証)が受け持つ」という認識を前面に出している。
以下は、そのモデル契約書の一文である。

“representations are statements of past or existing facts and warranties are promises that existing or future facts are or will be true”
(表明は、過去のまたは現在存する事実を述べるものであり、保証は、現在存するか将来生ずる事実が真実であり、または、真実と合致する旨の約束である)

Reference.
「Representations and Warrantiesの話」(『日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク』所収、2011.08.11)
http://eng.alc.co.jp/newsbiz/hinata/2011/08/representations.html

Kenneth A. Adams., "A lesson in drafting contracts: What's up with 'representations and warranties' ?” published in Business Law Today, Volume 15, No. 2, November/December., 2005.

http://www.adamsdrafting.com/downloads/Adams-Business-Law-Today-Nov.-Dec.%202005.pdf

注6:住宅価格下落の激しい地域では、LTV125%水準でも対応し切れない事態となった為、撤廃措置に踏み切った。

注7:担保物件の自動価格査定モデルのこと。有名なモデルでは、Calcasa社、CoreLogic社のものが存在する。

注8:Fair Issac社の信用スコアリングモデルの点数を指す。
300点から850点迄存在し、580点は下位10%程度に位置づけられる。

注9:2012年2月13日に公表された、2013年会計年度の米国予算教書(2012 State of the Union Address)(From October 2012 To November 2013)に拠る。

「Enhanced Broadcast」
http://www.whitehouse.gov/videos/2012/January/012412_StateoftheUnion_EN_SD.mp4

注10:この費用負担案に関しては、立法措置を要した上、法案は通っていない。ちなみに、対象金融機関は、総資産が500億ドルを超えるものとされた。

〔全体参考文献〕
小林正宏「アメリカの住宅市場動向と住宅金融市場改革の行方」(中央大学経済研究所編『Discussion Paper Series』No.181、2012.03、1-32)、P11
http://www.chuo-u.ac.jp/research/institutes/economic/publication/discussion//




〔補論02 グラム・リーチ・ブライリー法とリーマン・ショックの元凶論争〕

2014-02-01 00:52:47 | CMBS論集用小ネタ
〔補論02 グラム・リーチ・ブライリー法とリーマン・ショックの元凶論争〕

まず、グラム・リーチ・ブライリー法の内容を押さえておきたい。
「グラム・リーチ・ブライリー法(Gramm-Leach-Bliley Act)」は、「1999年金融サービス近代化法 (Financial Services Modernization Act of 1999)」と別称されるが、銀行業務の兼業を禁止する(例えば商業銀行業務と投資銀行業務の兼業や、商業銀行業務と保険業務との兼業は、同法で禁止される)(グラス・スティーガル法32条)為に、グラス・スティーガル法(注01)の一部(銀行持株会社に依る、他の金融機関の所有を禁止する条項。注02)を無効にする目的で成立した(グラム・リーチ・ブライリー法の、グラス・スティーガル法20条に対する無効条文は101条、グラス・スティーガル法32条に対する無効条文は102条。注03)。

「銀行持株会社に依る、他の金融機関の所有を禁止する条項」(グラス・スティーガル法20条)の廃止目的としては、以下の様な内容が挙げられる(注04)。

①預金保険制度は、ローンや証券、預金との区別がほとんどされない「規制が撤廃された」金融市場で動作し、預金保険制度は厳しく管理される金融機関に比して厳しく管理されない証券会社や、規制なしで動いている外国の金融機関に市場占有率を奪われている事。

②利害対立は、厳しく管理されていない企業に法律を守らせる事や、金融機関が明確に別々の子会社を作る事を通す事で、貸出と信用機能を切り離す事に依り防ぐ事が出来る。

③預金保険公社が求める証券活動は、多様化に依り、本来あるべき低いリスクにする事と、提供している組織の総合的な危険性を減らす事である。

④預金保険制度は、銀行業務と証券市場の両方がある上で効率良く動作する。

グラム・リーチ・ブライリー法では、商業銀行、投資銀行、証券会社、保険会社、それぞれの間での統合が許可された。

例としては、シティコープ (商業銀行持株会 社)はシティグループを形成させる為に1998年に保険会社のトラベラーズ・ グループと合併し、シティバンク 、スミス・バーニー 、プライメリカとトラベラーズを含んだブランドの下で、銀行、証券、保険業務を統合した。
本来ならば、 1993年に発表され、1994年に決定したこの合併は、証券、保険、銀行業務を兼務する事に拠り、グラス・スティーガル法と1956年銀行持株会社法(BHCA)に違反している。即ちグラム・リーチ・ブライリー法は、これらの合併を合法化する為に制定されたと言える(注05)。
同時にグラム・リーチ・ブライリー法は、グラス・スティーガル法の「どんな会員銀行の役員、取締役または従業員でも、証券会社のどんな役員でも、責任者または従業員による同時サービスに反対する」利害対立禁止令を廃止している(注06)。

グラス・スティーガル法20条の廃止は、 不動産担保証券と債務担保証券のような手法の保険を引き受け、交換し、Structured Investment Vehicle(SIV)と呼ばれる投資ヴィークルを確立する事を目的とし、商業的貸手がそれらの証券を買う事を可能とした(注07)。
この帰結と対照的に、グラム・リーチ・ブライリー法は、1956年銀行持株会社法によって置かれる銀行に対する規制はそのまま残されている。
即ち、銀行、又は金融業以外の企業が、小売、又は商業的な銀行業務に参入する事を禁止する事と同義となる。
実際には、グラス・スティーガル法20条廃止以前から、多々とした規制緩和があった。
例としては、商業銀行は投資銀行に入る事が許可される、銀行が株式と保険仲介に参入する事が許可される、等である。
しかし、保険引受業務に関しては、規制緩和の流れで許諾の出なかった唯一の主要な活動であり、法の通過の後さえ、滅多に銀行によってされる事のない活動であった。
多くの合併は、投資情報サービス産業で生じた事は自然と判る事だろう。
しかし、幾つかの事例に関しては、期待されていたスケールではなかった。
小売銀行の場合を考えてみれば、保険引受業者を買収する傾向がなく、市場投資と保険商品に時間が掛かる上、製品を納得のいく方向で纏める。
その上、大支店と、他の方面との繋がりを持たない傾向にあり、証券会社は銀行業務に入るのに苦労したと言えよう。
商業銀行は、同業の銀行(例えば、2004年のバンク・オブ・アメリカとフリートボストンの合併)を買収する傾向があった。
それでも、その傾向に沿って行われた合併は、投資銀行と保険会社との合併より成功が少なかった。
後に世界金融危機が発生するが、グラス・スティーガル法とグラム・リーチ・ブライリー法が取り沙汰される様になり、エリザベス・アン・ウォーレン(Elizabeth Ann Warren)は、2006年の時点で、「グラス・スティーガル法20条、32条の廃止」が一因となると指摘している(注08)。
対照的に、不良資産救済プログラムの議会監視委員会の構成者は、グラス・スティーガル法20条、32条の廃止に伴う柔軟性の増加が、アメリカに於ける銀行の倒産を軽減し、防いだと主張する(注09、10)。
リーマン・ショック後の2009年12月中旬、 アリゾナ州のジョン・ マケイン上院議員とワシントン州のマリア・カントウェル上院議員は、共同でグラ ス・スティーガル法の再制定を提案した(注11)。
内容自体は、グラス・スティーガル法21条の再掲である。
又、元FRB議長のポール・ヴォルカーも、グラス・スティーガル法の再制定を主張している(注12)。

結果として、ドット=フランク法(ドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法、Dodd?Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act.)(注13)が2010年7月21日にバラク・オバマ政権下で成立した。
グラス・スティーガル法20条は、ドット=フランク法の第VI編(「2010年銀行・貯蓄組合持株会社・預金機関規制改善法」(Bank and Savings Association Holding Company and Depository Institution Regulatory Improvements Act of 2010))で、1956年銀行持株会社法の改正と言う体を取り、「銀行組織が、Tier1資本総額の3%を超えてヘッジ・ファンドまたはプ ライベート・エクイティ・ファンドの持分を保有する事は禁止」となった(注14)。
又、ヘッジ・ファンドまたはプライベート・エクイティ・ファンドと直接的、又は間接的な関係を有する銀行は、「当該ファンド、又はその他のヘッジ・ ファンド、若しくはプライベート・エクイティ・ファンドであって、当該ファンドにより支配されているものと取引をする」為には、当該関係の全てを規制当局に開示し、利益相反がない事を保証する必要がある(注15)。
但し、ファンドを自ら組成する場合、当初の資本供給のみ例外的に許容されている。
銀行組織には、定義として「付保預金機関、付保預金機関を支配する会社及び、係る会社の関連会社、又は子会社」が含まれる。
ドット=フランク法第VI編に於いては、ボルカー・ルールが導入されている。
同法の最終版には、ボルカー・ルールを修正する文言がジェフ・マークリー上院議員、及びカール・レヴィン上院議員に依り盛り込まれている。
ボルカー・ルールは、オバマ政権に依り提案されたものよりも、広範囲な自己勘定取引を対象としつつ、 米国政府証券及び政府関連組織に依り発行された債券の取引(国債、政府機関債、GSE債等)を例外として、利益相反のある取引を禁止するものであった(注16参照)。
銀行の業務範囲を制限する発想は、ナローバク論(ナローバンクを中心とする金融システム構築論、Full-reserve banking, also known as 100% reserve banking, 100 pour cent monnaie, Vollreserve-system.注17)の系譜を引くものと言えよう。
ナローバンク論の発想が「All-or-nothing」の性質を持つ為、完全に機能すると考えはしないだろうが、ドット=フランク法は、発想を「銀行は特別の存在である」と言うものの純化物とする以上、ナローバンク論の系譜を引く事は否めないだろう。
「All-or-nothing」に収斂しない理由としては、前提として競争が規制の念頭に置かれている為である。
ドット=フランク法に限らず、BIS規制も、資本準備をバランス・シートを通じ手厚くさせる事により、危機対応を磐石にする発想で法が構築されている。
第VI編は、銀行組織による取引を、連邦準備制度理事会の監督する非銀行金融会社による取引と区別しており(注18参照)、以下の様に規定されている。
「付保預金機関は付保預金機関の執行役員、取締役若しくは主要株主又はこれらの者の利害関係人から資産を購入し、又はこれらの者に資産を売却する事が出来ないが、(a)当該取引が市場条件に基づき、且つ、(b)当該取引が当該付保預金機関の資本金及び剰余金の10パーセントを超える場合には、当該取引が、事前に、当該付保預金機関の取締役であって当該取引に利害を有しない者も過半数に依る承認を得ている場合は、この限りではない。」(注19)
そして、付保州法銀行がデリバティブ取引を行う事が出来る条件に、当該州法銀行が、免許を受けている州の貸出制限に係る法律が、デリバティブ取引への信用エクスポージャーを考慮している場合、が付加された(注20)。

この様なレギュレーションは、翁が指摘する所に依れば(注21)、「システム上重要な機関を作らない」と言う「To big, to fail」への対策アプローチに該当する。
本来は、「システム上重要な機関」の存在を認容した上で、破綻処理費用のコストを機関に負担させるアプローチも存在し、現実的であるものの、第VI編はアプローチとして「機関そのものを作らない」事を選択した。
前述した「現実的なアプローチ」は、第I編 である「2010年金融安定法」(Financial Stability Act of 2010)(注22)が該当する。
財務長官を議長、構成員にFRB議長、通貨監督局(OCC)監督官、証券取引委員会(SEC)委員長、預金保険公社(FDIC)理事長、商品先物取引委員会(OFTC)委員長、消費者金融保護庁長官、連邦住宅金融局長官、全国信用組合管理機構理事長、保険を専門とする独立評議員(上院の助言と承認を得て大統領が選任。任期6年) とする金融安定監督評議会 (FSOC)および金融調査局(Office of Financial Research)(注23)を創設した。
その上で、FRBが巨大な金融機関(連結総資産が500億ドル以上の銀行持株会社(BHC)、FSOCが認定した非銀行金融機関(SFIC))を一元的に監督し(注24)、被監督機関は、通常の銀行よりも高い健全性を要求され、自己資本比率規制や、レバレッジ規制、流動性規制、全体的リスク管理規制、破綻処理計画及び信用エクスポージャー報告規制、大口信用供与規制と言った基準を要求され(注25、26)、年1回のストレス・テストを要求される(注27)。
証券化、乃至市場型間接金融が発達した金融システムに於いては、SFICがシステミック・リスクを惹起する事が指摘されており、決済機能に関与する金融機関のみを厳格に監督しても、システミック・リスクは防止不可能である事が判明した為に設置された条項である。
但し、巨大BHCとSFICを指定する事は、自ら「To big, to fail」の対象を宣告している事と同義である(即ち、投資家のモラル・ハザードを誘引する可能性がある)(注28)。
そして、大規模でない証券会社や保険会社等の非銀行金融機関に於いては、抜本的な規制強化の動向はなく、今まで通りSECや州政府に監督が委ねられている。
そして、ヘッジファンドに対しては、第IV編(「2010年プライベート・ファンド投資助言登録法」(Private Fund Investment Advisers Registration Act of 2010))(注29) で規制が強化されている。

一般にこの編に依り、投資助言業者の報告義務が加重され、投資助言業者が、様々な連邦政府機関に対する報告に於いて情報を除外する能力を制限している。
但し、いくつかの例外として、ベンチャー・キャピタル・ファンド助言業者や、運用資産が1.5億ドル未満の一定の助言業者及びファミリー・オフィス(SECに依り定義)はレギュレーションから除外されている(注30)。
この法律は、認定投資家の定義を変更している(注31)。
又、SECは、時期に応じてこの金額を調整する権限を有し、5年毎にインフレ効果を反映して調整しなければならない(この金額は10万ドルの倍数で決定する必要がある)(注32)。
求められる監督機関の検討事項は以下の通りである。

①政府説明責任局 (GAO):財務的閾値を判断する為の適切な基準、その他の認定投資家を認定する為に必要な基準、プライベート・ ファンドの為に必要な自主規制組織のフィージビリティの検討(注33)。

②SEC:ショートセールの検討 (リアルタイムなショートセールの公表、及び任意の試験的報告プログラムのフィージビリティ、便益及び費用を含む)(注34)。

そして、インセンティブ構造に歪みを来しているとされる事柄への対策は、第IX編(「2010年投資者保護・証券改革法」(Investor Protection and Securities Reform Act of 2010))で規制が掛けられる事となった。
「組成・転売型」証券化商品に対するモラル・ハザードの低下に対しては、転売時に原則、資産の5%以上を組成サイドが保有しなければならない(注35、36)。
格付け機関に於いては、IX編C節が対応し(注37)、SECに依る信用格付局(Office of Credit Ratings, OCR)の創設を命じている。
OCRは、全国的に認知された統計格付組織(Nationally recognized statistical rating organization, NRSRO)を監督し、これらに強化されたレギュレーションを課すものとされる(注38)。
NRSROは、信用格付の決定の為の方針、手続、及びメソドロジーの実施・遵守を目的とする実効的な内部統制構造を形成・維持し、文書化する必要がある(注39)。
また、NRSROは、OCRに対し、年次内部統制報告書を提出する必要がある。
そしてNRSROは、SECに依り定められた規則を遵守し、 営業が当該NRSROの発する格付に影響しない様なものとする必要がある。
そして、本節はSECに対し、証券の特定の種類について、NRSROの登録を一時的に停止、又は永久に取り消す権限を与えている(但し、前座として告知及び聴聞を経た上で、当該NRSROが信用格付を誠実に付す為の資源を欠くという場合のみ、この権限は機能する)(注40)。
監督する側であるSECは、信用格付の手続及びメソドロジーに関し、規則を定めるとされている。
OCRは各NRSROの検査を少なくとも年1回行い、検査報告書を公開する義務がある。
信用格付の業績の透明性を促進する為、SECはNRSROに対し、当初の信用格付と変更後の信用格付について情報を公開させ、格付け機関の利用者がNRSROを評価出来る様にしている。
そして、SECに対し、NRSROの独立性強化に関し、検討する事を要求し、SECが規則制定権限を用いて、 信用格付と無関係なサービス(コンサルティングや助言等)の提供による不適切な利益相反を予防する為の指針を制定する事を、NRSROに対し勧告する事を義務付けている(注41)。
C節は、合衆国会計検査官に対し、NRSROが報酬を得る代替的なビジネス・モデルの検討を行う事を求めているが(注42)、これは利益相反を防止する為の要求である。利益相反防止の案自体は、Pozenの提案する様な(注43)、資金調達者から格付けの依頼が生じた際に、一旦公的機関が案件を引き取り、格付け機関を指名し、料金の設定に関与する(謂わば格付け事業の国有化である)モデルや、三國の提示した(注44)、そもそも格付け機関を総じて非営利団体化する(Pozen同様に、根源は格付け事業の国有化である)案がある。
但し、この案の場合、只でさえ第VI編で「Bureaucracy(官僚主義)」の謗りを受けている状況下(注45)で、更に「Bureaucracy」の様相を増す事になる。
そして、補論04で扱う、マクロプルーデンスの指針で取り沙汰された、「(当時の)新しい金融技術を導入した金融商品を取引する際のインフラストラクチャーが未整備であった」点については、第VII編(「2010年ウォール街透明性・ 説明責任法」(The Wall Street Transparency and Accountability Act of 2010))(注46)が対応した。
これは、主にCDSをターゲットとしたものであり、店頭スワップ市場の規制に関わるものである(注47)。
第VII編は、店頭スワップ取引について、取引所又は清算機関を通じて清算する事を義務付けている。
取引業者は、SECや商品先物取引委員会 (CFTC)への登録が義務付けられ、取引情報を情報集積機関に届け出た上、SECとCFTCは半期毎に届け出られた情報を公表する必要がある。
同法は、グラム・リーチ・ブライリー法に基づく証券派生スワップに於ける規制の例外を廃止している(注48)。
規制当局であるSECとCFTCは、証券スワップに関し、規則を制定し又は命令を発する際には事前に相互に協議する事が要求される(注49)。
そして連邦準備制度理事会と協議の上、商品取引所法1条a(47)(A)(v)及び1934年証券取引所法第3条(a)(78)に登場するスワップ関連の用語について定義する事が要求される(注50)。

そこで本題である「グラム・リーチ・ブライリー法とリーマン・ショックの元凶論争」に戻るが、この論争は、グラム・リーチ・ブライリー法が直接的に2007年のサブプライムローン危機を引き起こすのを助長した、とする側と、擁護側が対立するものである。
Stiglitz(注51)やKrugman(注52)を筆頭に、Thornton(注53)、Ekelund(注54)、Shostak(注55)と言った、主にリベラル派の経済学者が主張している(リベラルであるからと言って、只単に規制緩和を望む訳ではない事に留意されたい)。
彼らの基本的なスタンスとしては、1929年大恐慌以来禁止されていた投資銀行、商業銀行と保険会社を所有する事が出来る、巨大な金融スーパーマーケット(銀行)の創造を許可する規制緩和に、グラム・リーチ・ブライリー法により至ったとしている。
そして「To big, to fail」、即ち過程はがあまりに大きく絡み合っていて、潰せない企業に至る道を開いた、と指摘するものである(注56)。
基本的に、この対立構造は経済学者と法学者であり、擁護側には法学者の割合が非常に多い。例えば、Krugmanに名指しされたGrammは、法案の正当性を以下の様に主張している(注57)。

It seems clear that if GLB was the problem, the crisis would have been expected to have originated in Europe where they never had Glass-Steagall requirements to begin with. Also, the financial firms that failed in this crisis, like Lehman, were the least diversified and the ones that survived, like J.P. Morgan, were the most diversified. Moreover, GLB didn't deregulate anything. It established the Federal Reserve as a superregulator, overseeing all Financial Services Holding Companies. All activities of financial institutions continued to be regulated on a functional basis by the regulators that had regulated those activities prior to GLB.
(グラム・リーチ・ブライリー法が問題であるならば、危機は、彼らには第一に、グラス・スティーガル法のような要求が決してなかったヨーロッパから始まった事になっていただろう。ま た、リーマン・ショックの様に、この危機で倒産した金融機関は多様化され最少であった上、JPモルガンのように、生き残った者は最も多様化された。更に、グラム・リーチ・ブライリー法は何も規制を撤廃しなかった。それは連邦準備制度をスーパーレギュレーターとして確立したからだ。そして、総ての金融持株会社を監督した。金融機関の総ての活動は、グラム・リーチ・ブライリー法の前にそれらの活動を管理した監査機関によって機能的な原則で管理され続けた。)

またCalabriaは、本稿で先述した様に、大部分の投資銀行が貯蓄商業銀行と合併せず、そして、合併した少ない銀行がそうしなかったものより危機を風化させた点に注目し、1999年のグラム・リーチ・ブライリー法の通過の前に、既に投資銀行が抵当危機の原因であると主張される、その問題の金融資産そのものを持っており、交換する事が既に可能であり、彼らがそうしたので、彼らの帳簿をつける事をも、既に行えたと主張している(注58)。
Calabriaは、多くの投資銀行としての、投資資金へのより大きなアクセスが有った為に、市場に登場する一般人による持ち株の変動が、金融機関のポートフォリオを交換する事への説明となる、と結論付けている。

否定派にリベラル系の経済学者が中心に属している事と対照的に、擁護側は新古典派(例としてCowen。注59)、ネオリベラリズム系の学者(例としてDeLong。注60)と、余り偏りはない。CowenとDeLongは、Clinton(注61)、“The New York Times”のジャーナリストであり、“CNBC's Squawk Box”のアンカー(総合司会。アンカーマン)であるSorkin(Andrew Ross Sorkin)(注62)と同様に、「グラム・リーチ・ブライリー法は、危機の規模を抑えた」と主張している。
又、文芸誌である『The Atlantic』に寄稿した経済ジャーナリストであるMcArdle(Megan McArdle)は、グラム・リーチ・ブライリー法が問題の一部であるならば、困っていたのは商業銀行であり、投資銀行ではないとして、仮にグラム・リーチ・ブライリー法を廃止しても状況を助けなかった可能性がある(即ち、システミック・リスクの構造的問題を挙げている)、と指摘する(注63)。

結論としては、大多数を批判派が占め、リベラル系経済学者が論者の大多数を占有する状況下に対し、擁護派に法学者、経済学者を問わず、バランスの取れた立ち位置に於ける視点からの論が集合している事になる。
「Villain Phil」の「Folk Economics」が、正鵠を得ている事は否定出来ないだろう。

〔補論02 注〕

注01:グラス・スティーガル法 (Glass-Steagall Act、1933年銀行法)は、連邦預金保険公社(FDIC)設立などの銀行改革を含む法であり、主に「第二のグラス・スティーガル法」がグラス・スティーガル法として知られている(「第一のグラス・スティーガル法」は、通貨を連邦準備制度に割り当てる事を許可した最初の法律)。

第1のグラス・スティーガル法は、デフ レーションを止める努力をするという内容であり、国債のような多くのタイプの資産を商業手形と同様に再割引を提供する連邦準備制度の能力を拡大したものである(注α)。

第2のグラス・スティーガル法は、 1933年前半のアメリカの商業銀行システムの大規模な崩壊に対応するものである。

いくつかの条項はレギュレーションQ(注β)のような投機の規制を行うように設計されていたが、FRBが1980年のDepository Institutions Deregulation and Monetary Control Actによって無効とし、自由化された。

注α:Kennedy, pp. 50-53 and 203-204.
Perkins 1971, pp. 497-505.

Kennedy, Susan Estabrook., “The Banking Crisis of 1933”, Lexington, KY, University Press of Kentucky, c1973.

Perkins, Edwin J., “The Divorce of Commercial and Investment Banking: A History”, incl., “Banking Law Jornal 88”, vol.88(6), pp.483?528, c1971.

incl.: include, namely, to make article part of a larger treatise.

注β:FRBのレギュレーションのうち、銀行預金利率に関するもので、各連銀加盟行が一般から集める定期預金、貯蓄預金(普通預金)などがその規制対象とされている米国の預金金利規制の総称で、預金獲得への過当な金利競争を防止する目的として導入された。

グラス・スティーガル法を受けて、要求払預金への付利が禁止され、貯蓄・定期預金への金利上限が課された。

その後、10万ドル以上の大口定期預金について適用停止とされたが、1980年金融制度改革法以降、米国の預金金利はほぼ完全に自由化されている。

注02:Macey, p.716 and Wilmarth, p.219, fn.5.

fn.: footnote , namely, a note at the bottom of the page in a book, which gives more information about something.

Macey, Jonathan R., “The Business of Banking: Before and After Gramm-Leach-Bliley”, incl., “The Journal of Corporation Law 25 (4)”, pp.691?722, c2000.

Available at
http://digitalcommons.law.yale.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=2426&context=fss_papers

Wilmarth, Jr., Arthur E., “The Transformation of the U.S. Financial Services Industry, 1975-2000: Competition, Consolidation and Increased Risks”, incl., “University of Illinois Law Review 2002 (2)”,pp.215?476, c2002.

注03:中塚晴雄「1920年代の商業銀行の投資銀行業務と証券発行構造 -ニューヨーク外債市場と証券子会社の引受とリテール販売-」(福岡大学『商学論叢』第52巻第3・4号所収、2008.03)

Available at
http://www.adm.fukuoka-u.ac.jp/fu844/home2/Ronso/Shogaku/C52-3+4/C5234_0531.pdf

中塚晴雄『金融論 -初心者にもわかるやさしい金融論-改訂版-』(税務経理協会、2006)

注04:Jackson, William D., Economics Division., “Glass-Steagall Act: Commercial vs. Investment Banking”, Congressional Research Service, Library of Congress, June 29, c1987.

Available at
http://digital.library.unt.edu/ark:/67531/metacrs9065/

但し、この文献には両論が併記されている為、グラス・スティーガル法を支持する意見も記述されている。

①法が制定された当初の状況に拠ると、信用貸出を執り行う金融機関が、同時に信用投資を執り行っていた事に特徴がある。
これは銀行と顧客の利害対立を内包していた。利益相反取引を禁止する為の銀行内部統制の取り扱いは、グラス・スティーガル法を廃止する際の重大な課題である。

②預金保険公社は、他人のお金を管理する事に依り巨大な資産を保護対象としている。
預金保険が適用される範囲は、堅実な貸付に預金が充当されると予定されているものに限定されるべきであり、株式の購入やその他の変動性資産など巨大なリスクに晒される可能性のある預金への保護は制限される必要がある。
公的な預金保険を担保とした過剰なリスクテイクを無くす事に依り、公正で健全な競争を保護する事にも繋がる。

③証券業務は危険と隣合わせであり、それはしばしば巨大な損失に至る。
そのような損失は、預金の健全性を脅かしてきた。
預金保険公社が証券損失の結果として崩壊する事になった場合、政府及び国民は、預金保険を破綻させない(「To big, to fail.」)為に高い額を支払うことを要求される可能性がある。

④預金保険公社は、リスクを抑制する為に運営されると推測される。
運営者は、投機的な証券業を慎重に機能するように調整出来ない可能性がある。
例としては、1970年代から1980年代の、銀行持株会社が運営していた不動産投資信託の破綻と言う苦い経験がある。

注05:Broome, Lissa Lamkin., Markham, Jerry W., “The Gramm-Leach-Bliley Act”, c2001.

Available at
http://www.symtrex.com/pdfdocs/glb_paper.pdf

注06:“Bill Summary & Status - 106th Congress (1999 - 2000) - S.900 - CRS Summary - THOMAS (Library of Congress)”

Available at
http://thomas.loc.gov/cgi-bin/bdquery/z?d106:SN00900:@@@D&summ2=m&

注07:Barth et al.,“Policy Watch: The Repeal of Glass-Steagall and the Advent of Broad Banking”, included in, “Journal of Economic Perspectives”, Vol.14 (2), pp.191?204, c2000.

et al.: et alii, namely, written after a list of names to mean other people are also involved in article.

Available at
http://www.occ.treas.gov/ftp/workpaper/wp2000-5.pdf

注08:Warren, Elizabeth., “All Your Worth: The Ultimate Lifetime Money Plan”, Hg., Simon and Schuster, c2006.

Hg.: Herausgeber, namely, it is called publisher in English.

注09:Halligan, Liam., “Outrage at bonuses won't solve the mess we're in”, February 14 , c2009.

Available at
http://www.telegraph.co.uk/finance/comment/liamhalligan/4623601/Outrage-at-bonuses-wont-solve-the-mess-were-in.html

Housel, Morgan., Barker, Christpher., “Who's More to Blame: WallStreet or the Repealers of the Glass-Steagall Act?”, April 6, c2009.

Available at
http://www.fool.com/investing/general/2009/04/06/whos-more-to-blame-wall-street-or-the-repealers-of.aspx

注10:Meardle, Megan., “Hindsight regulation”, The Atlantic, November 16, c2008.

Available at
http://m.theatlantic.com/business/archive/2008/09/hindsight-regulation/4122/

注11:Hirsh, Michael., “McCain and Cantwell Want a New Glass-Steagall Law”, Newsweek, December 14, c2009.

Available at
http://www.newsweek.com/mccain-and-cantwell-want-new-glass-steagall-law-75867?from=rss

注12:Uchitelle, Louis., “Volcker Fails to Sell a Bank Strategy”, New York Times, October 20, c2009.

Available at
http://www.nytimes.com/2009/10/21/business/21volcker.html?_r=0

注13:正式名称は、「金融システムにおける説明責任および透明性を改善することにより合衆国の金融安定を推進するための、「大き過ぎてつぶせない」を終わらせるための、ベイル・アウトを終わらせることによりアメリカの納税者を保護するための、濫用的金融サービス実務から消費者 を保護するための、ならびにその他の目的のための法律」(an Act to promote the financial stability of the United States by improving accountability and transparency in the financial system, to end "too big to fail", to protect the American taxpayer by ending bailouts, to protect consumers from abusive financial services practices, and for other purposes.)である。

当初は2009年6月にオバマ政権によって提案されたものであり、法律案として下院に提出されたのは2009年7月であるが、2009年12月2日に、修正版がバーニー・フランク下院金融サービス委員会委員長に依り下院に提出され、クリス・ドッド上院銀行委員会委員長に依り同委員会に提出された。
この2名の議員にちなみ、2010年6月25日に報告を行った協議委員会は法律案を命名することを決議している。

Reference.

Paletta, Damian., “It Has A Name: The Dodd/Frank Act”, Wall Street Journal, June 25, c2010.

Available at
http://blogs.wsj.com/washwire/2010/06/25/it-has-a-name-the-doddfrank-act/

注14:The White House Office of the Press Secretary, “President Obama Calls for New Restrictions on Size and Scope of Financial Institutions to Rein in Excesses and Protect Taxpayers”, January 21, c2010.

Available at
http://m.whitehouse.gov/the-press-office/president-obama-calls-new-restrictions-size-and-scope-financial-institutions-rein-e

注15:ドット=フランク法(H.R.4173)619条により、1956年銀行持株会社法に追加された13条f項に拠る。

注16:ドット=フランク法619条。

ボルカー・ルールについては以下を参照されたい。

“The Volckar Rule”
http://www.skadden.com/newsletters/FSR_The_Volcker_Rule.pdf

注17:ナローバンク論は、ブルッキングス研究所のロバート・ライタン(Robert E. Litan)が1986年に提案した金融システム構築論であり、預金保険の適用を受けている預金部門と、貸付部門とを分離し、預金で集めた資金の運用は財務省証券など安全な資産に限定する一方、貸付部門については市場からの資金調達を行わせ、両部門を分離させた金融持株会社の子会社については、分野規制を解除するべきである、とする論である。
この様な銀行の預金部門と貸付部門を分離する考え方は、アメリカではしばしば登場した(例としてはFisher、Friedman、Tobin、Kay等)。
しかし日本に於いては、大きく反応する事はなかった。
何故ならば、部門分離の考え方自体が異端であり、フィッシャーやフリードマンらは異端者として扱われ、金融論に於ける常識の埒外として認識されていた為であり、そもそも端から問題にしなかったのである。
1980年代終わりに、アメリカの連邦議会でこの問題が正式に取り上げられている事や、アラン・グリーンスパン(当時FRB議長)がナローバンク論に言及している事が伝わる中、学界のこの問題へのスタンスは大きく変化していき、政策提案として、ナローバンクの導入が真剣に議論されるようになった。
この様に評価が大きく振れた背景には、1980年代ではバブル景気の最中、金融機関の破綻が注目されなかった事や、持株会社と言った形態が未だ認められていなかった事等、制度改正が追いついていなかった事の背景から、1990年代に入り、金融機関の不良債権問題が日本でも大きな問題になり、金融持株会社制度が導入される中で、規制緩和が課題になる等、アメリカの議論を受け入れやすくなった事が背景となった。

Reference.
Fisher, Irving., Schemmann, Michael (ed.)., “100% Money and the Public Debt”, Hg., ThaiSunset Publications, ed., e-book., August 4, c2010.

ed:editor, edition.

Available at
http://fisher-100money.blogspot.co.uk/?view=sidebar&m=1

Friedman, Milton., “A Program For Monetary Stability”, Hg., Fordham University Press, January 1, c1983.

Available at (Abridged Version)

http://www.google.co.jp/url?sa=t&source=web&cd=1&ved=0CC4QFjAA&url=http%3A%2F%2F0055d26.netsolhost.com%2Ffriedman%2Fpdfs%2Fother_academia%2FHoughton.1965.pdf&ei=6PbpUoa_MsTHkwWqyoDYBg&usg=AFQjCNEcjvzNztZLpqL8ygQUBNd6sjqmzA

Tobin, James., “The case for preserving regulatory distinctions”, incl., “Federal Reserve Bank of Kansas City in its journal Proceeding”, Vol.1987, pp.167-205.

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http://www.kansascityfed.org/publicat/sympos/1987/S87TOBIN.PDF

Kay, Jhon., “Narrow Banking: The Reform of Banking Regulation”, Hg., Centre for the Study of Financial Innovation (CSFI), December, c2009.

Available at
http://www.johnkay.com/wp-content/uploads/2009/12/JK-Narrow-Banking.pdf

岩佐代市『金融システムの動態:構造と機能の変容、および制度と規制の変容』(関西大学出版部、2002)

吉田暁『決済システムと銀行・中央銀行』(日本経済評論社、2002)

注18:“The Volckar Rule Provisions”, Real News.

Available at
http://www.mofo.com/files/Uploads/Images/VolckerChart.pdf

注19:ドット=フランク法615条。

注20:ドット=フランク法611条。

注21:翁百合『金融危機とプルーデンス政策』(日本経済新聞出版社、2010.06)

注22:ドット=フランク法101条。

注23:ドット=フランク法152条(a)。

注24:ドット=フランク法第I編C節。

注25:ドット=フランク法155条(b)(1)(A)。

注26:ドット=フランク法155条(b)(1)(B)に拠れば、追加的に偶発資本規制、強化開示規制、短期負債規制を求める事が可能である。

注27:ドット=フランク法165条(i)。

注28:Simkovic, Michael., “Competition and Crisis in Mortgage Securitization”, p.251, ll.17-21., and ibid., pp.251-252, fn.152.

Reference
Simkovic, Michael., “Competition and Crisis in Mortgage Securitization”, Seton Hall Law School; Harvard Law School - John M. Olin Center for Law and Economics, incl.“Indiana Law Journal”, Vol. 88, pp.213-271, (2013), October 8, c2011.

http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=1924831

新たな金融危機や、更なる「bail out」を予防するには不十分であるという議論は、Gretchenの記事が紹介している。

“Some experts have argued that the Dodd?Frank Act isn’t strong enough, arguing that it fails to protect consumers adequately, and, more importantly, does not end too big to fail.”

Reference
Gretchen, Morgenson., “Strong Enough for Tough Stains?”, New York Times, June 25, c2010.

Available at
http://www.ny%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%AB.com/2010/06/27/business/27gret.html

注29:ドット=フランク法401条。

注30:ドット=フランク法407、408、409条。

注31:ドット=フランク法413条。

注32:ドット=フランク法418条。

注33:ドット=フランク法415、416条。

注34:ドット=フランク法416条。

注35:ドット=フランク法IX編D節。

但し、商業用抵当貸付その他の種類の資産については、規則に拠り、開示がある場合には、信用リスクの5%未満の保持が許容され得る。
又、証券化実施者の為に、幾つかの資産の種類(住宅抵当貸付、商業用抵当貸付、商業用ローン、オートローン等)毎のルールが定められ、OCC、FRB、FDIC、及びSECは共同で、 以下の制限の下で、このルールの免除、例外及び調整を定める事が可能である(注α)。

①証券化された資産、又は証券化可能な資産についての証券化実施者、及びオリジネーターによる、高品質な審査基準の確保に資するものである事。

②証券化実施者、及びオリジネーターに依る資産の適切なリスク管理を推奨し、消費者及び企業の合理的な条件での融資へのアクセスを改善し、又は、その他の形で公益及び投資者保護に適う事。

注α:ドット=フランク法941条に拠る1934年証券取引所法の改正に於いて加えられた、1934年証券取引法15G条(e)。

注36:Kider, Mitchel., Kieval, Mitchel., Sowers, Leslie., “Consumer Protection and Mortgage Regulation under Dodd-Frank”, c2011, p. 540.

Available at
http://store.westlaw.com/productdetail/178928/41127984/productdetail.aspx

注37:ドット=フランク法931条。

注38:ドット=フランク法932条(p)。

注39:ドット=フランク法932条。

注40:ドット=フランク法931条。

注41:ドット=フランク法939条(c)。

注42:ドット=フランク法939条(e)。

注43:Pozen, Robert., “Too Big to Save? How to Fix the U.S. Financial System”, Hg., Jhon Wiley, October, c2009.

注44:三國仁司『Q&A格付けの仕組み-“準公共財”としての格付けのゆくえ-』(金融財政事情研究会、2009.09)

注45:例としてはAppelbaumとDennisのワシントンポストの記事に掲載された当事者の声が挙げられる。

【Industry groups responded to the proposals with outrage. “To some degree, it looks like they're just blowing up everything for the sake of change,” said Ed Yingling, president of the American Bankers Association. “If this were to happen, the regulatory system would be in chaos for years. You have to look at the real-world impact of this.” In total, Dodd's bill would create three new bureaucracies. An Agency for Financial Stability would police systemic risks. A Financial Institutions Regulatory Administration would oversee the banking industry. A Consumer Financial Protection Agency would safeguard borrowers and other bank customers.】

Binyamin, Appelbaum., Brady, Dennis., and Washington Post Staff Writer., “Legislation by Senator Dodd would overhaul banking regulators”, The Washington Post, November 11, c2009.

Available at
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/11/09/AR2009110901935.html?hpid=topnews

注46:ドット=フランク法701条。

注47:Dechart LLP., “Dodd-Frank: The Regulatory Reset of the OTC Derivatives Markets”, July, c2010.

Available at
http://www.dechert.com/files/Publication/6bde59c4-616f-4337-baa4-d4aa304cfc9a/Presentation/PublicationAttachment/ae071cb5-bae5-4344-9bf2-d95f792f5d4f/FS_17_07-10_Dodd-Frank_The_Regulatory_Reset.pdf

注48:Skadden., “The Dodd?Frank Act: Commentary and Insights: Derivatives”, n.d.

n.d.: no date.

http://www.skadden.com/newsletters/FSR_Derivatives.pdf

注49:ドット=フランク法712条(a)。

注50:ドット=フランク法712条(d)(1)。

注51:Baram, Marcus., “Who's Whining Now? Gramm Slammed By Economists, 'Nation of Whiners' Comments Criticized by Finance Experts in Light of Current Crisis”, ABC News, September 19, c2008.

Available at
http://abcnews.go.com/print?id=5835269

【“This is a mentality that doesn't understand the nature of systemic risks in financial systems,” says Joseph Stiglitz, Nobel Prize-winning economist and former chairman of President Clinton's Council of Economic Advisers. “It's social Darwinism.” (...) “As a result, the culture of investment banks was conveyed to commercial banks and everyone got involved in the high-risk gambling mentality. That mentality was core to the problem that we're facing now,” Stiglitz says.】(Ibid., ll.20-22, 26-28)

注52:Krugman, Paul., “The Gramm connection”, The New York Times, March 29, c2008.

Available at
http://krugman.blogs.nytimes.com/2008/03/29/the-gramm-connection/?_php=true&_type=blogs&_r=0

【(Where have I seen that before?)His chief economic adviser is former Senator Phil Gramm, a fervent advocate of financial deregulation. In fact, I’d argue that aside from Alan Greenspan, nobody did as much as Mr. Gramm to make this crisis possible.】(Ibid., ll.17-22)

注53:Ekelund, Robert., Thornton, Mark., “More Awful Truths About Republicans”, Ludwig von Mises Institute, September 4, c2008.

Available at
http://mises.org/daily/3098

【The Financial Services Modernization Act of 1999 would make perfect sense in a world regulated by a gold standard, 100% reserve banking, and no FDIC deposit insurance; but in the world as it is, this "deregulation" amounts to corporate welfare for financial institutions and a moral hazard that will make taxpayers pay dearly. Such government privileges are nothing new to Republicans - consider the effective subsidies to the pharmaceutical, sugar, and steel industries - but this particular gift to financial institutions is what allowed the credit bubble to expand to such absurd proportions, because it allowed banks of all types to engage in increasingly risky transactions and to greatly expand the leverage of their balance sheets. As the crisis unfolds, credit continues to contract, the risk of bank failures increases, and the possibility of far more serious economic consequences become more apparent. The S&L crisis cost the taxpayers a few hundred billion, but this crisis has the potential of saddling the taxpayer with several trillion in bailouts.】(Ibid., ll.49-60)

注54:Baram, op.cit.

op.cit.: opere citato, namely, in the work cited, thus refers the reader to the bibliography, where the full citation of the work can be found, or to a full citation given in a previous footnote.

注55:Shostak, Frank., “Does It Make Sense to Resurrect the Glass-Steagall Act?”, Ludwig von Mises Institute, February 16, c2010.

Available at
http://mises.org/daily/4100

注56:Paletta, Damian., Scannell, Kara., “Ten Questions for Those Fixing the Financial Mess”, The Wall Street Journal, March 10, c2009.

Available at
http://online.wsj.com/news/articles/SB123665023774979341?mg=reno64-wsj&url=http%3A%2F%2Fonline.wsj.com%2Farticle%2FSB123665023774979341.html

【7. How big is "too big to fail?"
For commercial banks, it appears the answer is $100 billion in assets. The Obama administration said last month it would run "stress tests" on the 19 banks that have more than $100 billion to determine how much additional capital these companies would need to continue lending. The tests are designed to see how the banks would perform under various dire scenarios for the economy, such as unemployment rising above 10%. Banks aren't the only companies that have received government assistance. The government has committed more than $100 billion to prevent the collapse of AIG. The Fed and Treasury still see its collapse as something to be avoided at all costs.】(Ibid., ll.113-123)

注57:Gramm, Sen. Phil., “Deregulation and the Financial Panic - Loose money and politicized mortgages are the real villains.”, opinion pages of The Wall Street Journal, February 20, c2009.

Available at
http://online.wsj.com/news/articles/SB123509667125829243?mg=reno64-wsj&url=http%3A%2F%2Fonline.wsj.com%2Farticle%2FSB123509667125829243.html

注58:Calabria, Mark A., “Did Deregulation Cause the Financial Crisis?”, incl. “Cato Policy Report”, Vol.31(XXXI), No.4, Hg. Cato Institute, July / August, c2009, pp.1, 6-7.

Available at
http://www.cato.org/pubs/policy_report/v31n4/cpr31n4.pdf

注59:Tyler Cowen.

Anon., “Who Caused the Economic Crisis?”, FactCheck.org, October 1, 2008. (But, Link of the page concerned is invalid)

http://www.factcheck.org/elections-2008/who_caused_the_economic_crisis.html

Anon.: Anonymous, namely, unknown by author name.

注60:James Bradford DeLong.

注61:William Jefferson “Bill” Clinton.

在任期間の間、グラス・スティーガル法を覆す法案(グラム・リーチ・ブライリー法)に署名し 、銀行業務を規制撤廃するという決定を後悔しているかどうか尋ねられ、現在の状況を安定させるのを助けた例として、バンク・オブ・アメリカによるメリルリンチの買収を挙げ、「その法案に署名した事が現在の危機と関係があったとは思わない」と回答している。

Bartiromo, Maria., “Bill Clinton on the Banking Crisis, McCain, and Hillary”, BusinessWeek, November 24, c2008.

Available at
http://www.businessweek.com/magazine/content/08_40/b4102000409948.htm

注62:Sorkin, Andrew Ross., “Reinstating an Old Rule Is Not a Cure for Crisis”, New York Times, May 21, c2012.

Available at
http://dealbook.nytimes.com/2012/05/21/reinstating-an-old-rule-is-not-a-cure-for-crisis/?ref=business

注63:McArdle, op. cit.

“Part of the problem, it would be the commercial banks, not the investment banks, that were in trouble”

McArdle同様に、保守系に位置する『National Review』の「Villain Phil」(September 22, c2008.)と言う記事も、法についてのリベラルの主張を「Folk Economics(身内の経済学)」と呼称し、同様の主張を行っている。

Anon., “Villain Phil”, National Review, September 22, c2008. (But, Link of the page concerned is invalid)

http://article.nationalreview.com./?q=Mzk3MzFiYWY3NjUyNzUyNzA4MzYzNTk2ZDVhMDFiMWE=



〔補論04 制度的不備に於ける議論〕

2014-01-24 14:41:39 | CMBS論集用小ネタ
〔補論04 制度的不備に於ける議論〕

 制度的不備を巡る争点は、大まかには以下の5つに分ける事が出来る。

①「マクロ・プルーデンスの視点に対する政策の欠如」が危機を拡大した。

②預金取り扱い金融機関の規制が上手く行かない。

③銀行以外の金融機関の規制が不十分である。

④金融機関に於ける規律の低下と、低下を齎したインセンティブ構造の歪みが危機を拡大した。

⑤(当時の)新しい金融技術を導入した金融商品を取引する際のインフラストラクチャーが未整備であった。

まず①だが、そもそもマクロ・プルーデンスと言う言葉には、定義が存在しない。その為、各識者に依って少しずつ解釈が異なる。
 田中の場合、「システミック・リスクの顕在化に対する蓋然性に目を光らせ対処を行う政策」に対する視点であり(注01参照)、翁の場合、「金融システム全体を安定化させ、国民経済的なコストを最小化する事を目的とする」視点であり(注02参照)、ボリオは「金融システム全体に危機が及ぶ事を防ぐ事」を目標とするものであると、彼のミクロプルーデンスの解釈である「個々の金融機関の経営危機を防ぐ事」を目標とするものと対照的に説明している(注03参照)。ミクロプルーデンスの解釈の場合、これは事前的な対応となる事に対し、マクロプルーデンスの解釈の場合、事後的な対応となる。佐藤は、「『金融システム全体の安定』をより直接的な政策目標としつつ、金融機関の行動や市場の動向をマクロの視野から監視し、行動の歪みや不均衡の積み上がりに対し、早めに是正を促していく政策アプローチ」としている(注04参照)。
 何れの識者の解釈にせよ、「金融システム全体に影響を与える」金融機関や市場参加者が採る行動や、彼らの行動に影響を及ぼす市場動向と、更に実体経済変動の相互作用等を、注意深く観察するべきだ、と言う解釈が、マクロプルーデンスの概念に込められた内容であると理解できよう。
 ②の場合、BIS規制(バーゼルI)の景気循環増幅効果を指している。景気循環増幅効果の指摘自体は、リーマンショック以前から指摘されてきた事だが、これまでのBIS規制改定(バーゼルII、バーゼルIII)の改定で、修正されずにそのまま残されている(注05参照)。
 ③は、リーマンショックで銀行以外の金融機関(証券会社(投資銀行)、保険会社、製造業系統を扱うノンバンク)でも破綻した場合、金融システムに重大な打撃を与えた事から、規制監督の不十分さが取り沙汰される様になった。預金と言う決済手段を抱えるが故に、銀行は「守られるべき存在」であるとされてきた。その他の金融機関は、破綻しても決済手段でないので決済機能も揺らがず、大して影響がないとされてきた。しかし、「銀行以外の金融機関に於ける破綻」が「銀行の破綻」を呼び、金融システムの安定を脅かす、と言う事実が判明した。
 問題は、非銀行金融機関が、規制が弱い事を逆手に取り、バランスシートの拡大(信用拡張)を行った事にある。例えば証券会社の場合、本来ビジネスモデルは、新発行される証券の引き受け(アンダーライター)と、証券の売却(プレイスメント)による手数料と証券価格差益であって、バランスシート拡大による投資収益の獲得ではない。しかし、いつしか投資収益の獲得が本業になった。
 監督機関としては、日本であれば金融庁が証券会社、保険会社を監督し、アメリカは証券会社を証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission,SEC)が、保険会社を各州政府が監督している。世界全体では、監督当局の集まりとして、証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions, IOSCO(イオスコ))と保険監督者国際機構(International Association of Insurance. Supervisors, IAIS)が存在する。
 しかし、IOSCOやIAISに於いて、バーゼル銀行監督委員会(Basel Committee on Banking Supervision, BCBS)が銀行(商業銀行)に対するBIS規制を掛ける様な、大掛かりな規制を掛ける動向は、リーマンショック迄に存在していない。その理由としては、「規制と保護のトレード・オフ」で説明する事が出来る。
 規制監督が弱い事は、政府の救済が存在しない(存在する必要性が生じない、と換言した方が良いだろう。しかし、市場型システミック・リスクの認識により、このフレームワークは見直しを図られる事となった)。ノンバンクについては、証券会社や保険会社以上に規制は緩慢なものであった。
 証券会社の中には、「ヘッジファンド(大口の投資信託)」が存在するが、一時期ヘッジファンドの大型規制が取り沙汰された事があった。時期は、1997~1998年のアジア通貨危機が発生した際の破綻したヘッジファンドの中の一つであるLTCM(Long-Term Capital Management)である(注06参照)。しかし、ヘッジファンド自体の規制は見送られ、銀行等の取引先金融機関に対し状況報告を要求するのみとなった。
 ④は、証券化商品の組成局面に於ける規律低下による信用拡張の増幅である。例えば、RMBSの様な「組成後販売」し、組成する人間の手から完全に離れるシステムを採用した証券化商品の場合、組成側がローンの売却を前提として、ローンの貸出先(売り先、投資家と勘違いしない様留意されたい)の審査を怠る、更には、貸出先が返済不可能と知りながらローンの証券化商品を売却するケースも原理上発生しうる(正確には、売却する事を躊躇う様なインセンティブが存在しないが故に発生しうる、と言えよう)。
 即ち、「ローンの証券化商品の組成」の段階で、規律低下を阻む様な法的システムが欠如していた、換言すれば、組成システムの内部に規律を保つ事に対するインセンティブが欠如していた(但し、これは規律を守らない事によるインセンティブが存在していたと言う、論理の要請による帰結を導く訳ではない)事になる。
 また、CDOを主とする格付け機関の規律低下も指摘される処である。本来、原理的に考えた場合、投資家(利用者)在っての格付け機関である。しかし、現実のビジネスモデルは、ローン締結者(ローンの格付け依頼者)から代金を回収する事で成立している。要するに、格付け機関が依頼者の忖度を行っていた事が指摘される訳であり、格付け機関と投資家間で、利益相反の関係が生じている事になる。
 例としては、CDOの格付けを依頼された機関が組成コンサルティングを同時に執行していた等、都合のいい格付けを堂々と出す様な、劇場型とも言うべきモラルの崩壊(Collapse)が発生していた事は事実である(注07参照)。これを阻止する有効な規制は、同時存在していない。
 ⑤の場合、CDS(Credit Default Swap)(注08)の取引方法が主に取り沙汰された。金融取引に於ける取引方法では、取引所を通すか否かで取引の名称が異なり、取引所に於ける金融取引が「取引所取引」と称される事に対し、取引所外に於ける金融取引は「店頭取引」と称される。両者の最大の相違点は、カウンターパーティーリスク(相手がデフォルトを起こすリスク)の存在と、商品設計の自由性のトレード・オフである。
 CDSは主に店頭取引であり、商品設計がフレキシブルであったものの、カウンターパーティーリスクが存在し、透明性の欠如(取引価格、取引量、未決済残高等の未公表)が指摘されていた。例として、A企業の倒産を参照するCDSが大量に組成され、倒産が現実のものとなった場合、当事者のポジションのサイズが不透明な為に、決済不可能となる主体が生じると言う疑心暗鬼(Fight with one’s own shadow)が生じやすくなる。即ち、店頭取引市場では、取引所取引の様に規制が十分でないが故に、公表ファクターが不十分であった点が問題視される様になった。

〔補論04 脚注〕

注01:田中隆之「金融の監督・規制をどう再構築するか」(櫻井宏二郎、宮本光晴、西岡幸一、田中隆之著『日本経済 未踏域へ 「失われた20年」を超えて』(創成社、2011.04)所収、pp.180-241)

注02:翁百合『金融危機とプルーデンス政策』(日本経済新聞出版社、2010)

注03:Borio, Claudio, “Towards a Macroprudential Framework for Financial Supervision and Regulation?”, BIS Working Paper, No.128, c2003.
Available at
http://www.bis.org/publ/work128.pdf

注04:佐藤隆文『金融行政の座標軸 平時と有事を超えて』(東洋経済新報社、2010)

注05:バーゼルII、バーゼルIIIの改定内容については、以下が参考となる。

「バーゼル合意、バーゼルI、II、IIIとは何ですか? いわゆるBIS規制とは何ですか?」(日本銀行)
https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/pfsys/e24.htm/

注06:LTCM事件の概要は小田野の文献が参考になる。詳細な文献としては、 )LowensteinやDunbarのものが良いだろう。

小田野純丸『資本逃避リスクの政治経済学』(ミネルヴァ書房、2008.05、p.63)

Dunbar, Nicholas, “Inventing Money: The Story of Long-Term Capital Management and the Legends Behind It”, JW, January 16, c2001.

ニコラス・ダンバー著、寺澤芳男訳『LTCM伝説 怪物ヘッジファンドの栄光と挫折』(東洋経済新報社、2001.3)

Lowenstein, Roger, “When Genius Failed: The Rise and Fall of Long-Term Capital Management”, Random House, October 9, c2000.

ロジャー・ローウェンシュタイン著、東江一紀、瑞穂のりこ訳『天才たちの誤算 ドキュメントLTCM破綻』(日本経済新聞社、2001.6)

注07:この例を理解する為には、「銀行の不文律」で考えるとわかりやすい。話は飛躍するが、国際基準金利が不正操作された事案で有名なのはLIBOR(London Interbank Offered Rate, ロンドン銀行間取引金利)操作事件である。

2011年4月、アメリカの司法省とSECが、Bank of America等の欧米の金融大手を操作していると報じられ、白日に晒された。
複数の大手銀行がカルテルを結び、LIBORを実態より低く誘導していた。例としてバークレイズは、2005年から2009年の間に虚偽申告をイギリス銀行協会に繰り返しており、LIBORを実態と乖離した数値に上下させた。バークレイズ内部の不正を依頼した行員が送ったメールには、以下の内容が記されていた。

「ボランジェを飲みに行こう」

「お前には大きな借りが出来たな。今度、仕事が終わったらおれの部署に来いよ。お礼にボリンジャーでお祝いだ」

このeメール文が掲載されたのは、2012年6月28日のイギリス・フィナンシャルタイムズ紙の1面「バークレイズ銀に過去最高額の罰金」である。

本来、このメールは内容はともかくとして、「送ってはならない」理由がある。

トレーダーと言う部門と、金利の提示を行うトレジャリーと言う部門で例えれば、異なる部門間の情報の遣り取りは「(不文律的に)禁止」されている(横山秀夫「モノクロームの反転」(横山秀夫『第三の時効』(集英社文庫、2006.03)所収)の捜査課での他課との情報共有が原則不文律的に禁じられている(「モノクロームの反転」では摺り合わせは行われたが)のと似たようなものではある)。

〈参考〉

サイモン・ジョンソン「寄稿 転機を迎えたメガバンク」(『Nikkei Business』2012.08.06)

「海外メディアを読む 金融機関への猛烈な批判、再燃」(『Nikkei Business』2012.07.09)

注08:クレジットデリバティブ(信用リスクの移転を目的とするデリバティブ取引)の一種。一定の事由の発生時に生じるべき損失額の補?を受ける仕組みをとるもの。