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資料室B3F

https://yaplog.jp/akasyuri/
の移籍版。

2.6

2014-05-05 00:11:27 | CMBS論集用小ネタ
〈2.6 ローンへのアプローチ〉

 2013年スコアカード内容では、「①Secondary住宅ローン市場を目的とした新規インフラ構築」が2012年スコアカードの「証券化プラットフォーム構築」の後継策として提示されているが、後継策に使用される具体策として、ファニーメイ社、フレディマック社の共同出資に依る、証券化を目的とした合弁会社設立が具体的に提示されている(注72)。上記の合弁会社に証券化プラットフォームを一本化することで、二社の証券化機能を廃止することを方針化している。二社が消失する前提で合弁会社を作ることを画策している為、所有形態については、現在は二社が所有しているものの、将来的な米国の住宅金融インフラとしての活用を目的として、柔軟な変更が効く様にしている。当面の合弁会社に於ける業務は、出資会社の資産の置き換え等が主要業務となっている。
 また、ローンを借りる側へのアプローチである、FHFAのスコアカード等による貸し出し基準の引き締めとは対照的に、差し押さえ(Foreclosure)の抑制策をARRAに基づき、供給サイドへ、物件のコントロールと言う観点からアプローチを掛け、結果としてローンを借りる側をアシストしている。そのアプローチから現れた結果として、ファニーメイとフレディマックの決算が挙げられる。
 ファニーメイの場合、例として2013年4月2日発表(注73)の2012年第4四半期決算(注74)に於いては、純利益が76億ドルと、4四半期連続で黒字化した(注75)。決算書のタイトルにもある様に、2012年度の通年に於いての純利益は172億ドルとなり、過去最高益かつ、前年度に於ける通年決算の、169億ドルの純損失(注76)であった状態から、大幅に改善を見せている。その後2013年度では、2014年2月21日発表(注77)の2013年第4四半期決算(注78)に於いては、純利益が66億ドルと、安定した黒字化傾向にある。
 そしてフレディマックの場合、同様に2013年2月28日発表(注79)の2012年第4四半期決算(注80)に於いては、純利益が45億ドルと、5四半期連続で黒字化した(注81)。2012年度の通年に於いての純利益は110億ドルとなり、前年度に於ける通年決算の、53億ドルの純損失(注82)であった状態から、大幅に改善を見せた。その後2013年度では、2014年2月27日発表(注83)の2013年第4四半期決算(注84)に於いては、純利益が86億ドル(注85)、通年決算(注86)に於いての純利益は487億ドルと、安定した黒字化傾向にある。
 これらの業務改善の背景として、以下の要因が挙げられる(注87)。

①住宅ローンの延滞率低下(純利益の要因分解に於ける貸倒引当金に対応)

②住宅価格の上昇(純利益の要因分解に於けるトレーディング損益に対応)

③所有物件の販売価格上昇等を受けた信用コストの大幅な減少(純利益の要因分解に於ける保証・資金収入に対応)

 ①が純利益の要因分解に於いてもとりわけ顕著であり、不良債権額から、ファニーメイの場合2,500億ドル程度で、2010年以降3年間並行して推移している(注88)。それ故に、貸倒引当金・損失引当金の推移は新規積み増しが限定的な状況となり、結果としてこちらも2009年から、2011年の増加を除けば、ほぼ4年間平行して推移している。それに対応して、貸倒引当金・損失引当金を不良債権額で除した、貸倒引当金・損失引当金のカバー率も、2009年から2010年にかけては30%から25%と減少しているが、2010年から2011年時点では貸倒引当金・損失引当金の新規積立増大によりカバー率が元の30%水準に戻っている。
 しかし、2011年から2012年にかけて、再び貸倒引当金・損失引当金の残高は2010年の水準に戻り、カバー率は2010年同様25%となっている。対照的に、フレディマックは2012年度時点で、1,400億ドル程度の不良債権額となっている(注89)。ファニーメイとは対照的に、2008年時点の不良債権額増加分が大きく異なっており、ファニーメイの場合900億ドル程度の増分であったことに対し、フレディマックは300億程度の増分であり、不良債権額の増加では、「不良債権額を見る限り」に於いては、フレディマックはファニーメイよりもそこまで被害が齎されることはなかったと判断出来る。
 しかし、これはあくまでも「不良債権額を見る限り」と言う条件が付与されている場合であり、これに貸倒引当金・損失引当金を加えて考慮すると、話は変わってくる。貸倒引当金・損失引当金が2007年時点ではゼロ近傍にあった状況が、2008年に200億程度に上昇した為、不良債権額の増大と合わせてカバー率を15%から33%に押し上げる結果となった。
 それ以降、2009年では不良債権額が1,100億ドルを超えたが貸倒引当金・損失引当金も400億ドルに増加した為、カバー率は33%で平行して推移していた。その後も、2010年度には不良債権額が1,200億ドルとなり、貸倒引当金・損失引当金も450億ドルに増加した為、カバー率は33%で平行して推移した。そして、2011年度には不良債権額が1,300億ドルとなったが、貸倒引当金・損失引当金は430億ドルに減少した為、カバー率は31%と減少した。その後、2012年度には不良債権額が1,400億ドルとなり、貸倒引当金・損失引当金も300億ドルと更に減少した為、カバー率は23%と大きく減少した。
 貸倒引当金・損失引当金に大きく影響を与える法的システムとしては、ノンリコースローンの存在が挙げられる。ノンリコースローンのシステムで破綻した場合、債務者は担保を手放して、債権者が抵当流れにすれば、それ以上の責任を債務者は負担しないと言うことであったが、担保価値が下落して抵当流れにしても損失が拡大する一方であったことは前述した通りである。そこで、担保価値を引き上げる為に、二社の業績改善の②に記載された「住宅価格の上昇」、また③の「所有物件の販売価格上昇」が挙げられた訳である。
 この様な債務者(保有住宅のローン残高が住宅価値を上回る状況)の状態は「ネガティブ・エクイティ(Negative Equity)」と呼称される。ネガティブ・エクイティの状況はそう変わることはない以上、やはりTALF(Term Asset-Backed Securities Loan Facility)同様に、こちらもローンの弥縫策(延命策)に走ることになった。政府は、ARRA(American Recovery Reinvestment Act)を下地として、MHA(Making Home Affordable)(注91、92)と呼称されるプログラムに750億ドルの財源を注ぎ、債務者に以下のことを推奨した。

①債務のリファイナンス(借換)。
「借り換えプログラム(Home Affordable Refinance Program : HARP)」(注93)に依り、ネガティブ・エクイティの性質を持つ債務者のデフォルトリスクを延命する。

②債務の返済条件変更。
「条件変更プログラム(Home Affordable Modification Program : HAMP)」(注94)に依る、デフォルトリスクの延命を行う。

 ①の場合、リファイナンスの際に、リファイナンス前のローンと比較して、低利のローンにリファイナンスすることを支援するものである。利息分を浮かせた分で、個人消費を刺激させることで、前述したCMBSの悪循環に陥らない様な対策を取っている。
 ②の場合、利息減免等の返済条件変更に依り、返済負担率(Debt to Income Ratio : DTI)(注95)を目標として31%以下迄引き下げることとした(注96)。引き下げに必要なコストは、金融機関と公費で折半することとなった。但し、それだと金融機関が何も得るものが無くなってしまう為、条件変更に応じるであろうと予想されたインセンティブとして、条件変更交渉1件当たり1,000ドルの手数料を公費で負担し金融機関に支払うことが措置された(注97)。
 HAMPに係る全体の公費負担は、750億ドルとされた(注98)。2008年から2014年5月現在まで続いているプログラムであるものの、最終的に条件変更(Permanent Modification)が行われた件数は、2012年2月時点で累計973,582万件(注99)とされている。2013年2月時点では、累計1,166,582件(注100)であることから、1年間で193,000件、最新の統計である2014年2月時点では、累計1,339,742件(注101)であることから、1年間で173,016件であることが分かる。即ち、現時点でも、目標の半分以下の件数しか条件変更が成されていないことが分かる。この件数の見積もりの甘さは、やはり論争となり指摘されている(注102)。
 条件変更の実績が加速しない原因は幾つか有るが、その一つとして、返済持続可能性の判定基準となる、「純割引現在価値(Net Present Value)」の計算そのものの煩雑性にある。先ず、一定の前提を置き、今後に当該債務者がどの時点でデフォルトを起こすか否かを想定する。
そして、デフォルト時点での住宅価格に基づく抵当流れに依る回収可能額を想定する。この想定に於いて、条件変更の適用は、条件変更を行い、ある程度返済を継続させる方が、直ちに抵当流れを行うよりも、割引現在価値ベースでのキャッシュフロー合計額が高い場合であることになる。
 そして、GAO(United States Government Accountability Office)が指摘する様に(注103)、熟練したスタッフを、「然るべき人件費」で確保出来ないことから、スタッフが集まらずに、進捗が芳しい結果にならなかったと考えられる。



2.5

2014-05-05 00:10:53 | CMBS論集用小ネタ
〈2.5 ファニーメイとフレディマックの処遇〉

 FHAローンの特性上、サブプライム層ぎりぎりの所得者が多くを占め、最終的には連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)と同じ道を辿る危険性が指摘されている。FHAローンに代表される、FICOスコアの要求数値が相対的に低いローンは、借り手の全体に於ける低所得層の割合が、どうしても通常ローンに較べて増える(注58)ことがリスク要因として挙げられている。そして、その分債務不履行のリスクが増大する為、債務不履行発生時の為に保険金を積み立てておく必要がある(注59)。しかし、貸し出しが増えれば増えるだけ、保険金だけでFHAの首が絞まっていく様になり、準備金が不足する状況に陥る(注60、61)。
 準備金が不足する状況下で貸し出しを行うことは不可能である以上、取り得る策は以下の2通りが存在する。一に貸し出し基準の引き締め、二に政府の救済である。結果としては、前者を採択した(注62、63、64)。
 しかし、2014会計年度予算教書の支援想定値から見ても解る様に、FHAの廃止、又は大幅な縮小に至ることは想定されておらず、現に至っていない。結論としては、FHAは今後も貸出基準等を改訂し、業務内容の縮小を行っていくことで、公的資本注入をファニーメイやフレディマックとは違い回避していくと予想される。
 ファニーメイやフレディマックは公的資本が注入された後、利益還元としての優先株配当は、殆ど(厳密には2013年度~2017年度は各四半期の純資産から所定資本準備額を差し引いた金額)が米国財務省に支払われるように、2013年度から優先株出資契約が改定された(注65)。利益分がほぼ財務省に回収される以上、資本を積み立てる余裕はなく、二社の経営は、より保守色の強い傾向となる様に推測される(注66)。
 その傾向は、FHFA(Federal Housing Finance Agency、米国連邦住宅金融庁)のスコアカード(注67)が顕著に示している(スコアカードの内容については、付表〔スコアカード〕を参照されたい)。2012年スコアカードの「②特定業務の簡素化・縮小による、支配的地位の後退」や、2013年スコアカードの同項目のウェイト加重がその例である。
 実際に、「②特定業務の簡素化・縮小による、支配的地位の後退」に於ける保証料設定の場合、2012年内に2回(注68)の引き上げが実施され、結果的に保証料は平均して0.5%程度(2008年9月時点の2倍)となった。2013年スコアカードには、2012年の保証料設定の項目が無くなってはいるものの、保証料の引き上げ自体は行っており、2013年第三四半期時点では、ファニーメイの平均保証料は0.587%、フレディマックの平均保証料は0.532%とやや引き上げが行われている(注69、70)。
 この保証料引き上げの目的に、2012年迄「政府支出財源の賄い」が有ったか否かは定かではないが、2013年3月に、上院銀行住宅都市委員会所属議員であるBob Corker(The Republicans)、Mark Warner(The Democratic Party)、 David Vitter(The Republicans)、Elizabeth Warren(The Democratic Party)の4名が、「GSE改革の活性化法」を、法案として提出した。
 この法案の内容は「政府支出の財源を賄う目的での、ファニーメイとフレディマックの保証料引き上げを禁止する」ことと、「包括的な住宅金融改革が纏まり、議会が承認する迄、財務省保有の優先株売却を禁ずる」ことの2点である。しかし2014年5月現在、その法案が通過した話を聞かないので、恐らく廃案になったと考えられる。
 そして、2013年スコアカードに依り、2012年スコアカードの「②特定業務の簡素化・縮小による、支配的地位の後退」はウェイトの加重に因り強化された訳であるが、強化目的は、「二社の将来的な廃止」である。
 二社の廃止目標自体は、2013年スコアカー ドに限った話ではなく、既に2010年、2011年のGSE・住宅金融市場改革法案や、同年の民間提案でも示されていた。主な法案は、以下の4つである。

①2010年のJeb Hensarling(The Republicans)が提出した「GSE救済廃止・納税者保護法(GSE Bailout Elimination and Tax payer Protection Act)」(15年掛けて完全に廃止、政府は廃止後住宅ローン市場に関与しない)(注71)

②2011年5月のJohn Campbell(The Republicans)とGary Peters(The Democratic Party)が提出した「20 11年住宅金融改革法」(少なくとも5つの民間会社を設立して、適格な住宅ローンを対象に、明確な政府保証を付けてMBSを発行出来る様にして、設立会社自身には政府保証を付けず、GSEよりも多くの資本を保有させる)

③2011年7月のJeff Miller(The Republicans)とCarolyn McCarthy(The D emocratic Party)が提出した「住宅ローンの為のセカンダリー市場法」(ファニーメイとフレディマックに代わり、純粋な政府機関を設置し、それがMBSの発行と保障を担う。同政府機関が購入する投資ポートフォリオは集合住宅ローンを購入し、同政府機関が取り扱う証券化商品や保証料は、FHFAが決定する)

④2011年の、Johnny Isakson(The Republicans)が提出した、 「2011年住宅金融法」(向こう10年間の時限措置として、ファニーメイとフレディマックに置き換わる、新たな機関を設立する。同機関は信用力の高い住宅ローンのみを保証し、設立から10年後に、同機関は民間に売却され、その後はローン市場に政府は関与しない)

民間のGSE・住宅金融市場改革提案に於いて、ファニーメイとフレディマックの代替機関を作る案としては、主に以下のものがある。

①アメリカン・エンタープライズ研究所の「時間を掛けてゆっくりと民営化していく」案

②アメリカ進歩センターの「住宅ローン保証は、民間の登録モーゲージ機関(CMI)が実施し、二社は解体する」案

③ムーディーズの「二社の機能を、一部を民間に移譲し、残りは政府に残す」案

④全米不動産協会(NAR)の、「二社を株式会社形態ではなく、輸出入銀行の様な政府の独立機関化」案

⑤全米建築業者協会(NAHB)の、「新規に民間資金で運営する再保険基金の設立」案

⑥全米モーゲージ銀行協会(MBA)の「民間資金で運営される政府支援機関が保証を実施し、証券化商品の組成者・発行者等の、今までリスクフリーであった立場の人間にもリスクを分担させる」 案

 MBAの「リスク分担」案は、アメリカン・アクション・フォーラムも提案している(損失は一次的に組成者が負担(当初は5%だが、30%迄引き上げる)し、政府が再保証を実施する(当初は95%だが、70%迄引き下げる))。
 基本的には二社を解体し民間会社に機能を移譲するか、新規で政府機関を設立する点では変わりはない。ムーディーズの案はその中間だが、同社の提案に於いては、政府が100%の明示的な保証を提供する場合と比較して、 民間に100%の明示的な保証を提供させる場合、住宅ローンの金利が0.4%から1.4%高くなると言う、同社の分析による前提が付与されている。そして、この提案の場合 、住宅ローンの金利は、政府が100%の明示的な保証を提供する場合よりも0.1%上昇するが、民間に100%の明示的な保証を提供させる場合よりも、0.87%住宅ローンの金利が低下するとしている。
 提案の多かった2011年から暫くして、2013 年2月に、超党派政策センターが総括的な案を出した。二社はMBSの売買・発行を行わない公的保証機関に置換され、実質上のジニーメイ化が図られる。公的保証は、以下の条件下で行われる。

①明示的であること。

②民間資本により損失を吸収不可能な事態にのみ公的保証の支払いを実施する。

③公的保証の対象は証券のみとすること。

 二社は置換移行期間内に、投資ポートフォリオを縮小し、保証料の引き上げかつ、取り扱う住宅ローンの上限金額の引き下げ(具体的には417,000ドルから275,000ドルへ引き下げる)を行う。
 そして、今までの法案・提案になかった「政策目標の変更」に関しても、同法案は言及している。持家中心の政策から、高齢化等の構造変化要素を加味し、住宅賃貸市場の拡充を強調してい る。公的保証に関しても、一戸建てと賃貸住宅の双方を対象とすることが、同法案では想定されている。



2.4

2014-05-05 00:10:26 | CMBS論集用小ネタ
〈2.4 ARRAの消費拡大策〉

 消費自体をターゲットにした拡大策もARRAや他の景気刺激策が採っているものの、ARRAの難点の様に、規模不足が目立つ結果となった。例としては、2009年7月下旬にスタートした、自動車の買い替えに対する補助金(注45)である。これは、予算である10億ドルを1週間で使い切ってしまい、20億ドルの追加予算すらも直ぐに使い切る状況で、この補助金制度は2009年8月24日に打ち切られた(注46)。
 この補助金制度で嵩上げされた新車販売台数は約70万台であり、前年度の新車販売台数である約1,300万台の5%である。結果として、2009年度は約1,000万台となった(注47)。月例推移で見ると、7月、8月時点ではそれぞれ約99万台、約124万台と推移している。しかし9月には約74万台、10月以降も約83万台、約74万台、約102万台と、一見すると需要の先食い(期間中はよく売れたが、終了した途端に失速すること)が発生してしまっており、それを指摘する声も出た(注48)。
 しかし2010年度以降、月ベースでの新車販売台数が、2010年8月と2011年8月の販売台数を除き2009年度よりも増加している。例として、2010年度は年単位での販売台数が約1,100万台、2011年度は年単位での販売台数が約1,270万台、2012年度は年単位での販売台数が約1,440万台、2013年度は年単位での販売台数が約1,550万台と増加している。この状況下であれば、財政出動の麻酔が切れても、全体としても、月ベースで見ても回復基調にあると言える。
 また、もう一つの例として、住宅市場の固定資産税控除が挙げられる(注49)。これに加え、購入に際し、連邦住宅局(Federal Housing Administration : FHA)(注50)のローン(注51)の活用も増加し(注52)、50万ドル以下の中・低所得者市場が活気づいた。このARRAの税控除を受け、例として2009年7月の中古住宅販売件数は、前月比にして7.2%増の結果となった(注53)。
 当時、Paul Sheard(注54)は、「最悪期は脱した。今後は緩やかな回復の道を歩み始めていく」(注55)と発言していた。しかし、2009年全体での中古住宅販売件数は、前年度比で1.05%増(注56)と、結果的には劇的な影響が見られたのは短期的なものであった。
 その後、制度が終了し、販売数は反動で減少し、2010年度は5.7%減の431万戸であった。ARRAの税控除は、多くの典型的な住宅購入者が市場に参加不可能であった点から、あまり意味を為さなかったと考えられる。
 2010年度の住宅購入者に於ける新規購入者の割合は39%であったが、この数値は1977年以降の平均値と同様であった。ARRAの税控除廃止前である2010年3月時点では49%となっていたが、廃止後から暫く経った2010年12月時点では33%に、翌月の2011年1月時点では29%となった。
 新規購入者の割合が減少することに伴い、相対的に富裕層が台頭し、現金で購入した人の割合が増加した。2009年度では19.8%であったものが、2010年度では27.4%となった。この背景として、住宅の投げ売り、抵当流れに因る、格安な物件入手が可能なオークションの件数が増大していたこと、住宅価格の下落(注57)が挙げられる。その後結果として、2011年3月時点では35%と、全米住宅調査の統計内では記録的水準となった。



2.3

2014-05-05 00:09:46 | CMBS論集用小ネタ
〈2.3 失業対策〉

 コロニアル・バンク破綻の時点で、事態を重く見たFRB(Federal Reserve Bank、米連邦準備理事会)と財務省は、緊急回避策として、TALF期間延長と言う策を採った(注17、18)。但し、期間の延長のみでは本質的な対処とはならず、弥縫策(Stopgap)に終わってしまうことになる。それ故に、TALFの延長期間のリミットを伸ばしている間に、個人消費の回復から、失業率の調整を図る必要が生じていた。
 失業率は、2008年のリーマン・ショック以降、アメリカの場合倍に増加し、2011年度以降やや回復している。日本も同様のタームで漸増し、2011年以降なだらかに回復する様相を呈している(注19)。
 アメリカの場合、2009年度第一四半期に業務を改善させた企業の多くがリストラによる利益確保であった(注20)。日米の企業がその様な対策で業績を回復していた以上、個人消費の伸びは政府の景気刺激策に依存する他無かったことになる。
 日本の場合、麻生太郎内閣の「経済危機対策」(2009.04)、鳩山由紀夫内閣の「明日の安心と成長のための緊急経済対策」(2009.12)と銘打って、それぞれ56兆8,000億円、24兆4,000億円の規模で経済対策を行っている(注21)。対照的にアメリカの場合、バラク・オバマ政権下で、8,310億ドルの景気刺激策である「2009年アメリカ復興・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act of 2009, ARRA)」(2009.02)を実施していた(注22)。
 議会予算局に依れば、ARRAによりGDPは2009年度末迄に1.4%から3.8%増加しており、2010年度末迄に1.1%から3.3%増加しており、2011年度末迄に0.4%から1.3%増加する見積もりであった(注23)。そして2014年度以降から、本来投資に回っていた可能性のある資金が政府の負債に回ったことに因るクラウディング・アウトに依り、GDPは0%から0.2%減少と見積もられ、2019年時点で0.1%から0.3%の範囲で減少すると見積もられている(注24)。
 この議会予算局の推定見積もりは、Stephen MarglinとPeter Spieglerに依り、景気刺激策がGDPを引き上げたことが示され、正しかったことが示されている(注25)。見積もりについては、2011年に修正したものを議会予算局が再び提出しているが、これに対しDean Bakerは、修正された成長パターンが、景気刺激策の成功を示しているとしている(注26)。但し、Bakerも、Paul Krugman(注27)や、その他40名の経済学者(注28)同様に、ARRAの問題点として、規模の不十分さを指摘し、経済が本来の成長力に戻る迄の十分な期間に渡る刺激を行えなかったことが、2010年末から2011年初めにかけての、景気刺激策の希薄化に因る成長の鈍化のファクターと指摘している(注29)。
 雇用改善に対しては、2009年度末迄に80万人から230万人の増加、2010年度末迄に120万人から360万人の増加、2011年度末迄に60万人から190万人の増加が見積もられている(注30)。2012年度以降は、アメリカの労働市場が完全雇用状態に近づく為、増加人数は減少するがマイナスとはならないと見積もられている(注31)。FRBのDaniel Willsonは、州レベルの変化を用いて雇用を推計し、「最初の年に約200万人分、2011年3月迄に300万人分以上の雇用を創出または維持している」ことを示した(注32、33)。
 以上の様に、ARRAは主に、雇用を創出する、多くの、迅速に取り掛かれる事業に着手することが目的だった(注34)。しかし、ARRAが対象とした事業(交通・上下水道等インフラ整備)の大半が、実現する迄に予想を上回る時間を要したと指摘されている(注35)。
 2011年11月に、議会予算局はARRA以前の報告書を更新し、「2010年末には雇用への効果は減退し始め、2011年を通じて続いている」と述べている。その上で、2011年第3四半期に、議会予算局はこの法律でフルタイム相当の雇用を、50万人分から330万人分増加させた、と推計している(注36)。
 ARRAの第1513章(注37)に於いて、この法律の影響についての報告書は、四半期毎に発行されるとしている。しかし、最後に発行された報告書は、2011年第2四半期についてのものであり、2012年12月の時点で、アメリカ人の58.6パーセントが雇用中であった(注37、38)。2013年に、Reason Foundationは、ARRAの結果についての研究を行っており、Randazzoの記事に依れば(注39)、 調査対象となった企業は8,381社存在した。しかし、新しい労働者を雇用し、事業が完了した時点まで雇用を維持していた企業は、23%の1,927社であった(注40)。残り7割の企業は雇用を打ち切った、或いは全く雇用しなかったことになるが、41%(3,436社)は全く雇用しなかった(注41)。
 ARRAの歳出の大半は2年間で期限切れとなっていた(注42)が、30%(2,514社)は、政府からの資金支出が無くなると、全ての労働者をレイオフ(一時解雇)し(注43)、別の15%(1,257社)は、完全に解雇した(注44)。この結果は、上記の企業を統計の考慮に入れていないという点で、過去の雇用創出数の推計に疑問を呈する結果となった。Randazzoの指摘から、失業率の低下を目的としたARRAは、実質的には消費の萎縮を強く抑制することが出来なかったことが分かる。


2.2

2014-05-05 00:09:16 | CMBS論集用小ネタ
〈2.2 本邦金融機関とリーマン・ショック〉

 市場規模が拡大しつつあった時期である2006年に組んだローンは、基本的に3年で期限が切れてしまう。
 当時(2009年8月14日)最大規模の経営破綻を起こしたコロニアル・バンクを筆頭に、コロニアル・バンク破綻迄の時点で、リーマン・ショック(2008年9月15日)以来の約1年で、アメリカの金融機関は、97行破綻している(注07、08)。対照的に、日本の破綻金融機関の場合、リーマン・ショック自体が引き金となって、破綻した金融機関は存在しない(注09)。
 しかし、2010年問題後の破綻金融機関は2行存在している。2010年9月10日には日本振興銀行が、2011年4月25日には第二日本承継銀行が破綻している。但し、これは破綻時期と「2010年問題」と言う事象が一致しただけであり、金融機関の破綻事由に直結することを意味しない。第二日本承継銀行の破綻は、承継銀行の存続時期(注10)が、預金保険法に拠って決まっている為、別段不都合を起こした訳ではない。
 対照的に日本振興銀行の場合、2010年問題とは別の不都合を起こしている。日本振興銀行の収益サイクルは、 「普通預金などの資金決済機能を持たず、定期預金で資金を集めて融資する」と言うものであった(注11)。これは、大して問題がないように一見見える。しかし、これは収益機会が限定され、自転車操業的なサイクルとなっている。当時、日本振興銀行の基本理念の中には、「 お預かりしたご預金は中小企業への融資に活用される」とあり、資金使途が明確に表記された一文があった。上記の理念が守られる限り、預金者にとっては、預金の使用先をイメージすることが出来、預金する積極的な理由が明確になっていたと推測出来る。しかし実際には、同行が、銀行法第63条第三号違反 (同法第25条に基づく検査の忌避)容疑で逮捕された、木村剛の親族が経営する会社に対する不正融資が、破綻の一因とされている(注12)。
 同行が理念先行型の銀行であるならば、預金に関しても、理念というストーリーが大きなアピールポイントになっていたと考えられる。しかし、そのアピールポイントは存在せず、「コスト削減に基づく高金利運用」、という点を一義的に訴えていた。今から考えてみれば、この預金者へのアピールは、中長期的目標よりも、短期的目標さえ果たせれば良い(結果的には不透明融資に使用された訳であるが)、と言う思惑が見え隠れしていたことが分かるが、支証の出し遅れ(A day after the fair)である。
 さて、この2行の破綻がCMBSに因るものではないことは示されたが、リーマン・ショック以前に、日本の金融機関の破綻は集中している。その数は、2000年11月10日から2003年11月29日迄、83行に及ぶ。これらは、2001年12月28日の商業銀行である石川銀行を除き、信用組合、信用金庫である。
 これらの経営破綻原因は、主には貸出債権の不良化、有価証券投資等の失敗が挙げられる(注13)。融資の特定業種への偏りと大口化(注14)、信用組合のトップへの権力集中と、有価証券運用に於ける過大なリスクテイク(注15)が破綻事由の9割を占めることは、経営者の資質に帰着する問題であることの証左である。
 また、本邦の金融機関の破綻状況は、預金保険機構の収支でも大まかに把握出来る。預金金融機関から、受け入れ預金額の一定割合の保険料を徴収し、保険料を積み立て責任準備金とし、ペイオフまたはペイオフコスト(一千万円×預金者数)相当額を受皿金融機関へ贈与することになる。
 預金保険制度が創設された1971年から1991年までは、払い出しが無きに等しかった為、責任準備金のみが増大し続けた(注16)。しかし、バブル崩壊後の1992年から、費用勘定が1億円台であったものが、一気に200億円台に跳ね上がっている。収益自体は変わらない為、収益から費用を差し引いた勘定である差引剰余金は減少の一途を辿り、責任準備金の増加の速度を落とすようになる。
 その転機は1995年に訪れる。差引剰余金がマイナス勘定となった為である。差引剰余金をプラス勘定にする為に、1996年以降、保険料を7倍(0.012%から0.084%)に引き上げた。しかし、費用も1997年の小康状態を除き、1兆円台に上った。差引剰余金どころではなく、責任準備金をもマイナス勘定とする結果となった。
 しかし、1兆円規模の費用は2002年で収束し、その後の費用勘定は、東日本大震災の年である2011年の7,200億円を除き基本的に1,000億円から3,000億円で推移している。差引剰余金勘定もプラス勘定となり、責任準備金勘定はマイナスの値を減少させ、遂に2010年にはプラス勘定に復帰している。
 この点からも、リーマン・ショックや2010年問題が、アメリカの様な金融機関の破綻を、本邦の金融機関が起こしていないことが窺い知れる。