〈2.6 ローンへのアプローチ〉
2013年スコアカード内容では、「①Secondary住宅ローン市場を目的とした新規インフラ構築」が2012年スコアカードの「証券化プラットフォーム構築」の後継策として提示されているが、後継策に使用される具体策として、ファニーメイ社、フレディマック社の共同出資に依る、証券化を目的とした合弁会社設立が具体的に提示されている(注72)。上記の合弁会社に証券化プラットフォームを一本化することで、二社の証券化機能を廃止することを方針化している。二社が消失する前提で合弁会社を作ることを画策している為、所有形態については、現在は二社が所有しているものの、将来的な米国の住宅金融インフラとしての活用を目的として、柔軟な変更が効く様にしている。当面の合弁会社に於ける業務は、出資会社の資産の置き換え等が主要業務となっている。
また、ローンを借りる側へのアプローチである、FHFAのスコアカード等による貸し出し基準の引き締めとは対照的に、差し押さえ(Foreclosure)の抑制策をARRAに基づき、供給サイドへ、物件のコントロールと言う観点からアプローチを掛け、結果としてローンを借りる側をアシストしている。そのアプローチから現れた結果として、ファニーメイとフレディマックの決算が挙げられる。
ファニーメイの場合、例として2013年4月2日発表(注73)の2012年第4四半期決算(注74)に於いては、純利益が76億ドルと、4四半期連続で黒字化した(注75)。決算書のタイトルにもある様に、2012年度の通年に於いての純利益は172億ドルとなり、過去最高益かつ、前年度に於ける通年決算の、169億ドルの純損失(注76)であった状態から、大幅に改善を見せている。その後2013年度では、2014年2月21日発表(注77)の2013年第4四半期決算(注78)に於いては、純利益が66億ドルと、安定した黒字化傾向にある。
そしてフレディマックの場合、同様に2013年2月28日発表(注79)の2012年第4四半期決算(注80)に於いては、純利益が45億ドルと、5四半期連続で黒字化した(注81)。2012年度の通年に於いての純利益は110億ドルとなり、前年度に於ける通年決算の、53億ドルの純損失(注82)であった状態から、大幅に改善を見せた。その後2013年度では、2014年2月27日発表(注83)の2013年第4四半期決算(注84)に於いては、純利益が86億ドル(注85)、通年決算(注86)に於いての純利益は487億ドルと、安定した黒字化傾向にある。
これらの業務改善の背景として、以下の要因が挙げられる(注87)。
①住宅ローンの延滞率低下(純利益の要因分解に於ける貸倒引当金に対応)
②住宅価格の上昇(純利益の要因分解に於けるトレーディング損益に対応)
③所有物件の販売価格上昇等を受けた信用コストの大幅な減少(純利益の要因分解に於ける保証・資金収入に対応)
①が純利益の要因分解に於いてもとりわけ顕著であり、不良債権額から、ファニーメイの場合2,500億ドル程度で、2010年以降3年間並行して推移している(注88)。それ故に、貸倒引当金・損失引当金の推移は新規積み増しが限定的な状況となり、結果としてこちらも2009年から、2011年の増加を除けば、ほぼ4年間平行して推移している。それに対応して、貸倒引当金・損失引当金を不良債権額で除した、貸倒引当金・損失引当金のカバー率も、2009年から2010年にかけては30%から25%と減少しているが、2010年から2011年時点では貸倒引当金・損失引当金の新規積立増大によりカバー率が元の30%水準に戻っている。
しかし、2011年から2012年にかけて、再び貸倒引当金・損失引当金の残高は2010年の水準に戻り、カバー率は2010年同様25%となっている。対照的に、フレディマックは2012年度時点で、1,400億ドル程度の不良債権額となっている(注89)。ファニーメイとは対照的に、2008年時点の不良債権額増加分が大きく異なっており、ファニーメイの場合900億ドル程度の増分であったことに対し、フレディマックは300億程度の増分であり、不良債権額の増加では、「不良債権額を見る限り」に於いては、フレディマックはファニーメイよりもそこまで被害が齎されることはなかったと判断出来る。
しかし、これはあくまでも「不良債権額を見る限り」と言う条件が付与されている場合であり、これに貸倒引当金・損失引当金を加えて考慮すると、話は変わってくる。貸倒引当金・損失引当金が2007年時点ではゼロ近傍にあった状況が、2008年に200億程度に上昇した為、不良債権額の増大と合わせてカバー率を15%から33%に押し上げる結果となった。
それ以降、2009年では不良債権額が1,100億ドルを超えたが貸倒引当金・損失引当金も400億ドルに増加した為、カバー率は33%で平行して推移していた。その後も、2010年度には不良債権額が1,200億ドルとなり、貸倒引当金・損失引当金も450億ドルに増加した為、カバー率は33%で平行して推移した。そして、2011年度には不良債権額が1,300億ドルとなったが、貸倒引当金・損失引当金は430億ドルに減少した為、カバー率は31%と減少した。その後、2012年度には不良債権額が1,400億ドルとなり、貸倒引当金・損失引当金も300億ドルと更に減少した為、カバー率は23%と大きく減少した。
貸倒引当金・損失引当金に大きく影響を与える法的システムとしては、ノンリコースローンの存在が挙げられる。ノンリコースローンのシステムで破綻した場合、債務者は担保を手放して、債権者が抵当流れにすれば、それ以上の責任を債務者は負担しないと言うことであったが、担保価値が下落して抵当流れにしても損失が拡大する一方であったことは前述した通りである。そこで、担保価値を引き上げる為に、二社の業績改善の②に記載された「住宅価格の上昇」、また③の「所有物件の販売価格上昇」が挙げられた訳である。
この様な債務者(保有住宅のローン残高が住宅価値を上回る状況)の状態は「ネガティブ・エクイティ(Negative Equity)」と呼称される。ネガティブ・エクイティの状況はそう変わることはない以上、やはりTALF(Term Asset-Backed Securities Loan Facility)同様に、こちらもローンの弥縫策(延命策)に走ることになった。政府は、ARRA(American Recovery Reinvestment Act)を下地として、MHA(Making Home Affordable)(注91、92)と呼称されるプログラムに750億ドルの財源を注ぎ、債務者に以下のことを推奨した。
①債務のリファイナンス(借換)。
「借り換えプログラム(Home Affordable Refinance Program : HARP)」(注93)に依り、ネガティブ・エクイティの性質を持つ債務者のデフォルトリスクを延命する。
②債務の返済条件変更。
「条件変更プログラム(Home Affordable Modification Program : HAMP)」(注94)に依る、デフォルトリスクの延命を行う。
①の場合、リファイナンスの際に、リファイナンス前のローンと比較して、低利のローンにリファイナンスすることを支援するものである。利息分を浮かせた分で、個人消費を刺激させることで、前述したCMBSの悪循環に陥らない様な対策を取っている。
②の場合、利息減免等の返済条件変更に依り、返済負担率(Debt to Income Ratio : DTI)(注95)を目標として31%以下迄引き下げることとした(注96)。引き下げに必要なコストは、金融機関と公費で折半することとなった。但し、それだと金融機関が何も得るものが無くなってしまう為、条件変更に応じるであろうと予想されたインセンティブとして、条件変更交渉1件当たり1,000ドルの手数料を公費で負担し金融機関に支払うことが措置された(注97)。
HAMPに係る全体の公費負担は、750億ドルとされた(注98)。2008年から2014年5月現在まで続いているプログラムであるものの、最終的に条件変更(Permanent Modification)が行われた件数は、2012年2月時点で累計973,582万件(注99)とされている。2013年2月時点では、累計1,166,582件(注100)であることから、1年間で193,000件、最新の統計である2014年2月時点では、累計1,339,742件(注101)であることから、1年間で173,016件であることが分かる。即ち、現時点でも、目標の半分以下の件数しか条件変更が成されていないことが分かる。この件数の見積もりの甘さは、やはり論争となり指摘されている(注102)。
条件変更の実績が加速しない原因は幾つか有るが、その一つとして、返済持続可能性の判定基準となる、「純割引現在価値(Net Present Value)」の計算そのものの煩雑性にある。先ず、一定の前提を置き、今後に当該債務者がどの時点でデフォルトを起こすか否かを想定する。
そして、デフォルト時点での住宅価格に基づく抵当流れに依る回収可能額を想定する。この想定に於いて、条件変更の適用は、条件変更を行い、ある程度返済を継続させる方が、直ちに抵当流れを行うよりも、割引現在価値ベースでのキャッシュフロー合計額が高い場合であることになる。
そして、GAO(United States Government Accountability Office)が指摘する様に(注103)、熟練したスタッフを、「然るべき人件費」で確保出来ないことから、スタッフが集まらずに、進捗が芳しい結果にならなかったと考えられる。
2013年スコアカード内容では、「①Secondary住宅ローン市場を目的とした新規インフラ構築」が2012年スコアカードの「証券化プラットフォーム構築」の後継策として提示されているが、後継策に使用される具体策として、ファニーメイ社、フレディマック社の共同出資に依る、証券化を目的とした合弁会社設立が具体的に提示されている(注72)。上記の合弁会社に証券化プラットフォームを一本化することで、二社の証券化機能を廃止することを方針化している。二社が消失する前提で合弁会社を作ることを画策している為、所有形態については、現在は二社が所有しているものの、将来的な米国の住宅金融インフラとしての活用を目的として、柔軟な変更が効く様にしている。当面の合弁会社に於ける業務は、出資会社の資産の置き換え等が主要業務となっている。
また、ローンを借りる側へのアプローチである、FHFAのスコアカード等による貸し出し基準の引き締めとは対照的に、差し押さえ(Foreclosure)の抑制策をARRAに基づき、供給サイドへ、物件のコントロールと言う観点からアプローチを掛け、結果としてローンを借りる側をアシストしている。そのアプローチから現れた結果として、ファニーメイとフレディマックの決算が挙げられる。
ファニーメイの場合、例として2013年4月2日発表(注73)の2012年第4四半期決算(注74)に於いては、純利益が76億ドルと、4四半期連続で黒字化した(注75)。決算書のタイトルにもある様に、2012年度の通年に於いての純利益は172億ドルとなり、過去最高益かつ、前年度に於ける通年決算の、169億ドルの純損失(注76)であった状態から、大幅に改善を見せている。その後2013年度では、2014年2月21日発表(注77)の2013年第4四半期決算(注78)に於いては、純利益が66億ドルと、安定した黒字化傾向にある。
そしてフレディマックの場合、同様に2013年2月28日発表(注79)の2012年第4四半期決算(注80)に於いては、純利益が45億ドルと、5四半期連続で黒字化した(注81)。2012年度の通年に於いての純利益は110億ドルとなり、前年度に於ける通年決算の、53億ドルの純損失(注82)であった状態から、大幅に改善を見せた。その後2013年度では、2014年2月27日発表(注83)の2013年第4四半期決算(注84)に於いては、純利益が86億ドル(注85)、通年決算(注86)に於いての純利益は487億ドルと、安定した黒字化傾向にある。
これらの業務改善の背景として、以下の要因が挙げられる(注87)。
①住宅ローンの延滞率低下(純利益の要因分解に於ける貸倒引当金に対応)
②住宅価格の上昇(純利益の要因分解に於けるトレーディング損益に対応)
③所有物件の販売価格上昇等を受けた信用コストの大幅な減少(純利益の要因分解に於ける保証・資金収入に対応)
①が純利益の要因分解に於いてもとりわけ顕著であり、不良債権額から、ファニーメイの場合2,500億ドル程度で、2010年以降3年間並行して推移している(注88)。それ故に、貸倒引当金・損失引当金の推移は新規積み増しが限定的な状況となり、結果としてこちらも2009年から、2011年の増加を除けば、ほぼ4年間平行して推移している。それに対応して、貸倒引当金・損失引当金を不良債権額で除した、貸倒引当金・損失引当金のカバー率も、2009年から2010年にかけては30%から25%と減少しているが、2010年から2011年時点では貸倒引当金・損失引当金の新規積立増大によりカバー率が元の30%水準に戻っている。
しかし、2011年から2012年にかけて、再び貸倒引当金・損失引当金の残高は2010年の水準に戻り、カバー率は2010年同様25%となっている。対照的に、フレディマックは2012年度時点で、1,400億ドル程度の不良債権額となっている(注89)。ファニーメイとは対照的に、2008年時点の不良債権額増加分が大きく異なっており、ファニーメイの場合900億ドル程度の増分であったことに対し、フレディマックは300億程度の増分であり、不良債権額の増加では、「不良債権額を見る限り」に於いては、フレディマックはファニーメイよりもそこまで被害が齎されることはなかったと判断出来る。
しかし、これはあくまでも「不良債権額を見る限り」と言う条件が付与されている場合であり、これに貸倒引当金・損失引当金を加えて考慮すると、話は変わってくる。貸倒引当金・損失引当金が2007年時点ではゼロ近傍にあった状況が、2008年に200億程度に上昇した為、不良債権額の増大と合わせてカバー率を15%から33%に押し上げる結果となった。
それ以降、2009年では不良債権額が1,100億ドルを超えたが貸倒引当金・損失引当金も400億ドルに増加した為、カバー率は33%で平行して推移していた。その後も、2010年度には不良債権額が1,200億ドルとなり、貸倒引当金・損失引当金も450億ドルに増加した為、カバー率は33%で平行して推移した。そして、2011年度には不良債権額が1,300億ドルとなったが、貸倒引当金・損失引当金は430億ドルに減少した為、カバー率は31%と減少した。その後、2012年度には不良債権額が1,400億ドルとなり、貸倒引当金・損失引当金も300億ドルと更に減少した為、カバー率は23%と大きく減少した。
貸倒引当金・損失引当金に大きく影響を与える法的システムとしては、ノンリコースローンの存在が挙げられる。ノンリコースローンのシステムで破綻した場合、債務者は担保を手放して、債権者が抵当流れにすれば、それ以上の責任を債務者は負担しないと言うことであったが、担保価値が下落して抵当流れにしても損失が拡大する一方であったことは前述した通りである。そこで、担保価値を引き上げる為に、二社の業績改善の②に記載された「住宅価格の上昇」、また③の「所有物件の販売価格上昇」が挙げられた訳である。
この様な債務者(保有住宅のローン残高が住宅価値を上回る状況)の状態は「ネガティブ・エクイティ(Negative Equity)」と呼称される。ネガティブ・エクイティの状況はそう変わることはない以上、やはりTALF(Term Asset-Backed Securities Loan Facility)同様に、こちらもローンの弥縫策(延命策)に走ることになった。政府は、ARRA(American Recovery Reinvestment Act)を下地として、MHA(Making Home Affordable)(注91、92)と呼称されるプログラムに750億ドルの財源を注ぎ、債務者に以下のことを推奨した。
①債務のリファイナンス(借換)。
「借り換えプログラム(Home Affordable Refinance Program : HARP)」(注93)に依り、ネガティブ・エクイティの性質を持つ債務者のデフォルトリスクを延命する。
②債務の返済条件変更。
「条件変更プログラム(Home Affordable Modification Program : HAMP)」(注94)に依る、デフォルトリスクの延命を行う。
①の場合、リファイナンスの際に、リファイナンス前のローンと比較して、低利のローンにリファイナンスすることを支援するものである。利息分を浮かせた分で、個人消費を刺激させることで、前述したCMBSの悪循環に陥らない様な対策を取っている。
②の場合、利息減免等の返済条件変更に依り、返済負担率(Debt to Income Ratio : DTI)(注95)を目標として31%以下迄引き下げることとした(注96)。引き下げに必要なコストは、金融機関と公費で折半することとなった。但し、それだと金融機関が何も得るものが無くなってしまう為、条件変更に応じるであろうと予想されたインセンティブとして、条件変更交渉1件当たり1,000ドルの手数料を公費で負担し金融機関に支払うことが措置された(注97)。
HAMPに係る全体の公費負担は、750億ドルとされた(注98)。2008年から2014年5月現在まで続いているプログラムであるものの、最終的に条件変更(Permanent Modification)が行われた件数は、2012年2月時点で累計973,582万件(注99)とされている。2013年2月時点では、累計1,166,582件(注100)であることから、1年間で193,000件、最新の統計である2014年2月時点では、累計1,339,742件(注101)であることから、1年間で173,016件であることが分かる。即ち、現時点でも、目標の半分以下の件数しか条件変更が成されていないことが分かる。この件数の見積もりの甘さは、やはり論争となり指摘されている(注102)。
条件変更の実績が加速しない原因は幾つか有るが、その一つとして、返済持続可能性の判定基準となる、「純割引現在価値(Net Present Value)」の計算そのものの煩雑性にある。先ず、一定の前提を置き、今後に当該債務者がどの時点でデフォルトを起こすか否かを想定する。
そして、デフォルト時点での住宅価格に基づく抵当流れに依る回収可能額を想定する。この想定に於いて、条件変更の適用は、条件変更を行い、ある程度返済を継続させる方が、直ちに抵当流れを行うよりも、割引現在価値ベースでのキャッシュフロー合計額が高い場合であることになる。
そして、GAO(United States Government Accountability Office)が指摘する様に(注103)、熟練したスタッフを、「然るべき人件費」で確保出来ないことから、スタッフが集まらずに、進捗が芳しい結果にならなかったと考えられる。