(増補版)〈2.7 抵当権の慣習〉
注:【】内は増補部分。
〔補論 差し押さえ問題のその後〕にて、MERSが代理人となる件について触れたが、日本ではMERSに準ずる組織が存在しない点で商慣習の違いが現れている。
これは、証券化の流れに於いて、債権の引き受け(Assignment)、若しくは譲渡(Transfer)の要件が違うことに起因している。アメリカの場合、統一商事法典(Uniform Commercial Code : UCC)に於ける3条及び9条(注101)に、日本の場合民法467条(注102)を下地として要件が分かれている。
対照的に、日本の場合、証券化に取り沙汰される住宅ローンの位置付けは、「指名債権」(注103)に位置付けられる。指名債権を譲渡する場合、同法同条に拠り、債務者への通知、又は承諾を必要とする。「第三者対抗要件」(注104)の具備には、確定日付を有した証書を使い、債務者への通知を行う、又は承諾を得ることになる。
日本では、同法同条により、債務者に対する対抗要件と、債務者以外の第三者に対する対抗要件とで違いが生じている。債務者の承諾の通知は、債権の譲渡人又は、譲受人の何れに対するものでも良いとする一方で、「譲渡の通知は、必ず譲渡人から債務者に対して行う」必要がある。即ち、MERSのシステム同様に「代位」する形式で、債務者に対して通知しても無効となる。但し、譲受人が譲渡人に「代理」して債務者に通知することは問題がない。「代位」は、他人の持っている権利を行使すること、「代理」は、他人の代わりに新しい権利関係を発生させること、と言う意味の違いを有している。
日本の場合、1998年10月に「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(注105)が施行された。これに依り、債権譲渡登記制度が特例的に導入された。
【民法第467条、468条で規定されたのは以下の2つである。
①第三者対抗要件としての、電子化された債権譲渡登記
②債務者対抗要件としての登記事項証明書(当事者及び利害関係人等のみが請求者となる)、並びに登記事項概要証明書、及び概要記録事項証明書(何人も請求者となり得る)を交付した債務者への通知・承諾(※①)】
上記特例法では、登記により債権譲渡を公示することで、債権譲渡担保又は債権証券化等の場合に便宜となることとなった。
【債権譲渡特例法に拠る債権譲渡の対抗要件は、民法上の通知や承諾、特定債権法(特定債権等に係る事業の規制に関する法律)(※②)の公告と並立する。即ち、これらの対抗要件との競合が不可避であり、二重譲渡を防止する目的に於ける確認自体が煩雑化する(※③)。】
あくまでも、第三者対抗要件を具備することを目的とした特例であり、 債権譲渡登記そのものでは、「債務者対抗要件」は具備されない【(権利の存在を公示するものではない。「債権譲渡という権利移転の事実」があったことを公示するもの)】点に注意を要する。【その上、オリジネーターが破綻した場合のリーガル・リスクの保全対応としては不十分であり(※④)、原債務者に依る相殺等の抗弁を切断不可能である。その上、債権譲渡登記の情報は、譲渡人の商業登記簿に記載される為、譲渡人が信用不安の懸念を抱く可能性がある(※⑤)。それ故に、将来債権(※⑥)の譲渡有効性(※⑦)や、譲渡禁止特約の第三者効力と言った、債権譲渡自体に関わってくる問題に関しては、債権譲渡特例法の範疇を超え、民法そのものの解釈論に委ねられる。】
この特例法により、MERSで問題となった、証書の代理保有に依る、差し押さえ実行の問題は、処置を施していたことになる。日本でそこまで差し押さえの問題が広がらなかった要因の一つは、この債権譲渡登記制度にあると言えよう。
対照的にアメリカの場合、UCC第3条104項(b)に於いて、「"Instrument" means a negotiable instrument.」(『証書』は譲渡可能債権(明示的に訳すならば、有価証券)である)と明記されている。『証書』は、本件ならば金銭消費貸借契約証書が該当する。即ち、「住宅ローン」は「譲渡可能債権」である。UCC第9条312項は、譲渡可能債権の譲渡方法が記されている。アメリカの考え方は、「債務者の承諾なしに、転々と証書は流通する」ことが前提にある。それ故に、MERSの様なシステムがあり、第三者対抗要件に関しても、白地裏書(その権利を譲渡する意思表示。Endorsed in Blank)された証書を占有することで要件を満たすとされている。
【UCC第3条104項(b)の「『証書』は譲渡可能債権(有価証券)である」とはやや異なり、後述する動産・債権譲渡特例法に於いては、貨物引換証や船荷証券等が作成されている動産(貨物引換証・預証券及び質入証券、倉荷証券、又は船荷証券)については、譲渡を登記対象から除外している。UCC第3条104項(b)とは異なり、完全に有価証券を登記対象とは出来ないことになる。これは、商法573条に代表される様に、「証券が作成された動産を処分する場合、証券に依らなければならない」と言うルール(処分証券性)がある為である(※⑧)。我妻に依れば、「物権変動は意思表示に拠って生じる」と言う民法の意思表示の基礎原則を採用していない(※⑨)。そして、証券の引渡しがない限り、権利移転の効力は生じないと言うものが伝統的な見解であるとしている。処分証券性に基づくならば、一通しかない証券に対し、二重譲渡を考慮する必要性はない。但し、江頭の様に、「証券の作成された動産についても意思表示で権利が移転する」と言う考え方に基づけば、処分証券性とは、「対抗要件として、証券の引渡しと動産の引渡しとが競合した際に、証券の引渡しを受けたものが優先されることを定めたもの」、とする見解も可能ではある(※⑩)。しかし、このルールを採用した場合、そもそも証券が作成されている以上、証券を利用しての金融が可能であり、登記を利用する必然性がない。以上の理由に基づき、動産・債権譲渡特例法は、証券が作成された動産を登記対象から除外している。これだけを見ると、貨物引換証、預証券及び質入証券、倉荷証券又は船荷証券が作成されているもの以外の有価証券であれば登記可能とも見えるが、そうではない。動産・債権譲渡特例法第三条(※⑪)に記載された以前に、証券等の交付そのものが譲渡の効力発生要件とされている有価証券は、何れも動産譲渡登記の対象とはならない。但し、無記名債権(※⑫)は、そもそも民法86条3項(※13)に拠り動産と定められている。無記名債権の場合、単なる譲渡の意思表示のみでは譲渡の効力は生じず、証券の交付を要し、それ故に二重譲渡の可能性もなく、従って対抗要件と言うことを考える必要性はないことになる。】
【動産譲渡公示の包括的なルール自体は、UCCに比較して、後述する動産・債権譲渡特例法は及ばなかった。比較対象となる部分は「譲渡目的」がどの範囲まで及ぶか、と言うことになる。動産・債権譲渡特例法の場合、「担保目的等の限定的範囲」とはしなかったものの、はっきりとUCC第3条104項(b)の様に記していない分、UCCと比較して範囲は限定的と言える。立案過程に於いては、「担保目的の譲渡及び流動化目的の譲渡」に譲渡目的を限定する案が出された。この案の場合、「担保目的の譲渡及び流動化目的の譲渡」と「通常の譲渡」との線引きが必ずしも明確にならない点や、この線引きを行う登記官には、形式的審査権しか有していない為、登記後に紛争が発生した場合、「担保目的の譲渡及び流動化目的の譲渡」でないと訴訟等で判断された場合、無効な登記となる可能性が生じる。「担保目的の譲渡及び流動化目的の譲渡」に明確な線引きをする為の基準を与えることは不可能ではないが、その様な「業法的規定」がそもそも民事基本法の精神に馴染まないと判断された為である。そして、この事態が頻発する場合、登記の安定性、動産譲渡登記制度への信頼が害される危険が生じると考えられた為である。
その上、動産譲渡登記の対象は、「法人が行う」動産譲渡に限定される。「個人(個人事業者)が行う」動産譲渡を含めると仮定する場合、債権者から事業用資産の範囲に限定されず、個人事業者の生活に要される動産も譲渡担保に供する要求が発生する可能性がある為である。また、法人の名称や所在地が変更されても、法人登記簿に依り変更前の名称や所在地を把握することが可能、即ち、ある法人が行った動産譲渡登記の有無や内容を容易且つ確実に調査可能であると言う利便性を有している為である。なお、譲渡人に関しては、何ら制限は設けられていない。
また、譲渡に先行する占有改定(※⑭)に依る、存在が隠された譲渡担保に対しての、動産譲渡登記に対して優先的な効力を与えることとするか否か、と言う観点で、「占有改定に拠る担保目的または流動化目的の譲渡が為されたとしても、その後にされた担保目的または流動化目的の譲渡を登記すると、後者の登記を行った譲受人は、『先行の譲受人に優先する』」と言うルールの採否が検討されたものの、導入は見送られた。この「優先ルール」を採用する場合、まず動産譲渡の対抗要件に優劣を設定する必要がある。民法上の優劣は、「対抗要件を具備した先後」に依り優劣が決まる。即ち、「現行の対抗要件理論」そのものを改定する必要が生じる。
仮に、「現行の対抗要件理論」を「優先ルール」に合わせたものに改定したとする。そうなると、後に予想される問題としては、「占有改定者」を踏み台(Steppingstone)にする、「悪意を有した(Malicious)」現行対抗要件理論で云うところの「劣後譲渡人」が問題となる。「劣後譲渡人」が、「先行譲渡人」と共謀した場合がその問題である。真意は真正譲渡であると言うことにも拘わらず、「被担保債権の存在」及び「担保目的」と言うことを仮装すること、または、建前として極めて少額の貸付を行い、当該動産につき、「担保目的」として譲渡を受けた「事実」を作り出し、登記を行うと言う「抜け道(Loophole)」が発生すると推測される。しかし、動産譲渡登記制度自体は、外形上存在が判然としない占有改定に代わり、外形上明確な公示方法である登記をすることを可能とするものである。紛争が発生した場合、前法では私署証書に拠り占有改定の事実を立証する必要があったが、それに代わり、登記を利用し対抗要件具備の立証が用意となるメリットが備わっていることになる。
そもそもは、「優先ルール」を課すことで、「先行する占有改定に拠る譲渡人」に、後続者は劣後する危惧を払拭可能であると見積もられていた。しかし譲受人は、この「優先ルール」下に非ず(現行対抗要件理論下)とも、譲渡人への照会を筆頭としたデューディリジェンス(Due Diligence. 行為結果責任をその行為者が法的に負うべきか否かを決定する際に、その行為者がその行為に先んじて払って然るべき正当な注意義務及び努力のことを指す。即ち、対象企業や不動産・金融商品等の資産の調査活動のことである)を行う為、そもそも先行する占有改定に拠る、先行する譲渡担保が存在するか否かと言うこと自体はほぼ明白となる為、譲受人の抱く可能性のある懸念はそこまで元から大きいものではない。即ち、「払拭されると推測される懸念」のメリットよりも、悪用されるリスクの方が大きい為に見送られた、と言うことになる。
先述した占有改定に拠り、即時取得の問題(※⑮)が生じている。占有改定が即時取得の要件を満たすかと言う点に関しては、判例に於いては否定されている(※⑯)。即時取得の要件は、譲受人がデューディリジェンスを怠った(登記を調査していない)場合に過失が発生するか否か、即ち「譲受人にデューディリジェンス(登記の有無を調査することの義務(動産を委譲される際に、譲渡人に登記事項証明書の提示を要求する必要がある))が認められるか」、と言うことになる。元々、動産自体、目的物の価格は千差万別であり、取引態様も一回限りから継続しているものまで、当事者の専門性も各人に依り違い、譲受人に、どの様な場合にデューディリジェンスが生じるかを規定することは極めて困難である。それ故に、「どの様な場合に即時取得が成立するか」と言うことに関しては、特段の規定を設けておらず、ケースバイケース(ただし、先述の通り、「占有改定」は「即時取得」の要件を満たすことはない)と言う状態である。例えば、倉庫の在庫等の集合動産を譲渡する場合、通常の営業範囲における商品等の処分権は譲受人に委譲される。即ち、即時取得の成否以前に、譲受人は所有権を承継取得することになる。このケースを、譲渡人がデフォルトした場合で考えてみよう。譲受人は基本的に、デフォルトの事実を知らずして処分権を喪失する場合が大半である。それ故に、譲受人のデューディリジェンスに過失を求めることは難しく、無過失であれば、即時取得が成立すると考えられる。これが個別動産に変わっても、取引の迅速性や、譲受人が譲渡人に対し登記事項証明書の提示を強制する立場にはないことを鑑みると、先程のデフォルトの仮定と同様に、デューディリジェンスは認められず、即時取得が認められると考えられる。これが金融機関等の、デューディリジェンスに重きを置く機関である場合に、集合動産の登記調査を怠ること、また。活発に譲渡担保目的物として、相当に高価な動産を利用しており、動産譲渡登記が度々為される様な取引慣行が成立している様な場合、注意義務を尽くしたとは言えないとして過失を認定し、即時取得が認められないケースも有り得ると考えられる。結論としては、「即時取得」は、デューディリジェンスを実際に行えたか否か、行えたと考えられる状況下で実際に行ったか否か、で判断されることになる。】
即時取得の問題として、例えば、形式番号でAからBへの譲渡登記が為されていて、AからCに現実の引渡しが為された時は、譲渡登記が優先される。しかし、場所で登記されている場合、話が変わってくる。集合物論に於ける処分授権範囲内、範囲外のものと共に、場所的特定を外れた場合、集合動産譲渡担保の集合物論の枠を外れる(集合物をはみ出している為、既存実体法の解釈に依り担保の枠を外れる)可能性が生じる。これは集合物論の問題か公示の問題か、となれば、前者となろう。
一旦Aを債務者、Bを債権者と仮定しよう。AからBへの動産譲渡登記が為されている場合に、Aの手元に動産が存在するが、当該動産について、重ねて処分が為され、現実の引渡しが先の処分されたものについて為されたとする。一見すると、当該動産が搬出された時に、「搬出された」だけで、「前の動産譲渡登記は無意味となる」と考えられる。
先の仮定に於いて、ファクターとして「通常営業範囲」を導入しよう。通常営業範囲内ならば、処分が適法であり、二重譲渡は関係しない。しかし、通常営業範囲外の場合、担保対象から外れ、一見すると損害賠償請求権の問題に収斂する様に考えられる。しかし、担保対象から外れたとは言え、最初の譲渡担保は消滅するわけではない。譲渡担保の効力が担保対象から外れても有効状態にある場合、これは二重譲渡状態にあると換言出来る。即ち、「通常営業範囲外」のファクターが付与された譲渡担保は、二重譲渡状態に在ると言える。ここで、一旦仮定とする集合動産譲渡担保が固定状況に在るか否かを確定しておこう。固定化した場合、通常の所有権者として主張することが出来る様になる為、基本的な議論としては、「通常営業過程の範囲外」であろうとも、未だ固定化していない状況を考えることになる。
ここで、譲渡担保の種類を集合動産譲渡担保と個別動産譲渡担保に分けよう。集合動産について対抗力が備わったと仮定する場合、その備わる過程で、コンポーネントである「個別動産」に関しても対抗力が備わると言うプロセスを考えよう。この場合、個別動産自体に、過程下で対抗力が備わる前に既に対抗力が備わっていた状態で、「一旦遡って」対抗力が消えた上で、集合動産の対抗力が備わる過程で再び備わる、つまり対抗力具備の書換えが発生すると考えることが出来る。
話はやや逸れるが、譲渡担保の「目的物」を、「集合物そのもの」として一括りに設定し、個別動産自体は目的物ではない、と言う仮定で考えるならば、先の「担保枠の問題か公示の問題か」と言う問いは「後者」と言うことが出来る。この様に、設定する仮定により、問題がどちらにあるかは変わってくるが故に、法的に明確な設定が難しい点は否めないのである。しかし、あくまでも「占有改定が対抗要件」とされる限りは燻り続ける問題であることに変わりはない。
但し、現実の解釈として、「集合物が目的物であり、コンポーネントである個別動産も目的物となっている状態である」としても、「個々の動産についても対抗力は備わっている」とするものもある。この解釈に基づく場合、譲渡担保が搬出されても対抗力は残ると考えられる。この場合、コンポーネントである個別動産は譲受人のものとなり、二重譲渡の可能性は「現実的には」排除される。即ち、二重譲渡の問題ではなく、即時取得の問題となる。しかし、「現実的には」と強調したことは、「論理上」発生しうることのメタファーが隠れている。登記の効力から対抗力が保持される前提に立てば、先行する(占有改定に拠る)譲受人が対抗要件を具備することになり、論理上は確かに二重譲渡が発生しうる。即ち、これを先の論に当てはめるならば、占有改定に拠る先行譲受人にも、後続する登記を利用した譲受人にも、どちらにも対抗要件を具備している状況が発生しうると言うことになる。現実的には、即時取得の問題に帰結することになると考えられるので、占有改定がある限り占有改定の問題が残り続ける以上は、即時取得の側面で話を進める方が建設的ではある。仮に論理を突き詰め、双方に対抗要件が具備された「二重譲渡」の問題(公示の問題)を側面として議論を進めるならば、これはそもそも「公示制度が要求するものが「状態の公示」か「物権変動の公示」のどちらであるか」と言うことになる。この問いは、生得性(ア・プリオリ)がどちらにあるかと言うものと考えられる以上は、後者にあると言える。それ故に、対抗力は譲受人の双方共に喪失しないことになる。
一旦基本に立ち返り、民法178条(※⑰)、動産・債権譲渡登記制度第3条1項(※⑱)に基づいて話を進めよう。やや屁理屈気味に聞こえるが、「引渡しがあったものとみなす」だけで、「占有しているものとみなす」とは書かれていない。個別動産に於いてと言う話であれば、引渡しがある時点で発生し、占有を擬製している効果が何らかの要因により反転する場合は違和感を覚えるであろう。先の通り、集合動産とコンポーネントである個別動産を目的物として同一視するか否かで解釈が変わる。後者の場合、集合動産に関しては、集合動産譲渡担保として、登記を行っている以上は、対抗要件が認められる。しかし、コンポーネントとして存在している個別動産の場合、確かに目的物として、連鎖的に存在してはいるものの、「登記」をしていないが為に対抗要件が存在しないと言う解釈が可能になる。集合物のコンポーネントとして一括して対抗要件を具備せずに、個別動産として対抗要件を競合した場合に、占有改定に拠る先行譲受人に敗北する可能性が考えられる。個人的な解釈としては、現実的に発生しうる、「集合動産も、コンポーネントである個別動産にも対抗力は備わっており、問題の争点は即時取得にある」と言うものを採用している。
〔注〕
※①:これらについての詳細は、植垣勝裕、高山崇彦、中原裕彦、坂田大吾「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律の概要(下)」(『金融法務事情』No. 1731所収、2005.02)を参照されたい。
※②:通商産業省産業政策局取引信用室編『特定債権法の解説 -特定債権等に係る事業の規制に関する法律-』(通商産業調査会、1995.08)。ちなみに、特定債権法は、新・信託業法附則第2条に拠り、廃止された。
信託業法 (平成十六年十二月三日法律第百五十四号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H16/H16HO154.html
附則抄
(特定債権等に係る事業の規制に関する法律の廃止)
第二条
特定債権等に係る事業の規制に関する法律(平成四年法律第七十七号)は、廃止する。
※③:債権譲渡登記の制度・電算システムに、二重譲渡のチェック機能が備わっていない上、特定債権法上の公告と、債権譲渡登記間に、システム上の互換性を有していない為である。
※④:債権譲渡特例法上の債務者対抗要件具備手段である登記事項証明書を交付した通知として、オリジネーターとの取り立て委託契約を解除したSPCが、各原債務者へ通知を行うことになる。しかし、破産や更生手続開始の申し立て後に行われた対抗要件具備行為そのものが、管財人の旧・破産法第74条や新・会社更生法第88条に記載されている「対抗要件否認」の対象となる可能性の有無が、法的な問題として残る。また、それを抜きにしても、物理的な制約として、原債務者が多数存在する場合、法務局で登記事項証明書の交付を受け、内容証明郵便で送達すること自体に費用が多く掛かる為、実務上大きな障害となり得る。
※⑤:30年前から40年前の実務では、「指名金銭債権譲渡」の大半は、経営危機に瀕した債務者の最後の抵抗(債権回収手段)であった。多数の債権者から弁済を迫られた債務者は、売掛債権を二重、三重に譲渡し、更に別の債権者が多重譲渡された売掛債権を差し押さえる等、多くの紛争が発生していた。現在であれば、指名金銭債権の流動化や集合債権の譲渡担保等を目的とした、正常業務内の債権譲渡が増えているものの、未だに上記のような偏見(「債権譲渡を行う企業は、信用不安の可能性がある」)は払拭されたわけではない。債権譲渡特例法9条下では、法人登記簿の謄本の交付を受けた者には、須く債権譲渡に関する情報が開示されることになっていた。後述する動産・債権譲渡特例法第12条1項や第13条に於いて、新たに動産譲渡登記事項概要ファイルを譲渡人の本店等所在地法務局等に備え、登記事項の概要を記録、開示する制度が創設されることとなった。
※⑥:動産譲渡登記そのものの存続期間は、原則10年以内とされる。但し、例外として第7条3項の様に、超過した存続期間を設定可能である。例外が発生しうる事案としては、例えば設備投資案件に於いて、融資対象の個別動産を担保に設定するケースである。通常、融資期間は融資対象物の法定償却期間をベースにして設定するが、実際には融資期間が償却期間より長いケースが大半である(リース会社であれば、これは再リース扱いとなる)。銀行の融資期間は、10年を超過するケースが少ないながらも存在する。
この観点に関しては植垣勝裕、小林明彦、中村廉平、花井正志、前島顕吾、山野目章夫「新しい動産・債権譲渡登記制度と金融実務(下)」(『金融法務事情』No.1738所収、2005.05)、pp.87-94を参照されたい。
(動産譲渡登記) 第七条
指定法務局等に、磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。次条第一項及び第十二条第一項において同じ。)をもって調製する動産譲渡登記ファイルを備える。
2.省略
3.前項第六号の存続期間は、十年を超えることができない。ただし、十年を超えて存続期間を定めるべき特別の事由がある場合は、この限りでない。
※⑦:判例・通説に拠れば、「将来発生するべき債権は譲渡可能」と解釈されている。しかし、その為の「有効要件」で、論が分かれている。例えば、社会保険料診療報酬の債権譲渡(注2)は、債権譲渡が有効と判示され、基準・有効要件に関し、譲渡対象債権が、「発生原因」、「譲渡額」、「始期と終期」等に依り、特定される必要があるとした。しかし、その後の最高裁判所判決(注3)では、特定必要性に関しては、「他の債権と識別可能であればよい」としている。対照的に、更にその後(注4)の判決では、1999年判決で判示された基準・有効要件である、将来債権の発生期間に於ける終期や、種類の記載が不適切であった債権譲渡登記の対抗力に対し、否定する判示を行っている。実際には、終期の記載は実務上非常に定めにくい(注5)。最一小決平成14年10月1日では、以下の様に対抗力を認める限度を示している。
「Yの主張の実質的な論拠は、将来債権については終期を年月日で特定できないものがあり、かつ上記項番25の本件告示による記録方法の制限のもとでは終期を記録できない場合があるということと思われる。しかし、いずれにしても譲渡される債権は特定されているはずであるから、実際的には当事者間で一応想定される終期を記載し、これを記録することがそれほど困難とも思われず、譲渡時債権額の記録と相まって特段の問題も生じない場合も多いのではないかと推測される。そして、このような便宜的な方法を用いるのが困難な場合、あるいは適切ではない場合には、債権譲渡登記規則(平成十年法務省令第三十九号)十三条一項二号、九条二項、本件告示3、(5)の項番32に基づき、債権を特定するために必要な事項を有益事項として記録すべきである(これを本件について言えば、「債務残額に充つるまでの金額部分」といったことでは複数の第三債務者にとって譲渡部分が判明しないから、「譲渡債権の終期」の代わりに有益事項として「本件債権譲渡登記についての通知をするまでの間に発生した将来債権のうち同通知の時点で残存する債権」といった記録をすることが考えられ、このような記録があれば、その限度でその債権譲渡については対抗力を認めるべきである)。」
しかし、この「有益事項としての記録」は、「どれだけの対抗力を有している」かは、債権譲渡特例法上明確にされていない(注6)。仮に「対抗力を有している」場合であれば、それは債権譲渡特例法上に将来債権の記載の仕方を明確にする様な規定を設けるべきであった(注7)。実務上の要請を示すならば、「登記内容の総合判断に依り、対象が将来債権か否かを判断すること」である。しかし、ケースバイケースを「登記登録制度」に求めると、画一的且つ定型的な処理に依る公示力、対抗力を客観的に具備することが不可能となる為、難しいものがある。実際に取り得る対策としては、出来る限り、譲渡契約上に明示をしておらずとも、登記上の終期を想定し、記載してから登記申請しておくことであると言える。
終期の記載を要するスタンス自体は、動産・債権譲渡特例法でも変わっておらず、債権譲渡特例法以上に、債務者不特定の場合の将来債権譲渡時に、譲渡に係る債権を特定するファクターとして重要視されている。
しかし、判例は積み重なっているものの、実際には平成9年(オ)第219号の判示事項が有効と判断されており、後述する動産・債権譲渡特例法では、債権譲渡特例法上で例示されていた「譲渡に係る債権の債務者」の文面を削除し、登記事項の全てを法務省令に委任することとなった(動産・債権譲渡特例法第8条2項4号)。法務省令の場合、譲渡に係る債権が将来債権の場合、同債権の債務者を必要的登記事項に定めていない。
注2:『最高裁判所民事判例集』53巻1号、P151
動産所有権確認同引渡等請求事件(平成9年(オ)第219号 同11年1月29日最高裁第3小法廷判決 棄却)
○判示事項
将来債権譲渡の有効性
○判決要旨
(前略)債権譲渡契約にあっては、譲渡の目的とされる債権がその発生原因や譲渡に係る額等をもって特定される必要があることはいうまでもなく、将来の一定期間内に発生し、又は弁済期が到来すべき幾つかの債権を譲渡の目的とする場合には、適宜の方法により右期間の始期と終期を明確にするなどして譲渡の目的とされる債権が特定されるべきである。(中略)将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約にあっては、契約当事者は、譲渡の目的とされる債権の発生の基礎を成す事情をしんしゃくし、右事情の下における債権発生の可能性の程度を考慮した上、右債権が見込みどおり発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益については譲渡人の契約上の責任の追及により清算することとして、契約を締結するものと見るべきであるから、右契約の締結時において右債権発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然に左右するものではないと解するのが相当である。もっとも、契約締結時における譲渡人の資産状況、右当時における譲渡人の営業等の推移に関する見込み、契約内容、契約が締結された経緯等を総合的に考慮し、将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約について、右期間の長さ等の契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであると見られるなどの特段の事情の認められる場合には、右契約は公序良俗に反するなどとして、その効力の全部又は一部が否定されることがあるものというべきである。所論引用に係る最高裁昭和五一年(オ)第四三五号同五三年一二月一五日第二小法廷判決・裁判集民事一二五号八三九頁は、契約締結後一年の間に支払担当機関から医師に対して支払われるべき診療報酬債権を目的とする債権譲渡契約の有効性が問題とされた事案において、当該事案の事実関係の下においてはこれを肯定すべきものと判断したにとどまり、将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の有効性に関する一般的な基準を明らかにしたものとは解し難い。以上を本件について見るに、本件契約による債権譲渡については、その期間及び譲渡に係る各債権の額は明確に特定されていて、上告人以外の(中略)債権者に対する対抗要件の具備においても欠けるところはない。(中略)本件契約を締結したからといって、直ちに、本件債権部分に係る本件契約の効力が否定されるべき特段の事情が存在するということはできず、他に、右特段の事情の存在等に関し、主張立証は行われていない。(中略)被上告人の本件請求は、理由がないことが明らかであるから、右請求を認容した第一審判決を取消し、これを棄却すべきである。
注3:『最高裁判所民事判例集』54巻4号、P1562
譲受債権請求事件(平成8(オ)第1049号 同12年4月21日最高裁第2小法廷判決 棄却)
○判示事項
既発生債権及び将来債権を一括して目的とするいわゆる集合債権の譲渡予約において譲渡の目的となるべき債権の特定があるとされる場合
○判決要旨
甲が乙との間の特定の商品の売買取引に基づき乙に対して現に有し又は将来有することのある売掛代金債権を目的として丙との間で譲渡の予約をした場合、譲渡の目的となるべき債権は、甲の有する他の債権から識別ができる程度に特定されているということができる。
「まず、債権譲渡の予約にあっては、予約完結時において譲渡の目的となるべき債権を譲渡人が有する他の債権から識別することができる程度に特定されていれば足りる。そして、この理は、将来発生すべき債権が譲渡予約の目的とされている場合でも変わるものではない。
【要旨】本件予約において譲渡の目的となるべき債権は、債権者及び債務者が特定され、発生原因が特定の商品についての売買取引とされていることによって、他の債権から識別ができる程度に特定されているということができる。」
注4:最一小判平成14年10月1日、『最高裁判所民事判例集』56巻8号、P1742(最一小判平成14年10月10日)
最一小決平成14年10月1日要旨
「民事事件について最高裁判所に上告することが許されるのは、民訴法三一二条一項又は二項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、理由の不備・食い違いをいうが、その実質は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。」
供託金還付請求権確認及び譲受債権請求事件(平成14(受)第240号 同14年10月10日最高裁第1小法廷判決 棄却)
○判示事項
譲渡債権の発生年月日として始期のみが記録されている債権譲渡登記をもって始期当日以外の日に発生した債権の譲渡を第三者に対抗することの可否
○判決要旨
債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律2条1項に規定する債権譲渡登記に譲渡債権の発生年月日の始期(平成10年法務省告示第295号3(5)の項番24)は記録されているがその終期(同項番25)が記録されていない場合には、当該債権譲渡登記に係る債権譲渡が数日にわたって発生した債権を目的とするものであったとしても,他に当該債権譲渡登記中に始期当日以外の日に発生した債権も譲渡の目的である旨の記録がない限り、債権譲受人は、当該債権譲渡登記をもって、始期当日以外の日に発生した債権の譲受けを債務者以外の第三者に対抗することができない。
「【要旨】債権譲渡登記に譲渡に係る債権の発生年月日の始期は記録されているがその終期が記録されていない場合には、その債権譲渡登記に係る債権譲渡が数日にわたって発生した債権を目的とするものであったとしても、他にその債権譲渡登記中に始期当日以外の日に発生した債権も譲渡の目的である旨の記録がない限り、債権の譲受人は、その債権譲渡登記をもって,始期当日以外の日に発生した債権の譲受けを債務者以外の第三者に対抗することができないものと解するのが相当である。けだし、上記のような債権譲渡登記によっては、第三者は始期当日以外の日に発生した債権が譲渡されたことを認識することができず、その公示があるものとみることはできないからである。前記告示3(5)の項番24(債権発生年月日の始期)の条件欄には「必須」,項番25(同終期)の同欄には「任意」と記載されているところ、これらに付記された「(注4)」及び「(注5)」の記載を併せ考えれば、債権の発生日が一つの日であるときは項番24の始期の記録のみで足りるが、債権の発生日が数日に及ぶときは始期の外に項番25の終期を記録するなどしてその旨を明らかにすることを要するものと解すべきであり、後者の場合にも始期の記録のみで足りるという趣旨に解するのは相当でない。これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件債権譲渡登記には、譲渡に係る債権の発生年月日として、その始期は記録されているが終期は記録されていないというのであり、他に本件債権譲渡登記中に本件報酬債権のうち始期当日以外の日に発生したものが譲渡の目的であることをうかがわせる記録はないから、上告人は、本件債権譲渡登記をもって、本件報酬債権のうち始期当日以外の日に発生したものの譲受けを被上告人に対抗することができないものというべきである。そして、前記事実関係によれば,本件報酬債権のうち始期当日に発生したものと本件供託に係るものとが同一であるとの証拠はないというのであるから、上告人は、本件報酬債権のうち本件供託に係るものの譲受けをもって被上告人に対抗することができないことになる。」
注5:森井は、終期までは「定めようがない」というのが本音であろう、とし、最一小判平成14年10月10日に関し、実務上は問題含みの告示とした。
森井英雄『判例タイムズ』1089号、P56
注6:堀龍兒『金融判例研究』12号(本誌1652号)、P37。
注7:升田純『Credit & Law』144号。
Reference.
池田眞朗「債権譲渡の実務と法理-この10年の進展」(日本資産流動化研究所『SFI会報』(第38号、2003.03))
池田眞朗「債権譲渡特例法登記の始期・終期や種類の記載と対抗力-最一小判平14.10.10と最一小決14.10.1の検討」(『金融法務事情』No.1676、2003.06)
注:最一小判は、最高裁判所第一小法廷の略称。最一小決は、最高裁第一小法廷決定の略称。
前田敏博他「証券化・セキュリタイゼーション」(西村総合法律事務所編『ファイナンス法大全(下)』(商事法務、2003.10)、第7章)
※⑧:商法第573条
貨物引換証を作りたるときは運送品に関する処分は貨物引換証を以てするに非されは之を為すことを得す
※⑨:我妻栄著、幾代通、川井健補訂『新訂物権法』(勁草書房、2006.1)、p184.
※⑩:江頭憲治郎『商取引法 第7版』(弘文堂、2013.5)、p245.
※⑪:動産・債権譲渡特例法
(動産の譲渡の対抗要件の特例等)
第三条
法人が動産(当該動産につき貨物引換証、預証券及び質入証券、倉荷証券又は船荷証券が作成されているものを除く。以下同じ。)を譲渡した場合において、当該動産の譲渡につき動産譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該動産について、民法第百七十八条の引渡しがあったものとみなす。
※⑫:名前表示がない証券のことで、所持している者が権利を行使できるもの。商品券、乗車券、無記名公債などが無記名債権にあたる。
※⑬:民法86条3項
無記名債権は、動産とみなす。
※⑭:民法183条(占有改定)
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
民法183条に規定される占有の移転方式であり、「ある目的物の占有者が、それを手元に置いたまま占有を他者に移す」場合を指す。自己占有(直接占有)はそのままに、 代理占有(間接占有)が意思表示のみに依り移転を行う。目的物の占有者は、これに拠り占有代理人と称される。
※⑮:民法192条(即時取得)
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
※⑯:最一小判昭和35年2月11日、『最高裁判所民事判例集』14巻2号、pp.168-184
動産所有権確認同引渡等請求事件(昭和三二年(オ)第一〇九二号 同三五年二月一一日第一小法廷判決 棄却)
○判示事項
占有改定による占有の取得と民法第一九二条の適用の有無
○判決要旨
占有取得の方法が外観上の占有状態に変更を来さない占有改定にとどまるときは、民法第一九二条の適用はない。
【要旨】(前略)無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法一九二条によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外観上変更を来たさないいわゆる占有改定の方法による取得をもつては足らないものといわなければならない(大正五年五月一六日大審院判決、民録二二輯(しゅう)九六一項、昭和三二年一二月二七日第二小法廷判決、集一一巻一四号二四八五項参照)。(中略)当時右物件については全くの無権利者であつたこと、(中略)物件の引渡を受けはしたが、その引渡はいわゆる占有改定の方法によつたものであることを証拠によつて確定し、しかも一方において右物件は、判示のような経緯から、被上告人(中略)より被上告人株式会社(中略)に売却され、代金の完済とともにその所有権を譲渡し、かつその引渡が了されたというのであるから、原判決がこれらの事実関係から上告人の所論即時取得による所有権の取得を否定し、これを前提とする本訴請求を排斥したのは正当というべきである。
※⑰:民法178条
(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、 第三者に対抗することができない。
※⑱:動産・債権譲渡登記制度第3条
(動産の譲渡の対抗要件の特例等)
第三条
法人が動産(当該動産につき貨物引換証、預証券及び質入証券、倉荷証券又は船荷証券が作成されているものを除く。以下同じ。)を譲渡した場合において、当該動産の譲渡につき動産譲渡登記ファイルに 譲渡の登記がされたときは、当該動産について、民法第百七十八条の引渡しがあったものとみなす。
<全体のReference.>
植垣勝裕、高山崇彦、中原裕彦、坂田大吾「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律の概要(上・中・下)」(『金融法務事情』No.1729、1730、1731所収、2005.02)
植垣勝裕、小林明彦、中村廉平、花井正志、前島顕吾、山野目章夫「新しい動産・債権譲渡登記制度と金融実務(上・下)」(『金融法務事情』No.1737、1738所収、2005.04-05)
注:【】内は増補部分。
〔補論 差し押さえ問題のその後〕にて、MERSが代理人となる件について触れたが、日本ではMERSに準ずる組織が存在しない点で商慣習の違いが現れている。
これは、証券化の流れに於いて、債権の引き受け(Assignment)、若しくは譲渡(Transfer)の要件が違うことに起因している。アメリカの場合、統一商事法典(Uniform Commercial Code : UCC)に於ける3条及び9条(注101)に、日本の場合民法467条(注102)を下地として要件が分かれている。
対照的に、日本の場合、証券化に取り沙汰される住宅ローンの位置付けは、「指名債権」(注103)に位置付けられる。指名債権を譲渡する場合、同法同条に拠り、債務者への通知、又は承諾を必要とする。「第三者対抗要件」(注104)の具備には、確定日付を有した証書を使い、債務者への通知を行う、又は承諾を得ることになる。
日本では、同法同条により、債務者に対する対抗要件と、債務者以外の第三者に対する対抗要件とで違いが生じている。債務者の承諾の通知は、債権の譲渡人又は、譲受人の何れに対するものでも良いとする一方で、「譲渡の通知は、必ず譲渡人から債務者に対して行う」必要がある。即ち、MERSのシステム同様に「代位」する形式で、債務者に対して通知しても無効となる。但し、譲受人が譲渡人に「代理」して債務者に通知することは問題がない。「代位」は、他人の持っている権利を行使すること、「代理」は、他人の代わりに新しい権利関係を発生させること、と言う意味の違いを有している。
日本の場合、1998年10月に「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(注105)が施行された。これに依り、債権譲渡登記制度が特例的に導入された。
【民法第467条、468条で規定されたのは以下の2つである。
①第三者対抗要件としての、電子化された債権譲渡登記
②債務者対抗要件としての登記事項証明書(当事者及び利害関係人等のみが請求者となる)、並びに登記事項概要証明書、及び概要記録事項証明書(何人も請求者となり得る)を交付した債務者への通知・承諾(※①)】
上記特例法では、登記により債権譲渡を公示することで、債権譲渡担保又は債権証券化等の場合に便宜となることとなった。
【債権譲渡特例法に拠る債権譲渡の対抗要件は、民法上の通知や承諾、特定債権法(特定債権等に係る事業の規制に関する法律)(※②)の公告と並立する。即ち、これらの対抗要件との競合が不可避であり、二重譲渡を防止する目的に於ける確認自体が煩雑化する(※③)。】
あくまでも、第三者対抗要件を具備することを目的とした特例であり、 債権譲渡登記そのものでは、「債務者対抗要件」は具備されない【(権利の存在を公示するものではない。「債権譲渡という権利移転の事実」があったことを公示するもの)】点に注意を要する。【その上、オリジネーターが破綻した場合のリーガル・リスクの保全対応としては不十分であり(※④)、原債務者に依る相殺等の抗弁を切断不可能である。その上、債権譲渡登記の情報は、譲渡人の商業登記簿に記載される為、譲渡人が信用不安の懸念を抱く可能性がある(※⑤)。それ故に、将来債権(※⑥)の譲渡有効性(※⑦)や、譲渡禁止特約の第三者効力と言った、債権譲渡自体に関わってくる問題に関しては、債権譲渡特例法の範疇を超え、民法そのものの解釈論に委ねられる。】
この特例法により、MERSで問題となった、証書の代理保有に依る、差し押さえ実行の問題は、処置を施していたことになる。日本でそこまで差し押さえの問題が広がらなかった要因の一つは、この債権譲渡登記制度にあると言えよう。
対照的にアメリカの場合、UCC第3条104項(b)に於いて、「"Instrument" means a negotiable instrument.」(『証書』は譲渡可能債権(明示的に訳すならば、有価証券)である)と明記されている。『証書』は、本件ならば金銭消費貸借契約証書が該当する。即ち、「住宅ローン」は「譲渡可能債権」である。UCC第9条312項は、譲渡可能債権の譲渡方法が記されている。アメリカの考え方は、「債務者の承諾なしに、転々と証書は流通する」ことが前提にある。それ故に、MERSの様なシステムがあり、第三者対抗要件に関しても、白地裏書(その権利を譲渡する意思表示。Endorsed in Blank)された証書を占有することで要件を満たすとされている。
【UCC第3条104項(b)の「『証書』は譲渡可能債権(有価証券)である」とはやや異なり、後述する動産・債権譲渡特例法に於いては、貨物引換証や船荷証券等が作成されている動産(貨物引換証・預証券及び質入証券、倉荷証券、又は船荷証券)については、譲渡を登記対象から除外している。UCC第3条104項(b)とは異なり、完全に有価証券を登記対象とは出来ないことになる。これは、商法573条に代表される様に、「証券が作成された動産を処分する場合、証券に依らなければならない」と言うルール(処分証券性)がある為である(※⑧)。我妻に依れば、「物権変動は意思表示に拠って生じる」と言う民法の意思表示の基礎原則を採用していない(※⑨)。そして、証券の引渡しがない限り、権利移転の効力は生じないと言うものが伝統的な見解であるとしている。処分証券性に基づくならば、一通しかない証券に対し、二重譲渡を考慮する必要性はない。但し、江頭の様に、「証券の作成された動産についても意思表示で権利が移転する」と言う考え方に基づけば、処分証券性とは、「対抗要件として、証券の引渡しと動産の引渡しとが競合した際に、証券の引渡しを受けたものが優先されることを定めたもの」、とする見解も可能ではある(※⑩)。しかし、このルールを採用した場合、そもそも証券が作成されている以上、証券を利用しての金融が可能であり、登記を利用する必然性がない。以上の理由に基づき、動産・債権譲渡特例法は、証券が作成された動産を登記対象から除外している。これだけを見ると、貨物引換証、預証券及び質入証券、倉荷証券又は船荷証券が作成されているもの以外の有価証券であれば登記可能とも見えるが、そうではない。動産・債権譲渡特例法第三条(※⑪)に記載された以前に、証券等の交付そのものが譲渡の効力発生要件とされている有価証券は、何れも動産譲渡登記の対象とはならない。但し、無記名債権(※⑫)は、そもそも民法86条3項(※13)に拠り動産と定められている。無記名債権の場合、単なる譲渡の意思表示のみでは譲渡の効力は生じず、証券の交付を要し、それ故に二重譲渡の可能性もなく、従って対抗要件と言うことを考える必要性はないことになる。】
【動産譲渡公示の包括的なルール自体は、UCCに比較して、後述する動産・債権譲渡特例法は及ばなかった。比較対象となる部分は「譲渡目的」がどの範囲まで及ぶか、と言うことになる。動産・債権譲渡特例法の場合、「担保目的等の限定的範囲」とはしなかったものの、はっきりとUCC第3条104項(b)の様に記していない分、UCCと比較して範囲は限定的と言える。立案過程に於いては、「担保目的の譲渡及び流動化目的の譲渡」に譲渡目的を限定する案が出された。この案の場合、「担保目的の譲渡及び流動化目的の譲渡」と「通常の譲渡」との線引きが必ずしも明確にならない点や、この線引きを行う登記官には、形式的審査権しか有していない為、登記後に紛争が発生した場合、「担保目的の譲渡及び流動化目的の譲渡」でないと訴訟等で判断された場合、無効な登記となる可能性が生じる。「担保目的の譲渡及び流動化目的の譲渡」に明確な線引きをする為の基準を与えることは不可能ではないが、その様な「業法的規定」がそもそも民事基本法の精神に馴染まないと判断された為である。そして、この事態が頻発する場合、登記の安定性、動産譲渡登記制度への信頼が害される危険が生じると考えられた為である。
その上、動産譲渡登記の対象は、「法人が行う」動産譲渡に限定される。「個人(個人事業者)が行う」動産譲渡を含めると仮定する場合、債権者から事業用資産の範囲に限定されず、個人事業者の生活に要される動産も譲渡担保に供する要求が発生する可能性がある為である。また、法人の名称や所在地が変更されても、法人登記簿に依り変更前の名称や所在地を把握することが可能、即ち、ある法人が行った動産譲渡登記の有無や内容を容易且つ確実に調査可能であると言う利便性を有している為である。なお、譲渡人に関しては、何ら制限は設けられていない。
また、譲渡に先行する占有改定(※⑭)に依る、存在が隠された譲渡担保に対しての、動産譲渡登記に対して優先的な効力を与えることとするか否か、と言う観点で、「占有改定に拠る担保目的または流動化目的の譲渡が為されたとしても、その後にされた担保目的または流動化目的の譲渡を登記すると、後者の登記を行った譲受人は、『先行の譲受人に優先する』」と言うルールの採否が検討されたものの、導入は見送られた。この「優先ルール」を採用する場合、まず動産譲渡の対抗要件に優劣を設定する必要がある。民法上の優劣は、「対抗要件を具備した先後」に依り優劣が決まる。即ち、「現行の対抗要件理論」そのものを改定する必要が生じる。
仮に、「現行の対抗要件理論」を「優先ルール」に合わせたものに改定したとする。そうなると、後に予想される問題としては、「占有改定者」を踏み台(Steppingstone)にする、「悪意を有した(Malicious)」現行対抗要件理論で云うところの「劣後譲渡人」が問題となる。「劣後譲渡人」が、「先行譲渡人」と共謀した場合がその問題である。真意は真正譲渡であると言うことにも拘わらず、「被担保債権の存在」及び「担保目的」と言うことを仮装すること、または、建前として極めて少額の貸付を行い、当該動産につき、「担保目的」として譲渡を受けた「事実」を作り出し、登記を行うと言う「抜け道(Loophole)」が発生すると推測される。しかし、動産譲渡登記制度自体は、外形上存在が判然としない占有改定に代わり、外形上明確な公示方法である登記をすることを可能とするものである。紛争が発生した場合、前法では私署証書に拠り占有改定の事実を立証する必要があったが、それに代わり、登記を利用し対抗要件具備の立証が用意となるメリットが備わっていることになる。
そもそもは、「優先ルール」を課すことで、「先行する占有改定に拠る譲渡人」に、後続者は劣後する危惧を払拭可能であると見積もられていた。しかし譲受人は、この「優先ルール」下に非ず(現行対抗要件理論下)とも、譲渡人への照会を筆頭としたデューディリジェンス(Due Diligence. 行為結果責任をその行為者が法的に負うべきか否かを決定する際に、その行為者がその行為に先んじて払って然るべき正当な注意義務及び努力のことを指す。即ち、対象企業や不動産・金融商品等の資産の調査活動のことである)を行う為、そもそも先行する占有改定に拠る、先行する譲渡担保が存在するか否かと言うこと自体はほぼ明白となる為、譲受人の抱く可能性のある懸念はそこまで元から大きいものではない。即ち、「払拭されると推測される懸念」のメリットよりも、悪用されるリスクの方が大きい為に見送られた、と言うことになる。
先述した占有改定に拠り、即時取得の問題(※⑮)が生じている。占有改定が即時取得の要件を満たすかと言う点に関しては、判例に於いては否定されている(※⑯)。即時取得の要件は、譲受人がデューディリジェンスを怠った(登記を調査していない)場合に過失が発生するか否か、即ち「譲受人にデューディリジェンス(登記の有無を調査することの義務(動産を委譲される際に、譲渡人に登記事項証明書の提示を要求する必要がある))が認められるか」、と言うことになる。元々、動産自体、目的物の価格は千差万別であり、取引態様も一回限りから継続しているものまで、当事者の専門性も各人に依り違い、譲受人に、どの様な場合にデューディリジェンスが生じるかを規定することは極めて困難である。それ故に、「どの様な場合に即時取得が成立するか」と言うことに関しては、特段の規定を設けておらず、ケースバイケース(ただし、先述の通り、「占有改定」は「即時取得」の要件を満たすことはない)と言う状態である。例えば、倉庫の在庫等の集合動産を譲渡する場合、通常の営業範囲における商品等の処分権は譲受人に委譲される。即ち、即時取得の成否以前に、譲受人は所有権を承継取得することになる。このケースを、譲渡人がデフォルトした場合で考えてみよう。譲受人は基本的に、デフォルトの事実を知らずして処分権を喪失する場合が大半である。それ故に、譲受人のデューディリジェンスに過失を求めることは難しく、無過失であれば、即時取得が成立すると考えられる。これが個別動産に変わっても、取引の迅速性や、譲受人が譲渡人に対し登記事項証明書の提示を強制する立場にはないことを鑑みると、先程のデフォルトの仮定と同様に、デューディリジェンスは認められず、即時取得が認められると考えられる。これが金融機関等の、デューディリジェンスに重きを置く機関である場合に、集合動産の登記調査を怠ること、また。活発に譲渡担保目的物として、相当に高価な動産を利用しており、動産譲渡登記が度々為される様な取引慣行が成立している様な場合、注意義務を尽くしたとは言えないとして過失を認定し、即時取得が認められないケースも有り得ると考えられる。結論としては、「即時取得」は、デューディリジェンスを実際に行えたか否か、行えたと考えられる状況下で実際に行ったか否か、で判断されることになる。】
即時取得の問題として、例えば、形式番号でAからBへの譲渡登記が為されていて、AからCに現実の引渡しが為された時は、譲渡登記が優先される。しかし、場所で登記されている場合、話が変わってくる。集合物論に於ける処分授権範囲内、範囲外のものと共に、場所的特定を外れた場合、集合動産譲渡担保の集合物論の枠を外れる(集合物をはみ出している為、既存実体法の解釈に依り担保の枠を外れる)可能性が生じる。これは集合物論の問題か公示の問題か、となれば、前者となろう。
一旦Aを債務者、Bを債権者と仮定しよう。AからBへの動産譲渡登記が為されている場合に、Aの手元に動産が存在するが、当該動産について、重ねて処分が為され、現実の引渡しが先の処分されたものについて為されたとする。一見すると、当該動産が搬出された時に、「搬出された」だけで、「前の動産譲渡登記は無意味となる」と考えられる。
先の仮定に於いて、ファクターとして「通常営業範囲」を導入しよう。通常営業範囲内ならば、処分が適法であり、二重譲渡は関係しない。しかし、通常営業範囲外の場合、担保対象から外れ、一見すると損害賠償請求権の問題に収斂する様に考えられる。しかし、担保対象から外れたとは言え、最初の譲渡担保は消滅するわけではない。譲渡担保の効力が担保対象から外れても有効状態にある場合、これは二重譲渡状態にあると換言出来る。即ち、「通常営業範囲外」のファクターが付与された譲渡担保は、二重譲渡状態に在ると言える。ここで、一旦仮定とする集合動産譲渡担保が固定状況に在るか否かを確定しておこう。固定化した場合、通常の所有権者として主張することが出来る様になる為、基本的な議論としては、「通常営業過程の範囲外」であろうとも、未だ固定化していない状況を考えることになる。
ここで、譲渡担保の種類を集合動産譲渡担保と個別動産譲渡担保に分けよう。集合動産について対抗力が備わったと仮定する場合、その備わる過程で、コンポーネントである「個別動産」に関しても対抗力が備わると言うプロセスを考えよう。この場合、個別動産自体に、過程下で対抗力が備わる前に既に対抗力が備わっていた状態で、「一旦遡って」対抗力が消えた上で、集合動産の対抗力が備わる過程で再び備わる、つまり対抗力具備の書換えが発生すると考えることが出来る。
話はやや逸れるが、譲渡担保の「目的物」を、「集合物そのもの」として一括りに設定し、個別動産自体は目的物ではない、と言う仮定で考えるならば、先の「担保枠の問題か公示の問題か」と言う問いは「後者」と言うことが出来る。この様に、設定する仮定により、問題がどちらにあるかは変わってくるが故に、法的に明確な設定が難しい点は否めないのである。しかし、あくまでも「占有改定が対抗要件」とされる限りは燻り続ける問題であることに変わりはない。
但し、現実の解釈として、「集合物が目的物であり、コンポーネントである個別動産も目的物となっている状態である」としても、「個々の動産についても対抗力は備わっている」とするものもある。この解釈に基づく場合、譲渡担保が搬出されても対抗力は残ると考えられる。この場合、コンポーネントである個別動産は譲受人のものとなり、二重譲渡の可能性は「現実的には」排除される。即ち、二重譲渡の問題ではなく、即時取得の問題となる。しかし、「現実的には」と強調したことは、「論理上」発生しうることのメタファーが隠れている。登記の効力から対抗力が保持される前提に立てば、先行する(占有改定に拠る)譲受人が対抗要件を具備することになり、論理上は確かに二重譲渡が発生しうる。即ち、これを先の論に当てはめるならば、占有改定に拠る先行譲受人にも、後続する登記を利用した譲受人にも、どちらにも対抗要件を具備している状況が発生しうると言うことになる。現実的には、即時取得の問題に帰結することになると考えられるので、占有改定がある限り占有改定の問題が残り続ける以上は、即時取得の側面で話を進める方が建設的ではある。仮に論理を突き詰め、双方に対抗要件が具備された「二重譲渡」の問題(公示の問題)を側面として議論を進めるならば、これはそもそも「公示制度が要求するものが「状態の公示」か「物権変動の公示」のどちらであるか」と言うことになる。この問いは、生得性(ア・プリオリ)がどちらにあるかと言うものと考えられる以上は、後者にあると言える。それ故に、対抗力は譲受人の双方共に喪失しないことになる。
一旦基本に立ち返り、民法178条(※⑰)、動産・債権譲渡登記制度第3条1項(※⑱)に基づいて話を進めよう。やや屁理屈気味に聞こえるが、「引渡しがあったものとみなす」だけで、「占有しているものとみなす」とは書かれていない。個別動産に於いてと言う話であれば、引渡しがある時点で発生し、占有を擬製している効果が何らかの要因により反転する場合は違和感を覚えるであろう。先の通り、集合動産とコンポーネントである個別動産を目的物として同一視するか否かで解釈が変わる。後者の場合、集合動産に関しては、集合動産譲渡担保として、登記を行っている以上は、対抗要件が認められる。しかし、コンポーネントとして存在している個別動産の場合、確かに目的物として、連鎖的に存在してはいるものの、「登記」をしていないが為に対抗要件が存在しないと言う解釈が可能になる。集合物のコンポーネントとして一括して対抗要件を具備せずに、個別動産として対抗要件を競合した場合に、占有改定に拠る先行譲受人に敗北する可能性が考えられる。個人的な解釈としては、現実的に発生しうる、「集合動産も、コンポーネントである個別動産にも対抗力は備わっており、問題の争点は即時取得にある」と言うものを採用している。
〔注〕
※①:これらについての詳細は、植垣勝裕、高山崇彦、中原裕彦、坂田大吾「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律の概要(下)」(『金融法務事情』No. 1731所収、2005.02)を参照されたい。
※②:通商産業省産業政策局取引信用室編『特定債権法の解説 -特定債権等に係る事業の規制に関する法律-』(通商産業調査会、1995.08)。ちなみに、特定債権法は、新・信託業法附則第2条に拠り、廃止された。
信託業法 (平成十六年十二月三日法律第百五十四号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H16/H16HO154.html
附則抄
(特定債権等に係る事業の規制に関する法律の廃止)
第二条
特定債権等に係る事業の規制に関する法律(平成四年法律第七十七号)は、廃止する。
※③:債権譲渡登記の制度・電算システムに、二重譲渡のチェック機能が備わっていない上、特定債権法上の公告と、債権譲渡登記間に、システム上の互換性を有していない為である。
※④:債権譲渡特例法上の債務者対抗要件具備手段である登記事項証明書を交付した通知として、オリジネーターとの取り立て委託契約を解除したSPCが、各原債務者へ通知を行うことになる。しかし、破産や更生手続開始の申し立て後に行われた対抗要件具備行為そのものが、管財人の旧・破産法第74条や新・会社更生法第88条に記載されている「対抗要件否認」の対象となる可能性の有無が、法的な問題として残る。また、それを抜きにしても、物理的な制約として、原債務者が多数存在する場合、法務局で登記事項証明書の交付を受け、内容証明郵便で送達すること自体に費用が多く掛かる為、実務上大きな障害となり得る。
※⑤:30年前から40年前の実務では、「指名金銭債権譲渡」の大半は、経営危機に瀕した債務者の最後の抵抗(債権回収手段)であった。多数の債権者から弁済を迫られた債務者は、売掛債権を二重、三重に譲渡し、更に別の債権者が多重譲渡された売掛債権を差し押さえる等、多くの紛争が発生していた。現在であれば、指名金銭債権の流動化や集合債権の譲渡担保等を目的とした、正常業務内の債権譲渡が増えているものの、未だに上記のような偏見(「債権譲渡を行う企業は、信用不安の可能性がある」)は払拭されたわけではない。債権譲渡特例法9条下では、法人登記簿の謄本の交付を受けた者には、須く債権譲渡に関する情報が開示されることになっていた。後述する動産・債権譲渡特例法第12条1項や第13条に於いて、新たに動産譲渡登記事項概要ファイルを譲渡人の本店等所在地法務局等に備え、登記事項の概要を記録、開示する制度が創設されることとなった。
※⑥:動産譲渡登記そのものの存続期間は、原則10年以内とされる。但し、例外として第7条3項の様に、超過した存続期間を設定可能である。例外が発生しうる事案としては、例えば設備投資案件に於いて、融資対象の個別動産を担保に設定するケースである。通常、融資期間は融資対象物の法定償却期間をベースにして設定するが、実際には融資期間が償却期間より長いケースが大半である(リース会社であれば、これは再リース扱いとなる)。銀行の融資期間は、10年を超過するケースが少ないながらも存在する。
この観点に関しては植垣勝裕、小林明彦、中村廉平、花井正志、前島顕吾、山野目章夫「新しい動産・債権譲渡登記制度と金融実務(下)」(『金融法務事情』No.1738所収、2005.05)、pp.87-94を参照されたい。
(動産譲渡登記) 第七条
指定法務局等に、磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。次条第一項及び第十二条第一項において同じ。)をもって調製する動産譲渡登記ファイルを備える。
2.省略
3.前項第六号の存続期間は、十年を超えることができない。ただし、十年を超えて存続期間を定めるべき特別の事由がある場合は、この限りでない。
※⑦:判例・通説に拠れば、「将来発生するべき債権は譲渡可能」と解釈されている。しかし、その為の「有効要件」で、論が分かれている。例えば、社会保険料診療報酬の債権譲渡(注2)は、債権譲渡が有効と判示され、基準・有効要件に関し、譲渡対象債権が、「発生原因」、「譲渡額」、「始期と終期」等に依り、特定される必要があるとした。しかし、その後の最高裁判所判決(注3)では、特定必要性に関しては、「他の債権と識別可能であればよい」としている。対照的に、更にその後(注4)の判決では、1999年判決で判示された基準・有効要件である、将来債権の発生期間に於ける終期や、種類の記載が不適切であった債権譲渡登記の対抗力に対し、否定する判示を行っている。実際には、終期の記載は実務上非常に定めにくい(注5)。最一小決平成14年10月1日では、以下の様に対抗力を認める限度を示している。
「Yの主張の実質的な論拠は、将来債権については終期を年月日で特定できないものがあり、かつ上記項番25の本件告示による記録方法の制限のもとでは終期を記録できない場合があるということと思われる。しかし、いずれにしても譲渡される債権は特定されているはずであるから、実際的には当事者間で一応想定される終期を記載し、これを記録することがそれほど困難とも思われず、譲渡時債権額の記録と相まって特段の問題も生じない場合も多いのではないかと推測される。そして、このような便宜的な方法を用いるのが困難な場合、あるいは適切ではない場合には、債権譲渡登記規則(平成十年法務省令第三十九号)十三条一項二号、九条二項、本件告示3、(5)の項番32に基づき、債権を特定するために必要な事項を有益事項として記録すべきである(これを本件について言えば、「債務残額に充つるまでの金額部分」といったことでは複数の第三債務者にとって譲渡部分が判明しないから、「譲渡債権の終期」の代わりに有益事項として「本件債権譲渡登記についての通知をするまでの間に発生した将来債権のうち同通知の時点で残存する債権」といった記録をすることが考えられ、このような記録があれば、その限度でその債権譲渡については対抗力を認めるべきである)。」
しかし、この「有益事項としての記録」は、「どれだけの対抗力を有している」かは、債権譲渡特例法上明確にされていない(注6)。仮に「対抗力を有している」場合であれば、それは債権譲渡特例法上に将来債権の記載の仕方を明確にする様な規定を設けるべきであった(注7)。実務上の要請を示すならば、「登記内容の総合判断に依り、対象が将来債権か否かを判断すること」である。しかし、ケースバイケースを「登記登録制度」に求めると、画一的且つ定型的な処理に依る公示力、対抗力を客観的に具備することが不可能となる為、難しいものがある。実際に取り得る対策としては、出来る限り、譲渡契約上に明示をしておらずとも、登記上の終期を想定し、記載してから登記申請しておくことであると言える。
終期の記載を要するスタンス自体は、動産・債権譲渡特例法でも変わっておらず、債権譲渡特例法以上に、債務者不特定の場合の将来債権譲渡時に、譲渡に係る債権を特定するファクターとして重要視されている。
しかし、判例は積み重なっているものの、実際には平成9年(オ)第219号の判示事項が有効と判断されており、後述する動産・債権譲渡特例法では、債権譲渡特例法上で例示されていた「譲渡に係る債権の債務者」の文面を削除し、登記事項の全てを法務省令に委任することとなった(動産・債権譲渡特例法第8条2項4号)。法務省令の場合、譲渡に係る債権が将来債権の場合、同債権の債務者を必要的登記事項に定めていない。
注2:『最高裁判所民事判例集』53巻1号、P151
動産所有権確認同引渡等請求事件(平成9年(オ)第219号 同11年1月29日最高裁第3小法廷判決 棄却)
○判示事項
将来債権譲渡の有効性
○判決要旨
(前略)債権譲渡契約にあっては、譲渡の目的とされる債権がその発生原因や譲渡に係る額等をもって特定される必要があることはいうまでもなく、将来の一定期間内に発生し、又は弁済期が到来すべき幾つかの債権を譲渡の目的とする場合には、適宜の方法により右期間の始期と終期を明確にするなどして譲渡の目的とされる債権が特定されるべきである。(中略)将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約にあっては、契約当事者は、譲渡の目的とされる債権の発生の基礎を成す事情をしんしゃくし、右事情の下における債権発生の可能性の程度を考慮した上、右債権が見込みどおり発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益については譲渡人の契約上の責任の追及により清算することとして、契約を締結するものと見るべきであるから、右契約の締結時において右債権発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然に左右するものではないと解するのが相当である。もっとも、契約締結時における譲渡人の資産状況、右当時における譲渡人の営業等の推移に関する見込み、契約内容、契約が締結された経緯等を総合的に考慮し、将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約について、右期間の長さ等の契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであると見られるなどの特段の事情の認められる場合には、右契約は公序良俗に反するなどとして、その効力の全部又は一部が否定されることがあるものというべきである。所論引用に係る最高裁昭和五一年(オ)第四三五号同五三年一二月一五日第二小法廷判決・裁判集民事一二五号八三九頁は、契約締結後一年の間に支払担当機関から医師に対して支払われるべき診療報酬債権を目的とする債権譲渡契約の有効性が問題とされた事案において、当該事案の事実関係の下においてはこれを肯定すべきものと判断したにとどまり、将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の有効性に関する一般的な基準を明らかにしたものとは解し難い。以上を本件について見るに、本件契約による債権譲渡については、その期間及び譲渡に係る各債権の額は明確に特定されていて、上告人以外の(中略)債権者に対する対抗要件の具備においても欠けるところはない。(中略)本件契約を締結したからといって、直ちに、本件債権部分に係る本件契約の効力が否定されるべき特段の事情が存在するということはできず、他に、右特段の事情の存在等に関し、主張立証は行われていない。(中略)被上告人の本件請求は、理由がないことが明らかであるから、右請求を認容した第一審判決を取消し、これを棄却すべきである。
注3:『最高裁判所民事判例集』54巻4号、P1562
譲受債権請求事件(平成8(オ)第1049号 同12年4月21日最高裁第2小法廷判決 棄却)
○判示事項
既発生債権及び将来債権を一括して目的とするいわゆる集合債権の譲渡予約において譲渡の目的となるべき債権の特定があるとされる場合
○判決要旨
甲が乙との間の特定の商品の売買取引に基づき乙に対して現に有し又は将来有することのある売掛代金債権を目的として丙との間で譲渡の予約をした場合、譲渡の目的となるべき債権は、甲の有する他の債権から識別ができる程度に特定されているということができる。
「まず、債権譲渡の予約にあっては、予約完結時において譲渡の目的となるべき債権を譲渡人が有する他の債権から識別することができる程度に特定されていれば足りる。そして、この理は、将来発生すべき債権が譲渡予約の目的とされている場合でも変わるものではない。
【要旨】本件予約において譲渡の目的となるべき債権は、債権者及び債務者が特定され、発生原因が特定の商品についての売買取引とされていることによって、他の債権から識別ができる程度に特定されているということができる。」
注4:最一小判平成14年10月1日、『最高裁判所民事判例集』56巻8号、P1742(最一小判平成14年10月10日)
最一小決平成14年10月1日要旨
「民事事件について最高裁判所に上告することが許されるのは、民訴法三一二条一項又は二項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、理由の不備・食い違いをいうが、その実質は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。」
供託金還付請求権確認及び譲受債権請求事件(平成14(受)第240号 同14年10月10日最高裁第1小法廷判決 棄却)
○判示事項
譲渡債権の発生年月日として始期のみが記録されている債権譲渡登記をもって始期当日以外の日に発生した債権の譲渡を第三者に対抗することの可否
○判決要旨
債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律2条1項に規定する債権譲渡登記に譲渡債権の発生年月日の始期(平成10年法務省告示第295号3(5)の項番24)は記録されているがその終期(同項番25)が記録されていない場合には、当該債権譲渡登記に係る債権譲渡が数日にわたって発生した債権を目的とするものであったとしても,他に当該債権譲渡登記中に始期当日以外の日に発生した債権も譲渡の目的である旨の記録がない限り、債権譲受人は、当該債権譲渡登記をもって、始期当日以外の日に発生した債権の譲受けを債務者以外の第三者に対抗することができない。
「【要旨】債権譲渡登記に譲渡に係る債権の発生年月日の始期は記録されているがその終期が記録されていない場合には、その債権譲渡登記に係る債権譲渡が数日にわたって発生した債権を目的とするものであったとしても、他にその債権譲渡登記中に始期当日以外の日に発生した債権も譲渡の目的である旨の記録がない限り、債権の譲受人は、その債権譲渡登記をもって,始期当日以外の日に発生した債権の譲受けを債務者以外の第三者に対抗することができないものと解するのが相当である。けだし、上記のような債権譲渡登記によっては、第三者は始期当日以外の日に発生した債権が譲渡されたことを認識することができず、その公示があるものとみることはできないからである。前記告示3(5)の項番24(債権発生年月日の始期)の条件欄には「必須」,項番25(同終期)の同欄には「任意」と記載されているところ、これらに付記された「(注4)」及び「(注5)」の記載を併せ考えれば、債権の発生日が一つの日であるときは項番24の始期の記録のみで足りるが、債権の発生日が数日に及ぶときは始期の外に項番25の終期を記録するなどしてその旨を明らかにすることを要するものと解すべきであり、後者の場合にも始期の記録のみで足りるという趣旨に解するのは相当でない。これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件債権譲渡登記には、譲渡に係る債権の発生年月日として、その始期は記録されているが終期は記録されていないというのであり、他に本件債権譲渡登記中に本件報酬債権のうち始期当日以外の日に発生したものが譲渡の目的であることをうかがわせる記録はないから、上告人は、本件債権譲渡登記をもって、本件報酬債権のうち始期当日以外の日に発生したものの譲受けを被上告人に対抗することができないものというべきである。そして、前記事実関係によれば,本件報酬債権のうち始期当日に発生したものと本件供託に係るものとが同一であるとの証拠はないというのであるから、上告人は、本件報酬債権のうち本件供託に係るものの譲受けをもって被上告人に対抗することができないことになる。」
注5:森井は、終期までは「定めようがない」というのが本音であろう、とし、最一小判平成14年10月10日に関し、実務上は問題含みの告示とした。
森井英雄『判例タイムズ』1089号、P56
注6:堀龍兒『金融判例研究』12号(本誌1652号)、P37。
注7:升田純『Credit & Law』144号。
Reference.
池田眞朗「債権譲渡の実務と法理-この10年の進展」(日本資産流動化研究所『SFI会報』(第38号、2003.03))
池田眞朗「債権譲渡特例法登記の始期・終期や種類の記載と対抗力-最一小判平14.10.10と最一小決14.10.1の検討」(『金融法務事情』No.1676、2003.06)
注:最一小判は、最高裁判所第一小法廷の略称。最一小決は、最高裁第一小法廷決定の略称。
前田敏博他「証券化・セキュリタイゼーション」(西村総合法律事務所編『ファイナンス法大全(下)』(商事法務、2003.10)、第7章)
※⑧:商法第573条
貨物引換証を作りたるときは運送品に関する処分は貨物引換証を以てするに非されは之を為すことを得す
※⑨:我妻栄著、幾代通、川井健補訂『新訂物権法』(勁草書房、2006.1)、p184.
※⑩:江頭憲治郎『商取引法 第7版』(弘文堂、2013.5)、p245.
※⑪:動産・債権譲渡特例法
(動産の譲渡の対抗要件の特例等)
第三条
法人が動産(当該動産につき貨物引換証、預証券及び質入証券、倉荷証券又は船荷証券が作成されているものを除く。以下同じ。)を譲渡した場合において、当該動産の譲渡につき動産譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該動産について、民法第百七十八条の引渡しがあったものとみなす。
※⑫:名前表示がない証券のことで、所持している者が権利を行使できるもの。商品券、乗車券、無記名公債などが無記名債権にあたる。
※⑬:民法86条3項
無記名債権は、動産とみなす。
※⑭:民法183条(占有改定)
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
民法183条に規定される占有の移転方式であり、「ある目的物の占有者が、それを手元に置いたまま占有を他者に移す」場合を指す。自己占有(直接占有)はそのままに、 代理占有(間接占有)が意思表示のみに依り移転を行う。目的物の占有者は、これに拠り占有代理人と称される。
※⑮:民法192条(即時取得)
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
※⑯:最一小判昭和35年2月11日、『最高裁判所民事判例集』14巻2号、pp.168-184
動産所有権確認同引渡等請求事件(昭和三二年(オ)第一〇九二号 同三五年二月一一日第一小法廷判決 棄却)
○判示事項
占有改定による占有の取得と民法第一九二条の適用の有無
○判決要旨
占有取得の方法が外観上の占有状態に変更を来さない占有改定にとどまるときは、民法第一九二条の適用はない。
【要旨】(前略)無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法一九二条によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外観上変更を来たさないいわゆる占有改定の方法による取得をもつては足らないものといわなければならない(大正五年五月一六日大審院判決、民録二二輯(しゅう)九六一項、昭和三二年一二月二七日第二小法廷判決、集一一巻一四号二四八五項参照)。(中略)当時右物件については全くの無権利者であつたこと、(中略)物件の引渡を受けはしたが、その引渡はいわゆる占有改定の方法によつたものであることを証拠によつて確定し、しかも一方において右物件は、判示のような経緯から、被上告人(中略)より被上告人株式会社(中略)に売却され、代金の完済とともにその所有権を譲渡し、かつその引渡が了されたというのであるから、原判決がこれらの事実関係から上告人の所論即時取得による所有権の取得を否定し、これを前提とする本訴請求を排斥したのは正当というべきである。
※⑰:民法178条
(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、 第三者に対抗することができない。
※⑱:動産・債権譲渡登記制度第3条
(動産の譲渡の対抗要件の特例等)
第三条
法人が動産(当該動産につき貨物引換証、預証券及び質入証券、倉荷証券又は船荷証券が作成されているものを除く。以下同じ。)を譲渡した場合において、当該動産の譲渡につき動産譲渡登記ファイルに 譲渡の登記がされたときは、当該動産について、民法第百七十八条の引渡しがあったものとみなす。
<全体のReference.>
植垣勝裕、高山崇彦、中原裕彦、坂田大吾「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律の概要(上・中・下)」(『金融法務事情』No.1729、1730、1731所収、2005.02)
植垣勝裕、小林明彦、中村廉平、花井正志、前島顕吾、山野目章夫「新しい動産・債権譲渡登記制度と金融実務(上・下)」(『金融法務事情』No.1737、1738所収、2005.04-05)