
「ぶっ壊したでしょ? ATM」
という男の声。
なんてこった。
忘れてた。
にしても、あのATMにカメラなんてなかったし、誰にも見られなかったはずなのに……
途端にうなじから冷や汗が。
きっとこれからこの男に脅されて、
更に多額の金銭やら何やらを要求されるんだわ。
もうお終いだ。
骨の髄までしゃぶられて最後は外国に売られる。
言葉の通じない国で、首だか腕だかに番号を彫られて売買されたり、移植のために解剖されたりするんだわ。
私は己の哀れな未来に絶望して泣きたい気分になった。
「もしもし? もしもーし! 安心しろよ、バラす気はないんだよ」
男は続けた。
「それより、その金で俺とでっかいことしないか?」
「……は?」
「だから、お姉さんのとった金元手にしてぇ、俺と楽しい商売しようって!」
思いも寄らぬ展開になってきた。
驚いた私が口にした言葉は、
「……それ、金になるんすか?」
我ながら汚い。
男は同じ調子で話しつづけた。
「当たり前だ。何億って金が手に入るぜ。約束する」
突然なんなんだ。
冷や汗がびっしょりだ。
数十秒の沈黙の後、私は、何か言わなくてはと思い、口を開けた。
「300万、私300万だけあればいいんです」
「ハハッあんなことする割に謙虚だな。まぁいい」
確かに。
でも、まぁいい。
私は昼に茶店で男と落ち合うことにした。
警察に売られるか外国に売られるかだったら警察の方がマシだけど、
それじゃあ、つまらない。
午後二時。
明るい店内に現れた男は、強気な電話から受けた印象とは違い、ボロ服で、顔は土色、頬は痩けてて、目だけがギラギラと異様な光を放っていた。
年は三十路半ばだろうか、手入れをしているとは思えない白髪混じりの頭をかきながら、こっちに向かって真っ直ぐ歩いてきた。
男と私が向かい合って五秒、十秒、
チッチッチッチッと時計の音が耳に入る。
私はまた何か言わなくてはと、口を開けた。
「……ずいぶんギラギラしてますね」
男は色の悪い顔をくしゃっとさせて、
「ギラギラしてるかい。ハハハ」
と笑った。
声は変わらず強気だった。
私は、つまらなくはなさそうだ、と思った。
あっ ごめん始業ベルが 授業に戻りますノシ