
部屋を貸してもらって、もう一ヶ月くらいたったかのな。
けっこう慣れてきて、大家さんと挨拶なんかも上手に出来るようになって、
エレベーターで会う人もなんとなく覚えてきた。
部屋までは、別に階段を使ってもいいんだけど、
エレベーターがとっても綺麗で、上り下りも早いから、
なんだか上り下りが楽しくって、階段よりもエレベーターを使う事が多い。
その日は雨で、エレベーターの中もじめじめとした嫌な感じ。
自分の部屋の階のボタンを押して、ふと後ろを見ると、
見慣れない貼り紙が貼ってあった。
貼り紙にはこう書いてある。
「変なデマを信じないように!!」
変なデマ? 何のこと?
きっとこのマンションに変な人でもいるんだろう、
気持ち悪い、嫌だなぁ、
そんな風に軽く考えながらエレベーターを降りた。
エレベーターを降りると、ちょうど隣に住んでる酒井さんがドアを開けたところだった。
同じ年の酒井さんは、東京生まれ東京育ちの、あか抜けたOLさんで、
いつも何だか妙にはしゃいだ様子で私に話しかける。
その日ももちろん。
「聞いた?聞いた? あの噂! 今度は4階の村上さんも消えちゃったらしいわよ!」
? ? ?
「えっ? 何ですかソレ? えっえ? 」
「やだぁ、知らないの?? あの噂……」
「なんですか? あっ、ああ、あのエレベーターの貼り紙のことですか?」
「そうそう! やだぁー、まだ知らない人がいたのね! 知らないで生活してたなんて、こわーい!」
「ちょっ、なんですか! 教えて下さいよ!」
「急いでるんだけど……しょうがないなぁ、アノネ……」
彼女はちっとも急いでなんかいない様子で、巻き髪をくるくるしながら話し始めた。
つづく