スマイル日和+

子育ては「自分育て」。smile流「自分育て」の日々をつづります。

踏んだり蹴ったり・4

2022-04-05 | smile family
〈3の続き〉

布団に入って目を閉じても
眠れていたのかそうでないのか
自分ではわからない感覚が続く。

時々時計を見ては
「まだこんな時間だ。
 もう少し眠らなくちゃ。」を
何度か繰り返して

そろそろ起きてもいいかと
体を持ち上げたのは8時半だった。

ちょうど夫は宿直から戻ったが
鍵穴の事よりお風呂が気掛かりの様子。

いつもの調子で暫し
私と噛み合わない会話をする。

そのうち息子は自分で決めた9時に
階段を降りてやって来た。

「入学おめでとう!
 ハグしてあげる!」

夫はふざけた様子でそう言って
突然息子に強引なハグ。

「どうだ、嬉しいだろう」
と満面の笑みで尋ねる。

息子は嫌がりはしないものの
夫より10センチほど高いところから

面倒くさそうな顔で
ハグされっぱなしだ。

それを見ている私の脳裏に
昔の夫の口癖が思いだされる。

子どもたちへのプレゼントは
「モノじゃなくて
 たっぷりの愛情をあげる」んだと。

そういう理由で夫は
子どもたちのお祝いには
プレゼント代わりの
ハグやキスをしていた。

そう、
これが彼流の愛情表現。

欧米風で悪くは無いんだけど、
子どもの心理としては
父からのプレゼントやお年玉が
一切ないのはさびしいかなぁと…


「ワッハッハッハッ!」
ハグの後にこだまする大笑い。

その後そのまま
趣味のスポーツ仲間と
何処かへ出かけてしまった。

その楽天的な性格は
私にとってかなり羨ましい。

が、時にそれを通り越して
疎ましく思える。

私のネガティブさが
そうさせるんだろうけど、

逆の立場なら
もう少し気の利いた言葉で
早起きしてきた息子に
声掛けすると思うよ。

ついでに私にもね…

だって、
今日は鍵穴を治してもらうのに…

温水器の修理の件も
見てもらうことにしてるのに…

自分のお楽しみのために
さっさと準備して
私に何の言葉も無しに
出かけて行っちゃうんだ。


自分に丸投げされたことに
腹を立ててるのもあるけど、

この災難で
トーンダウンしている息子に
「こんなことは
 人生の中でいくらだってある」
と他人事のように言い放ち

自分の世界へと
消えて行ってしまうのが
残念なんだ。

もっときちんと会話したい
それだけなんだけどなぁ。

家族って
そういうものじゃなくて?

前のボロ屋で擦った揉んだした時、
家族みんなで暮らせるいい場所に
家族みんなで引っ越そうって
ココを見つけたハズなんだけど。

いつも大事な話は
はぐらかされてしまうんだ。

その繰り返しで、
「もう、言わんとこう」が
私の心の口癖になっている。

夫が去った後、
息子は息子で冴えない表情のまま
キッチンに立って「お腹が痛い」
とだけ言った。

どうしてほしいかを
聞きたいのだけどね。

言葉足らずは夫似か…?

心の中で愚痴ってしまう
私の悪い傾向が現れる。

「じゃあ、撫でたろう」

私はそう言って
立ったままの息子のお腹を
軽く撫でた。

そして、温かいお茶を
今飲めるかどうかを尋ねた。

「欲しい」
とだけ彼は言う。

調子が悪い時は
ぶっきらぼうでも仕方ないか。

手渡した時に
「ありがとう」
を返すだけまだマシだ。

お茶を飲んだあと、
「少し休む」
と言って部屋に行く。

「声掛けるの、
 10時頃でいい?」
追いかけるように尋ねると、

「ううん、9時半かなぁ。」
と返して来た。

昼過ぎからの入学式に行く、
その気はあるんだと感じる。

実際、声掛けを待たずに
9時半少し前に降りて来て
朝食を撮り始めた。

顔はまだしんどそうで
大きなため息をいくつかしている。

「今日は一緒に行けないから。
 鍵とお風呂の事で来てもらうし
 もう1人で行けるよね?」

そう言って私は
息子の背中を撫でた。

息子は少し考えてから
「一応、準備だけしてくる」
と部屋に上がって行った。


電車の時間まで
あと1時間という時、

部屋を覗きに行くと
また布団の中にいる。

「行くか行かないかは、
 キミ次第だけど、
 今日は行った方が
 スッキリするんじゃない?」

「お母さんは
 代わりにはなれないけど
 してして欲しいことがあるなら
 言えばできる限りするよ。
 出来ないことは無理だけど。」

いつもの言葉を息子に伝える。

さほど間を空けずに
「背中マッサージして」
と返ってきた。

「いいよ!
 なんぼでも!」

昨日同様、
私はベッドによじ登り
息子の広い背中を指圧していく。

私より25センチは高い身長の
広く大きな背中。


血行の悪い彼には
マッサージが有効な手段なのか

程なくトイレへ行きたがり
溜まっていたモノを
本当にスッキリさせてきた。

そこからは早かった。

「さっきまでの息子は何処へ?」
と言うくらい調子が上がり
サクサクと出掛ける準備を進める。

「調子が悪くなったら
 あの薬飲んでいいんだよ。」

以前ストレスでしんどい時に
心療内科でもらっていた薬を

息子は滅多に服用せずに
御守り代わりに持っていたので

私は必要な時には
飲むように促すようにしていた。

息子は「一応、持っとくわ。」
と言ってポケットに一錠突っ込み
全ての準備が整うと

「んじゃ、行ってくるわ。」

と何事も無かったように
玄関を出て行った。



…行ったよ。


本当に行けたんだ。


…エライじゃん!



行けるって
そう信じてはいた。

それと同時に、

行けなくても
何とかなるっていう

そういう思いもあった。


行けない時には
その後どんな風に応援するかって

色んなパターンを
イメージしていたけれど、

そんな必要も
なくなったんだ。

そう思ったら
息子が出て行った家の中で

「あれ?
 私、何をするんだっけ?」

一瞬、ほんの一瞬、
戸惑ってしまった。



昨夜撤去された鍵穴は、
息子が出て行く少し前に

管理会社の担当者が来て
新しいモノがつけられ、

息子も早速新しい鍵を持って
大学へ向かった。

夕方には温水器の修理の件で
メーカーの人が来てくれる。

怒涛のように
我が家に押し寄せた災難も

あっという間に
落ち着きを見せていく。


私はローラーコースターで
キャーキャー言う子どもみたいに

突風ようなアクシデントに
翻弄されただけなのだろうか…


ホッと一息ついて、
椅子に座り込んだ。

…昨夜の出来事は
一体なんだったのだろう。

一度に色んなことが起きると
全体を把握しきれなくなるなぁ。

夫の言葉じゃないけど
これからだって色々あるんだ。

それならそれで
その時を精一杯乗り越えよう。

あんなアクシデントを
楽しむなんてできないけど、

「お先真っ暗」ではないと
自分に言い聞かせることはできる。


息子が入学式へ向かった後、
私はもうじき誕生日を迎える娘に
LINE電話をかけた。

この一部始終を話して
まだ私の中にあった
整理しきれなかった感情に
蹴りをつけたいと思った。

この踏んだり蹴ったりも
私たち家族に与えられた

何かしらの意味のある
イベントだったのかもしれない。

4月1日は
エイプリル・フール。

だけど
この話は嘘じゃなく
この嘘みたいな現実になった。

私にとっても
息子にとっても

色んな意味で
記憶に残る一日になったのだ


〈終わり〉









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