
《注目の書籍》
湾生の遺言
台湾よ、永遠なれ
宮本 孝 著
展転社/定価:1500円+税
4月3日発売!
日本統治時代の台湾で生まれた日本人を「湾生」という。
彼らは、国交断絶という政治の壁を乗り越えながら、生まれ故郷の台湾に思いを馳せ、日台の親善交流を続けてきた。
その湾生の声に耳を傾ける。
【目次】
第一章 林森北路恋しオペコンブルース
第二章 台湾の魔力に惹かれて
第三章 台湾全島を取材行脚
第四章 歳月を越えて、「日本」が生き続ける
第五章 日台の架け橋〝なる台〟の 発刊
第六章 日本語を渇望した苦難の時代を超えて
第七章 感動の里帰り、再会が最高潮を迎えた九〇年代
第八章 日本時代の功労者を今も〝恩人〟と語り継ぐ
第九章 日台の若者が友愛の絆を継ぐとき
第十章 自前の〝台湾国〟を目指して
宮本孝さんとは、ひょんなきっかけで知り合った。大学を卒業して勤めた出版社が入社2年目にして倒産。これ幸いとばかり、私はタイのバンコクに旅立った。そこから南ベトナムに行く予定だったが、バンコクに到着して2日目、サイゴン陥落のニュースが飛び込む。仕方がない。ベトナムを諦めて、タイ、マレーシア、シンガポールを数カ月彷徨うことに。帰国後は細々と原稿を書いて飢えをしのぐ毎日である。
一方の宮本さんも「東京タイムス」の廃刊でフリーになったばかり。喰えない物書き同士なので意気投合し、二人で原稿の売り込みと「営業」で幾多の出版社を訪ね歩いたものだ。そんなある日、「東南アジアと台湾に絞った旅行ガイドブックを出すので、取材に行ってくれないか」という話が舞い込む。願ってもない仕事ではないか。が、少なくても1カ月はかかるだろう。一人だと退屈だ。そうだ、宮本さんを誘おう!
▲タイのノンカイを取材中の本ブログ編集人と宮本孝さん(右、1975年)
シンガポールを皮切りに、マレーシア、タイ、香港と回って最終目的地の台湾へ。台湾へは学生時代から何度も訪れていた私は、「第二の故郷」に帰ってきたという感じで、ノンビリできた。1週間ほどの滞在だったが、宮本さんはすっかり台湾に魅了されたようだ。料理が美味い。みんな親切である。それに年配の人たちが日本語を話す。日本時代を懐かしがっているのか、こちらが日本人だと分かると、間違いなく話しかけてくる。日本でも老人と話が合う宮本さんにとって、天国みたいな国だった。
それから2年後、「台湾にもう一度行きたい」という宮本さんの夢が叶うことになる。日本アジア航空の機内誌『アジアエコー』(月刊)向けに、台湾の主な観光地やレストランなどを取材する仕事が転がり込んだのである。3カ月おきに10日間ほどの現地取材をするという「美味しい仕事」だった。宮本さんが舞い上がったのは言うまでもない。こうして宮本さんの台湾通いが始まった。
現地では日本語の達者なベテラン・ガイドと一緒なので、何の心配もない。しかも取材がてらのグルメ三昧である。だが、知らず知らずのうちにストレスが溜まっていたという。
(こんなゆるい取材ばかりでいいのか)
宮本さんの記者魂がふつふつと湧いてきたのだ。『アジアエコー』の取材とは関係なく、ガイドの案内で夜のネオン街にも繰り出した。日本人駐在員に人気のある森林北路の「酒家(キャバレー)」へ。美人ぞろいのホステスが出迎える。チャイナドレスのスリットから太腿がむき出しではないか。続きは同書を読んでもらいたい。
『アジアエコー』の取材がひと段落した一九八七年七月、台湾で戒厳令が解除された。翌年一月には李登輝政権が誕生する。京都帝国大学出身の李氏は、生粋の台湾人だ。国民党の代表だが、これまで続いてきた恐怖政治ではなく、自由と民主主義を前面に打ち出した。
禁止されていた日本語の雑誌を発行することも許可され、宮本さんは在留邦人向けのフリーペーパー『な~るほど・ザ・台湾』の編集長として再び台湾へ。現地取材は『アジアエコー』とほぼ同じペースだったが、機内誌でないので、ディープな取材が出来たという。宮本さんの本領が発揮されることになったのだ。
さて同書は「湾生の遺言」という題でわかるように、日本時代に台湾で生まれ育った「湾生」の何人かに話を聞いている。『アジアエコー』と『な~るほど・ザ・台湾』で築いた人脈が大いに役立ったようだ。言うまでもなく、湾生のほとんどは高齢者である。彼らが体験したストーリーは日本人と台湾人の固い絆を教えてくれだろう。
同書のサブタイトルは「台湾よ、永遠なれ」。10年ほど前に台北郊外の山寺の跡地から土に埋もれた石碑が発見された。その石碑に刻まれていたのが「台湾よ、永遠なれ」である。長年の現地取材で台湾の良さを知り尽くした宮本さんは、「中華民国」ではなく、「台湾国」の誕生を願ってやまない。(本ブログ編集人・山本徳造)
【宮本孝(みやもと たかし)さんの略歴】
ノンフィクション作家。昭和23(1948)年 茨城県牛久市生まれ。早稲田大学政経学部卒業。「東京タイムス」「夕刊ニッポン」記者を経てフリーに。月刊「な~るほど・ザ・台湾」元編集長。ノンフィクション作家。主な著書に、『再見、東洋色鬼』(大陸書房)、『台湾・ミニ日本の奇跡』(講談社)、『ワールドJOY台湾』(山と渓谷社)、『ホリディワールド台湾』(三修社)、共著に『台湾人のまっかなホント』(マケミランランゲージハウス)、『玉蘭荘の金曜日』(展転社)、『なぜ台湾はこんなに懐かしいのか』(展転社)など。