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たかが爪とは言わないで 岩崎邦子の「日々悠々」(65)

2020-01-17 05:45:06 | 【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」

【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」(65)

たかが爪とは言わないで 

 

 5年ほど前のことだ。故郷で行われる同窓会出席のため、電車に乗っていたところ、途中から乗ってきた60代くらいの女性が私の斜め前に座った。

「わぁ、奇麗な人!」

 それが第一印象だ。何かを探すのか、彼女がバッグの中を点検しはじめた。

 思わずその手元を見ると、「えっ!」である。菜園か花畑でもしていたのだろうか、その顔に反して、手にはかなり汚れが。爪の中にも黒いものが入ったままだ。顔もスタイルも私は負けているが、手だけはまだ少し勝ってる……と勝手に判定する私であった。

 人は出会った時にまず顔を見るが、手にも目が行くものだ。私の手も若い頃はふっくらとして白かった。でも、年を重ねてシワやシミが目立つ。それだけではない。マニュキアを落とした除光液が災いだったのか二枚爪が悩みでもある。

「そうだ、同窓会に出るには、手にきちんとネイルをしよう」

 と、決心した私。

 手の爪に施す一連のお洒落を「ネイル」と言う。が、大きくマニュキアとジェルネイルに分けられる。マニュキアは、ネイル液が薬局などの化粧品コーナーで手軽に買うことができるので、自分でも施せるが、10日ほどしか持たない。また除光液で手軽にオフできる反面、爪が薄くなり二枚爪になりやすく、ツヤも続かない。おまけに乾くまでに時間がかかる。

 一方のジェルネイルは、それなりの技術が求められるので、ネイリストさんに頼む人が多い。2、3日はガラスのように美しいし、爪の強度もアップする。それに乾くのが早い。しかし、オフに手間がかかるという欠点がある。

 実家である兄の家に着いてから義姉に、

「近くにジェルネイルをするところ、ある?」

 と、小声で訊いてみた。

 顔を傾げながら「さぁ~」と心当たりはない様子。しばらくすると、兄が地域新聞を手にして私の所に来て言った。

「邦子、ここなら近いぞ」

 義姉も私もびっくり仰天である。堅物で頑固、流行のものに興味を示すことには反対で、家族の者も身内の者も恐れており、煙たい存在の兄だ。ミーハーな私がそっとテレビの音楽番組を見ていると、黙って近寄って来て、ぶつりとスイッチを切ってしまう。

「邦子はもっと本を読め」

 そんな小言を浴びることが多かった。

 父親代わりだった兄の生き方、エピソードは数々あるが、もうこの時の兄は自分の寿命を覚悟していたようだ。私には「元気で小奇麗にしておれ」とのメッセージにも思えたものである。これがきっかけとなって、私がジェルネイルを施すことは公認となり、夫も文句を言うことはなくなった。それどころか、

「どれどれ、今度はどうした」

 と、関心を持ってくれるではないか。さらに食器洗いや風呂掃除などを率先してやってくれてもいる。

 さて、手の爪の健康には、生え際の所が大事だ。少しでも爪を長く奇麗に見せるために、甘皮を小バサミで切り落とす人もいる。私の行くネイリストさんは、ネイル液を爪の生え際から1ミリほど離して塗るという、気遣いもしてくれる。

 私の手元を見て「奇麗ね」と褒めてくれる人もいるが、「あ、家の事は何もしない人ね」と、家事もろくにしない怠け者に思われているかも。手抜きしながら、そこそこの家事はしているつもりだが……。

 しかし、職業によっては爪のおしゃれが出来ない人もいる。爪は健康のバロメーターという。見た目など気にせずによく働く女性の中には爪が輝いている人も。そんな人を私は尊敬するばかりだ。

 もちろん、爪は手だけでなく足にもある。靴をはくことで、足の爪は弱い立場にあるらしい。私もさすがに足にはジェルネイルをしないが、夏場の素足になる時には、マニュキアを施す。でも、足の爪はあまり人の目に触れることもないので、ついつい手入れがおろそかになってしまう。

 厚生労働省は、平成15(2003)年から介護予防事業として「足指・爪のケアに関する事業」(フットケア)を盛り込み、高齢者やその家族に足指や爪のケアの重要性と、適切なケアの方法を普及するとしている。ようやく国もフットケアの重要性を認識し始めたのかも。

 ここで、ネットで知り得た足の爪のことを今後の参考にしたい。

 足の爪には、体全体を支えて安定させる役割がある。歩くときには、足の指先が蹴りだす力を、爪が上手く伝えるという。つまり、立ったり歩いたりする上で、爪は力のバランスをとるために大事な役割を果たしているのだ。

 高齢者になると、皮膚と同様に爪も乾燥する。だから、爪は硬くなり、厚みも出てくる。また、新陳代謝が衰えると、爪が伸びづらくなり、割れたりもする。おまけに爪が厚くなっているので、切りにくい。

 そんなわけで、爪の状態が悪くなりがちだ。当然、体のバランスも崩してしまう。力が入れにくくなり、痛みが出ることも多々ある。そんな状態を放っておくと、症状が悪化するだけではない。歩くことも困難になり、転倒しやすくなる。

 ところで、肉と爪がくっついたような状態になって困っている高齢者も少なくない。この場合、爪切りの刃を入れにくい。ニッパ型の爪切りやヤスリを使うと良いが、金属製よりガラス製の爪磨きが、優れているそうだ。

 手は日ごろよく目に入るので、ケアはしやすい。が、足も冷やさないことや保湿にも心がけ、爪にも注意を払って、「歩き方が変わっていないか?」「膝を痛めていないか?」などを、自分に問いかけていきたいものだ。「立つ」「歩く」という動作の要は足である。手の爪も、足の爪も、手入れだけは疎かにしないでもらいたい。「たかが爪」ではなく、「されど爪」である。


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