
【連載】頑張れ!ニッポン㉘
世界のファブレス半導体売上ランキング(2024)
釜原紘一(日本電子デバイス産業協会監事)
▲motomurakeiei.comより
製造を他社に委託するファブレス企業
ファブレスとは、自社で工場を持たずに製品の設計・開発に専念することを意味する。日、世界のファブレス半導体会社のランキングが、調査会社のトランス・フォース(Trans Force)社から発表された。ファブレス半導体の会社は自前の工場を持たず、もっぱら製品企画、設計・開発を行い、製造は外部の企業に委託している。
半導体は世代交代が早い。だから、常に最新の製造設備を導入しないと、先端製品を造れなくなるのだ。つまり、設備投資の負担がとてつもなく大きい。
ファブレスは製造を他社に委託する事で投資負担を回避できる。半導体事業に参入するスタートアップ企業にとり、ファブレスという事業形態は魅力的である。
▲ファブレス、ファンドり、IDM(垂直統合企業)に分けられる半導体事業形態(semi-journalより)
さて、今回発表された2024年の売上高ランキングは、次の通りである(円表示は1ドル=140円で換算)。
1) エヌヴィデア(米) 174,377百万ドル(27兆4128億円)前年比2.25倍
2) クアルコム(米) 34,857百万ドル(4兆8800億円) 前年比13%増
3)ブロードコム(米) 30,644百万ドル(4兆2901億円) 前年比8%増
4) アドバンスドマイクロデバイス(米) 25,785百万ドル(3兆6099億円)前年比14%増
5)メディアテック(台湾) 16,519百万ドル(2兆3127億円)前年比19%増
6) マーヴェル(米) 5,637百万ドル(7892億円) 前年比2%増
7)リアルテック(台湾) 3,530百万ドル(4942億円)前年比16%増
8)ノヴァテック(台湾) 3,200百万ドル(4480億円)前年比10%減
9)ウイルセミコンダクタ(中国) 3,048百万ドル(4267億円)前年比21%増
10)MPS 2,207百万ドル(3090億円)前年比21%増
この結果を見ると、米国のファブレス半導体企業が上位3社を占めているが、中でもエヌヴィデアの売り上げが突出している事が目に付く。また台湾勢が3社もランク入りしており、存在感を示している。そして中国のファブレスもランキング入りしている事も注目される。 台湾や中国はどちらかと言うと、他社から製造委託を受けるファンドリービジネスが盛んだというイメージがあるが、ファブレス会社も成長してきていることを改めて認識した。
▲favorric.comより
エヌヴィデアが業界をリード
断トツのエヌヴィデア社は、グラフィックスプロセッシングユニット(GPU)の開発と販売において世界的なリーダーとして知られている。GPUの性能を飛躍的に向上させ、人工知能(AI)向けの処理能力を備えたGPUは、業界をリードする製品となっている。
自動運転技術においてもエヌヴィデアのGPUは重要な役割を果たしており、トヨタとの提携も発表している。また、データセンター向GPUは、高速なデータ処理能力を武器に飛躍的に伸びた。
クアルコムは、スマートフォンやその他のデバイス向けのチップセットの設計で強みを持つ。また、最近はスナップドラゴンシリーズのプロセッサが、サムスン、アップル、シャオミなどの各社のスマートフォンに採用されており、パソコン市場でもスナップドラゴンプロセッサ搭載のモデルが注目を浴びている。
▲クアルコムのチップ(日経BPより)
ブロードコムもまた、通信、データセンター、自動車市場において、先進的なソリューションを提供する事により成長を遂げている。こう見てくると、上位の米国ファブレス企業3社は、スマホを含む通信分野や、データセンターなどの成長市場を制覇している事がわかる。一方の日本は、これら成長市場に十分入れず、従って半導体も伸びて行かないと言う構造になっているのではないだろうか。
台湾のメディアテックは、スマートフォン向けのチップセットの開発において大きな成果を上げ、中国、インド市場向けに手ごろな価格で高性能なチップを供給している。
リアルテック・セミコンダクター社は、1987年に設立された台湾の会社である。コンピュータおよび通信ネットワーク向けに特化しており、特にエンターテイメント、ネットワーク、およびコンピュータ周辺機器向けの製品を得意としている。
1997年に設立されたノヴァテック社は、台湾に本社を置く。ディスプレイドライバICやスマートフォン、タブレット、テレビなどの高性能な半導体ソリューションで伸びて来た。ウイル・セミコンダクター(Will Semiconductor Co., Ltd.)は、2007年に設立された中国を拠点とする半導体企業で、イメージセンサーやアナログICに注力している。
日本のファブレスは売り上げ規模が小さい
今回調べてみて認識を新たにしたのは、台湾でファブレス半導体企業が伸びてきている事と、中国でも新しくファブレスが誕生している事である。
我が国のファブレスはどうかと見てみると、メガチップス(ゲーム市場主体)、アクセル(パチンコ市場主体)、ザイン(ディスプレイ市場主体)などが大きいところである。いずれも株式市場に上場しているが、売り上げ規模はそれ程大きくはない。
一番大きいメガチップスでも、500〜600億円程度である。人口が減って行く日本市場でいくら頑張っても限度があるのではないだろうか。政治的に問題があって難しいとは思うが、やはり中国市場や近年伸びつつあるインド市場などを攻略しないと大きな成長は難しいように思うが如何であろう。
【釜原紘一(かまはら こういち)さんのプロフィール】
昭和15(1940)年12月、高知県室戸市に生まれる。父親の仕事の関係で幼少期に福岡(博多)、東京(世田谷上馬)、埼玉(浦和)、新京(旧満洲国の首都、現在の中国吉林省・長春)などを転々とし、昭和19(1944)年に帰国、室戸市で終戦を迎える。小学2年の時に上京し、少年期から大学卒業までを東京で過ごす。昭和39(1964)年3月、早稲田大学理工学部応用物理学科を卒業。同年4月、三菱電機(株)に入社後、兵庫県伊丹市の半導体工場に配属され、電力用半導体の開発・設計・製造に携わる。昭和57(1982)年3月、福岡市に電力半導体工場が移転したことで福岡へ。昭和60(1985)年10月、電力半導体製造課長を最後に本社に移り、半導体マーケティング部長として半導体全般のグローバルな調査・分析に従事。同時に業界活動にも携わり、EIAJ(社団法人日本電子機械工業会)の調査統計委員長、中国半導体調査団団長、WSTS(世界半導体市場統計)日本協議会会長などを務めた。平成13(2001)年3月に定年退職後、社団法人日本半導体ベンチャー協会常務理事・事務局長に就任。平成25(2013)年10月、同協会が発展的解消となり、(一社)日本電子デバイス産業協会が発足すると同時に監事を拝命し今日に至る。白井市では白井稲門会副会長、白井シニアライオンズクラブ会長などを務めた。本ブログには、平成6年5月23日~8月31日まで「【連載】半導体一筋60年」(平成6年5月23日~8月31日)を15回にわたって執筆し好評を博す。趣味は、音楽鑑賞(クラシックから演歌まで)、旅行(国内、海外)。好きな食べ物は、麺類(蕎麦、ラーメン、うどん、そうめん、パスタなど長いもの全般)とカツオのたたき(但しスーパーで売っているものは食べない)