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テキーラはお好きですか? 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道㊽

2024-04-06 05:21:02 | 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道

【連載】藤原雄介のちょっと寄り道㊽

テキーラはお好きですか?

メキシコ

 

 

 メキシコでは、誕生日、結婚、仔犬が生まれた、退院した、なんとなく集まって騒ぎたい…などあらゆる理由を付けて誰かの家に集まってフィエスタ(注:日本では、何故か、イタリア語のフェスタという言葉が定着してしまっているが…)と呼ばれるパーティーを開くことが多い。
 私のメキシコ留学中、多いときには、週3回くらいフィエスタがあった。同じ日にフィエスタを2~3件掛け持ちなんて事も珍しくはなかった。おかげで、ほろ酔い気分で過ごす時間が長かった。

 フィエスタに招待されると、自分の友人や兄弟を連れていくのはごく普通の事で、こうしてどんどん仲間や友達が増えていく。フィエスタと言っても、何か特別な祝い事ででもない限り、日本のように主催者が酒や料理の準備にカネと時間と労力を使ってヘトヘトになるようなことはない。
 主催者はフィエスタの場所を提供し簡単なつまみとビール、ラム酒、テキーラを用意するくらいで、招待された人たちが、適当に飲み物、食い物を持ち寄る習慣だ。

▲フィエスタでメキシコ革命の戦士気取りの筆者(中央)。けっして凶悪犯ではありません。
 

 さて、テキーラはメキシコを代表する酒だが、メキシコで1番呑まれているのはビールで、スペイン語でロン (Ron)と呼ばれるラム酒が2番目、テキーラは3番目だ。しかし、メキシコの呑兵衛たちのスイッチが入ると、間違いなくテキーラの出番である。
 まずは、伝統的なメキシカンスタイルでグッとやる。用意するのは、テキーラ、カバジート(子馬という意味 テキーラ専用のショットグラス)、岩塩、そしてくし形に切ったライムだ。
 手の平を下に向けてパッと開き、親指と人差し指の間にできた窪みをライムで濡らして岩塩をひとつまみ載せる。で、それをペロリと舐めて、テキーラを一気に口中に放り込む。
 オッと、まだ呑んではいけない。間髪入れずにライムにかじりつき、口の中で、岩塩、テキーラ、ライム果汁をグチュグチュと混ぜてそのハーモニーを楽しんでからゴクリと飲み干すのである。
「アーッ、ウマイ!」
 幸せな気分に満たされる。その幸せな気分を表現するため、空いた方の手で作った拳を振り下ろしながら、「イヤッハー!」と叫ぶのが酔っ払ったメキシコ人のお約束だ。

 酔いが回ってくると、次は、ショットガン・スタイルである。テキーラをカバジートに半分満たし、残りの半分に炭酸を注ぐ。そして、カバジートに手の平で蓋をして、テーブルにドンッと叩きつける。叩きつけた衝撃でシュワーッと爆発的に泡が立ち上ったところを一気に飲み干す。
 美味いし、シュワシュワ感が楽しいので、ついつい杯を重ねてしまい、気がつくとショットガンで打たれたかのように酔っ払ってしまう、というのがショットガンという名前の由来らしい。

▲テキーラ、ライム、岩塩

▲テキーラと大小の「カバジート」

▲テキーラに溺れていた頃の筆者 

 

 以前にも書いた事があるが、毎週火曜日に近所の悪友8人ほどが集まって、ダーツを口実にした飲み会をやっている。最年少71歳、最年長86歳のメンバーに、テキーラの楽しみ方を紹介したところ、皆さん子供のように(イヤ、子供は酒を呑んではいけません)はしゃいでいた。

 数あるスピリッツ(蒸留酒)の中でも、テキーラはもっとも人を陽気にさせる特別な酒に思える。

 ホセ・アルフレド・ヒメネス(José Alfredo Jimenez、1973年没)は、メキシコの国民的なシンガーソングライターだった。アメリカでも人気で、グラミー賞に数回ノミネートされたほどだ。

 そのヒメネスは『テキーラのキス(Besos de tequila)』という歌でテキーラの素晴らしさを次のような詩に託している。

  No hay beso más lindo, todavía, con sabor a tequila, a la luz de la luna…(これ以上に美しいキスはまだない、テキーラの香りで、月の光りの中で…)

 

▲アメリカでも人気で、グラミー賞に数回ノミネートされたホセ・アルフレド・ヒメネス

 

 この詩のテキーラを他の酒に置き換える事は可能だろうか。ジン? ウイスキー? ウオッカ?……ダメだ。(でも、ラムなら辛うじてOKかも知れないが…)
 
 ところで、世界中で酒を呑まない人が増えているらしい。体質的にアルコールを受け付けない人の数は昔も今も大して変わっていないのだが、若い人を中心に「飲めるけれど、飲まない」人がすごい勢いで増えているのだそうだ。
 飲まない理由の代表的なものは「タイパ(タイムパフォーマンス)とコスパ(コストパフォーマンス)が悪い」からだと言う。カタカナ語と省略語嫌いの私には、なんとも軽薄で不快に響く言葉だ。敢えて酒を飲まない生活様式(巷ではライフスタイルというらしい)は「ソバー・キュリアス」と呼ばれ、世界的な流行である。
「エッ、ソバがどうした?」と聞き返したくなるが、これは英語で 'sober curious'のこと。「酔っていない、しらふの状態に興味を持つ、価値を見いだす」という意味である。せめて「ソウバキューリアス」と言ってもらいたいところだが…。

 しかし、呑まない理由をもう少し詳しく調べてみると、60代、70代では、健康のため、が多いが、20代、30代、40代は経済的理由が多いことに気づかされる。
 昔と違い、娯楽の選択肢が増えたということもあろうが、セクハラ、パワハラ、アルハラなど「ハラ」ばかり増えて、皆が言いたいことを言えず、閉塞感が立ちこめた結果、忘年会や新年会、果ては花見まで、残業代が出ないなら出席したくないというのが最早若い世代の代表的価値観になってきているようだ。

 社会学者やいわゆる有識者には、若者のアルコール離れの原因に、価値観の多様化、人間関係の希薄化を挙げる人が多い。
 しかし、「残業代が出るなら出席します」という回答の背後には、やはり「カネがない」という切実な本音が透けて見える気がする、というのは酒呑みのゆがんだ見立てだろうか。

 昭和の化石のような私は、脂っこいもの、塩辛いもの、苦いもの、甘いもの、エビウニイクラ、プリン体、健康に悪いもの、そして勿論アルコールが大好きだが、年に数回は、「ソウバキュリアス」な日を送っている、といえば聞こえが良いかも知れないが、要は「三日酔い」で生理的に酒を受け付けないのである。これまでに、「もう一生酒は呑まない!」と何度誓ったことか。
 今日は、ソバ(ソウバ sober しらふ)なので、久し振りに一人でテキーラと付き合おう。

                  

 

  

【藤原雄介(ふじわら ゆうすけ)さんのプロフィール】
 昭和27(1952)年、大阪生まれ。大阪府立春日丘高校から京都外国語大学外国語学部イスパニア語学科に入学する。大学時代は探検部に所属するが、1年間休学してシベリア鉄道で渡欧。スペインのマドリード・コンプルテンセ大学で学びながら、休み中にバックパッカーとして欧州各国やモロッコ等をヒッチハイクする。大学卒業後の昭和51(1976)年、石川島播磨重工業株式会社(現IHI)に入社、一貫して海外営業・戦略畑を歩む。入社3年目に日墨政府交換留学制度でメキシコのプエブラ州立大学に1年間留学。その後、オランダ・アムステルダム、台北に駐在し、中国室長、IHI (HK) LTD.社長、海外営業戦略部長などを経て、IHIヨーロッパ(IHI Europe Ltd.) 社長としてロンドンに4年間駐在した。定年退職後、IHI環境エンジニアリング株式会社社長補佐としてバイオリアクターなどの東南アジア事業展開に従事。その後、新潟トランシス株式会社で香港国際空港の無人旅客搬送システム拡張工事のプロジェクトコーディネーターを務め、令和元(2019)年9月に同社を退職した。その間、公私合わせて58カ国を訪問。現在、白井市南山に在住し、環境保全団体グリーンレンジャー会長として活動する傍ら英語翻訳業を営む。


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