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ノーベル賞を受賞した本庶佑教授の憂鬱(上)

2019-01-08 10:21:05 | 【短期集中連載】ノーベル賞を受賞した本庶佑教授の憂鬱

【短期集中連載】

ノーベル賞を受賞した本庶佑教授の憂鬱(上) 

基礎研究と新しい癌治療薬の開発

                  

 横山祐作 (東邦大学名誉教授)

 

 

 

 ▲ノーベル賞受賞の記者会見を報じるBBC  

 

   昨年のノーベル医学生理学賞は、「免疫療法による新しい癌治療薬(オプジーボ)の発見」の研究業績によって、京都大学特別教授の本庶佑先生が受賞されました。本庶先生はインタビューで「長年の苦労が報われ大変嬉しい」と言われる一方、「現在の日本では基礎研究に対する支援が十分でなく、今後の発展に危機感を持っている」と警鐘を鳴らしています。

   本庶先生だけでなく、歴代のノーベル賞受賞者の多くが、日本の基礎研究の危機に言及しています。なぜ、本庶先生が基礎研究を大切だと発言するのか、先生の研究の紹介を通して考えようと思います。

   従来の抗がん剤は、癌細胞そのものを殺す事を目的としていました。ところが、癌細胞は自己の細胞が異常増殖したもので、正常細胞と非常によく似ており、抗がん剤は正常細胞にも大きな影響を与えてしまうのです。このため強い副作用を避けることが出来ませんでした。

   一方、本庶先生が開発した抗がん剤「オプジーボ」は、人間のガン細胞に対する攻撃力を高めることで癌の治療を行うというものです。人間は外から侵入した異物(たとえば病原菌)を駆除する機能を有する細胞(免疫細胞)を持っています。体内で発生する大部分の癌細胞は免疫細胞によって除かれるのですが、ごく一部の癌細胞はこの免疫細胞を無効にして増殖を繰り返すのです。オプジーボは癌細胞を免疫細胞が捕まえやすくする薬といえます。即ち、人間の癌に対する抵抗力を高める薬なのです。

   本庶先生は最初からオプジーボという免疫療法の薬の開発を目指したわけではないのです。今から25年程前(1992年)に免疫細胞が病原菌と自分の細胞を区別する仕組みの解明に成功していました。即ち先生は、基本的な生命現象の解明という基礎研究の段階で世界的にも評価の高い、ノーベル賞候補にも挙げられる業績を上げていたのです。しかし、先生はそれで満足することなく、ご自分の研究成果を癌の治療に応用しようとしました。それがオプジーボの発見につながったのです。

   本庶先生は、「基礎研究はギャンブルのようなもので、目的が明確なロケットの開発とは違う」と発言されています。基礎研究は、研究者の自由な発想と好奇心を出発点として始められるものであり、その時点で人類に役立つ研究になる可能性は決して大きくないと言う趣旨です。

   また、最近の科学研究に対する我が国の支援が、役立ちそうな研究には大金を投ずるが、そうでない研究にはお金を出さない傾向がある事に強い危機感を持っておられます。そのために私財をなげうって若手の研究者のために基金を立ち上げ、さらに小野薬品がオプジーボで得た利益の一部を基礎研究の基金にすべきとの発言もされています。

 私は、30年以上も大学で研究に携わって来ました。今から20年程前は、私から見ても何を目的とした研究をしているのか分からないばかりか、学生には全く理解出来ない講義をしている名物教授がいました。現在ではそのような教授は生き残れなくなってしまいました。今日本は、国からの研究助成も多く交付され、研究環境は格段に良くなっています。しかし、業績評価によって研究費が配分されるため、研究の自由度が少なくなったと感じています。

 日本のノーベル賞受賞者は、2000年以降米国に次いで2番目に多いと言われています。しかし、ノーベル賞受賞者の多くは日本がまだ貧しかった時代に、基礎研究に没頭した人達なのです。言い換えれば、役立つか役立たないかを考えることなく自由に研究を行った人達なのです。残念なことに、基礎研究を軽視し続けている日本からは、ノーベル賞受賞者が減っていくことが十分に予想されます。

 

横山祐作氏の略歴

昭和451970)年に千葉大学薬学部薬学科を卒業し、東京大学大学院薬学系研究科製薬化学専攻の修士課程に入学。昭和501975)年、同博士課程を終了して薬学博士に。その後、城西大学薬学部助手、米ペンシルバニア州ピッツバーグ大学博士研究員、東邦大学薬学部助教授、東邦大学薬学部教授を歴任、平成29(2017)年まで日本薬学会の常任理事を務めた。現在、東邦大学名誉教授。


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