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国民の宝を愛する者たちが、宝をより美しくする ~映画_グレート・ミュージアム

2017年07月22日 | 名作レビュー

月夜のウィーン美術史美術館

 

ここ数年、世界の著名な美術館のドキュメンタリー映画が相次いで日本で公開されている。大手シネコンではなくいわゆるミニシアターでの上映がほとんどで、上映期間は短いが全国を巡回している。

 

「グレート・ミュージアム ハプスブルグ家からの招待状」は、ウィーン美術史美術館の知られざる舞台裏を描いたもので、2016年から2017年にかけて日本国内では各地で封切られていた。

 

ウィーン美術史美術館は世界的にも著名な美術館で、ハプスブルグ家の歴代皇帝が集めたルネサンスやバロック絵画のコレクションは秀逸で、「バベルの塔で」有名なブリューゲルのコレクションはここが世界一と言われる。日本人でもオーストリアに旅行に行かれた方は、ほぼ100%訪れているだろう。

 

2011年から2年間休館して改装工事を行った館内が映画の舞台で、館長やスタッフは俳優ではなく本人が登場する。新装オープン後の展示方針やブランド戦略をめぐって紛糾する会議や、日々所蔵作品と向き合い高いレベルを追求する修復家たちの姿が赤裸々に描かれている。中でもお客様サービス担当の女性が「私たちはお客様を案内することに誇りを持っており、下っ端とは思っていない」と堂々と意見を述べるシーンは興味深い。

 

日本国内で同じようなドキュメンタリーが制作されても、このようなストレートな描写はおそらくカットされてしまうだろう。それだけ館を支えるそれぞれの立場としての一生懸命さが伝わってくるので感銘を受ける。ドキュメンタリー製作に踏み切ったのも、館の修復費用の捻出が目的の一つだと思われるが、国家や民族が誇る美術品をどのように見せていくべきかという大切な問題提起を行ったことは、非常に価値のある行動だと思う。

 

欧州の美術館多くは、その国や地域の王や皇帝が数百年にわたって集めたコレクションを中心としているものが多く、展示方針において「伝統と革新」という相反する課題に直面している。美術品を見る目が日々肥えていく観客を満足させるためには、少しずつ新しい展示の仕方を導入する必要があるが、この設定が極めて難しい。伝統を傷つけてはならないからだ。

 

オーストリア国民にとっては、この美術館は、まさに宝だろう。日本人にとっての東京国立博物館とは、設立の経緯などから、全くレベルが違う。

 

美術館を建設したのは、ハプスブルグ最後の皇帝と言われるフランツ・ヨーゼフ1世で、ウィーンの旧市街を取り囲んでいた城壁を取り壊して環状道路「リンク」を設け、都市の大改造を行った皇帝である。館は1891年に完成したが、この頃はハプスブルグ帝国の国力は風前の灯火で、ドイツ民族の国家設立はプロイセンに奪われ、東欧領内の多民族問題にも悩まされていた。第一次大戦中に崩御するまで在位が78年と非常に長く、不屈の精神で傾く帝国を支えようとした。また都市改造でより使いやすく魅力的な街とし、クリムトやブラームス、フロイトらが活躍した「世紀末ウィーン」の文化をリードしたのも彼であり、今でも国民には絶大な人気がある。

 

ドイツのヴィルヘルム2世(亡命)、ロシアのニコライ2世(処刑)、第一次大戦終了時の皇帝は悲劇的な運命をたどったものが多い。フランツ・ヨーゼフ1世が残した美術史美術館は、国民が古き良き時代をしのぶ象徴なのだ。

 

 

 

 公式DVD

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

ウィーン美術史美術館 Kunsthistorisches Museum Wien

休館日 6~8月はなし、9~5月は月曜(例外が発生する可能性もあるので訪問前にご確認ください)

公式サイト http://www.khm.at/en/japanese/

 

 

 


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