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「数寄屋」はなぜ現代でも美しいのか?:美術鑑賞用語のおはなし

2018年02月20日 | 美術鑑賞用語のおはなし



「数寄屋(すきや)」という言葉は、現代でもよく耳にします。東京の地名、高級和風住宅、茶道愛好家、様々な意味が認識されています。現代の「道楽」の意味を室町時代には「好き」と呼んでいました。その当て字として用いられた「数寄」が語源と考えられています。

数寄屋造=高級住宅というイメージは、数寄屋造が登場した安土桃山時代以来、現代になっても変わっていません。日本建築の粋(すい)とも言える数寄屋造りについて考えてみたいと思います。


数寄屋造の原点は、シンプルを追求する「わび茶」


数寄屋風茶室<修学院離宮・上御茶屋・隣雲亭>

室町時代に書院で行われていた茶の湯は、安土桃山時代になると、主人と客人の二人だけしか入れない狭い「茶室」で行うことが流行します。千利休を頂点とする茶人たちが、形式ばった豪華な意匠よりも、シンプルさを究極化する「侘び・寂び」を表現した茶室を求めたためです。ひなびた感を醸し出す茅葺屋根・土壁とともに、一切装飾のない竹や材木を多用しました。

こうした形式にとらわれず、自由に軽妙洒脱さを表現する建築様式として「数寄屋造」が芽生えました。


400年前のデザインは現代でも格好いい <桂離宮・松琴亭>

本業とは別に連歌や茶の湯などの「道楽」を極めた人を、安土桃山時代に「数寄者(すきもの)」と呼びました。「数寄屋」は数寄者が使う/造る建物、という意味になります。「数寄者」は最先端文化を知り尽くした上で、新たな表現を提案するデザイナーでもあったのです。

現代では、コンクリートむき出しの壁や天井が、斬新なデザインと認識されることはよくあります。コンクリートそのものはとても安価な建築資材です。素材そのものも美しいと感じる人は少ないでしょう。となると、どのように配置し立体表現するかといったデザインで勝負しないと美しくは見えません。

「数寄者」は、高級な素材に依存するのではなく、デザインで自己の感性をアピールしようとしました。こうした時代の潮流が建築に現れたのが「数寄屋造」です。

【Wikipediaへのリンク】 数寄者


数寄屋造は、学術的には書院造の延長であって、別個の独立した建築様式としてとらえられていません。そのため「数寄屋風書院造」と言うのが適切な表現となります。本稿では学術的な正確さよりも理解しやすさを優先するため、あえて「数寄屋造」と表現しています。


数寄屋造が現代でも斬新に見える理由


自由で斬新な窓のデザイン <詩仙堂・京都>


深い庇が室内の落ち着きと静けさを増す <曼殊院・京都>

書院造とは異なる「数寄屋風」の特徴は以下です。

  • 漆喰塗りの白壁でなく塗り方にも工夫がある土壁が多い、色もカラフル
  • 柱や梁には加工されていない丸太をあえて見せる、長押で隠さない
  • 竹を柱や壁の装飾によく用いる
  • 木の木目などの質感表現を重んじる
  • 窓や障子の格子のデザインはきわめて繊細
  • 窓な形が多彩
  • 床の間の表現も自由、床框がなく床と同じ高さ、床脇がない、場合もよくある
  • 蔀(軒)が深く、内部をわずかに暗くすることで落ち着きを増す
  • 天井はシンプルな竿縁天井が多い
  • 起り屋根が多い


色や質感の表現が多彩で、「形にのっとり、こうしておけば間違いない」という無難さが、数寄屋造に全く存在しないことがよくわかります。同時に寝殿造と書院造の違いほど、建築の仕方が書院造と比べて異なるものではないことも、おわかりいただけると思います。


書院造の部屋 <毛利邸・防府>


数寄屋造の部屋 <志賀直哉旧居・奈良>

上の2つの写真を見比べてみてください。もし自宅の部屋にするなら、あなたはどちらの部屋がよいと思いますか? 多くの人が「数寄屋造りの部屋の方が落ち着けるのでよい」とお感じになると思います。

毛利邸は大正時代の建築ですが、床の間は形にのっとって作られており、殿様としての格式を感じさせる部屋になっています。ただこうして比較してみると、堅苦しさを感じる方は少なくないでしょう。一方志賀直哉旧居はとてもシンプルですが、質感のよさをきちんと感じさせます。

  • 素材の良さを活かす
  • ナチュラル感を重視する
  • 装飾はシンプル
  • 柔らかい

数寄屋造りの部屋はこうした表現が基本です。これらはいずれも、現代人でも好む人が多い表現です。住宅は落ち着けることが重視されます。「侘び寂び」に通ずるこの「落ち着き」の嗜好は、安土桃山時代に成立してから現代になっても、あまり変わっていないのです。

【Wikipediaへのリンク】 数寄屋造り


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