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南禅寺・南禅院 ~中世の天皇が愛した庭園

2018年05月09日 | お寺・神社・特別公開

京都・南禅寺の境内には南禅院(なんぜんいん)という別院があります。寺名と同じ名前が付いている、同じ境内にあるのに別院と称する、こうしたところに特別な存在であることをうかがわせます。そう、ここは日本の禅寺の最高格式を誇る南禅寺の発祥の地なのです。

鎌倉時代の亀山法皇が父・後嵯峨天皇が造営した別荘を1291(正応4)年に寺に改めたのが南禅寺の始まりです。東山の鬱蒼とした森に囲まれた境内は、水の流れる音しか聞こえないほど静寂で気品があり、まさに天皇の別荘だったことをうかがわせます。

明治のはじめに境内正面に水路閣が通されますが、今となっては自然に溶け込み、最も京都らしい風景の一つになっています。


南禅院は水路閣をくぐった先にある

かつて京都五山に格付けされた臨済宗の大本山寺院では、南禅寺よりも建仁寺と東福寺の方が創建は先です。南禅寺が京都・鎌倉両五山のさらに上の「別格」とされたのは、南禅寺が禅寺では最初に天皇の勅願で創建された寺であるためです。

京都にある著名な大寺院は、平安時代から鎌倉時代にかけて天皇や公家の別荘だったところが少なくありません。嵯峨の大覚寺、嵐山の天竜寺、宇治の平等院、などたくさんあります。これら寺院に共通するのは自然と調和した境内がとても美しいことです。

そんな中でも南禅寺は、東山の中腹に位置することから、俗世間と隔絶された山荘のような落ち着いた佇まいが格別です。自然と調和した境内の美しさは京都でもトップクラスです。

南禅寺は応仁の乱による消失で、しばらく荒廃していました。江戸時代初めに徳川家康のブレーンとして知られる金地院崇伝(こんちいんすうでん)が入寺すると、急速に復興が進みます。現在の中心伽藍である方丈や三門は、この頃の再建です。

南禅院は江戸初期から少し時代が下りますが、元禄時代に5代将軍・綱吉の母・桂昌院(けいしょういん)によって再建されます。桂昌院は京都・西陣の出身で、南禅院以外にも清凉寺・善峯寺・長谷寺・東大寺大仏殿など、京都・奈良の多くの寺院で現在みられる姿に再建しています。江戸幕府財政悪化の大きな要因になりましたが、現代にかけがえのない文化財を残した立役者でもあります。


南禅院の方丈

南禅院は静けさが魅力の南禅寺境内でも、ことさら格別です。天皇の山荘にふさわしい幽玄な空間です。方丈は桂昌院による再建でまだ新しいですが、こけら葺きの屋根が実に中世を感じさせるようデザインされています。

国の史跡・名勝ダブル指定の池泉回遊式庭園は、近い距離で自然の植生と触れ合えるよう作られています。枯山水が流行する以前の禅宗庭園として著名な天竜寺・西芳寺の庭園と並び称されますが、南禅院の庭園はよりコンパクトで参拝客も少なく、至極の空間を隠れ家のように独り占めできます。

永らく荒廃していたため創建当初の形がどのようなものであったかは想像に任せるしかありませんが、京都で鎌倉時代の面影を残す唯一の庭園でもあります。



山が近いことから、木々の緑をベースとした四季の彩の変化も格別の美しさを見せます。秋の紅葉はもちろん、ここは冬の雪景色も著名で、撮影スポットとしてよく知られています。春夏秋冬それぞれ訪れることをおすすめします。京都の魅力が集約された極上の庭園です。

こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。



住職が解説する古寺巡礼シリーズ


南禅寺・南禅院 境内
http://www.nanzen.net/keidai_nanzenin.html
南禅寺・南禅院 拝観案内
http://www.nanzen.net/haikan.html
原則休館日:年末(12月28日~31日)
※公開期間が限られている仏像や建物があります。


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