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桃山時代の上流階級が愛した空間 ~大徳寺 聚光院~

2016年11月07日 | お寺・神社・特別公開


大徳寺は京都市内の北部、紫野という地にあり、戦国時代には千利休をはじめ幾多の戦国大名が茶道と向き合った寺として知られる。境内には本坊を取り囲んで多くの塔頭寺院があり、戦国大名の庇護が手厚かったことから、現代にも数多くの国宝や特別名勝をはじめとする文化財を伝えている。

本坊はもとより塔頭寺院の中でも常時公開しているところは多くない。聚光院(じゅこういん)も通常非公開だが、2016年3月から1年間限定で特別公開されている。

他の塔頭寺院も春秋の観光シーズンに定期的に公開するところがあり、加えて不定期公開も近年は多くなってきている。

中でも毎年10月第2日曜日(雨天中止)に本坊で催される「曝凉(虫干し)」は見もの。狩野探幽の襖絵や、住職の肖像画、禅画など大徳寺が歴史の中で果たしてきた役割を強く実感できる。またこの日に合わせて塔頭寺院の公開も多く、効率的に鑑賞できる。

大徳寺はどこを見ても文化財の美しさのレベルは非常に高いので、公開スケジュールは優先的にチェックして損はない。

聚光院は、信長が現れる前に京や畿内一円を支配した有力戦国大名・三好長慶の養子が養父の菩提を弔うために建立、千利休が頻繁に参禅したことから利休の墓があり、茶道三千家の歴代の墓所になっている。このように、茶道で著名な大徳寺の中でも特に、茶道との関連性が深いのが聚光院だ。

茶道との関連性の深さは、すなわち当時の実力者との関係の深さに比例する場合が多い。そのためそれなりのクラスの文化財が残されていることが多い。

聚光院の場合、狩野松栄・永徳父子による本堂の国宝の障壁画、障壁画のある桃山時代の重要文化財「方丈」、方丈前の千利休作と伝えられる名勝庭園「百積の庭」、がそれにあたる。

方丈に至ると、障壁画が目に入る。障壁画は、方丈内の正面中央の「室中の間」、その奥の「仏間」を中心に都合46面ありすべて国宝指定されている。原本は普段は京都国立博物館で大切に保管されており、普段の方丈には大日本印刷によるデジタル複製品が設置されている。

「室中の間」の「花鳥図」16面は子・永徳の作。永徳らしい力強さと躍動感で描かれているが、墨書であり禅寺の静けさと絶妙に調和している。当時の上流階級が好んだ空間は、現代人が見ても変わらない気品と美しさを保っている。

特別公開時には、花鳥図の正面のふすまが開けられており、本尊の下の小襖の絵が父・松栄作の「蓮鷺藻魚図(れんろそうぎょず)」だ。

聚光院の障壁画は中心で目立つ「室中の間」が子・永徳の作であり、父・松栄は本堂である方丈で最も大切な部屋である本尊を設置する「仏間」の制作を担当した。そこから子の表現する自由奔放な空間を温かく見守っているように見える。

方丈の前は苔の緑が美しい「百積の庭」だ。庭の大きさの割に石の数が多いのが特徴で、苔の緑との対比が興味深い。この庭も西芳寺と同じく創建当初は苔でおおわれていなかったようだ。一般的な禅宗庭園のように白砂でおおわれていたのだろうか。

方丈前のコンパクトな禅宗庭園が苔に覆われているのは珍しい。白砂を前に己と向き合うというよりも、大切な客人とかけがえのない空間を楽しむ、といった使い方の方が合うように感じる。

方丈横に近年建て替えられた書院には、千住博作の襖絵「滝」がある。吸い込まれそうに美しい青をベースに滝に落ちる水を表現しており、夜に見るととても神秘的で・幻想的に見えるだろう。500年後の人々にどのように見られるのかが楽しみである。

聚光院の創建当初、利休と永徳はともに、秀吉政権の権威を高めるために協力し合う間柄だっただろう。しかし長谷川等伯という永徳最大のライバルが登場するとそんな間柄は続かなくなる。

永徳は、利休切腹1年前の1590年に急死しており、過労死だったと言われる。豪放ながらも威厳のある画風で安土城・聚楽第・大坂城と、信長・秀吉の居城の障壁画制作をことごとく担当し、戦乱の世の終わったことを絵を通じて人々に知らしめた。

しかし数奇な運命か、安土城・聚楽第・大坂城はいずれも短命で残っておらず、永徳の作品も現存しない。戦乱の世を終わらせた最高権力者の居所を飾る空間はどのようなものだったのか、歴史の運命はそれを永遠に封印してしまった。

日本や世界には数多くの
「唯一無二」の名作がある。

「そこにしかない」名作に
ぜひ会ってみてください。

公式サイト なし
特別公開情報は、京都市観光協会が運営するサイト「京ごよみ」が便利です。
http://www.kyokanko.or.jp/kyogoyomi/

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