美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

ハプスブルク展、欧州随一の名門の至宝の数々_西洋美術館 1/26まで

2019年11月20日 | 美術館・展覧会

上野・国立西洋美術館で「ハプスブルク展」が行われています。
 展覧会の主人公は、オーストリアとスペインのハプスブルク家の8人の王族。
 ヨーロッパ随一の名門の栄光の歴史を、8人にまつわる驚きの至宝を通じて堪能できる展示構成に仕上がっています。





 目次

  •  名門、ハプスブルク家にこそふさわしい称号
  •  15c、政略結婚で版図を一気に拡大したマクシミリアン1世
  •  17c、ベラスケスを寵愛したフェリペ4世
  •  18c、マリー・アントワネットをフランスに嫁がせたマリア・テレジア
  •  19c、世紀末ウィーンの繁栄をもたらしたフランツ・ヨーゼフ1世



 


 名門、ハプスブルク家にこそふさわしい称号

 ハプスブル家って、聞いたことはあるが、すごい一族?

 多数の民族や国家がひしめきあうヨーロッパには、ものすごい数の王家があります。
 そんな中で、ルネサンスの時代から第一次大戦まで600年にわたり、欧州大陸のど真ん中を支配、欧州指折りの「名門」として称えられるのがハプスブル家です。

  •  イタリアとバルト海を結ぶ南北の「琥珀の道」、欧州大陸の東西の交流軸となった「ドナウ川」、この2つの道の交点に位置する首都ウィーンはには、常に先端文化が流入していた
  •  ハプスブル家は19c初頭まで約400年間、ドイツ全体の象徴的な君主となる「神聖ローマ皇帝」を兼ねており、「名門」としての影響力を誇示し続けた
  •  16cにはスペイン/オランダ/ナポリも支配、「太陽の沈まぬ国」の繁栄を強く印象付けた


 16cに繁栄の絶頂を迎えて以降、ハプスブル家は領土の縮小が相次ぎ、第一次大戦の敗戦で王家としての役割を終えます。
 ハプスブル家の歴史を見ていると、日本の天皇家にどこか似ている気がしてなりません。
 互いに政治権力を縮小させながらも脈々と命運を保ち続け、国民に絶大な人気があります。

 世界でも稀有な「名門」ハプスブル家の悠久の歴史を、この展覧会できちんとたどってみませんか?





 15c、政略結婚で版図を一気に拡大したマクシミリアン1世

 1493年、日本では「応仁の乱」が終わった頃、この展覧会の1人目の主役が神聖ローマ帝国の皇帝になります。
 ハプスブル家の隆盛の礎を築いたマクシミリアン1世です。

 【展覧会公式サイトの画像】 ベルンハルト・シュトリーゲルとその工房、あるいは工房作「ローマ王としてのマクシミリアン1世」ウィーン美術史美術館

 甲冑に身を包みまっすぐに前を見つめる描写は、ハプスブル家を名門に押し上げた偉人の威厳が見事に表現されています。
 「中世の騎士」の如く武力で領土を拡大したように印象付けられますが、版図の拡大に最も効果的だったのは「政略結婚」でした。
 自らは欧州で最も豊かだったフランドルを支配するブルゴーニュ公の娘と結婚、フランスに対抗する思惑で一致したスペインには息子を婿入りさせ、欧州最強の王家になる布石を打っていきます。

 平安時代に天皇への輿入れ競争で勝利して絶大な権力を手にした藤原道長と同じ。
 展覧会のプロローグを飾る彼の肖像画からは、偉大な功績を今に伝えるオーラを圧倒的に感じることができます。



 西洋美術館の前庭・ロダン作品


 17c、ベラスケスを寵愛したフェリペ4世

 16c、大航海時代に世界を制覇した「太陽の沈まぬ国」スペイン。
 中南米の銀山からの収入を新産業育成に活かせず、最大の税収源であるオランダが独立したこともあって、17cにはヨーロッパの先進国としての地位を失いつつありました。
 歴史は皮肉なもので、一旦強国になった国が傾き始めると、過去の蓄積の効果が表れはじめ、芸術を中心とした文化が栄えるようになります。
 17cのスペインはその代表例です。

 【展覧会公式サイトの画像】 ベラスケス「スペイン国王フェリペ4世の肖像」ウィーン美術史美術館

 展覧会3人目の主役は、時のスペイン王・フェリペ4世。
 ベラスケスとルーベンスのパトロンという文化面での実績が、政治的な実績以上に強く記憶に残る王です。
 フェリペ4世の肖像画には、マクシミリアン1世の肖像画のような「近寄りがたい」威厳はありません。
 しかしはるかに国王としての”洗練”を感じさせます。
 ハプスブルグ家が積み重ねた悠久の歴史を見事に表現したベラスケスはやはり、天才です。

 【展覧会公式サイトの画像】 ベラスケス「青いドレスの王女マルガリータ・テレサ」ウィーン美術史美術館

 オーストリアとスペインに分かれて相続されたハプスブル家は、家の繁栄をもたらした「婚姻」を重視し続けました。

  •  同族内で婚姻している限り、他家に所領が乗っ取られることはない
  •  同じカトリックで家の格が見合うフランス王家は宿敵、婚姻はありえない
  •  近親結婚が増えたことで障害を持つ子供が続出したことも、家の凋落の一因に


 展覧会4人目の主役「マルガリータ・テレサ王女」は、父フェリペ4世に溺愛され、オーストリア皇帝への「見合い写真」としてベラスケスに幾度も描かれました。
 8歳の少女の可憐な表情を見事に描き出したこの肖像画は、ベラスケスの最高傑作の一つです。
 青いビロードのドレスの立体的な輝きは、ヨーロッパ最高の家柄の娘であることを完璧に表現しています。

 【所蔵者公式サイトの画像】 Velazquez「Las Meninas」プラド美術館

 ちなみに、かの有名な「ラス・メニーナス」の主役も、マルガリータ・テレサ王女です。



 プラド美術館・ベラスケス銅像


 18c、マリー・アントワネットをフランスに嫁がせたマリア・テレジア

 5人目の主役は、女王マリア・テレジアです。
 男子でないと皇位継承が認められなかった時代に、オーストリア継承戦争や七年戦争を戦い抜き、女王としてオーストリアを統治することをヨーロッパ中に認めさせました。

 【展覧会公式サイトの画像】 マルティン・ファン・メイテンス(子)「皇妃マリア・テレジアの肖像」ウィーン美術史美術館

 「皇妃マリア・テレジアの肖像」には、「国母」と呼ばれた彼女の人生が集約されているように感じてなりません。
 当時きわめて珍しかった恋愛結婚をし、16人もの子を産んだ「肝っ玉母さん」でもあります。

 マリア・テレジアは、オーストリアの外交を大きく転換させました。
 ドイツ全土に影響を及ぼすようになったプロイセンに対抗すべく、永年の宿敵フランスと手を結んだのです。
 その象徴として、ルイ16世の妃となるべくパリに送り込まれたのが、かのマリー・アントワネット。
 この展覧会の6人目の主役です。

 【展覧会公式サイトの画像】 マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブラン「フランス王妃マリー・アントワネットの肖像」ウィーン美術史美術館

 当時のパリで最も著名な女性肖像画家・ルブランが描いた肖像画には、23歳の姿ながらも王妃としての貫禄が見事に表現されています。
 38歳で断頭台の露と消えることになる彼女は、嫁入り当初はフランス人に熱狂的に歓迎されました。
 それがいつのまにか、彼女の優雅な暮らしぶりが民衆の不満の象徴へと、どんでん返しするのです。
 一緒に展示されている彼女が身に付けていた豪華な宝石は、そんな彼女の運命を今に伝えています。



 マリー・アントワネットが断頭台にのぼったパリ・コンコルド広場


 19c、世紀末ウィーンの繁栄をもたらしたフランツ・ヨーゼフ1世

 展覧会の主役の最後の2人は、19cの世紀末に今日のウィーンの街並みを造った最後の皇帝・フランツ・ヨーゼフ1世と皇妃エリザベトです。
 今年9月に大阪・国立国際美術館「ウィーン・モダン展」で見た二人の肖像画には強く印象付けられましたが、改めて輝かしいウィーンの世紀末の時代をイメージすることになりました。

 【展覧会公式サイトの画像】 ヴィクトール・シュタウファー「オーストリア・ハンガリー二重帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の肖像」ウィーン美術史美術館

 国民に絶大な人気があった「最期の皇帝」の最晩年の姿を描いた肖像画です。
 オーストリアの国運をしっかりと受け止めた「おじいちゃん」のような彼の存在感を、完璧に表現しています。
 第一次大戦は、欧州屈指の「名門」ハプスブルグ家の終焉の時。
 その最期を如実に表現した肖像画には、オーストリアのみならずヨーロッパの雄大な歴史が詰め込まれているように思えてなりません。

 【展覧会公式サイトの画像】 ヨーゼフ・ホラチェク「薄い青のドレスの皇后エリザベト」ウィーン美術史美術館

 この王妃の肖像画を見て、みなさんはどのような印象を持たれるでしょうか?
 ヨーロッパ宮廷随一と言われた女性としての美しさ、女性ならではの威厳、国民を統べる選ばれた人としての緊張感、これらすべてがこの絵で表現されています。
 日本でも度々、宝塚劇団のミュージカルの主人公として、その人生を語り継がれてきました。
 彼女は1898年に暗殺される運命にあります。
 オーストリア帝国の落日を象徴するような人生でした。





 2019年は日本・オーストリア友好150周年で、年初から「世紀末ウィーンのグラフィック」「クリムト展」「ウィーン・モダン」と続いた大型美術展のラッシュが記憶に残っている方も少なくないでしょう。
 「王族」をストーリーの軸とした「ハプスブル展」は、そんなオーストリア展「ラッシュ」の最後にふさわしく、オーストリア帝国の栄光の歴史をきっちりとたどっています。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 悠久のハプスブルク家の歩みを多彩なビジュアルでしっかり解説


 → 「美の五色」 ブログ・トップページへ

 → 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
 → 「美の五色」 サイトポリシー
 → 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

 ________________
 利用について、基本情報

 <東京都台東区>
 国立西洋美術館
 日本・オーストリア友好150周年記念
 ハプスブルク展
 600年にわたる帝国コレクションの歴史
 【美術館による展覧会公式サイト】
 【主催メディアによる展覧会公式サイト】

 主催:国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社
 会場:B2F企画展示室
 会期:2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)
 原則休館日:月曜日
 入館(拝観)受付時間:9:30~17:00(金土曜~19:30)

 ※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



 ◆おすすめ交通機関◆

 JR「上野駅」下車、公園口から徒歩2分
 東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩8分
 京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩8分

 JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
 東京駅→JR山手/京浜東北線→上野駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には駐車場はありません。
 ※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


 ________________



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 神戸市立博物館リニューアル... | トップ | 国宝彦根屏風と国宝松浦屏風 ... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

美術館・展覧会」カテゴリの最新記事