京都・泉涌寺は、代々の皇室の菩提寺として御寺(みてら)と呼ばれています。The Templeです。しかし山内塔頭もすべてRoyalな佇まいかというとそんなことはありません。京都の寺には意外かもしれませんが、そんな多様性が所々に見られます。戒光寺(かいこうじ)は、そんな多様性を代表する泉涌寺塔頭の一つです。
支配者階級から庶民まで、オールラウンドに信奉を集めた本尊「身代わり丈六さん」を間近で拝観できる機会が秋と春にあります。「身代わり」にどういう魅力があるのか?、順にプレゼンさせていただきたいと思います。
山門
戒光寺は、鎌倉時代の1228(安貞2)年、後堀川天皇の勅願所として、東寺のあたりで創建されました。応仁の乱による焼失後、紆余曲折を経て江戸時代の初め1645(正保2)年、現在地で再興されます。再興には当時の京都で強い存在感のあった後水尾上皇が大きく関与しました。
後水尾上皇は先代・後陽成天皇の第三皇子で天皇になれる可能性は高くはありませんでした。豊臣・徳川の意向も絡んだ権力争いの結果、1611(慶長16)年に天皇に即位します。この時天皇になれなかった二人は、桂離宮を造営した後陽成天皇の実弟・八条宮智仁(はちじょうのみやとしひと)親王と仁和寺を復興した後陽成天皇の第1皇子・覚深入道親王です。
後水尾天皇は即位前の権力争いのさなか、刺客に寝首を掻かれます。この危機の際に”身代わり”になったのが戒光寺本尊の丈六釈迦如来です。その証拠に如来の首から血が流れた後が今でも残っています。以降も後水尾天皇に何かある毎に身代わりに立ち、昭和天皇に次ぐ歴代2位の85歳の長寿を全うできました。
実に京都らしいわかりやすいストーリーです。”丈六さん”と呼ばれ、悪いことの身代わりになってくれる、首から上の病気を治してくれる、と広く信仰を集めています。台座を入れると10mほどの高さになる巨像です。作者は運慶・湛慶親子と伝えられています。重要文化財です。
【戒光寺公式サイトの画像】 本尊丈六釈迦如来立像
あごから首にかけて見える赤い”血の跡”が、丈六さんのお顔に緊張感を持たせています。金剛力士のような守護神に見えるほどです。眼が引き締まっていて強い意志を感じさせます。まさに”身代わりの丈六さん”にふさわしいお姿です。丈六さんにはいつでも拝観できますが、やはり内陣公開の際には間近まで近づけますので迫力が違います。
秋春の内陣公開の際には曇照上人像と不動明王像も間近で拝観できます。曇照上人は戒光寺の開山で、鎌倉時代のリアルな肖像彫刻の名品です。重文です。不動明王像は足を立てるのではなく投げ出すように置いている珍しいポーズです。そのため両足の裏が見えます。一般的な不動明王と比べ、どこかお茶目です。
境内には泉山融通(せんざんゆうづう)弁財天の祠もあります。仏像に融通と名が付くのは珍しく、お金の融通をしてくれる、融通を利かしてくれる、と信仰を集めているのがまた面白いところです。祠は常時参拝できますが、弁財天は秘仏です。毎年成人の日の「泉山七福神巡り」と11/3の弁財天大祭に限って定期公開されます。
泉涌寺には珍しく、境内はとてもフレンドリーな印象です。参拝者が絶えないことをうかがわせます。
私が訪れた時には書院と思しき建物の襖があけられ、とても上質な生け花が飾られていました。泉涌寺らしい凛とした空間をさりげなく見せているのも心憎いところです。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
後水尾天皇はどう世渡りしたのか?
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泉涌寺 戒光寺
http://www.kaikouji.com/
秋の内陣特別参拝
会期:2018年11月10日(土)〜25日(日)
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~17:00
※外陣からの本尊参拝は、特別参拝期間以外でも常時可能です。
※内陣特別参拝は、11月に加え、春の花祭り(4/1-15)にも行われます。
◆おすすめ交通機関◆
JR奈良線・京阪電車「東福寺」駅下車、徒歩15分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
京都駅→JR奈良線→東福寺駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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