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鎌倉リアリズム肖像の傑作にまもなくお会いできる ~東大寺「重源像」公開

2017年11月21日 | お寺・神社・特別公開

俊乗堂があるエリアは東大寺の中でもとても静か

 

 

東大寺の俊乗堂(しゅんじょうどう)は、鎌倉期の大仏復興の立役者である重源(ちょうげん)上人の像を祀っている。俊乗とは重源上人の房号(ぼうごう、通称)である。大仏殿と法華堂の中間にあり、奈良では有数の大晦日の除夜の鐘スポットである「鐘楼」と同じ敷地にある。

 

現在の建物は、江戸期の大仏復興の立役者である公慶(こうけい)上人が、重源上人の菩提を弔うために1704(宝永元)年に建てたものだ。同じところには重源上人が建てた浄土堂があったが、1567(永禄10)年の松永・三好合戦で大仏殿とともに焼失したままになっていた。公慶上人は再興大仏殿の規模が縮小されており、資金繰りには大変な苦労をしたであろう。自らと同じ苦労をして大仏復興を遂げた重源上人にまつわるお堂には、やはり特別な思いがあったのだ。

 

俊乗堂は普段は非公開だが、重源上人の命日である7月5日の「俊乗忌」、寺の開山・良弁僧正の命日である12月16日の「良弁忌」の2日間に限り、堂内と重源上人坐像が毎年公開されている。

 

中心に安置されている俊乗房重源上人坐像は、1206(建永元)年の上人の没後すぐに弟子たちによって制作されたと考えられている。お顔は齢を重ねているものの、偉業の達成感を感じさせる落ち着きとともに、固く結んだ口には厳しさも感じられる。偉業達成にたどり着く心の強さが絶妙に表現されている。肌の質感や衣のふくらみも実にリアルで、彩色もよく残っている。表現と保存状態の双方の秀逸さが相まって、きわめて美しい作品として今に伝わっている。

 

快慶作という説もあるようだが定かでない。しかしその表現技術のすばらしさからして当時の一線級の仏師の作であることは間違いないだろう。まさに鎌倉リアリズム彫刻の傑作である。もちろん国宝だ。重源上人坐像は大仏復興勧進の地方拠点となった播磨別所・浄土寺、伊賀別所・新大仏寺、周防別所・阿弥陀寺にも現存するが、美しさは東大寺像がやはり格別だ。

 

俊乗堂内には、他にも見ごたえのある仏像が安置されている。重文・阿弥陀如来立像は快慶作であることが確認されており、快慶による典型的なスマートで静寂のある表現が美しい。とても洗練されている。快慶は重源上人と親密であったことが知られており、そばに置かれることになったのだろう。

 

重源上人の後の勧進職は、日本の臨済宗の開祖である栄西(ようさい)が継いでいる。勧進職はその後主に施設の維持管理の役職として継続され、東福寺開山の円爾(えんに)、弱者救済事業で知られる真言律宗の忍性(にんしょう)など様々な宗派の高僧がその職に就いている。東大寺の復興と経営は多様な人材によって支えられていたのである。

 

大仏創建・復興にかかわった偉人の像が今に伝えられていることは素晴らしい。年に2日しかないが、お会いするときっと心が豊かになれる。

 

 

日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんある。ぜひ会いに行こう。

 

 

重源とともに今に伝わる美を残した運慶・快慶を俯瞰する決定版

 

 

東大寺

http://www.todaiji.or.jp/

原則休館日:なし

※仏像や建物は、公開期間が限られている場合があります。

 

秘仏開扉 俊乗房重源上人坐像

http://www.todaiji.or.jp/contents/function/buddha2.html

 

 

 

 


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