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屏風はクール・ジャパンのさきがけ ~九州国立博物館「新・桃山展」

2017年11月22日 | 美術館・展覧会

九博の館内の大きい空間はゆとりがあって心地よい

 

 

九州国立博物館で近世の西洋・東洋文明と交流を始めた時代を物語る秀作で構成された「新・桃山展 大航海時代の日本美術」にようやく訪れることができた。2017年秋は京都国立博物館の「国宝展」に一級品が勢ぞろいしたが、「新・桃山展」にも素晴らしい作品が集まっている。

 

日本からの公式な遣明船の最後の正使となった禅僧・策彦周良(さくげんしゅうりょう)が残した記録が展示の最初に紹介されている。その記録には、大内義隆が明に献上するために狩野元信に発注した屏風についての記述がある。その屏風は現存しないが、最も近い作品として「四季花鳥図屏風」が展示されている。

 

白鶴美術館蔵の重文で、大きい障壁画としても映える狩野派様式を確立した元信の代表作の一つである。白鶴美術館でレプリカを見たことはあるが、本物は初めてだ。保存状態がよいのだろう、金箔と絵の具の発色の良さが、松・花・鳥の存在感をより生き生きさせている。背景の金地は雲のように立体的に描かれており、自然の空気感がきわめて上質に描かれている。

 

近年になって作者が判明したり、再発見された作品が出ていることも興味深い。大徳寺蔵の織田信長像は、近年の修理で信長三回忌に狩野永徳に発注されたことがわかったものだ。鋭気にあふれた顔ではなく、初老で静かに余生を送っているように描かれている。三回忌を取り仕切った秀吉の意向に想像が膨らむ。

 

戦災で焼失したと考えられていたものの所在が確認された狩野内膳の「南蛮屏風」は、展示期間中に訪問できなかったことがとても残念だ。しかし図録で見る限り、ほどよく金地で余白がとられておりとてもバランスが良い。日本で最も有名な南蛮屏風で、同じ内膳筆の神戸市立博物館蔵の重文作品に引けを取らないであろう。

 

他にも見応えのある作品は多い。九博蔵の重文「油滴天目」は椀内の点が細かく、清楚さが美しい。大阪東洋陶磁蔵の国宝に比べ、幽玄な魅力がある。

 

ポルトガル語で“ビオンボ”と呼ばれた「屏風」が、外国で制作された作品も面白い。メキシコ・ソウマヤ美術館蔵の「大洪水図屏風」は、描写はやまと絵だがモチーフはノアの箱舟だ。とてもたくさんのモチーフが詰め込まれた洛中洛外図を初めて見る時のように、しばし見入ってしまう。

 

日本美術が安土桃山時代にどのように世界と交流していったかが、とてもよくわかる展示だ。狩野永徳「檜図屏風」に加え、長谷川等伯「松林図屏風」が出展されている。外国人宣教師たちも少なからず、これら日本屏風を代表する作品を見ていたことが想像される。外国人にクール・ジャパンを最初に芽生えさせた日本文化のように思えてならない。「松林図屏風」は京博の国宝展との連続出展で品質維持が少し気になったが、主催者の特別な思いがあたのだろう。

 

九博は開館が2005年と新しく、建物が大きくて展示空間にゆとりがあることが、他の国立博物館と比べて際立っている。そのため常設展である「文化交流展示」も、九州が歴史的に歩んできたアジア・ヨーロッパとの交流をテーマに、少しずつ展示品を入れ替えながら興味がわくように展示構成されている。

 

東博のように、特別展に関連するテーマの特集展示が行われることもよくある。「新・桃山展」会期中には「〈新・桃山展〉の仲間たち」というテーマで行われている。九博の常設展はおすすめなので、特別展目当てに訪れた際も、必ず立ち寄ってほしい。

 

 

 

九博のまわりは四季の木々の彩りが美しい

 

 

日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんある。ぜひ会いに行こう。

 

 

展覧会公式図録、展示ストーリーや時代背景の解説がよくできている

 

 

九州国立博物館「新・桃山展 大航海時代の日本美術」

http://www.kyuhaku.jp/exhibition/exhibition_s49.html

http://shin-momoyama.jp/

主催:九州国立博物館・福岡県、西日本新聞社、TNCテレビ西日本

会期:2017年10月14日(土)〜11月26日(日)

原則休館日:月曜日

※展示作品は、展示期間が限られているものがあります。

※この展覧会に巡回開催予定はありません。

 

 

 


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