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京の冬の旅「妙覺寺」 ~京都の富裕な町衆に愛されてきた寺

2018年01月25日 | お寺・神社・特別公開


車寄せから見る外の光景が素晴らしい

妙覺寺(みょうかくじ)は、京都の北寄り、三千家が並ぶ寺之内エリアにある日蓮宗の寺院です。富裕な町衆の多くを檀家に持った寺で狩野一族の墓があります。また本能寺の変の当日に重要な歴史の舞台にもなりました。庭園の紅葉が美しいことから、近年は紅葉期に限って公開されるようになりましたが、今回の京の冬の旅では、伝・狩野元信の大涅槃図が登場します。上質な趣を漂わせる寺です。

妙覺寺は、日蓮から京都での法華宗布教を任された日像(にちぞう)が開山(かいざん、寺を開いた僧)です。鎌倉時代末期に日像が法華宗として最初に京都で開いた妙顕寺(みょうけんじ)から、後に分離しています。

京都では同じく日像を起源とする立本寺(りゅうほんじ)とともに、これら三ヶ寺の山号は共通して「具足山」です。さほど離れてもいません。そのため「龍華の三具足(りゅうげのみつぐそく)」と呼ばれ、親しまれています。

京都市内でも北寄りの上京(かみぎょう)と呼ばれるエリアは、伝統的に西陣の呉服商らに代表される富裕層が多く住み、法華宗が強いエリアです。応仁の乱の兵火や天台宗・浄土真宗との宗教間対立によって戦国時代に幾度も伽藍を失いますが、都度素早く再建されています。檀家に富裕な町衆が多く再建費用の捻出が早かったためです。

通常、寺の再興は公家や武家といった政治的権力者からの援助により行われるため、戦国時代は多くの寺の再興が遅々として進みませんでした。そんな時代にあって法華宗は、他宗から見ると垂涎の的でもありました。

こうした再建の速さに目を付けた武将が織田信長です。信長は20数回の京都滞在中、妙覺寺を18回宿舎にしていました。本能寺はたった3回に過ぎませんので、確率論から言うと「妙覺寺の変」になっていたはずです。歴史とは不思議なものです。

しかし本能寺の変の夜、妙覺寺には信長・嫡男の信忠が宿泊していました。知らせを聞いた信忠は、明智方との兵力差を冷静に判断して逃亡するのではなく、妙覺寺に隣接していた公家屋敷に立てこもります。しかし結局自害して果て、織田家は主人と嫡男を同時に失って事実上断絶することになります。

なお秀吉の都市改造で寺町と寺之内の2か所に寺が集約されたことに伴い、妙覺寺も本能寺も、本能寺変の後に現在地に移転しています。


狩野一族の墓

寺之内エリアの法華宗寺院は、京都の文化をリードした著名人の墓が多数あります。妙顕寺は日本最大の絵師集団・狩野派の二代目・正信以下一族の墓があり、参拝可能です。ちなみに妙顕寺には、塔頭内に尾形光琳・乾山の墓があります(参拝不可)。立本寺には、江戸初期の豪商で「天下随一の太夫」と謳われた吉野太夫を身請けした灰屋紹益(はいやじょうえき)の墓があります(参拝不可)。

京都の町衆の上流階級からの絶大な支持がよくわかります。


法姿園(写真は紅葉期)

妙覺寺の本堂は、天明の大火後の再建でまだ新しいですが、車寄せは立派なでとても上質です。車寄せ内部から見た外の光景はとてもカッコよく、寺というより上流階級の別邸への入口の趣です。

本堂から見る庭園は「法姿園(ほうしえん)」と呼ばれ、紅葉期以外にも四季折々の姿を楽しませてくれます。武家庭園のような勇壮さ、禅宗庭園のような神秘性を求めるのではなく、少人数で隠れ家で四季の花見をするにはちょうどよい大きさと趣です。とても清楚でもあります。

伝・狩野元信の大涅槃図は5mを超える大作です。釈迦の死を嘆く大勢の人々や動物が描かれており、アニメ作品のようにほのぼのとしながら見とれてしまいます。大涅槃図をモチーフにした限定クリアファイルも販売されています。宗教画なのですが、宗教画のように堅苦しくないのがこの絵の魅力です。

戦国から太平の世に変わっていく京都の街を見続けてきた上質な寺です。

こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。



本能寺の変で生き延びていれば歴史は変わった男の実像


第52回 京の冬の旅 非公開文化財特別公開 「妙覚寺」
https://www.kyokanko.or.jp/huyu2017/huyutabi17_01.html#11
主催:京都市観光協会
会期:2018年1月6日(土)~3月18日(日)
原則休館日:なし

※この寺は常時公開されていませんが、2016年から紅葉期に限って公開されています。
 2017年公開期間 11月1日(水)~30日(木)
※仏像や建物、展示作品は、公開期間が限られている場合があります。



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