鎧坂(よろいざか)を上がると金堂が見えてきます
毎年春恒例の室生寺・金堂の内陣公開がまもなく始まります。室生寺は奈良の山深いところにありますが、訪れる人は絶えません。平安前期の仏教美術の宝庫であり、四季の植物の移ろいを楽しめるスポットとして多くの人々に愛されているからです。
伽藍の配置も実によくできています。駐車場・バス停や昔の参拝道から寺に入るには、太鼓橋を渡ります。赤い橋を渡ることで訪れる者を、非日常の特別なところに足を踏み入れる気分にさせます。
再び真っ赤な仁王門をくぐると、空気が凛とした神聖なエリアに入ります。左手に石段があり、登っていきます。この鎧坂は、春はシャクナゲ、秋は紅葉がとても美しいところです。この見事な大自然の営みを楽しむために、春と秋に必ず訪れるリピーターも少なくありません。
石段を上っていくと、少しずつお堂が見えてきます。室生寺が誇る仏教美術の宝庫「金堂」です。平安時代前期・9世紀後半の国宝建築で、同じく国宝の五重塔に次いで古い建物です。1,000年以上この地に建ち続けており、とても風格があります。杮葺(こけらぶき)の屋根の質感が、まわりの木々の緑とよくマッチしています。紅葉の季節はなおさら美しくなります。
坂の途中にある金堂は、清水寺のように長い柱で床を支える「懸造(かけづくり)」
金堂内陣には、平安時代前期の密教の神秘的なオーラを発する美仏が勢ぞろいしています。
後列センターの中尊は国宝・釈迦如来です。高さ234cmと金堂の仏では最も大きく、肌の黒と衣の赤のコントラストもあって強い存在感を放っています。肌が黒いのは後世の漆による補修の影響ですが、赤い衣とのコントラストの違和感はありません。お顔がとても美男子です。衣のひだが肩から流れるように表現されており、ファッションセンスも抜群です。
【公式サイトの画像】 中尊 釈迦如来立像
後列左端の国宝・十一面観音は、中尊の釈迦如来と同じく平安前期の作品です。こちらは像全体に彩色が比較的残っています。装飾表現も豊かで、密教的な怪しい美しさを醸し出しています。お顔も女性的で、内陣では中尊と対照的なオーラを放っています
【公式サイトの画像】 十一面観音菩薩立像
内陣前列には重文・十二神将の内、十神将が並びます。金堂内陣公開時でも通常はしかおられません。未神と辰神の二神将は普段、奈良国立博物館に寄託されているためです。しかしまれに里帰りされて、十二神将揃っている時もあります。その年の干支が、未(ひつじ)と辰(たつ)の年に里帰りすることが多いようです。戌(いぬ)の今年2018年は勢揃いしません。
十二神将は薬師如来の守護神です。平安時代までは強面のお顔や姿が多いですが、鎌倉時代になると民衆への布教のため、表現が自由になりより親しみやすくなります。室生寺の十二神将は、そうした親しみやすい鎌倉中期の代表作です。
とてもコミカルで茶目っ気がある「丑(うし)神像」は、右手の二本指を自分の顔に向け指しており、写真撮影のポーズをとっているように見えます。普段は奈良博に寄託されている「未神像」は、左手を頬にあてて傾けた頭を支えており、まるで居眠りしているようです。後列の美仏の存在感とは対照的な、ほっとする親近感があります。
【公式サイトの画像】 十二神将
江戸時代に付け足された外陣(矢印から右側)
金堂は江戸時代までは、鎧坂から上がってくる途中から、内陣の美仏がよく見えたと考えられています。江戸時代に付け足された正面の外陣がなかったためです。隠してしまって残念にも思えますが、光を遮るようになるため、美術品としての保護にはよかったと思われます。江戸時代の先人の判断に感謝です。
室生寺金堂の釈迦如来・十一面観音が制作された平安時代前期は、天平期や鎌倉初期と並ぶ日本の美仏が多く残っている時期です。たくさんあるので、順を追って本章でご紹介していきます。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
土門拳の傑作・室生寺
室生寺
http://www.murouji.or.jp/index.html
原則休館日:なし
※文化財は、公開期間が限られているものがあります。
※金堂内陣は常時公開ではなく、例年1-2月、3-4月、10-11月のみ公開されます。
※すでに公表されている2018年の公開期間は、3月10日(土)~4月15日(日)です。
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