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三十三間堂 ~中世の超越的な美を今に伝える

2018年01月14日 | お寺・神社・特別公開

1,001体の仏をまつる巨大なお堂の外観は静寂に包まれる

三十三間堂は、世界的な観光地である京都の中でもトップクラスの人気を集めるお寺です。日本人の誰もが教科書で見覚えのある、無数の仏像が壮観に並ぶ姿はまさにここにしかありません。総計1,001体の仏像は1973(昭和48)年から毎年数十体ずつ修理に出されていましたが、昨年末の2017年12月にその修理がすべて完了しました。堂内に安置されるすべての仏像が、「修理中」の表示で欠けることなく、ほぼ半世紀ぶりに出揃うことになりました。

「三十三間堂」とは、柱の間の数で建物の幅を示す単位である「間」が通称になったもので、正式名称は「蓮華王院(れんげおういん)」です。「間」は建物によって幅が異なります。三十三間堂は33間で幅121mですが、参考までに東大寺・大仏殿は7間で57mです。

三十三間堂は、平安時代末期の1165(長寛2)年、大タヌキと呼ばれるように時の権力者を翻弄した後白河上皇の邸宅・法住寺殿の一角に、平清盛が献上・建立しました。現存するお堂は鎌倉時代1249(建長元)年に一旦焼失した後の1266(文永3)年に後嵯峨上皇によって再建されたもので、国宝です。洛中(京都市内中心部)では千本釈迦堂の本堂に次いで古い建築です。応仁の乱の他、幾多の戦災・火事を生き残ってきた強運の持ち主です。

ほぼ等身大の1,001体の千手観音「立像」は重要文化財です。この内、124体は火災時に救出された創建時の作品です。焼失後に再造された仏像の多くに作者である仏師の銘が記されており、運慶の孫の世代にあたる康円(こうえん)の銘も見られます。1,001体のカウントには含まれない本尊・千手観音「坐像」は国宝で、運慶の嫡男・湛慶が康円たち慶派の仏師を率いて完成させました。鎌倉リアリズム彫刻の全盛期の最後を飾る傑作で、湛慶らしい誇張することなく淡々とした表現が拝するものを惹きつけます。

【公式サイトの画像】 本尊・千手観音坐像、千体千手観音立像

縦方向に10段あるひな壇に横方向に100体ずつ騒然と整列する「立像」のお顔は、一見しただけではほとんど表情の違いは確認できません。中国・西安の兵馬俑の各体のように、一見して顔の違いがわかるものではありません。しかし表情の違いはともかく、各体の指や頭冠、衣の彫刻表現はとても繊細です。一体造るだけでも、途方もない時間と財力が必要なことは容易に理解できます。

貴族の間で死後に極楽浄土に行けることを願う阿弥陀信仰が根強かった時代でしたが、それにしても千体も作らせた時の後白河法皇や後嵯峨上皇ら権力者たちの感覚は、現代の私たちの理解を超越しています。現代ではどんな億万長者であってもこのような制作はしないでしょう。美は往々にして、超越的な営みがないと人々の心をとらえることはできません。この美の心理の究極の例が三十三間堂の千体仏なのです。

1,001体の「立像」は修理完成後の現在でも、正面に向かって安置されているのは厳密には995体です。5体は万が一でも何らかの災害で失われるリスクに備え、東京・京都・奈良の国立博物館に分散して寄託されています。1体は中尊を護るが如く中尊の真裏に安置されており、拝観順路の後半でひな壇の裏の通路を通る際に拝することができます。

千体仏を愛した後白河法皇は、三十三間堂のすぐ東隣にある御陵で永遠の眠りについています。御陵は、現在の三十三間堂や国立博物館、妙法院、智積院を含む広大な敷地に営まれた法皇の御殿である「法住寺殿」の中心に造られたものです。江戸時代までは当地で現存する法住寺が御陵を管理していました。

三十三間堂や法住寺は、800年前の平安時代末期に上皇の力が強かった中世の面影を今に伝える稀有なスポットです。800年という時間の価値をぜひ体験してみてください。

こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。



武士の世の幕を開けた二人の男の権謀術数の物語


蓮華王院 三十三間堂
http://sanjusangendo.jp/index.html
原則休館日:なし



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