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福岡 宗像大社_大陸との交流が封印された沖ノ島は素晴らしい世界遺産

2019年06月01日 | お寺・神社・特別公開

2017年に世界遺産に登録されたことが記憶に新しい宗像(むなかた)大社、なかなか機会がつくれませんでしたが、ようやく総社である辺津宮(へつぐう)を訪れることができました。神宝館(しんぽうかん)で展示されている沖ノ島の祭祀遺跡からの出土品の輝きと工芸の美しさには、まさに驚愕します。よくぞ作った、よくぞ残した、の一言に尽きます。

  • 宗像大社は伊勢神宮/出雲大社と並ぶ「道の神」の最高峰、大陸との航海の安全を司った
  • 出土品は大陸との交流が盛んだった古代の最先端文化を今に伝え、海の正倉院の呼び名にふさわしい
  • 出土品は8万点におよび、神宝館の展示は質量とも濃厚、古代史の博物館では日本最高峰


辺津宮の境内は伊勢神宮/出雲大社ほど大きくありませんが、道の神としてのパワースポット感はとても強いものがありました。古代からの信奉がしっかりと蓄積されていることを強く感じます。


拝殿手前の握舎の長い木の屋根がナチュラルで印象的

宗像大社の祭神は「宗像三女神」で、天照大神から大陸と結ぶ海の道に降臨して道中の安全を司るよう命じられた三人の女神です。朝鮮半島や大陸との交流は、始まった時期は決められないほどに古くから続いてきたと考えられ、宗像三女神の神話も自然発生的に現れてきたものでしょう。宗像三女神を祭神とする神社では他に、広島の厳島神社が知られています。

宗像大社は総社である辺津宮から一直線に、約10km沖合に浮かぶ大島の中津宮(なかつぐう)、さらに約50km先の玄界灘のど真ん中に浮かぶ絶海の孤島・沖ノ島の沖津宮(おきつぐう)の三社が並んでおり、宗像三女神がそれぞれ祀られています。沖ノ島のさらに145km先には釜山があり、対馬と並んで沖ノ島は、海上交通の重要なルート上にあることがわかります。

【世界遺産「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群公式サイト】 沖ノ島と古代祭祀

沖ノ島では古墳時代の4cから平安時代前期の10cまで大々的な祭祀が行われており、遣唐使廃止までの大陸との交流が盛んだった時期とほぼ一致します。沖ノ島は島全体が御神体とされ、上陸厳禁/女人禁制/男性も上陸前に禊/自然物の持ち出し一切不可、という厳格な掟が今も守られています。

この鉄の掟が沖ノ島の遺跡や自然を手つかずのまま保存することにつながりました。現在は神職一人が10日交替で奉仕しており、船舶の寄港も暴風時の緊急避難以外は認められていません。日本にはパワースポットなるものはいくつもありますが、沖ノ島はその究極です。


辺津宮大鳥居、麻生太郎元首相の曾祖父の寄進

辺津宮に到着すると最初に巨大な駐車場に驚かされます。巨大な理由はすぐにわかりました。交通安全祈願にマイカーのお祓いを受けに来ている人たちです。「道の神」の最高峰として船・鉄道・自動車とあらゆる交通安全を祈願する関係者が集まるようです。現在もタクシー車内で見かける自動車交通安全のお守りは、1963(昭和38)年に全国で初めて宗像大社で授与が始まったものです。

駐車場から本殿まではさほど距離はありません。本殿と拝殿は安土桃山時代に再建されたもので重要文化財です。拝殿の前の参道に「握舎」と呼ばれる木の屋根の回廊が設けられたため、拝殿を正面から見ることはできません。握舎の木の屋根はナチュラル感があって美しいことが印象に残ります。JR九州の特急列車の木目調の車内空間のようなぬくもりのある趣になっています。


本殿

続いて本殿の裏側に回り、高宮祭場/第二宮/第三宮に参拝します。高宮祭場(たかみやさいじょう)は、沖ノ島と並んで古代祭祀空間を今に伝える、全国でも稀有な社殿のない祭祀場です。宗像三女神が降臨した場所とあがめられており、現在も重要な儀式が行われています。祭りの時だけ神が降臨してくる御旅所のような、神秘性を強く感じさせる空間です。

【宗像神社公式サイト】 高宮神奈備祭(秋季大祭)

第二宮は沖津宮、第三宮は中津宮の分社です。辺津宮で宗像三女神すべてに参拝できるよう設けられました。社殿は伊勢神宮から移築されたもので、シンプルな神明造が、本殿とはまた違った聖なる場所であることを観る者に伝えています。


第三宮

神宝館は寺社のミュージアムとしてはとても巨大です。国宝に一括指定されている8万点もの沖ノ島の祭祀遺跡からの出土品を収容するためのもので、展示スペースも3フロアあります。

1954(昭和29)年から1971(昭和46)年まで、三次に渡る発掘調査で確認された出土品は、正倉院の宝物よりも格段に多種多様であることが特徴です。当時の人々が使っていたであろう、あらゆる道具や工芸品が沖ノ島に奉納されていたものと考えられます。

【宗像神社公式サイト 神宝館】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

1F入口では、とても小さいながらも圧倒的な輝きで人々を魅了する「金製指輪」に惹きつけられます。福岡市博物館の「金印」のように特別なオーラがあります。5cの朝鮮半島で造られた可能性があり、最高権力者クラスの人物が奉納したことは間違いないと思える精巧な細工が見事です。

三角縁神獣鏡は日本で最も保存状態の良い道鏡の一つで、神秘的な儀式で用いられていたことは想像に難くありません。勾玉のデザインもどれも素晴らしく、沖ノ島の神のために選りすぐった品であることが伝わってきます。

金銅製高機は織機のレプリカで、驚くほど精巧に造られています。古代の機織りの様子を見事に今に伝えてくれています。奈良三彩小壺は日本最古の釉薬で焼かれた陶器で、大和朝廷が国家祭祀のために製造したものと考えられています。三色のコントラストが実に優雅です。

質的にも量的にもたっぷりあります。神宝館だけで1時間以上時間を取ることをおすすめします。古代史では日本最高峰の展示です。


神宝館

神宝館には沖ノ島出土品以外にも歴代の信奉者による奉納品も収められています。日本海海戦の旗艦・三笠の羅針儀は、日本海海戦に勝利した東郷平八郎元帥が宗像大社の神のおかげと感激し、海軍省から奉納されたものです。そのため横須賀で永久保存されている三笠には羅針儀はありません。

現在の宗像大社はとても立派な境内になっていますが、それには隠れた寄進者がいます。出光興産の創業者・出光佐三(いでみつさぞう)です。大社に近くの赤間出身の佐三は、戦後に荒廃していた宗像大社に胸を痛め、境内の整備や沖ノ島の発掘調査に積極的に動きます。佐三は隠匿を好んだため、宗像大社に佐三の名前はほとんど出てきませんが、古き良きフィランソロピーを象徴する話です。


「世界遺産「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群」の魅力 公式 YouTube 動画

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


沖ノ島は謎の四世紀にどんな存在だったのか

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<福岡県宗像市>
宗像大社 辺津宮
【公式サイト】 http://www.munakata-taisha.or.jp/

神宝館
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~16:00

※公開されていない美術品があります。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
※境内の拝観には条件はありません。いつでも無料で拝観できます。



◆おすすめ交通機関◆

JR鹿児島本線「東郷」駅下車、大社口から西鉄バスに乗り換え「宗像大社前」下車、徒歩1分
九州道「若宮」ICから車で20分、「古賀」ICから車で25分

JR博多駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:60分
博多駅→JR鹿児島本線快速→東郷駅→西鉄バス「神湊波止場」行→宗像大社前

【公式サイト】 アクセス案内

※バスは本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。
※この施設には無料の駐車場があります。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。


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