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先人たちの努力が今の風情をつくった ~保津川下り

2017年02月18日 | 体験・イベント

保津川下りの舟

 

京都の魅力といえば、寺社や街並みなど1200年の歴史を感じさせる風情がまずあげられるが、都市の近くで山や川の自然の恵みを巧みに活かした鑑賞や体験ができることも見逃せない。三方を山に囲まれた盆地であるがゆえに、京都はこうした体験ができる。東京や名古屋のような大きな平野の中心にある都市ではなかなか難しい。

 

都市に近い自然体験の代表例が嵐山だ。平安時代から貴族の別荘地として知られており、四季を通じて山と川の絶妙のバランスが生み出す美しさを五感で味わうことができる。

 

嵐山を優雅に流れる川は大堰川(おおいがわ)。この川、実は流域によって名前が変わることでトリビアとして知られる。大堰川は渡月橋付近だけを指し、嵐山付近より上流の亀岡までは保津川(ほづがわ)、嵐山から下流は桂川(かつらがわ)と呼ばれる。

 

保津川は、平安京の頃から都に木材や産物を運ぶ物流ルートで。天龍寺や伏見城の造営に用いる材木がここを通って運ばれたと言う。江戸時代初期には、都の豪商であった角倉了以(すみのくらりょうい)によって開削され、舟運がよりスムースになった。しかし明治になって鉄道(現JR山陰本線)が開通すると物流は下り坂になり、変わって観光客相手の川下りが行われるようになった。

 

大正から昭和にかけては外国人観光客の間でが、京の街から人力車で亀岡まで行き、嵐山までの川下りを楽しむのがブームになった。英国人写真家が詳しく紹介したためで、英国皇太子や昭和天皇も川下りを楽しんだという。

 

現代の保津川下りも外国人観光客には大人気だ。多くの人がJR嵯峨嵐山駅からトロッコ列車に乗って亀岡まで行き、保津川下りで嵐山まで戻ってくる。トロッコ列車は、渓谷を縫うように走っていたJR山陰本線が新線に付け替えられた後の旧線を利用したもので、迫りくる木々と豊かな表情を見せる渓谷の岩々を存分に楽しむことができる。スピードも時速25kmほどなので写真も撮りやすい。

 

トロッコ列車

 

 

保津川下りは16kmと長く、約2時間、川と渓谷の静と動を存分に楽しめる。川幅が細く高低差があるところは急流で船がジャンプすることもある。水しぶきも少しは降りかかるが、それもすがすがしい。川幅が広いところでは、まわりの木々や自然の造形美に見事な岩々、崖を縫うように走るトロッコ列車、川をまたぐ橋をトンネルから出てきた特急列車が疾走する姿など、実に見応えがある。

 

終点の嵐山に近づくと、3艘ほど小舟が川面をゆらりと泳いでいるのが目に入る。この小舟、実は飲み物やつまみを売っている売店で、船旅にもそろそろ疲れてきたかと感じる頃に絶妙のタイミングで現れる。おでんや和菓子などメニューも豊富、舟遊び気分を最後に盛り上げてくれる。

 

角倉了以は、鴨川のそばを流れる高瀬川を開削したことでも知られる。川奉行として江戸幕府からも見込まれ、富士川や天竜川の開削も行った。保津川も高瀬川も、江戸時代は物流の大動脈、大正以降は観光のキラーコンテンツとして京の街を支え続けている。

 

安土桃山時代から江戸時代初期は、戦乱からの復興のため、空前の土木・建設工事ラッシュだった。秀吉による京都の寺の鴨川西岸への集団移転、家康による江戸の街づくり、大名による城郭や天守閣造営、豊臣・徳川の援助による寺社の復興、大阪の道頓堀川掘削、など現代にも残るものは数多い。

 

こうした需要に応えるべく、角倉了以のほか、加藤清正や藤堂高虎など築城の名手、庭づくりの小堀遠州、江戸城・知恩院・日光東照宮などの大工棟梁の中井大和守といった各分野のスーパースターが続出した。鎌倉初期の南都の寺の復興に慶派仏師のスーパースターが活躍したのと同じような状況だ。

 

保津川を下った船は、現代ではトラックで乗船地まで回送されているが、1949年までは船頭が川岸を歩いて船を引き上げていたと言う。大名や豪商から船頭まで、多くの先人の不屈の精神が、かけがえのない日本の魅力を今に伝えている。

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

 

 角倉了以・素庵親子による執念の保津川開削物語

(幻冬舎ルネッサンス)

 

 

休館日 年末年始(例外が発生する可能性もあるので訪問前にご確認ください)

公式サイト https://www.hozugawakudari.jp/

 

 


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