まもなく色づき始める室生寺の紅葉
室生寺は、とても山深いところにある。歴史を重ねてきた堂宇と季節の植物の距離は近く、両者の色のコントラストが美しい。まもなく始まる紅葉は、そのコントラストが1年でも最も美しい時期でもある。
室生寺は、仏教美術の宝庫でもある。境内の堂宇の多くは国宝で、その中におられる仏様も多くが国宝だ。仏教美術と自然美の双方を満喫できるお寺としては、日本でもトップクラスだろう。
今では整然と美しい室生寺も元禄時代まで永らく荒廃していた。今のように美しく蘇らせたのは徳川幕府5代将軍綱吉の母・桂昌院だ。寺の代名詞である「女人高野」も、この頃に興福寺の支配から独立して真言宗となったことで知られるようになった。
桂昌院は我が子・綱吉に与えた影響を政治的にはマイナスに語られることも多いが、多くの奈良や京都の寺にとっては絶大な救世主でもある。わが子綱吉の世の泰平を願って仏道への帰依を強め、各地の寺社の復興に尽力した。奈良では東大寺大仏殿の再建、法隆寺・唐招提寺・室生寺の修理、京都では善峯寺・南禅院・清涼寺の再興、江戸では護国寺の建立と、幕府財政を傾かせたと言われるほどの膨大な寄進や援助を行った。その“散財”が、今となってはかけがえのない日本文化の遺産として輝いている。
仁王門を通って、鎧坂(よろいざか)の石段を上がると金堂が少しずつ見えてくる。平安時代前期の国宝建築で、内陣にはこの寺を象徴する美仏の「国宝・十一面観音立像」「釈迦如来立像」がいらっしゃる。
下から見上げて美しい五重塔は山に建つ室生寺ならでは
金堂の上には本堂の国宝・灌頂堂があり、さらに上には日本で法隆寺に次いで古い、平安時代初期の国宝・五重塔がある。高さが16mしかなく、横から見ると小さく感じるが、下から見上げると小さいというよりもすっきりしたデザインが印象的だ。見る角度によって実に多様な表情を見せる。木々や花とのコントラストが美しく、室生寺で一番のカメラ・スポットだ。
室生寺は、境内も仏様も、女性的な優しさがある。山に建っているが上り坂はきつくない、五重塔はコンパクトでスマート、仏様の表情は女性的、何より季節の植物が美しい。こうした寺のデザインが女性に人気がある所以だろう。
紅葉時期の虚無僧による尺八の音色が寺の美しさをさらに増す
日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。
「ここにしかない」名作に会いに行こう。
自然・文化双方の世界遺産の写真が美しい三好和義による室生寺ワールド
室生寺
http://www.murouji.or.jp/index.html
原則休館日:なし
※文化財は、公開期間が限られているものがあります。
金堂内陣は常時公開ではなく、おおむね1月、3月、10-11月のみ公開