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スケッチブック

写真と文章で、日常を記録に残す

ショートショート 3

2005-09-02 16:11:42 | Short shorts
小さな花
原作:James McCulcheon
翻訳:polo181
※ これは1935年に起きた実話です。中心人物は英名で表記します。

Fiorello LaGuardiaは世界大恐慌やそれに続く第二次世界大戦当時にニュウヨーク市長を務めていた人物です。彼の身長はわずか155㎝しかなく、左胸にはいつもカーネーションを付けていたので、彼を敬愛するニューヨーカーから”小さな花”と呼ばれていました。彼は多彩な性格の人で、自ら市の消防車を運転して消火活動に参加したり、警察官と一緒に不法酒場を急襲したり、市内の孤児を全部球場に招待したり、はたまたN.Y.の新聞がストライキで休刊したりすると、みずからラジオ局に乗り込んでマイクを持って愉快な話を喋り続けたりしました。

1935年の一月、あるとても厳しい寒さの夜に、市長は市内で最も貧しい人たちが住む地域の夜間審判署に出かけました。そしてLaGuardiaさんはその夜の判事を家に帰らせて自ら審判席に座りました。しばらくすると、ボロボロの衣服を着た老いた女性が彼の前に連れてこられました。罪状は食パンを盗んだとのことでした。聞き取り調査の結果、彼女は夫に逃げられ、病身の娘を抱えて働きにでられず、おまけに腹を空かせた孫が二人家で待っていることが分かりました。でも、パンを盗まれた店主は「こいつは泥棒野郎で、この地域に住む人たちへの見せしめの為しかるべく罰すべきだ」と申し立てて、訴状を引き下げませんでした。

LaGuardiaさんは、深いため息をつきました。彼はその女性の方を向いてこう言い渡しました。「残念だけれど、私は貴女を罰しないわけにはいかない。法を曲げることはできない。この場合、10ドルの罰金か10日間の拘留となる。」と言い渡しました。しかし判決を言い渡したにもかかわらず、彼はポケットから10ドル紙幣を取り出し、それを彼お好みのカウボーイハットに入れて並み居る人々にこう言いました。「これは私の心からのカンパだ。飢えた孫の為にパンを盗まねばならないほど貧しいのは、私たちの側にも責任がある。どうかみなさん、一人50セントをカンパしてくれないだろうか。」 そして、その帽子は人々の手から手へと回ってゆきました。その帽子が、LaGuardiaさんの手元に戻ってきたときには、47ドル50セントのお金が入っていました。もちろんあの赤ら顔のパン屋もカンパをしたのでした。

このことが、次の日の新聞で大々的に報じられて、すべてのニュウヨーカーの知るところとなりました。議場に現れたこの市長に向かって、議員のすべての人が立ち上がって惜しみなく拍手を贈ったのでした。

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10 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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傍観者は・・・ (じゃこしかです)
2005-09-02 16:59:20
 この翻訳作品は、昨日の話に似てとても良い話です。他人の痛みを己のものとしての思い遣りは、今最も必要なものです。この市長さんの行いは義務からでは無くて人間性の表れでは無いかと思います。

 今の世の中、他人の痛みなどは見て見ぬふりを決め込むどころか、一切顧ない傍観者の何と多いことか、poloさんのこのブログ多くの方々に読まれて欲しいものです。
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私も拍手 (あまもり)
2005-09-02 20:04:04
ヴェニスの商人のような展開になるのかと思っていましたが、現実の話には人情がありますね。

(ヴェニスの商人にはユダヤ人差別があるような気がします)

日本にも欲しいですよね、小さな花の市長さん。



poloさん、楽しいですよ。負担にならない程度で続けてほしいです。
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じゃこしかさん、こんばんは (polo181)
2005-09-02 20:59:08
コメントを有難う。そうですね、思いやりの無い人が多すぎますね。みな自分の利益ばかり考えて互助精神に欠けています。戦後この方、経済の成長ばかり考えて、人の精神面の充実を置き去りにしてきました。それの、つけが今出てきているのだと思います。総選挙が近い。本当に私たちの為に働いてくれる人を国会に送りたいですね。
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あまもりさん、こんばんは (polo181)
2005-09-02 21:05:49
コメントを有難う。この市長さんはかなり知られた人らしくネットで探せば色々出てくると思いますよ。このような人に政治を任せたいな。選挙の時にはぺこぺこ頭を下げて、いざ当選すると威張り散らすオッツアンは退場して欲しい。みんな騙されないようにして、大切な一票を投じて欲しいものです。時々、翻訳物も出しますね。
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いい人ですね (熊子)
2005-09-02 21:29:05
この老婆はラッキーでしたね。こうした貧困層の人が居ない世の中にしたいですね。読んでいて、一休さんの話を思い出しました。飢饉に喘ぐ民衆。オニギリを持っていた一休さんは、お腹を空かした子供に上げようとした、でも、、。飢えているのは、その子だけではなくて、大勢の人々、一人にだけ上げれない、その場限りでは、さらに残酷、、考えさせられた話でした。私もね、職業上、偏らない対応を心掛けますが、情に流されやすくて、強い心をもとうと何度も思う場面があります。その場限りの同情や温情は、かえって酷な結果にもなります。日本は保護法がありますね。高齢者層には感謝されますが、反対に働かないヤカラをも作り出す。ポロさま、難しいね。
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熊子さん、こんばんは (polo181)
2005-09-02 21:44:50
コメントを有難う。すべての貧しい人を助けるのは不可能ですね。だからといって、無為無策はいけません。できることから着々と進めるべきですね。ご老人は、心の中はとても淋しい。「世間の厄介者で、ただ死ぬのを待つだけの存在」だと、自らの心の中で堂々巡りをさせています。言うまでもなく、熊子さんは分け隔てなく優しくしてあげていることでしょう。働かない輩は、「・・者、食うべからず」ではなくて、働く意欲を出すよう叱咤激励すべきでしょうか。本当に難しい。
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例の親子の、その後の結果 (再度、熊子)
2005-09-02 22:22:20
母親の決心が、怠情な息子の働く意欲に変わりました。親子にとっての引き離しは酷でしたが、60歳の息子さんにとっては、やっと自立の道を選んだケースでした。親の子への心の依存は、子の前に壁をも作る。親って、読んで字の如し、木の上で立って見る、、こう強くありたいですね。
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大岡裁き (かと)
2005-09-02 22:42:46
三方1両損と趣が似てるかな。

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熊子さん、こんばんは (polo181)
2005-09-02 22:56:02
コメントを有難う。そのように、一人でも救ってあげれば、確実にその家族は幸せになりますからね。とても大切なことだと思います。一人でもいい二人でも良い、徐々に進めてゆけば、大きな数になりますね。(゜ー゜)(。_。)ウンウン 木の上に立てば良く見えますね。その高い見地から子を育てるといい。
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かとさん、こんばんは (polo181)
2005-09-02 22:58:58
コメントを有難う。似ているかどうかは知りませんが、この市長は実在の人物で、大きな業績を残した人です。
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