「時間には始まりがあると一つの方程式で証明することができたら、素晴らしくないですか?たった一つのシンプルでエレガントな方程式が全てを証明できたなら」
そう言うのは、ケンブリッジ大学にて理論物理学を研究するスティーヴン・ホーキングだ。彼は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)で余命2年と宣告されるが、闘いながら時間の誕生について研究を進めていた。
「時間を巻き戻せ!」
スティーブンはパーティで出会った中世詩を学ぶジェーンと恋をした。
余命2年と宣告されたとき、彼女は会いにきてくれた。そして、「愛している」と伝えてくれた。2人は、お似合いのドレスとタキシードを纏って、家族になった。
ある晩、教会の聖歌隊で出会ったジョナサンを食事に招いて、ジェーンはフォークで豆を刺しながら言った。
「彼(スティーブン)は宇宙の全てを説明する理論を研究しているの。そして神は否定される。
物理学の2大柱の一つは豆。
豆は量子論素粒子や電子などミクロな世界を扱うもの。一方、ポテトは相対性理論。惑星などマクロな世界を扱うもの。
量子論と相対性理論はまったく論理が異なるわ。もし世界がポテトだけなら簡単よ。
彼の論文のように、宇宙の始まりまで遡れる。創造の瞬間、ハレルヤ、神は存在する。
…でも、豆の理論で考えるとなると」
「逆さま。神のいない混乱」
ジェーンとスティーブンが続け様に言うのを聞いて、ジョナサンは「神様がうまくやってくれるよ」とだけ伝え、
時にはスティーブンの介護、時には子供たちの父親として、スティーブン家の、ジェーンの助けになろうとしてくれた。
「…時間だけが答えてくれる。全てうまくいくよ。」
「あなたを愛したわ。最善を尽くしたのよ」
そう告げあったスティーブンとジェーンの
お互いの愛によって、時間は証明された。
2人は勲章を手に、
「見ろよ我々がつくりあげたものを」
と、庭で駆け回る子供たちをみつめた。
(ALS)と闘う現実と、その現実に向き合いお互いを思いやる懸命な2人に、心を動かされました。愛していることと愛していたことは違っているということ。「時間だけが答えてくれる。」その言葉が駆け巡るような、そんなお話でした。
主演映画の授賞式、大人になったナツメは段に上がりそつなくスピーチをした。
私が認められるたび、いつも心でささやく、みんな知らないでしょ?こうちゃんはもっとすごいんだよ。私の神さん。ああまるであの頃の全能感が蘇ったかのよう。そう、そんなことを本当は考えながら。
コウを想うと、ナツメは呼吸ができた。
時を戻して15歳の夏、東京での芸能活動をやめ、おじいちゃんのいる田舎の中学に転校したナツメは、クラスのみんなから好奇の目で見られていた。だが、金髪の少年は窓の外を見ていた。そしてしばらく経って目が合って少し逸らした。それがコウだった。
2人の出会いはナツメが越してきてすぐ、立ち入り禁止と書かれた海に入る、まるで光のように輝いた少年を見つけたことが始まりだった。「神さんを信じてないの?」「誰にも言うなよ」その海に入ると良くないことが起こると有名だった。
2人はまるで鏡合わせのように似ていた。ただ、2人はお互いに絶対に届かない存在であった。
後に主演映画を撮ることになる有名な写真家の目に、ナツメが映った。写真集を作ることになった。写真家は、ナツメを見て、君はカメラの前じゃないと呼吸できないんだね、ナツメちゃんさ、いい写真とって遠くまでいってみようか。とこぼした。
「本当は私すごいでしょ!あんたに見せつけたかった。…でも、なんかそれ、私じゃないみたいなんだよね、鏡見てもこんな女の子いないの」
出来上がった写真集をコウに見せて呟くナツメに対し、「お前、いつもこういう目で俺のこと見よるで」と答えた。
「私、コウちゃんのこと怒らせたり勝ったりすれば少しは近づけるかなぁって…」そう俯くナツメに、コウは今度はジュースを差し出した。
開けたら、炭酸がはじけてこぼれた。コウはそれごとすくうように、ナツメにキスをした。
火祭りの日、悪質なファンにナツメはさらわれてしまう。でも、コウは見つけ出すことができた。ただ、コウには助けるだけの力がなかった。
ナツメは16歳になった。
「私には力がないの」
ナツメにとって悲劇的で無気力な時間を支えてくれたのはオオトモという同じ中学から進んだ男友達だった。
でもオオトモはナツメのことをそうとは思っていなかった。オオトモは椿の花をくれた。ナツメは9本の指には深い海のような藍色を、そして1本は椿のような紅色のペディキュアをした。
「ナツメ、初めて会った時、光って見えたわ」
「私はコウちゃんといたいよ。」
「ナツメ、遠くに行けるのがお前の力じゃ。どこにいたってお前は綺麗じゃけの。おれはよ。お前に何もしてやれんのじゃ。誇り高くおりたかったわ。お前が望んだみたいによ。
」と言って、あの火祭りの日のように泣いたのはコウとだった。
ナツメの指は、10本全て青く染まっていた。
ナツメは東京に戻り、主演映画に出ることに決めた。
「コウちゃん私が前に進む限り、コウちゃんの背中が見えるよ。思い出す。コウちゃんをずっと思い出すんだよ。わたし、あいつが死んでくれてせいせいしたの。一生解けない呪いでも…」
「何も気にせんでええ。お前はお前の武器で天下とるところをおれに見せてくれや。ずっと見とるけの。」
「この海も山もコウちゃんのものだ。わたしもコウちゃんのものなんだ。」
ひとみ まなこ
強がり 泣き虫
思い出 瞬き
慈しみ 閃光
あなた なつめ
まるで結婚式に向かうような、そんな花束をたくさん乗せたバイクに乗って、2人は互いにそう叫んだ。
コウちゃん元気でね。
見ていてね。
神さん。私の神さん。
青春の閃光のような一瞬一瞬を切り取った作品で、見ていて疾走感がありました。
菅田将暉さん演じるコウの表情がどこまでも鋭く光っているように見え、そして、小松菜奈さんの華やかな出立が光を灯しているようでした。
お互いがライバルや親友のような、共犯者のような、かと思えば恋人のような…
形にできないものが、この映画と10代に詰まっていました。まさに、身体を貫くような眩い閃光のようでした。

かけ声が広がる校庭から離れ、教室でうつ伏せに眠るのはタチバナアキラだった。
クラウチングスタートから勢いよく飛び出し、晴天の坂道を颯爽と駆けた。ただ、おぼつく足がアキラの足を引っ張って坂を転げ落ちて…でも、これは夢だった。
「申し訳ございません」と日々頭を下げる店長がいるファミレスで、アキラはアルバイトをしていた。アキラはそんな店長のことが好きだった。だが、多くのシフトを希望するアキラに「何か欲しいものでもあるの?」と聞く店長は、まっすぐ見つめるアキラの気持ちに気がついていなかった。
アキラはとても優秀な陸上の競技者であった。だが、アキレス腱断絶という大きな障壁ができてしまっていた。しばらく走れないとの診断に途方に暮れた帰り道、アキラは引き寄せられるようにふと近くのファミレスに立ち寄った。
するとアキラの前には頼んでもいないコーヒーが置かれ、「あれ?ブラック苦手だった?」と続け様にマジックでクリームを出して見せられた。外は土砂降りの雨だった。だが店長は「きっとすぐやみますよ」とそう一言伝えた。
思い出せば、アキラがそのファミレスでバイトを始めたのもそんな店長に出会ったからだった。その日、アキラは雨を眺めて初めてちゃんと泣くことができた。
そんな出会った頃の土砂降りのような日に、店長はアキラから告白を受ける。だが、まさかこんなバツイチ子持ちの冴えないおじさんに…と店長は困惑し返せる言葉がなかった。
「いわば、どうにもならないことをどうにかしようとして、取り留めもない考えを辿りながら、さっきから朱雀大路の降る雨の音を聞くともなく聞いていたのである。」
そんな国語の時間には、アキラは店長との相合傘を教科書に描いた。
バイト先の人に店長のことが好きだとバレてしまい、そこからデートをとりつけられてしまった時には、アキラはお洒落をしていかなかった。
ただ、店長と半ば強引にとりつけたデートには、とびきりのお洒落をしていった。
そして店長はよく通っている図書館に連れていってくれた。
そして、「タチバナさんが今日ここに来たということはどこかにタチバナさんを呼んでいる本があるはずなんだ。それはきっと今のタチバナさんに必要な本なんだよ。」と、そう伝えた店長は、小説家で旧友の新書を、アキラは陸上の本を手に取っていた。
土砂降りの日、店長は純粋でまっすぐなアキラの恋心をかけがえのない感情でありそして感謝していると伝えた。また、今月のシフトも、来月も再来月も入らなくていいよ。と、背中を押す友達のように応えた。
その後、陸上部に復帰したアキラはランニング中に店長と久しぶりに会った。
涙を堪えながら、「友達だったら普通メールとかすると思うんです。私、店長とメールしたいです!」と伝えた。
そして、店長はハハっと笑って応えた。その日はもちろん雨上がりの晴天だった。
大泉洋さんが表情に出せない店長の些細な心の動きを丁寧に演じられていてその気持ちにとても共感が持てました。そして小松菜奈さんの真っ直ぐで純粋なアキラが、ずっと追っていたくなるような気持ちにさせてくれていました。夢を諦めきれない2人が、鏡合わせのようにお互いを見つめ、知る、そんな、とても素敵な映画でした。
始まりに、柔らかな題名とポスタービジュアルとは裏腹に、手に滴る血を舐め横たわった男が映った。そして、「大切な人を失っても人はまた愛することができるのでしょうか?」とだけ、語りがあった。
一転、時を戻して、主人公のカンナとハルタという幼馴染が映し出され、駆け出した2人の15歳が始まった。
入学し、新しいクラスに馴染めないカンナは、同じく窓の外をぼーっと眺めるアサミに話しかけた。するとカンナの頭を目指してボールが飛んできては「ごめん、手が滑った」とアサミと同じ中学出身であるマヤから声がした。しかし、すかさずハルタがマヤへとボールを飛ばし、それを皮切りにマヤとハルタの取っ組み合いが始まってしまった。男の子は分からん方式で仲良くなるとカンナは呟き、気づけば4人の高校生活が進んでいった。
ハルタとカンナはお互いが一番大切で好きだった。幼馴染からか遠慮もなくカンナの部屋に野良猫のように来ていたハルタは、いつからか野良猫のようにカンナにキスをした。カンナは「くるならメールしてよ」と言いながら、でも、それでも2人は幼馴染だった。ただ、2人は2人が一番好きな人なのだと、わかっていないふりをしているしか、わからなかった。
ある日、マヤが2人きりカンナを花火大会に誘った。カンナは、ハルタが見たいと言っていた浴衣を着て、慣れない足取りでマヤの待つ花火大会に向かっていた。
だが、突然だった。ちょうどその頃ハルタは事故に遭い一瞬にして帰らぬ人となってしまっていた。携帯をいじっていた。残された履歴はカンナへのメールだった。
一言、「いくよ。」と書いてあった。
8年後、ひょんなことからロクという男と出会うが、これが最悪か最良か。だが、カンナにとって大きな出会いとなったのだった。
掴みどころがなく飄々としているロクを岡田将生が柔らかい空気感でそつなく演じきっていた。また、ロクと関わることで、封印していた過去の時を戻し、少しずつ進ませていく、長澤まさみの表情や佇まいは圧巻であった。
「ひとつ違えば違う言葉を返すでしょ?少しずつずれができて違う未来になる」
ロクは小学生の頃、自分を好きになってくれた子を乱暴にも突き飛ばしてしまったことがあった。そのせいでその子は事故に遭ってしまう。
カンナとロクは互いに自分を重ね、置いてけぼりの自分にその度に気付かされ、思い出し、苦悩し、だが共に前に進むのであった。
そして、携帯電話に残された「いくよ。」の一言には、ハルタのどうしても言えなかった、好きだ。大切なんだ。という、えもいわれぬ想いが目一杯に詰まっていたと知った。
斉藤和義のかげろうがぴったりとはまり、
2人が時間をもどしては進めていく様が思い起こされるラストであった。それは清く柔く。