sumire日記

映画・本の感想、レビュー、趣味のタロット占いをしていきたいと思います!

溺れるナイフ

2020-05-11 17:30:00 | 日記

主演映画の授賞式、大人になったナツメは段に上がりそつなくスピーチをした。

私が認められるたび、いつも心でささやく、みんな知らないでしょ?こうちゃんはもっとすごいんだよ。私の神さん。ああまるであの頃の全能感が蘇ったかのよう。そう、そんなことを本当は考えながら。

コウを想うと、ナツメは呼吸ができた。


時を戻して15歳の夏、東京での芸能活動をやめ、おじいちゃんのいる田舎の中学に転校したナツメは、クラスのみんなから好奇の目で見られていた。だが、金髪の少年は窓の外を見ていた。そしてしばらく経って目が合って少し逸らした。それがコウだった。


2人の出会いはナツメが越してきてすぐ、立ち入り禁止と書かれた海に入る、まるで光のように輝いた少年を見つけたことが始まりだった。「神さんを信じてないの?」「誰にも言うなよ」その海に入ると良くないことが起こると有名だった。

2人はまるで鏡合わせのように似ていた。ただ、2人はお互いに絶対に届かない存在であった。


後に主演映画を撮ることになる有名な写真家の目に、ナツメが映った。写真集を作ることになった。写真家は、ナツメを見て、君はカメラの前じゃないと呼吸できないんだね、ナツメちゃんさ、いい写真とって遠くまでいってみようか。とこぼした。


「本当は私すごいでしょ!あんたに見せつけたかった。…でも、なんかそれ、私じゃないみたいなんだよね、鏡見てもこんな女の子いないの」

出来上がった写真集をコウに見せて呟くナツメに対し、「お前、いつもこういう目で俺のこと見よるで」と答えた。

「私、コウちゃんのこと怒らせたり勝ったりすれば少しは近づけるかなぁって」そう俯くナツメに、コウは今度はジュースを差し出した。

開けたら、炭酸がはじけてこぼれた。コウはそれごとすくうように、ナツメにキスをした。


火祭りの日、悪質なファンにナツメはさらわれてしまう。でも、コウは見つけ出すことができた。ただ、コウには助けるだけの力がなかった。


ナツメは16歳になった。

「私には力がないの」

ナツメにとって悲劇的で無気力な時間を支えてくれたのはオオトモという同じ中学から進んだ男友達だった。

でもオオトモはナツメのことをそうとは思っていなかった。オオトモは椿の花をくれた。ナツメは9本の指には深い海のような藍色を、そして1本は椿のような紅色のペディキュアをした。


「ナツメ、初めて会った時、光って見えたわ」

「私はコウちゃんといたいよ。」

「ナツメ、遠くに行けるのがお前の力じゃ。どこにいたってお前は綺麗じゃけの。おれはよ。お前に何もしてやれんのじゃ。誇り高くおりたかったわ。お前が望んだみたいによ。

」と言って、あの火祭りの日のように泣いたのはコウとだった。

ナツメの指は、10本全て青く染まっていた。


ナツメは東京に戻り、主演映画に出ることに決めた。


「コウちゃん私が前に進む限り、コウちゃんの背中が見えるよ。思い出す。コウちゃんをずっと思い出すんだよ。わたし、あいつが死んでくれてせいせいしたの。一生解けない呪いでも

「何も気にせんでええ。お前はお前の武器で天下とるところをおれに見せてくれや。ずっと見とるけの。」


「この海も山もコウちゃんのものだ。わたしもコウちゃんのものなんだ。」


ひとみ まなこ

強がり 泣き虫

思い出 瞬き

慈しみ 閃光

あなた なつめ


まるで結婚式に向かうような、そんな花束をたくさん乗せたバイクに乗って、2人は互いにそう叫んだ。


コウちゃん元気でね。

見ていてね。

神さん。私の神さん。



青春の閃光のような一瞬一瞬を切り取った作品で、見ていて疾走感がありました。

菅田将暉さん演じるコウの表情がどこまでも鋭く光っているように見え、そして、小松菜奈さんの華やかな出立が光を灯しているようでした。

お互いがライバルや親友のような、共犯者のような、かと思えば恋人のような

形にできないものが、この映画と10代に詰まっていました。まさに、身体を貫くような眩い閃光のようでした。