sumire日記

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存在のない子供たち

2020-05-17 15:45:00 | 日記
「そばに大人はいる?ゼイン」
「警官がいる」
「警官?どこから電話しているの?」
「少年刑務所から」

児童虐待を取り扱う生放送番組に電話をかけたのは12歳の少年ゼインだった。

「なぜ電話をくれたの?望みは何?」
「両親を訴えたい」

「生放送だよ。言いたいことは?」
「大人たちに聴いて欲しい。
世話できないなら子供を産むな。
僕の思い出はけなされたことやホースやベルトで叩かれたことだけ。
ひどい暮らしだよ。なんの価値もない。」

ゼインは悲しんではいなかった。怒りに満ちていた。ゼインの両親は出生届を出さず、ゼインを学校にも通わせずに労働力としか思っていなかった。そう思うしかなかったのかもしれない。
ゼインは存在がない子供だった。
ゼインの叫びは、そんな状況を生み出した社会に対する怒りでもあった。

ゼインには沢山の妹や弟がいた。その中でも、一つか二つ歳の離れたサハルと仲が良かった。
だが、サハルは売られるように結婚させられてしまう。そして、あまりにも早すぎる妊娠をして帰らぬ人となってしまったのだった。
ゼインはサハルの旦那を刺して、家を出た。そして遊園地に向かうある老人に惹き寄せられるように、気づけば新しい街に来ていた。その街は、一番安いご飯がゼインの僅かながら持つお金では買えないところだった。仕事を探すも、ゼインは子供として扱われた。ある意味、初めてきちんと子供として扱われたのである。ゼインは戸惑いと共に観覧車に乗った。だが一周を大きく回るだけだった。

そんな突然の訪問者を迎え入れたのは、その遊園地で働くラヒルであった。ラヒルは身分証を偽造し不法移民としてシングルマザーを送っていたのであった。
だがある日、ラヒルは捕まってしまう。ラヒルの家で平穏な日常を送っていたゼインはラヒルの子のヨナスを連れてそれから懸命に生きようとした。

子供の働く闇深い市場で、花を売るある女の子に出会った。「通りかかった女の人が指輪をしていたらあなたとご主人に神の祝福を。って言うの!指輪がなければ、いい男性が現れますようにって言う!…わたしは、スウェーデンに行くよ!」と一言ゼインに伝えた。彼女の言葉が、社会を物語っているようだった。

「…ひどい暮らしだよ。なんの価値もない。僕は地獄で生きている。丸焼きチキンみたいだ。最低の人生だ。みんなに好かれて尊敬されるような立派な人になりたかった。でも神様の望みは僕らがぼろ雑巾でいること。」

ゼインの言葉は多くの心に刺さった。

「顔を上げて!死亡証明書じゃないよ
まっすぐ前を見て!身分証明書だよ」

ゼインは刑期を満了し、自ら存在を証明した。


ゼインの家族やラヒルの家族の言い切れない暗さに身が削られる思いでした。仕方ないことを仕方ないことで済ませてはいけないと自分自身も省みさせられました。また、ゼインのような子が今もまさにいて、そして現実に起っていること。それが何よりのメッセージだと、そう感じました。