【大きな物語】
リオタールは「ポストモダンの条件」という著者で「大きな物語」という概念を提示しました。大きな物語は、リオタールの造語で「メタ物語」とも言います。物語とは、人々に要約して語るという意味です。これまでは、大きな物語が世の中に広められ、それが人々の思考を支配してきました。我々が現実世界だと思っているこの世界も、実は大きな物語が提示してきたものです。しかし、それが本当に正しいとは限りません。大きな物語の具体例は、共産主義や資本主義などのイデオロギーです。また、近代科学や、キリスト教のような宗教も大きな物語の一つとされます。
【同一性の思考】
大きな物語とは、世界全体を「一つの理論」で解釈しようとする「思想的枠組」のことです。理論というものは、世界を物語として説明しようとします。思想的枠組みとは、世界を意味づける統一的な思考体系のことです。大きな物語は、万人が認めるような真理を普遍的に語ることによって、人々に世界観を提示してきました。人々は、その大きな物語に合意することによって、一つの世界観を共有しています。例えば「歴史」「哲学」「科学」などの正当性は、大きな物語によって維持されてきました。しかし、大きな物語は、同一性の思考であり、それは、例外を認めようとしません。大きな物語の目標は、現状を理想的に変えることです。それが現実社会とはズレていても、その理想を無理矢理、当てはめようとします。その結果生じるのが、基準に当てはまらない例外者の排除です。それが、社会的な差別につながることもありました。
【ポストモダン】
大きな物語を「モダン」と言います。モダンとは「近代」「現代風」と言う意味です。これまでは、差異を排除し、統一化を求めるモダンの時代でした。それに対して、リオタールが提唱したのが「モダンのあと」を意味するポストモダンです。ポストモダンとは、モダンの脅迫、抑圧的な統一化に対抗する全般的な社会現象のことです。それは、モダンの中にあっても、統一化することを避け、文化や価値観などの多様性を目指します。ポストモダンとは、異文化、多文化を受け入れて社会を差異化する運動のことです。
【小さな物語】
これまでは「近代理念」という大きな物語が、他の理念に比べて優位に立っていました。近代理念とは、人間理性による諸科学の進歩に、絶代的な信頼をおいた効率性重視の論理です。しかし、現代は、そうした大きな物語に対する不信感が蔓延する時代になりました。現代の知は「専門化」「細分化」が進み、個々が分立している状態です。しかし、それらを統一するような知がありません。そのため、何が本当に正しいのか分かりにくい状況になってきました。今日、大きな物語は終焉しつつあります。モダン「大きな物語」の次に生まれたのがポストモダンの時代です。ポストモダンの物語を「小さな物語」と言います。小さな物語は、個々の具体的な状況での思考です。それは、それぞれの差異を保持したまま、その差異を増加させようとするものでした。