『読書について』ショウペンハウエル著 斎藤忍随訳 岩波文庫
この本は、ドイツの哲学者アルチュール・ショウペンハウエル(1788-1860)の短編集で、表題作の『読書について』のほか、『思索』、『著作と文体』の計3作品が収められています。
3作を通して共通することは、読書とは、他人にものを考えてもらうことである。従って自分の思想に行き詰ったときにのみ行うもので、「ほとんどまる一日を多読に費やす勤勉な人間は、しだいに自分でものを考える力を失って行く。(中略)しかしこれこそ大多数の学者の実状である。彼らは多読の結果、愚者となった人間である」と著者は述べています。
そして読書に対する心がけとして、「読まずにすます技術が非常に重要である」としています。「その技術とは、多数の読者がそのつどむさぼり読むものに、我遅れじとばかり、手を出さないことである」ということです。そして読むなら評価の定まった古典を読むように勧めています。
また著者は毒舌で知られた人ですが、人類の知識の進歩についてこう語っています。「人類は、めざましい進歩をとげると、その後まもなく、ほとんど決まったように迷路に陥る」また、こうも言っています。「学問、文学、芸術の時代精神が、約三十年ごとに破産宣告を受けるのも、このような事情と関係がある」ショウペンハウエルの時代から百年余り経っていますが、現代にも当てはまる言葉だなと思いました。