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気まぐれ本読み日記

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懶惰の説

2023-07-15 19:36:44 | その他
『懶惰の説』谷崎潤一郎著
この作品は、中公文庫や角川文庫の『陰翳礼讃』に収録されていますし、アマゾンキンドルでも読むことができます。
懶惰とは怠けることであり、著者が懶惰について古今東西の事例を引き合いに出しながら話を進めていく随筆です。
ペリー来航のときに、彼らが一番に日本人について感心したのは、他のアジア人とちがってきれい好きのところだったそうです。そんなきれい好きの活動的な日本人でも、年中あくせくと働く人を冷笑する一面があると、著者は言います。
またロシア人の多く泊まっているホテルのトイレは、中国の汽車のトイレと同じく非常に汚いといい、ロシア人が西洋人の中では一番東洋人に近いことはこのことでもよくわかるそうです。
著者は、物ぐささや億劫がるのは東洋人の特色であるとして、東洋的懶惰と名付けています。そしてこれは、東洋の気候風土性質に由来するもので、こういった土台から老荘思想も生まれたのではないかと推察しています。
それに対して西洋人は日常生活においては物ぐさでもなければ億劫がることもないといいます。
プラグマティズムで有名なアメリカの哲学者ジョン・デューイの言葉を引き合いに出して、「怠ける」とか「何もしないでいる」というのは西洋人から見れば悪徳中の悪徳なのだろうと著者は推察します。
そして著者はキリスト教の救世軍に対して敬意こそ抱け、決して悪意は持っていないが、救世軍の活動ぶりを見ると、「われわれは足元から追い立てられるように忙しい気持ちがするばかりで、少しもしんみりした同情心や信仰心が湧いて来ない」といいます。
また著者は当時のハリウッドスターの写真を見て、みんな白いきれいな歯を出して笑顔を作り、そのくせ目は笑っていないと述べ、アメリカ人のきれい好きに言及が及び、きれいな白い歯を見ると、「西洋便所のタイル張りの床を想い出す」そうです。
著者の祖母の時代までは、裕福な家の御隠居さんといわれる女性は、「一日ぺったりと据わったきり座布団の上を動きさえしない」感じだったそうです。
そしてその食事がおかゆ、梅干し、つくだ煮、煮豆などをごくわずかな量しか食べなかったそうです。それでも多くの場合、活動的な男性よりずっと長生きしていたということです。
著者はいいます。「世の中には「怠け者の哲学」があるように、「怠け者の養生法」もあることを忘れてはならない」
私もどちらかというと怠け者の部類に入ると思うので、この作品で大いに勇気づけられました。
 
 
 
 
 
 
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帳簿の世界史 その2

2023-07-04 11:10:00 | その他
『帳簿の世界史』ジェイコブ·ソール著 村井章子訳 文藝春秋
この本を通してわかったことは、絶対王政は財政規律を犠牲にして成立しており、支配者は正確な会計報告を嫌うということです。絶対王政は王権神授説のもとで政権運営を行っていたことから、国王の権威さえ確立すれば、財政がいくら悪化しようが構わない、という考えがあったのかなと思います。王政を支える貴族や教会を手懐けるためには、彼らにふんだんに金を与え、彼らから牙を抜く必要があったように思われます。国家の正確な収支状況がわかれば支配者は確かに便利になります。しかし、それによって会計責任者が自分と同等あるいはそれ以上の力を持つ恐れが出てくるわけです。そうなると支配者にすれば有能な会計責任者は目の上のたんこぶになるわけです。ルイ14世が財務大臣コルベールを次第に嫌った理由はそういうことではないかなと、この本を読んで感じました。
21世紀の今日に起こったエンロン事件やリーマンショックについて言えることは、本文中にある次の言葉が適切なように思います。「クリーンな財務報告などという謳い文句はうかつに信じるべきではない」
正確に処理しないと問題になりますし、やりすぎてもまた問題になることもあり、商業簿記の世界は奥が深いなと、この本を読んで感じた次第です。
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帳簿の世界史

2023-07-03 14:31:23 | その他

『帳簿の世界史』ジェイコブ·ソール著 村井章子訳 文藝春秋

この本は会計帳簿を通じてみた世界史であり、古代メソポタミアからエンロン事件まで多岐にわたる内容です。ただ、世界史の事例を差し引いても、会計に携わる人のためになることがいろいろ書いてあります。たとえば「経営感覚は現場でしか身につかないのと同じように、複式簿記も、現実の取引をほんものの帳簿につけることによってしか学べない」という言葉なんか、まさにその通りです。ロレンツィオ・デ・メディチは銀行家の家に生まれ頭もよく政治力にたけた人でしたが、会計の実務に携わったことがなく、会計の知識も身に着けていなかったことから、会計監査を他人任せにしてしまい、その結果フィレンツェの大富豪メディチ家も彼の代に経済基盤が大きく傾いてしまったということです。
会計制度の発達において、アラビア数字がどれほど大きな役割を果たしたかがよくわかりました。この本で例として出てくるのは、ローマ数字で893を表す場合「DCCCXCIII」と表記するそうで、3桁の数字ですら9文字を使わないと表現できないわけですから、現在何気なく使っているアラビア数字は偉大な文字だと改めて思いました。
経済学を意味する英語のエコノミクスの由来は、古代ギリシアの哲学者アリストテレスが唱えたオイコノミクスという言葉だそうで、オイコノミクスの意味は政府や個人の家計を導くよき指針だったそうです。
監査を意味する英語のauditは、支配者たちが書類を読むのではなく、聴いたことに由来するそうです。
陶磁器で有名なウエッジウッドの創業者ジョサイア・ウエッジウッドが、進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンの祖父だったことを、この本で初めて知りました。ジョサイア・ウエッジウッドは会計知識に基づく正確な原価計算を用いて利益を上げることに成功しました。
また、この本によって、キリスト教には旧約聖書であれ、マタイ書であれ、教えの中に商業的な要素が存在することを初めて知りました。マタイは今日に至るまで銀行家、税務署の役人、会計士の守護聖人になっているそうです。
マタイによる福音書6章24節にこういう言葉があるそうです。「あなたがたは、神と富とに仕えることはできない」この言葉は伝教大師最澄の「道心の中に衣食あり。衣食の中に道心無し」という言葉を思い起こさせます。
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本の「使い方」1万冊を血肉にした方法

2023-06-23 11:49:12 | その他
『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』出口治明著 角川oneテーマ21
本の虫と自称する著者が読書の楽しさを紹介する本です。
この本でおすすめされている本は、自分も読んだことのあるものが多く、特に『史記列伝』があげられていたのはさすがだなと思いました。
著者は、人·本·旅の3つが、教養を得る方法と考え、そのうち5割を本から得て、残りを人と旅から得たと語っています。
また「大人になるということは、自分の目の前にある可能性をひとつずつ捨てていくこと」とも語っています。
著者は43歳のとき、持っていた本をすべて処分して、それ以降はあまり本を買わず、図書館を利用しているそうです。
思い切って本を処分するということがなかなか出来ない自分にとってはうらやましい限りです。
また著者は本を読むとき付箋を貼ったり、抜書をしないそうで大したものだと感心しました。
ここに紹介してある本で自分の読んだことのないものがたくさんあるので機会を見つけて読んでいきたいと思います。
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死に至る病

2023-06-18 10:45:00 | その他

『死に至る病』キェルケゴール著 斎藤信治訳 岩波文庫

著者セーレン・キェルケゴール(1813~1855)はデンマークの哲学者です。

この本の表題にある死に至る病とは、絶望のことであり、絶望することは罪であると説いています。

著者が絶望することを批判するのは、心底から神の存在を信じていないから絶望するのであり、絶望から抜け出すカギは可能性を見出すことだと説いています。

著者は若いころ牧師を目指したことがあると巻末の解説に書かれています。晩年キリスト教会に対する攻撃を行っていますが、要は教会全体の姿勢をみて、信仰心が足りないという気持ちがそうさせたのかもしれません。

この本を読んで思うことは、人間は超自然的な存在のおかげで、この世に生かされている、そのことに対する感謝の気持ちを決して忘れてはいけないということです。超自然的な存在とは、神や仏あるいは先祖代々の霊といえるでしょうが、その尊い存在に、自分や周りの人々が守られているんだ、たとえ逆境に陥ったとしても、神も仏もあるものかと思わずに、むしろこの程度の災難で済ましていただいたことに感謝する、また突然予想もしなかった幸運が舞い込んできたとしても、それは人生の落とし穴かもしれないから気を付けよう、そういう心がけを持ち続けることが大切なんだと思いました。

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