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澁澤龍彦『高丘親王航海記』を読んで

2023-02-24 19:11:18 | 読んだ本
       




澁澤龍彦『高丘親王航海記』        松山愼介
 澁澤龍彦は、サドの翻訳家として有名で、『悪徳の栄え(続)』の翻訳出版により、わいせつ罪で起訴され、その裁判が私の学生時代に進行中で、特別弁護人に、埴谷雄高、吉本隆明、大江健三郎らがなり、その内容は現代思潮社から『サド裁判』として出版されていた。しかし、澁澤の本は読んだことはない。小説を書いていたことも知らなかった。一九八七年に刊行された本の帯には「幻想奇譚」となっている。筋書きは「西遊記」に似ている。高丘親王は実在の人物で、一度は皇太子になりながら、政争に敗れ、廃太子になり出家し、空海の弟子になっている。老年になり、釈迦の生まれた国、天竺を目指して旅立つが、真珠を飲んで体調を崩し、虎に身を捧げ死に至る。
この本は漫画になっていて、作者・近藤ようこのインタビューを引用する。近藤ようこは折口信夫の『死者の書』も漫画にしているという。

――『高丘親王航海記』は、天竺を目指して中国の広州を出発した親王一行が、占城(ベトナム)、真臘(カンボジア)などを巡り、さまざまな不思議に出会う連作小説。ちょっとしたエピソードも含めて、かなり忠実にマンガ化されていますね。
 原作のある作品はできるだけ忠実に描こうと思っています。澁澤さんの原作には、「どうしてこれを入れたんだろう?」と不思議に思うようなエピソードもあるんですよね。たとえば「蜜人」の章に、犬の頭をした男が出てきますが、後のストーリーにはまったく関わらない(笑)。こういう遊びのような部分が、原作の持ち味にもなっているので、省略せずに描きたいと思います。

――幻想的なイメージも原作の魅力です。「儒艮」の章には言葉を話すジュゴンやオオアリクイが、「蘭房」の章には廃墟と化した後宮で単孔(排泄と生殖をひとつの孔でおこなう)の女人・陳家蘭が登場します。
 自由にイメージを膨らませて書いているようですが、調べてみると澁澤さんの原作にはすべて典拠があります。決して気ままに書いているわけではないんですよ。マンガでもそこはしっかり押さえないといけないので、調べ物はかなり大変ですね。
 たとえば単孔の女人がどうして「陳家蘭」という奇妙な名で呼ばれているのか。気になって調べてみると、13世紀に書かれた『真臘風土記』という中国の旅行記に出てくる名称なんですね。カンボジアの宮廷の召使いを指す言葉ですが、おそらく澁澤さんはそこから単孔の女人というイメージを生み出したんじゃないのかなと。こういうことが分かると澁澤さんの思考の流れに触れられた気がして、とても楽しいです。

 私はこの小説はすべて澁澤龍彦の自由な創作、ファンタジー小説だと思っていた。上記のインタビューによると、ほとんどの話に出典があるとのことである。ただ、秋丸と春丸がなぜ入れ替わるのかとか、細かい点では不明の部分がある。澁澤は下咽頭癌の手術で死ぬ一年前に声帯を失っている。真珠を飲み、虎に自身を食べさせるというのも「捨身飼虎」という物語が『金光明経』にあるという。この作品には晩年の澁澤の生と死の想いが込められているようである。
                       2022年11月12日

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