虚構の世界~昭和42年生まれの男の思い~

昭和42年生まれの男から見た人生の様々な交差点を綴っていきます

負の連鎖~徹底した戦略~

2017-07-11 17:49:45 | 小説

 髙橋が副塾長を務めている学習塾は「教育センター」という名称で各地に展開していた。そして順調にスタートした春期講習。地元の学習塾もここまで生徒が流れるとは思ってもいなかった。無料の体験講習が終わると、また元のところに戻ってくると経営者たちは思っていた。しかし、その予想は見事に裏切られた。

 高橋は、副塾長として次の一手にさらに出た。

 それは地元No1の老舗学習塾「育志ゼミナール」の喉元に喰らいつくという作戦だった。高橋はあえて老舗学習塾の本校付近には新教室を展開していなかった。それは、生徒を獲得しにくいという理由ではなかった。

 イメージと勢いが出た時に、一気に生徒獲得を狙うつもりだった。

 経営戦略会議で、高橋は、社長のいる前で、夏期講習からライバル塾の本校向かいのビルに教室展開することを提案した。そして、その責任者には、宇野を抜擢した。そして、そこの講師陣には、高橋が集めてきた、講師集団を配置させた。

 6月初旬から大々的な広告合戦が繰り広げられた。新聞折り込み、学校前でのチラシ配り、地元のテレビ・ラジオでの宣伝、無料の体験授業など、華々しい宣伝戦略だった。


 その様子を育志ゼミナールの塾長である市村は余裕の面持ちで見ていた。「うちには20年の伝統がある。こういった地方都市には派手な宣伝に対して胡散臭さを感じる人間も多い」、と分析していた。

 事実、教育センターの夏期講習入塾数は7月を目前に控え足踏み状態であった。


 徹夜が続く中、塾長の金田は挽回の機会を伺っていた。そのためには、塾長の金田は、高橋と一心同体の関係になることの大切さに気付き始めていた。高橋は有能な部下であるが、どこかで上司の金田とは一線を画していた。

 

 6月のある日、金田は高橋を誘って、近郊の温泉ホテルへと誘った。高橋は「この忙しい時に何を・・・」と苦々しく思っていた。

 「高橋君、このままでは塾生は目標の100人は到達しない。何より、育志ゼミナールが抱えている優秀な生徒をこちらに引っ張ることはできないだろう」

 「はい、その通りです」と高橋は静かに答えた。豪華な二人だけの夕食は静かに淡々と進んだ。

 「もう一度、手を尽くしてみます」
 「高橋君、実は育志ゼミナールの数学科主任が生徒の母親と不倫をしているという情報が手に入った。この情報をうまく使って相手にダメージを与えよう」と金田は静かに告げた。

 高橋の中に金田という男の存在は、清潔・熱血漢という人柄であった。呆然としている高橋に金田は言った。
 「このぐらいの仕掛けをやらないとこの業界では生きていけないよ」

 そうだ、金田は教育センターに入塾する前、大手企業の社長秘書を行っていた。しかし、社長がスキャンダルを起こし引責辞任に追い込まれ、無職になっているところで塾に入社してきたのだ。
 
 数日後、育志ゼミナールの近くの電柱や壁に数学科講師の不倫や過去にもこの塾には教え子に手を出した教師などの問題があったことを記した文書が貼りだされていた。

 もちろん、ライバル塾の教育センターが疑われたが、確固たる証拠もないのであくまでも疑われる中での出来事で終わった。

 しかし、育志ゼミナールの評判を落とすために、この一件はかなりのダメージを与えることとなった。小さな地方都市において、こういった話題は一気に広がる。それも火元がある程度特定されている情報は信憑性が高くなるからだ。

 7月中旬、徐々に優秀な生徒たちが育志ゼミナールを退塾していった。


2 コメント

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実業の難しさ (あやか)
2017-07-13 06:09:12
実業家として成功するのは、非常に難しいかもしれません。
何かの統計で、聞いたことがありますが、独立して起業をはじめた人で、永続的な企業の確立に成功した人は一割乃至二割以内らしいです。つまり大部分の人は、数年で倒産、廃業してるんですね。もちろん、時代背景や経済事情にもよるでしょう。ただし、実業家として成功している人には共通点があります。それは、みんな【プラス思考】の考え方・生き方をしているんですね。まあ、『えらいひと』を例にあげると、松下幸之助さんや出光佐三さんやチキンラ-メンの安藤百福さんや、『学習塾』の場合は公文教室の創業者などを見ればわかります。(むろん、これらの人に対する評価、批判、好き嫌いはあると思いますが、ここでは論じません、あくまでも一般的な例えです)
 いづれにせよ、実業成功者は、いつも前向きでプラス思考であることは、誰しも気がつくことでしょう。別に、実業家にかぎらず、人生の『勝ち組』になってる人はみんなそうでしょう。
 ところで、今回の『虚構物語』で気がついたことは、主人公の塾長たちがライバルの学習塾の醜聞を暴いて攻撃していますが、これはもう『アカン』でしょう。競合するライバル企業に対する別件での誹謗中傷は、あきらかに企業倫理に反する行為で、結局ブ-メランになって跳ね返ってきますね。(まあ、『政治』の世界でも同じでしょう。((笑)))
 さすがに、虚構さまは、さっそく、重要な教訓を提示していらっしゃいます!
 ★ところで、先日、私の家の郵便受けに『学習塾の宣伝チラシ』がはいってました。タイムリーだと思いました。
チラシには、『呆れるほど、わかるように教えます』と書いてありました。なかなか上手なキャッチコピー?だなあ、と思います。(笑)
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あやかさんへ (虚構の世界)
2017-07-13 07:59:33
 私も起業したことないのでわかりませんが、成功するということはどれほど難しいか・・・。それも何十年も続けていくというのはどれほど大変なことか・・・。勝ち組を継続することの大変さは想像を絶する厳しさだと思います。

 あと、「呆れるほど、わかるように教えます」、このキャッチコピーおもしろいです。行き過ぎた感がしますが、何だか、クスッと笑ってしまいます。

 あと、あやかさんのコメントにいつも力をもらっております。私の作品は、私の内面渦巻く思いを気ままに書き綴っています。表と裏の裏の部分の心の闇を書いていくことで自分を見つめなおす視点としております。

 表の顔は、元気で明るく爽やかに!なーんて、雰囲気で生きております。けど、内面にはなんかドロドロしたものがあるんですね。

 そんな作品をいつも読んでいただきありがとうございます。
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