*このお話はフィクションです。
私は大学の学食で食べたことがほとんどない。
私は2年間浪人して大学へ進学した。
やっと合格して大学生活をつかんだのに、大学は何だか居づらかった。
二つ年下の人たちと過ごすこと、年下なのに先輩面をしてくる人・・・。
様々なイラつくことがあった。
私はその集団に馴染めなかったし馴染もうともしなかった。
私は大学に馴染めない分、大学とは違う所に自分の居場所を求めた。アルバイトをたくさんやったのもその裏返しかもしれない。
アルバイトの帰りに一軒の居酒屋にふらりと入った。
50代の夫婦が営んでいた。お世辞にも流行っている雰囲気とは程遠いものだった。
しかし、この場末の雰囲気がひねくれた自分には居心地がよかった。
そこで自分は「さんま定食」をよく注文した。
そしてお酒を飲んだ。
その夫婦は私のことをとてもかわいがってくれた。
定食に必ずいろいろなおかずを付けてくれた。
大学を卒業して10年後、またこの街を訪れた。
もうそこにその店はなかった。近くの店に聞いてみたが、体を壊し、マスターは病院に入っているという。奥さんはパートをしながら働いていると聞いた。
自分の人生にとって、あの夫婦のぬくもりと温かさはずっと心に残っている。
50歳を迎えた今でも感謝している。
もしかしたら、もうこの世にはいないかもしれない・・・。
しかし、私はあの人たちに受けた恩は忘れない。
「さんま」を食べる時、必ず、あの人たちに「ありがとう」と言って食べている。そして、妻や娘にもそんな話を話してあげる。
ひねくれていた自分が何とかやってこれたのも、あの街で人の心の温かさにふれあったからだ。