虚構の世界~昭和42年生まれの男の思い~

昭和42年生まれの男から見た人生の様々な交差点を綴っていきます

幸せを願って~さんま定食~

2017-10-21 09:53:27 | 小説

*このお話はフィクションです。



 私は大学の学食で食べたことがほとんどない。

 私は2年間浪人して大学へ進学した。
 やっと合格して大学生活をつかんだのに、大学は何だか居づらかった。
 二つ年下の人たちと過ごすこと、年下なのに先輩面をしてくる人・・・。
 様々なイラつくことがあった。

 私はその集団に馴染めなかったし馴染もうともしなかった。

 私は大学に馴染めない分、大学とは違う所に自分の居場所を求めた。アルバイトをたくさんやったのもその裏返しかもしれない。

 アルバイトの帰りに一軒の居酒屋にふらりと入った。


 50代の夫婦が営んでいた。お世辞にも流行っている雰囲気とは程遠いものだった。
 しかし、この場末の雰囲気がひねくれた自分には居心地がよかった。


 そこで自分は「さんま定食」をよく注文した。


 そしてお酒を飲んだ。

その夫婦は私のことをとてもかわいがってくれた。

 定食に必ずいろいろなおかずを付けてくれた。


 大学を卒業して10年後、またこの街を訪れた。



 もうそこにその店はなかった。近くの店に聞いてみたが、体を壊し、マスターは病院に入っているという。奥さんはパートをしながら働いていると聞いた。

 自分の人生にとって、あの夫婦のぬくもりと温かさはずっと心に残っている。

 50歳を迎えた今でも感謝している。

 もしかしたら、もうこの世にはいないかもしれない・・・。

 しかし、私はあの人たちに受けた恩は忘れない。


 「さんま」を食べる時、必ず、あの人たちに「ありがとう」と言って食べている。そして、妻や娘にもそんな話を話してあげる。


 ひねくれていた自分が何とかやってこれたのも、あの街で人の心の温かさにふれあったからだ。


 


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