地元の小さな居酒屋の角の席、それが私たちの特等席。
そう言って席に座る君、いつも通りの10分遅刻。「遅いよ」と膨れる私、これもいつも通り。忙しくて中々会えなかったから半年ぶりの再会だ。毎月のように会っていた私たち、半年ぶりの彼は格好よくなっていてなんだかキラキラしていた。
いつも通りじゃない事がひとつ。
「あのな、俺、恋人ができたんだ。今度紹介するな。」
なんて幸せそうに笑う君。「よかったね」なんて言いながら微笑んだけど、本当は泣いてしまいたかった。なんで君の隣はいつも私じゃないんだろう。
そんな私の様子なんて気づかないお気楽な彼は恋人の好きなところを話しだす。恋人との未来の話を私にしてくる。頑張れ私の表情筋、なんて思いながら私は彼の話に相槌を打つ。それよりも今日のためにしたお洒落を褒めてよね。
私、知らなかった。彼があんなに人を愛しむような目をすることを、自然と上がる口角を、優しい声を。知りたくなかった、私以外に向けられるものなら。
「お前も早く恋人ができるといいな。そしたらダブルデートしようぜ。」
なんて笑う君。本当に残酷だ。「私に恋人ができないのはあんたが好きだからよ。」なんて言えるわけないけど。
小さい頃、ふたりでつくった砂のお城。完成したのが嬉しくて彼の方を見たら照れた様子で彼は言ったんだ。
「おとなになったら けっこんしよう。
このおしろみたいなところで
けっこんしきをしよう。」
あの日の約束を忘れなかったのは私だけなのね。あの日から私には彼だけなのに。約束を大事に大事に抱きしめたまま、大人になってしまった。